加齢によって頑固になるって本当? 脳の先生に話を聞きました

「バッカモーン!」と怒鳴る、ちょっと怖いおじいさん。先日ある漫画を読んでいて、「そういえば子どものころ、近所にはちょっと近寄りがたい名物頑固オヤジがいたなぁ」と思い出しました。

年を取ると、頑固になったり怒りっぽくなったりするといいますが、壮年期の私たちもいつかはそうなってしまうのでしょうか。脳内科医の先生に、老化にともなう感情の変化について伺ってきました。
 

今回のtayoriniなる人
加藤俊徳(かとう・としのり)
加藤俊徳(かとう・としのり) 新潟県生まれ。脳内科医、医学博士。株式会社「脳の学校」代表。加藤プラチナクリニック院長。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。著書は『部屋も頭もスッキリする!片づけ脳』(自由国民社)、『脳が若返る最高の睡眠: 寝不足は認知症の最大リスク』(小学館新書)など。

脳の中に溜まった経験が、自我を強くしている

――ズバリお聞きしたいのですが、「年を取ると頑固になったり、怒りっぽくなったりする」というのは、脳科学的にありえることなのでしょうか?

加藤

まず、なぜ頑固になるかというと、人は年を取るにつれてその分の経験が増えるため、自分より若い人よりも知識と体験が多い自負があるからです。自分の経験に照らし合わせてみて、違うと思ったら譲れない。でも、あなたにもそんな経験はありませんか?

――そういえば、私も後輩に対してそう感じることがあります。

加藤

そうでしょう。経験の浅い人の話を受け入れにくく感じることは若い方でもあると思います。誰にでも、ある出来事や分野などにおいて経験が増えると、譲れない気持ちが強く出てしまう場合があるわけです。頑固になるか否かは、加齢そのものより、本人の経験や思考が影響しています。「年を取って丸くなった」という話もありますよね。

――確かに頑固とは逆ですが、「丸くなった」もよく聞きますね。これはどうしてですか?

加藤

何年も生きていると、同世代の人が亡くなったり病気をしたり、事件にあったりいろんな負の経験をします。だから目の前で良くないことが起こっても、すぐに反応せず、落ち着いてその背景について考えられるようになるんですよ。

このように、脳の経験は新しい共感を生むこともあり、「年を取ると頑固になる」とは一概には言えないですね。

脳のはたらきが落ちると起こりやすくなる「怒り」

――なるほど。年とともに蓄積する経験が、脳の感情へとはたらくのですね。

加藤

ただし、「頑固」と「怒り」はまた別で、なぜ高齢になると怒りっぽくなるのかというと、言われたことに対して自分の過去の記憶と相違がある場合と、難聴により聞こえが悪くなる場合が考えられます。

難聴により、目の前のコミュニケーションがうまくいかずにイライラすることもあれば、周囲とのコミュニケーションそのものが億劫になり、認知機能が低下して認知症になることもあります。

認知症には「怒りっぽくなる」という症状が出ることが多いのです。ですので、怒りやすい高齢者がいたら、耳が遠くなって単に聞き取りづらくてイライラしているのか、認知症が原因の本人も収集がつかないような怒りなのかを意識して確認してみてください。

――過去の記憶と合っていないというのは脳の経験の話ですね。そして難聴と認知症。怒りの主な原因はこの3つなのでしょうか。

加藤

実は「急に怒りっぽくなる」のも頑固と同様に、年齢を問わず起こる可能性があります。まず、大きな原因は寝不足。睡眠が足りていて脳が覚醒している状態であれば、複数のことを同時に考えることができますが、睡眠不足で脳が低覚醒状態だと情報を受け取る準備が十分ではなく、目の前のことで精一杯になってイライラしてしまいます。

次に食事も大切です。女性に多い鉄欠乏性貧血も疲れやすく不安感が高まり、幸福感が低下します。そして運動不足でもイライラは蓄積します。こうして脳のはたらきが落ちれば若い人でも怒りっぽくなりますし、それとは別に高齢による因子もあるので、年を取るにつれて「あの人怒りっぽくなったね」という話はあながち間違いではないですね。

3つの生活習慣3つの行動で、感情を制御できる

――なるべく頑固にも怒りっぽい性格にもなりたくないのですが、どうしたらいいのでしょうか。

加藤

理想は、早寝早起きで7時間以上寝て、1日7000歩以上歩く。夜21時前に食事を済ませ、朝は脳を起こすためにきちんと食べる。「睡眠」「運動」「食事」この3つの生活習慣をまずは整えましょう。それから、「新しいチャレンジをする」「年齢層の違う人の話を聞いてギャップを受け入れる」「人と積極的に関わって脳を動かす」。この3つの行動も大切になります。

――この行動は脳にどう影響するのでしょうか。

加藤

年を取ると新しいチャレンジが少なくなります。だから、物事の判断材料は今までの自分の記憶や体験。新しい価値観を外からぶつけられても、抵抗感が高まるばかり。新しい習い事を始める、散歩コースを改めるなど、生活スタイルを変えてみて物事を柔軟に受け入れていくことが、頑固にならないコツです。

――毎日飲むコーヒーをやめてみると、紅茶の美味しさに気づくみたいなことでしょうか。

加藤

そういうことです。年齢層の違う人の話を聞いて、お互いのギャップを受け入れることも同じ理屈ですね。また、日ごろから人の話をしっかりと聞ける人は怒りづらい傾向があります。脳がマンネリ化すると怒りっぽくなるので、新しい意見や人の考えをどんどん取り入れていきましょう。

――人と積極的に関わるというのは?

加藤

職場を離れて家で過ごすことが多くなると、社会的に孤立しやすくなります。認知症のリスクも高まるので、マメに友人や家族と連絡を取ることが必要です。

――それはSNS上での交流でもいいのでしょうか?

加藤

しないよりはいいですが、文字だけの交流よりも、相手の表情や仕草を見て会話をするほうが、脳の動きは活発になります。人の話を聞くことは、普段自分が想像しないような気づきがあることも。より多くの脳を使って、頭が凝り固まらないようにしてください。

――先生は著書の中で「感情をつかさどる脳のはたらきは一生成長し続ける」「思考をつかさどる脳のはたらきは衰える」とおっしゃっていましたが、これらも頑固や怒りっぽさに関係しているのでしょうか。

加藤

そうですね。喜怒哀楽などの感情を表現する脳細胞は、右脳と左脳どちらにもあります。右脳には人の気持ちを知るはたらきがあり、人と接することで成長し続けますし、老化も緩やかです。左脳の脳細胞も、さまざまな経験を重ねるほど発達していきます。

思考をつかさどる脳細胞は、新しい知識を入れなければマンネリ化してはたらかなくなります。年を取るとパターン化が増え、衰えやすくなるということです。

加藤

何事も小さいときに学んだほうがいいというのは間違いで、思考の脳細胞にとっては脳が成長した後も学びを続けるほうがよいでしょう。

歳を重ねた人ほど脳の成長を止めないように、常に学ぶ姿勢を忘れずに新しいことを受け入れてください。思考を止めないことが、高齢者になっても穏やかで懐の広い人間でいられるコツなのです。

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薮田朋子
薮田朋子

フリーの編集ライター。女性ファッション誌やシニアの健康本、趣味系Webメディア等々、幅広いジャンルで執筆。

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