「脳年齢」の診断テスト!? “認知症になる手前”で発見し、予防を目指す「脳検」とは

太田芳徳さん

今後高齢化が加速する日本で、「もし認知症になってしまったら」という不安は拭いきれません。内閣府がまとめた平成30年版高齢社会白書によると 、平成29年10月1日時点での日本の高齢化率は27.7%。65歳以上の人口が現段階で総人口の約3分の1を占めます。認知症の予防をすることは本当に難しいのでしょうか。せめて早期に対策が打てないものでしょうか。

認知症を未病の段階で把握したい。そんな多くの声を受けて、株式会社脳活性総合研究所が三重大学認知症センターの佐藤正之准教授らの監修のもと「脳活性度定期検査(脳検)」を開発しました。今回は代表を務める太田芳徳さんに「脳活性度定期検査」の中身や目指すところについて話を聞きました。

今回のtayoriniなる人
太田芳徳さん
太田芳徳さん 1968年生まれ。名古屋大学工学部航空学科卒業後、リクルート入社、2013年に新規事業開発、組織開発を支援する株式会社ハンゾーを起業し、代表取締役就任。2019年2月よりクレディセゾングループの株式会社脳活性総合研究所代表取締役に就任。脳の状態を早期から把握し、個々の状態に合った対処をすることで、認知症を防ぎ、豊かで健康な生活の支援を目指す。
i専門職大学(2020年開学)客員教授

「やりたいことはたくさんあっても認知症が……」。シニアの声が事業の出発点

シニア向けの事業を検討していた太田さんが「脳活性度定期検査」を生み出したきっかけは、太田さんが1年かけてインタビューしたシニア約100人の意見でした。

図1

「50歳~80歳までのシニアの皆さんにお話を聞く機会がありました。内容は『どんな生活をしていますか? どんなことをしてみたいですか?』といった生活調査インタビューです。

すると、皆さん『旅行に行きたい。趣味の合う友だちと楽しく過ごしたい』など、ずっと元気でやりたいことをし続けたいとおっしゃいます。でもその際に一番心配していたのが認知症でした。いざ自分のいまの状態を見つめ直した時に、ふとした会話で固有名詞が出て来ないなど、『今の状態で大丈夫かしら?』という漠とした不安がある人も多いと思います。また特に、バリバリとお仕事をされていた方は『自分の頭が思い通りに使えなくなる』ことへの不安が強くありました」

そこで考え出したのが「脳活性度定期検査」。略して「脳検」です。一言でいうと、脳の健康診断です。

太田芳徳さん

「脳ドックと比べるとわかりやすいのですが、脳の中身を見る脳ドックは、血管の動脈硬化や脳動脈瘤をはじめとした疾患の早期発見を目的とします。しかし脳がどれくらい機能するかは、脳ドックではわかりません。

その機能の確認をするテストが『脳検』なのです。体の筋肉量や足の長さといった肉体の状態を測っても、速く走れるかどうか、どれくらいの距離を走れるかどうかがわからないのと同じです。『脳検』は脳がどれくらい機能するかを知ることのできる、PCやタブレットを使った知能テストのようなものです。

脳の老化は40代から徐々に始まります。年齢に妥当な老化による物忘れならばよいのですが、そうではなく認知症の前兆であるなら大変です。医療機関で提供される認知症テストは、『認知症になってしまった』ことを調べる検査であり、未病の段階で認知症の兆しを判断できる検査は、今のところ存在しません。

『脳検』は、定期的に行う健康診断のように半年ぐらいの間隔で受験することで、未病時から脳機能を把握することができ、認知症予防のサインを受け取ることができます」

太田芳徳さん

読み込む必要のない一目でわかる検査を目指す

実際にはどのような検査なのでしょうか。

「PCかタブレットを使用し、インターネット上で約90問の設問に答えるものです。全体の回答時間は約30分。回答方法はすべて選択式なので、パソコン操作が苦手な人でも無理なく進められる内容です。とても簡単な練習問題から始まり、問題は少しずつ難しくなっていきます。

半年の間に何回でも受験ができ、その度に違う問題が出てきます。テストが終了すると、結果とともに自分の脳年齢や今後の対策も同時に表示されるのです」

認知症になる前の「未病状態」で自分の変化を把握する

人間の脳については、まだまだわからないことだらけです。しかし2011年にドイツで開発された認知症の新薬「メマリー」が日本で認可されるなど、研究が進んでいることも事実です。そもそも認知症やMCI(軽度認知障害)になってしまったら、もう治らないのでしょうか。

「今のところ、治療方法がない状態です。今までは、アルツハイマー病にアミロイドβというタンパク質が深く関連していると疑われてきましたが、アルツハイマー病の人の脳にあるアミロイドβを除去しても、治らないという研究結果も出ています。

日常に困り感が出ると、お医者さんから『アルツハイマーです』と言われる。そのため一緒に生活する家族は、遡ってみたらずいぶん困った兆候があったと後で気づかされます。そこで、ここ10年で、認知症ほど症状が進んでいなくても、日常生活に困る兆候が出てくる状態をMCI(軽度認知症)と呼ぶようにもなってきました。しかし未病時の脳の状況を知る方法やその対応策は、医療機関ではまだまだ提供できないのです」

図2
The Alzheimer’s Associationの論文(2011)を基に脳活総研にて作成

「『脳検』では、自分の脳機能の状態を、『脳年齢』という形で知ることができます。自分が65歳の時に、脳年齢も65歳なら妥当、60歳ならよい状態、ということです。また前回の結果と比べて脳年齢が3歳、4歳と急激に落ちているかどうかもわかります。

脳年齢が急速に低下した際は自動的に再受検を促され、それでも悪かった場合は、改善のための運動をお知らせしたり、場合によっては提携する医療機関をご紹介したりします。このように先んじて対策を打てるうちに、今の脳の状態を把握することが大切だと考えています」

大事なのは栄養と運動

「なるべく脳の老化を急激に進行させないでおくために、いま言える必要なことは、栄養と運動です。脳の健康には、週3回以上、1回あたり40分以上の有酸素運動がよいという研究結果が出ていますので、運動はおすすめ」と太田さんは言います。

太田芳徳さん

「生活習慣病も認知症の原因になるため、運動や栄養面での対策は大切ですね。独居の方などは、1人分の料理が面倒になると菓子パンを食べ続けてしまったり、また外に出ることが億劫になったりするため、偏った栄養の摂取や運動不足に陥りやすくなります。運動不足や栄養バランスの悪化を防ぐための情報提供も今後はしていきたいです」

脳の健康に効く運動の内容を具体的に伺うと、意外にもジョギングではなく、音楽体操がおすすめとのこと。

「ジョギングや歩行よりも、音楽を聴いて、振り付けを覚えるリトミック体操に効果があるようです。途中で音楽が変わったり、動きや振りを変わったりすると、ちょっと『えっ?』って思いますよね。音楽を聴きながらの体操が効果的なのは、脳に刺激が届くからだそうです。

リトミック体操は、首筋にうっすらと汗をかく1回40分くらいの長さがおすすめです。行う体操は、ラジオ体操でも充分。ラジオ体操はなんとなくではなく、正しい伸び、正しい動きで行うと、少し汗をかくほどの運動になります。どんな運動でも、できることから始める形で構いません。体を動かす機会を少しずつ増やして、最終的には運動習慣が身につけばよいのです」

前向きな生き方をするシニアを1人でも増やしたい

また太田さんは「脳活総研は、検査を提供するだけの会社にはしたくない」と言います。「脳活性度定期検査」の最終的な狙いについても聞いてみました。

「健康な状態を維持するために、シニアの方々の前向きな活動を促進させるのが目的です。脳機能の検査があれば、いま認知症によいとされる運動をはじめ、手芸、旅行、パソコン作業、料理などの効果が可視化できますし、もっとやりたいことに本気で取り組めるようになると思います。脳の健康の悪化だけを気にするのではなく、その結果から、即座に打てる対策が実行できる世の中を目指していきたいですね」

横山由希路
横山由希路 ライター

フリーの書籍ライター・編集者。人の心理を対話で優しく掘り下げることを得意とし、「東洋経済オンライン」「週刊『SPA!』」などで介護、ビジネス、演劇記事を執筆する。広瀬宏之「『ウチの子、発達障害かも?』と思ったら最初に読む本」(永岡書店)で一冊構成。認知症である実母の成年後見人も務める。

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