トム・クルーズ―老後に効くハリウッドスターの名言(1)

誰だって歳をとる。もちろんハリウッドスターだって。
エンタメの最前線で、スターはどう “老い”と向き合うのか?
スターの生き様を追って、そのヒントを見つけ出す。

「26歳になるまでは、やりたいことを何もかもするようなことは慎んでいるんだ。ポール・ニューマンくらいの年齢になる頃には、彼が演じているような偉大な役をやっていたいものだけどね」

――1986年、24歳のインタビューにて
『トム・クルーズ キャリア、人生、学ぶ力』(南波 克行、フィルムアート社)より

名実ともにハリウッドのトップスター、トム・クルーズ。
『トップガン』続編の公開が迫る今、数十年に渡るスター人生を振り返る
 

無茶しまくり!米軍をも心配させる57歳

トム・クルーズが大変だ。57歳にして、立て続けにアクション映画で主演しているのだが、明らかに若い頃より体を張っている。普通は歳をとると体への負担を減らしていくものだが、彼は世間一般の真逆をいく。何しろ最新作『トップガン マーヴェリック』では操縦こそしていないものの、本当に戦闘機に乗っているらしい。つまり超高速でグルングルン曲芸飛行をする飛行機の中で演技をしているのだ。 

もちろんトムが体を張るのはこれが初めてではない。代表作『ミッション:インポッシブル』(以下『M:I』)では本当にビルからビルにジャンプして足を骨折したり、潜水シーンのために水中で6分も息を止める訓練(どんな訓練だ)をしたそうだが、それにしたって戦闘機に乗り込むのは別次元だ。肉体への負荷は大きいし、もしミスがあれば大事故になる。スタッフはもちろん、撮影に協力している米軍だって気が気でない。米軍を心配させる俳優なんて他にいないだろう。このスケールの大きさ、まさしくハリウッドスターの鑑である。 

彼の輝かしいキャリアを振り返りながら、彼がどんなふうにキャリアを重ねて来たのか、何故に60歳手前にして戦闘機に乗り込むことになったのか、そしてどこへ向かっているのかを考察していきたい。

青春漫画よりスゴイ!展開が早すぎる10代。

トム・クルーズ、本名はトーマス・クルーズ・メイポーザー4世。

高校時代はレスリングに熱中し、選手としてかなりイイ線にいったというが、アキレス腱断裂で選手生命を絶たれる。幼少期に受けたイジメ、両親の離婚、選手生命の危機と、10代にしてかなりの激動の人生を送っているが、ここから彼の人生はさらに加速する。 

レスリングから身を引いたトムは高校演劇の世界に身を投じるが、彼の舞台の観客の中に偶然にも芸能エージェントがいた。エージェントはトムの楽屋に突撃すると彼の才能を絶賛し、一緒に仕事をしないかと熱弁。この気合に胸を打たれたのか、トムは高校卒業後にプロの俳優を目指してNYへ向かい、無数のオーディションを受ける。まるで青春漫画のような展開だが、トムの人生は漫画より展開が早かった。 

19歳で映画デビューを飾り、早々にその存在感が注目を浴びる。そして1983年には映画『卒業白書』に主演。台本には「パンツ姿で家中で踊る」と1行だけ書かれていたシーンを監督と膨らませていき、結局は1分近く踊り続ける名シーンを作り上げ、ゴールデングローブ賞 主演男優賞にノミネートされた。まさに新進気鋭の若手スターだ。 

一方で同時期にしっかり痛い目にもあっている。『卒業白書』の同年に主演した『爆笑!? 恋のABC』は不本意な仕事だったらしく、エージェントに出演を命じられて断り切れず出たという。インタビューでは「自分が何をやりたくて、何をやりたくないかを学んだ」「よいスタッフと、よい監督とだけ仕事をしなければならない。そうして成長しなければ」と語っている。この発言の通り、彼はここから仕事相手を一流映画人にしぼってゆく。高額のオファーでも意にそぐわない役なら断り、逆に出たいと思ったら自分から営業に行った。 

運命の出会い!才能が爆発する20代。

フランシス・フォード・コッポラ(『ゴットファザー』『地獄の黙示録』)、リドリー・スコット(『エイリアン』『ブラック・ホーク・ダウン』)、マーティン・スコセッシ(『タクシードライバー』『アイリッシュマン』)……この頃にトムが組んだ監督は巨匠ばかりだ。おのずとトム・クルーズというブランドは高まり、ルックスだけではない、実力派俳優としての評価も固まっていった。

冒頭に引用したトム・クルーズの発言はこの頃のもので、ポール・ニューマンに言及しているのは『ハスラー2』で共演したからだ。ポールは当時61歳で、同作の演技でアカデミー主演男優賞を受賞している。そして89年、トムはオリバー・ストーンの『7月4日に生まれて』でアカデミー主演男優賞候補になる。受賞こそ逃したが、いち俳優としての評価は頂点に達したと言っていいだろう。

ついに社長!勢い止まらない30代。

トムはひとりの俳優として80年代を駆け抜けた。そして90年代になると俳優の領域を超えて、映画製作者としても活躍を始める。1992年にはクルーズ・ワグナー・プロダクションズを設立し、プロデューサーの地位を得た。ちなみに同年の来日時、彼は日本の記者に名刺を渡したそうだが、そこにはカタカナでトム・クルーズ、漢字で「社長」と書かれていたという。インタビューで名刺配りをしているあたり、彼の本気度が窺い知れる。 

俳優業も相変わらず絶好調で、『ア・フュー・グッドメン』のような重厚なサスペンスから、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』の吸血鬼役、『アイズ ワイド シャット』『マグノリア』といった作家性の強い作品まで、幅広く活躍する。後に大変なことになる『M:I』シリーズの1作目を立ち上げたのもこの頃だ。 

トムの勢いは留まるところを知らず、90年代を猛スピードで駆け抜けていく。なお先述の名刺を渡したときのインタビューで、本人は自分について以下のように語っている。

「ガキの頃からケンカ、しっぱなしだった。鼻を折ってしまったくらいハデにやってきた。不良と呼ばれてきたけど、でも、命だけは粗末にしなかった。自分なりに精一杯、生きてきた。きっと生きることが好きなんだろうね

精一杯生きる……それは今日も一貫しているトムの人生哲学だ。しかし、人生はそう上手くいかないもの。40代、世間一般でいう中年にさしかかる頃、トムのキャリアに初めて陰りが見え始める。 

中年の危機!失速した40代。

まず2001年、トムの不倫が原因でニコール・キッドマンと離婚。またトムは新興宗教サイエントロジーにハマっていた。サイエントロジーは邪悪な銀河連邦といった単語が飛び出すSF的な教えを説く団体で、トムはその思想に従って「精神医学はニセ科学」といったどう考えてもアウトな失言をかましてしまう。 

さらに2005年にテレビのトークショーに出演した際にテンションが上がり過ぎて、ソファーの上で飛び跳ねるなどの奇行を見せる。世間のイメージは悪化し、映画会社ともトラブルが起きた。『M:I-3』はシリーズの中では大ヒットとは言えない結果で、ロバート・レッドフォードが監督・主演した『大いなる陰謀』もイマイチに終わった。もちろん『ラストサムライ』『宇宙戦争』と言った話題作もあったが、ゴシップが先行し、20~30代の頃に比べると失速したのは否めない。

中年の危機」という言葉があるが、40代のトムも危機的な状況にあったと言っていいだろう。ところが、こうした危機をトムは1本の映画で乗り切った。

ゼロ年代後半、トムは『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』というコメディに出演する。そして観客は、彼のパフォーマンスに驚愕した。トムは特殊メイクで太ったハゲ頭の短気で強欲な映画プロデューサーに変身して、それまでのイメージと全く異なるキャラクターを熱演したのだ。何かにつけて激怒しては放送禁止用語を連呼しまくり。最後はダンスナンバーをBGMに一人で踊り狂う。無茶苦茶な役で新境地を開拓しつつ、同時にパンツ姿で踊っていた『卒業白書』の頃の初心を取り戻す離れ業を披露したのだ。

たけし軍団もビックリの“みそぎ”的な怪演は高く評価されゴールデングローブ賞助演男優賞にノミネート。さらにこの扮装のままMTVムービーアワードのステージでジェニファー・ロペスと一緒に踊る大フィーバーを巻き起こす。そして、この頃から何となく「トム・クルーズは色んな意味でヤベぇ」という世論が形成されていった。いち俳優やいちプロデューサーを超えて、ある種の怪人的な魅力を放ち始めたのだ。

誰にも止められない!戦闘機に乗り込んだ50代。 

2010年代に入るとトムは怪人的な魅力をさらに強化していく。渋いアクション映画『アウトロー』やロックスターに扮して歌い踊ったミュージカル『ロック・オブ・エイジズ』に出演する一方、『M:I』シリーズの再起に挑んだのだ。本格的に体を張り始めたのもこの頃だ。シリーズ4作目にあたる『ゴースト・プロトコル』では世界で1番高いビルの外壁を登るスタントに挑戦し、5作目の『ローグ・ネイション』では飛び立つ飛行機にしがみついた。こうしたスタントはシリーズの名物となり、2018年公開の最新作『フォールアウト』では高度7500メートルからスカイダイビングして、ヘリコプターを操縦している。完全に常軌を逸した体の張り方だ。

こうした無茶が出来るのはトムの体力の賜物だが、彼がプロデューサーとして映画制作に関わっている点も大きい。普通ならこんな危険なスタントには許可が下りないが、トムが現場で一番偉いので、トムがやると言ったら誰も止められないのだろう。これは俳優では出来ない。プロデューサーだからできたのだ。30代の頃にせっせと名刺を配っていた苦労の賜物であり、その結果が『トップガン マーヴェリック』での戦闘機なのだろう。

一人の俳優として優れた映画人たちと仕事をして、プロデューサーとして映画作りをビジネスの観点からも学び、公私ともにたくさんの失敗をした。しかし常に働き続けたことで、彼は50代にして世界で最も自由に映画を作れる立場になったのだ。もっとも、だからってヘリから落ちる必要はないと思うのだが、ヘリから落ちるからトムなのである。ベストな映画を作る上で、落ちる必要があると考えれば、彼は迷いなく落ちるし、落ちることができるのだ。

まだまだ全力主義!トム・クルーズが目指す60代。

トム・クルーズ、57歳。若き日の彼が理想の大人に挙げたポール・ニューマンは、当時61歳だった。今では彼自身がその年齢に近づきつつある。思えばポールも車好きの趣味が高じて50代でル・マン24時間耐久レースに挑戦するなど、無茶をやっていた。競技と映画という違いはあれど、体力の限界に挑戦する姿勢は共通しているし、どこか2人の姿はダブるところがある。

『トップガン マーヴェリック』でトムと共演する若手俳優マイルズ・テラーはこう語っている。「俳優たちが戦闘機に乗るなど、不可能だと言われていた。でもトムがいれば、不可能が可能になるんだ」こうした発言をするのは、マイルズだけではない。監督や俳優を問わず、トムを知る者は口々に彼への尊敬の念を口にする。まるで若き日のトムが、ポール・ニューマンへの憧れを述べたように。ただ「これ以上の無茶はやめて」という悲鳴が混ざっているのがトムらしい。

荒れに荒れた10代、才能を炸裂させた20代、がむしゃらに頑張った30代、大きな壁にぶつかった40代を経て、彼は自由で無敵な50代を手に入れたのだ。では、果たして60代はどうなるのか? このままアクションに全力投球して完全にジャッキー・チェンになる可能性もあるし、若い頃に憧れたポール・ニューマンのようになる可能性もある。ただ、どうなっても映画の世界で生き続けることは間違いないようだ。2018年の『フォールアウト』で来日した際、トムはこう言い切っている。

「私はキャリアを通じて、いつも自分にチャレンジを課しています。どんな映画でもです。観客のために全力を尽くすことを主義にしています。私は人生を映画作りにささげています。情熱があるからです。(中略)素晴らしい俳優たちの才能を全部つぎ込んで、娯楽を皆さんに差し上げたい。他の生き方は分かりません」
――2018年、56歳 『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』日本プレミアより

『老後に効くハリウッドスターの名言』が、内容をバージョンアップして書籍化!
2022年7月21日発売

▽参考資料
・『トム・クルーズ キャリア、人生、学ぶ力』(南波 克行 編著/フィルムアート社)
・キネマ旬報 92年 8月上旬号
・トム・クルーズ「人生を映画作りにささげている」 
映画「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」来日会見3
『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』日本プレミア(MAiDiGiTV)

イラスト/もりいくすお

300年続く日本のエンターテインメント「忠臣蔵」のマニア。


 

加藤よしき
加藤よしき

昼は通勤、夜は自宅で映画に関してあれこれ書く兼業ライター。主な寄稿先はweb媒体ですと「リアルサウンド映画部」「シネマトゥデイ」、紙媒体は「映画秘宝」本誌と別冊(洋泉社)、「想像以上のマネーとパワーと愛と夢で幸福になる、拳突き上げて声高らかに叫べHiGH&LOWへの愛と情熱、そしてHIROさんの本気(マジ)を本気で考察する本」(サイゾー)など。ちなみに昼はゲームのシナリオを書くお仕事をしています。

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