ほとんどの人が一度は経験することになる相続には、実際に問題が顕在化するまでアクションが起こしづらくトラブルにつながりやすいという特徴があります。そのため、トラブルを防ぐためには、事前に必要な準備をしておくことが重要になります。
この記事では、「なんとなく相続が心配」という方に向けて、備えておくべきポイントを解説します。
「相続」と聞くと、最初に「相続税を支払うことができるのか?」といった不安が頭をよぎる方もいるかもしれません。実際に筆者のところにも自身が亡くなった後の相続税について、親世代の方が相談にくるケースがあります。
しかし、相続税には基礎控除(3,000万円+600万円 × 法定相続人の数)があります。そのため、相続財産が基礎控除内であれば、そもそも支払う必要がありません。また、仮に相続税が発生しても、累進課税(億単位でなければ30%以下)のため、相続資産が現金であれば、その中から支払えば良いので大きな問題にはなりづらいでしょう。
妻と子供2人の場合の計算例
確かに、親がどの程度の財産を持っているか、子どもがまったく把握しておらず、蓋を開けてみたら想定以上に相続税がかかることが分かったというケースも考えられます。
しかし、以前の記事でも指摘したように実際に相続税がかかるご家族は、全国で約8%前後となっており、約92%のご家族には相続税はかかりません。
8%の相続税を支払う必要がある家庭の中でも、相続財産から現金で支払える方と相続財産が不動産ばかりで支払えないというケースに分かれます。特に親世代が昔からの地主などである場合は、相続税の支払いが困難になる場合があります。
特に東京都心等の路線価が非常に高い地域に実家がある場合は注意が必要です。子世代がすでに別の場所に自宅を持っており、実家に住む人がいなければ、評価額が最大8割減される小規模宅地の特例という制度が使えず、相続税の負担が大きくのしかかる可能性があります。
ただ、その場合も、親族の誰も使わないのであれば売却すれば良いため、相続税の支払いに苦しむことはないでしょう。しかし、相続トラブルによって家族関係を壊さないために知っておくべきことは、相続税以外の部分にもあることに注意が必要です。
相続トラブルを招く原因は大きく「感情」と「勘定」の2つに分けることができます。
「感情」に含まれる負担要因には、様々なものがありますが、代表的なものとして「両親の面倒を見たかどうか」が挙げられます。兄弟姉妹の誰かに負担が偏っていた場合、同じ法定相続分を相続したとしても「少し割に合わないな」という感情を持ってしまうケースがあります。
一方、「勘定」は相続した不動産に、いわゆる「負動産」が含まれている場合なども想定されます。例えば、実家は市街化区域内にあり、他の不動産が少し離れた農地などだった場合、後者を相続した側が不公平に感じてしまうといったケースです。
また、遺言書があればトラブルを回避できると考えている人も多いですが、必ずしもそうでないことも知っておくべきでしょう。むしろ逆に遺言書の存在がトラブルを招く事例すらあるのです。
確かに遺言があれば、その内容が優先されるため不動産や銀行口座の名義変更はできるでしょう。しかし、その内容に納得感がなければ、家族の関係は険悪になってしまいます。
例えば、親が長男に多くの財産を譲りたいと考えており、そうした内容の遺言書を他の兄弟の知らないところで残しておいたとしましょう。実際に相続が発生した際に、長男がその遺言書の写しを残りの兄弟に送付し、「この内容の通りだから」と言ったとして、納得できる人がどれほどいるでしょうか。
「そんなドラマみたいな話」と思うかもしれませんが、そうした偏った遺言書に他の兄弟が激怒するというケースは少なくないのです。
仮にそうした遺言を書くのであれば、「付言」をつけると良いでしょう。遺言書には、財産の分け方などの後に、本人の思いや希望を書く欄があります。例えば「長男が今まで頑張ってくれたから長男に残してやりたい。
次男と長女には家建てるときにお金を渡したから、それぐらいは良いだろう」といったようなことを書くのです。私が、これまで見てきた相続トラブルにつながる遺言書の多くには、この付言がありませんでした。
このように遺言書の法的な効果だけを過信した結果、家族関係が険悪になってしまうようなことがないように注意する必要があることも理解しておきましょう。
これまで解説してきたように、「相続するのは実家だけ」といったように、分けづらい財産がある場合、トラブルにつながりやすくなります。そのため、事前に「分割対策」をしておくと良いでしょう。
分割対策には様々なやり方がありますが、具体的には以下のような形が想定されます。
家族によっては、「私たちのことは気にせずお兄さんがすべて相続したらいい」という場合もあるかもしれません。しかし、最終的にそうした結論に至るにしても、いざというときに財産を分割できるようにしておいたほうが、トラブルを防ぐことができるでしょう。
「親に自分から相続のことは切り出しにくい…」。そんな風に感じている方も多いでしょう。一方で単刀直入に「お母さんもお父さんも自分が亡くなった後のこと考えておいてよね」と言った結果、家族関係がギクシャクしてしまうというケースもあります。
そのため、私はまず「親の今後の暮らし方」について話すことをお勧めしています。特に核家族の場合、両親ともに元気なうちは良いのですが、どちらかが亡くなってしまうと残された方が一人暮らしになってしまいます。
そのため、両親ともに健在なうちに「今後の暮らし方をどうするか?」を話し合う必要があるのです。そして、そうした話し合いの中で、実家の取り扱いなどについても決めていけば良いでしょう。
また、どうしても言い出しづらい場合は第三者を通すという選択肢もあります。いずれにせよ、「相続のため」という目的ありきよりも、親子が希望する今後の暮らし方から逆算して議論を進めた方が、結果的に相続もスムーズに行きやすいのではないでしょうか?
以前の記事でも指摘したように、人は高齢になればなるほど自宅を離れたくなります。
生まれ育った実家で独り暮らしをする親のために備えておきたいこと
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また、親が認知症などになってしまえば自宅の売却を行うことも難しくなってしまいます。
相続に備えて分割対策を進めようとしても、「自宅の売却ができない」「遺言書も用意できない」など、選択肢は大幅に制限されてしまいます。そのため、両親の心身が健康なうちに準備を進めておくことが重要になります。
誰もが健康なうちは「まだ大丈夫だろう」と考えがちです。しかし、高齢の両親が数年後に認知症にならないという保証はどこにもありません。
いろいろな選択肢がありますが、「自宅の売却」「両親の住み替え」といった選択肢は、両親が心身ともに健康でなければ選ぶことができない可能性があります。だからこそ早いうちから準備をしておくことをお勧めします。
最後に、相続トラブルを防ぐためのチェックリストを紹介します。以下の項目に複数チェックが入るようであれば、十分な事前対策が必要になる可能性が高いでしょう。
いずれにしても、これまで解説してきたように「親が元気なうちに対策する」ことが最も重要です。「何から手をつけたら良いかわからない」という場合は、専門家に相談するというのも選択肢の一つです。
相続は「財産さえ公平に分けることができれば良い」というものではありません。トラブルを起こさず、家族円満な状態を維持したまま、相続を終えることが重要です。この記事が、そうした本来の意味での「相続対策」のお役に立てれば幸いです。
トヨタ系住宅メーカー在籍時、相続税対策のためのアパート建築事業を担当する中で、「賃貸住宅事業では土地オーナーの真の悩み解決ができない」と痛感し、CFP資格を取得し独立。 相談者からは「心配事以外の課題も発見し同時に解決してくれる」「家族にも言えない本音を引き出し、それぞれの立場を考えながら調整してくれる」等、幅広い専門知識を活かした問題解決力、家族の調整力に定評がある。
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