老後の話を嫌がる父と、施設を嫌がる母。まだ元気な両親と老後・介護について話し合うコツを専門家に聞いた

「親の老後についての話し合いは早めがいい」と頭では分かっていても「親が老後や介護の話を嫌がる」「話のきっかけがつかめない」といった事情から、なかなか難しいケースもあるでしょう。
ライターの大塚たくまさんも、まだまだ元気な60代の両親とどのように老後について話せばいいのか悩んでいたそう。過去に一度失敗してしまったという経験もふまえ、話し合いのコツを専門家に聞きました。

もうすぐ40代を迎える私は、2歳年下の妻、小学4年生の長男と6歳の次男と共に暮らしています。

実家の両親は60代後半で、今も元気です。父は会社員として定年まで勤めたあと現在は他の仕事をしており、母はパートの仕事を長く続けています。

妹も結婚して実家を出ており、皆同じ県内に住んではいますが、それぞれの生活があります。実家とのやりとりは家族LINEで月1回、私の帰省は2カ月に1回ほど。冒頭の写真は、そんな帰省のタイミングで父・母・妹と撮ったものです。

ただ「両親に介護が必要となったときにどうするのか」ということがずっと気になっていました。実家までは車で1時間半あり、簡単に行ける距離ではないのです。

できれば早いうちに話しておきたい。そう思った私は、一度父に「近い場所で一緒に住むという選択肢はどうか?」と意見を求めたことがありました。

ところが、父は「縁起でもない」と感情的になってしまい、建設的な話ができませんでした。母も「できるだけ長く今の家で暮らしたい」という気持ちが強く「とにかく施設には入りたくない」「何も気にしなくていい」と言います。

老後の話を嫌う父と、自宅での暮らしを強く望む母。どちらの気持ちも理解できるだけに、どうすればいいのか悩みます。とはいえ、何も気にしないわけにはいきません。

両親の価値観を尊重しながら、どうやって老後の話を始めればいいのか。そして、何を最低限備えておくべきなのか。

そんな時に、実際に1,500組以上の家族から相談を受けてきたというライフル介護編集長・小菅さんに話を聞く機会を得ました。

「もしかすると、家族で話し合うチャンスかもしれない……!」と思い、ヒントを探すことにしました。

プロフィール
大塚たくま
大塚たくま 株式会社なかみ代表取締役。ライター、編集者。2010年に福岡大学卒業後、フジテレビ「5LDK」のADとして奮闘。2016年より株式会社ホワイトボックスでSEOを専門とするWebライターと編集者のキャリアをスタート。2019年にフリーライターとして独立。2022年に「もっとWebのなかみを考える人を増やしたい」という想いで、株式会社なかみを創業。
LIFULL 介護編集長 小菅秀樹
LIFULL 介護編集長 小菅秀樹 LIFULL介護 編集長/介護施設入居コンサルタント。老人ホーム、介護施設の入居相談員や入居相談コールセンターの管理者を経て現職に就任。「メディアの力で高齢期の常識を変える」をモットーに、さまざまなアプローチで介護関連の情報を発信。老人ホーム選びに悩むご家族を支援し、1,500件以上の入居をサポートしてきた実績があります。現在監修書籍「伝説の相談員が教える幸せになれる老人ホーム探し ~マンガでわかる高齢者施設~」が発売中。

親が「老後の話を嫌がる」場合、どうする?

――一度、父に「近い場所で一緒に住むのはどうか」と尋ねたことがあったんです。でも「縁起でもない」と感情的になり、話が進まなかったんですよね。

小菅さん:60代の親世代は、まだまだ元気な方が多いんです。だから「もう老後の話をするの?」と抵抗を覚えるのは自然な反応ですよ。

――えっ、定年を迎えていても、そんな感覚なんですかね。

小菅さん:そうなんですよ。子ども側からすれば、早めに備えたい気持ちがありますよね。それも当然のことです。でも、親側からすると、まだ現役で、働いたり趣味を楽しんでいる最中なわけです。

そこでいきなり、相続や延命治療の話を持ち出されると、どう思いますか?

――うーん、そうか。たしかに「言われなくても考えてるわ!」みたいな気分になりそうな気も……。

小菅さん:そこまで感情的にならなかったとしても「そんなに急ぐ必要あるの?」と感じてしまうことは多いと思います。

久しぶりの帰省で、子どもが突然「通帳の暗証番号を教えて」とか「延命治療はどうする?」などと切り出すことって、よくあるんですよね。でも、親からすれば「せっかくの再会なのに、なぜそんな話をするの?」と思ってしまう。

――まあ、心の準備が整っていないまま、突然重い話を振られているわけですもんね。しかも、楽しく過ごそうとしているのに。そりゃあ、拒絶反応も出ちゃうか……。でも、どうしても最初は「突然」になっちゃいません?

小菅さん:大切なのは、少しずつ話すことです。日常の雑談に混ぜて、時間をかけて対話を重ねる。

――えっ。……日常の雑談に混ぜて、延命治療の話をですか?

小菅さん:いえいえ、そうではなく、自然に話をつなげていくイメージです。例えば大塚さんは、ご両親が最近どこの病院に通われているか、知っていますか?

――まったく知りません。

小菅さん:では、まずは「最近どこの病院に行ってるの?」という会話が必要なんです。

――あぁ、なるほど! そのような話をすっとばして、いきなり先回りして重い話をしてくるから、嫌なんだ。

小菅さん:まずは、ご両親の暮らしに関心を持つことが重要なんです。日々の暮らしに寄り添った会話から始めて、信頼の土台を作らなければなりません。

――なんか「家族だから」という甘えからか、そのあたりを雑に考えてしまっていたかもしれない。「両親の暮らしに関心を持つことが重要」という視点、今初めて気付きました。家族だからこそ、丁寧にしたいですね。

小菅さん:「わが子は私の生活について、よく分かってくれている」。親にそう思ってもらえれば、老後の話も自然と始めやすくなるはずです。信頼関係の延長線上にこそ、本題を話せる土壌が生まれます。

両親と最低限話すべきなのは「お金」「介護」「医療」

ハイキングを楽しむ母
ハイキングを楽しむ母

――「暮らしへの関心」とはおっしゃいますが、具体的にどんなことについて知っておくと良いのでしょうか。実際、私は自分の暮らしに手一杯という状況があり、親もそれを理解して配慮してくれていると感じます。そんな中で最低限、何を知っておくべきなのかなと。

小菅さん:老後について話しにくい中でも「ここだけは押さえておきたい」という項目が3つあります。それは「お金」「介護」「医療」です。まずは「お金」です。預貯金や保険、通帳や印鑑の所在、暗証番号。こういった情報を知っておけば、いざというときの手続きがスムーズです。

ただ、全てを知る必要はありません。「どこに何があるか」を知っておくだけでも十分です。

――これも雑談の中で探るという方法はありそうですね。例えば「そういえばオレ、実家のこととか、なんも分かってないなぁ。いつも印鑑とか、どこに置いてあるん?笑」みたいな感じであれば聞けそう。

小菅さん:いいと思います!  そして「介護」ですね。どこで、誰に介護してもらいたいのか。自宅で在宅介護を希望するなら、家族が担うのか、介護サービスを利用してプロに介護してもらうのか、あるいは施設に入るのか。希望を事前に確認していないと、急な入院や退院のときに家族が慌てることになります。

――あぁ、介護については話しにくそうですね。どうやって会話のきっかけを探せばいいのか……。特に母は「施設に入りたくない」と言っていますし。

小菅さん:例えば「これからどう生きたいか」を考える前向きなきっかけにすると、ご両親も受け入れやすくなるはずです。

「地域包括支援センター」をご存じでしょうか? 全国の市区町村に設置されている高齢者向けの相談窓口です。介護や医療だけでなく、介護が必要になる前の予防や生活支援まで幅広く相談でき、誰でも無料で利用できます。

地域の高齢者のための相談窓口である「地域包括支援センター」については、下記の記事で詳しくレポートしています。

「地域包括支援センター」は何をしてくれるところ? 将来の遠距離介護に備え、不安や疑問をぶつけてみた|tayorini by LIFULL介護

――介護が必要になってから行くような場所だと思っていました。

小菅さん:本来は、高齢者が要介護状態になるのをできるだけ遅らせる「介護予防」も、地域包括支援センターの役割の一つなんです。

――あ、その「介護予防」という言葉はいいですね。「なるべく要介護状態になりたくない」という点は、両親と私が同じ方向を向けるテーマかもしれない。「なるべく施設に入らなくて済むように、地域包括支援センターで話を聞いてみない?」というのは、いいですね。

小菅さん:ぜひ、その方向で話してみていただきたいです! そして最後に「医療」です。かかりつけ医や服薬内容を子どもが把握していない家庭は多いです。そして救急搬送の場面では、これらの情報があるかどうかで治療のスムーズさが変わります。

――なるほど。このあたりは「かかりつけの病院はどこ?」とか、雑談で聞けるかもしれません。

小菅さん:そうですね。そして、特に重要なのが延命措置ですね。人工呼吸器や胃ろうをどう考えるか、親の意向を知らないまま子どもが判断すると、兄弟間で意見が割れたり、後悔が残ったりすることもあります。

――あぁ、これは気軽に話せないテーマだ……。何かいい方法はありますか?

小菅さん:一番よいのは「エンディングノート」を活用することですね。書店や自治体のホームページで簡単に手に入り、内容も「お金」「介護」「医療」と最低限の項目が整理されています。延命措置だけでなく、網羅的に情報を把握できますよ。

――でも、子どもからいきなり「エンディングノートを書いて」なんて言われたら、嫌な気持ちになりませんかね?

小菅さん:おっしゃる通りです。だからこそ、親に「書いておいて」と渡すのではなく、「自分も書くから一緒にやろう」というスタンスが大事です。同じ作業をすることで、自然に会話が生まれます。

――あぁ、なるほど! 自分も書けばいいのか。それは、よいアイデアですね。確かに、この問題は親だけではなく、自分にとっても身近な問題ですしね。親よりも先に自分がそのような状況になることもあるわけで……。

小菅さん:そうですね。重いテーマについて、親にだけ考えさせるのではなく「一緒に考える前向きな話題」として切り出すことが重要なんです。

エンディングノートの書き方については、下記の記事で詳しく解説しています。

エンディングノートとは?遺言書との違いなどを解説

「自宅で暮らしたい」という母の思いをどうかなえる?

大塚さんの母と妹
母と妹

――なんとなく、両親と老後について話すきっかけ作りについては見えてきました。ただ「できるだけ長く自宅で暮らしたい」と強く望む母と介護について話すのって、なかなか難しそうだなと思うんですよね。「あなたは考えなくていい」と言われそうで……。

小菅さん:お母さまのように「自宅で暮らしたい」と考えておられる方は多いです。ただし、その希望をかなえるには、在宅介護サービスの利用を前提に考える必要があります。

具体的には、介護スタッフによる訪問介護、看護師が自宅を訪れる訪問看護、自宅から通うデイサービス、さらに入浴をサポートする訪問入浴などがあります。

在宅介護サービスについては、下記の記事で詳しく解説しています。

【はじめての方へ】在宅介護サービスの種類と特徴、利用の流れを解説

――介護サービスといっても、いろいろな形態があるわけですね。まずはその知識が必要だなあ。

小菅さん:そうなんです。 「在宅=家族だけで介護」ではなく、こうした外部サービスを組み合わせてこそ、自宅での暮らしを続けられます。さらに在宅だけにこだわらず、元気な人向けの老人ホームという選択肢もあるんですよ。

――元気な人向けの老人ホーム……? 母は人付き合いが苦手なので老人ホームは嫌がっているんですが、そんな母でも入れそうでしょうか?

小菅さん:人付き合いの必要がなく、プライバシーが保たれ、外出や外泊も自由、という老人ホームもあります。でもいざというときにはスタッフが駆けつけてくれる安心感があるんです。

――えっ、そんなものもあるんですか。選択肢として知っておいても良さそうですね。

小菅さん:はい、元気なうちから「自宅以外の選択肢」を知っておくことは、後々の安心にもつながります。

――選択肢を事前に知っているかどうかで、急な事態への対応は大きく変わりそうですね。母の「自宅で過ごしたい」という思いを尊重しながらも、複数の備えを用意しておくことが大切ですね。

兄弟姉妹でキーパーソンを決め、片方の親が亡くなった後の備えも

向かい合って話し合う大塚さんと妹さん
兄妹であらかじめ話し合っておこう

――これまで、兄弟姉妹で協力することをあまり考えてこなかったんですよね。

小菅さん:そこは話し合っておくと安心ですよ。特に大切なのは、いざという時に誰が最終判断をするのか。いわゆるキーパーソンを決めておくことです。

――キーパーソン、考えたことがなかったです。

小菅さん:例えば病院から「延命治療をどうしますか?」と問われる場面。兄弟姉妹で意見が割れてしまうと決められなくなります。キーパーソンが決まっていれば、その人を中心にスムーズに進められます。

――なるほど……。でも、負担が偏ってしまいませんか?

小菅さん:もちろん役割分担が大切です。例えば現地で対応する人、制度やサービスを調べて情報収集する人、金銭的にサポートする人。こうやって分ければ、一人に重荷が集中するのを防げます。

――キーパーソン一人に任せるのではなく、あくまでリーダーということですね。妹とも話しやすくなりそうです。

小菅さん:そしてもう一つ大事なのは、片方の親御さんが亡くなった後に、残された親御さんが一人暮らしになるケースです。ここも備えを考えておく必要があります。

――母は「一人でも自宅にいたい」と言っています。

小菅さん:その希望を尊重するには、見守りの仕組みを用意しておくと安心です。例えば、電球やドアにセンサーを取り付けて「点灯・消灯」「開閉」の情報がスマホに届くような仕組みがあります。カメラで監視するよりも抵抗感が少なく、さりげなく見守れます。

――そんなものがあるんですね。見守りDXだ。

小菅さん:また、シニア向けの宅食サービスも有効です。多くの業者は基本的に手渡しで食事を届けるため、そのとき体調や様子の変化に気付いたら、家族へ連絡してくれることもあります。

――健康に気遣いつつ、家事の負担も軽減でき、見守りもできるわけか。一石三鳥ですね。

小菅さん:さらに、地域包括支援センターに相談すると、介護予防や地域の活動情報も得られます。シニア向けの健康体操や趣味の集まりに参加することで外出習慣ができ、要介護状態への移行を防ぐ効果も期待できます。

――なるほど……。兄弟で役割を分けつつ、見守りの仕組みや地域のサポートを活用すれば「一人でも自宅で」という母の希望にも近付けそうですね。

まずは「親がどんな暮らしをしたいか」を一緒に考える

実は、このインタビューには母と妹が同席していました。家族とオンライン会議をすること自体が初めてなのはもちろん、ライターとしてインタビューをしている姿を見せるのも初めて。見慣れた顔が画面に現れた瞬間、その小っ恥ずかしさに気が付きました。

妹は「兄ちゃんは意外と頼りになるかもしれない」と笑いながら話してくれました。これまでは「自分に何ができるだろう」と思っていたそうですが、私が正面から老後のことを考えている姿を見て安心した様子。妹の前で「自分がキーパーソンになる」と宣言できたことは良かったです。

母からは、なんとすでに預金情報や延命の意思をパソコンに整理し、毎年更新していたという事実が。「今回の話を聞いて、きちんと文章に残して伝えようと思った」と話し、あらためて家族に意思を共有する意欲が湧いたようです。

それにしても、重いテーマほど、親に直接聞くのは難しいものです。そんな中、まず「親の暮らしぶりへの関心から始めることが大切」だという話が強く印象に残りました。

普段から「階段を上がるときに手すりを使うようになったね」といった暮らしの変化に気付き「もっと状態が悪くなったらどうしようか」というように、自然に話せるような関係性作りから始める必要があると思いました。

両親が「どこで過ごしたいか」「どんな暮らしをしたいか」を一緒に考える延長線上に「どんな医療を望むか」「延命をどう考えるか」という意思確認が見えてくると思います。

両親の自分らしい生き方とはなんなのか。そして、そのために私ができることはなんなのか。まずはそこから、両親と一緒に考えていく必要があると感じました。これからは、もっとお互いの生き方について、考える機会が必要になりそうです。

親の老後を考える上でのポイントをおさらい
  • 老後の話はいきなり切り出さず、日常の雑談に混ぜて少しずつ話す
  • 大切なのは「両親の暮らしに関心を持つこと」
  • 最低限話しておきたいのは「お金」「介護」「医療」
  • 「地域包括支援センター」には、親が元気なうちから「なるべく要介護状態になりたくない」という相談をしてOK
  • 延命などの重い話は「親子で一緒に考える前向きな話題」として切り出す
  • 親が自宅で暮らしたい場合も、外部サービスを組み合わせて自宅での暮らしを続けることが可能。できるだけ選択肢を知っておく
  • 兄弟姉妹の協力体制作りでは、いざというときの最終判断をする「キーパーソン」を決めておく
  • 「片方の親が亡くなった後」のことも考えておく

編集:はてな編集部

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