89歳のおばあちゃんのお金を管理して分かった、老後の生活でお金よりも必要なもの

こんにちは、らくからちゃです。

普段は「ゆとりずむ」というブログにて、お金や働き方などに関する統計データを眺めながら、つつましく生きていく中で気がついたことを書かせていただいております。

コロナ禍で皆様どうお過ごしでしょうか。どこにも遊びに行けないどころか、離れて暮らす家族にも長期間会えず、元気にやれているんだろうかと不安に思っている人も多いのではないでしょうか。

特にご高齢の家族のいる方は、健康のことはもちろん、お金のことについても心配に感じている人も多いでしょう。

家族の間であっても、いや家族だからこそ、お金の話はつい言い出しにくいもの。ですが、高齢者が健康で楽しく過ごすためには避けて通れない話です。

私自身、89歳のおばあちゃん(祖母)といわゆる「スープの冷めない距離」に住んでいます。軽く認知症の症状があることもあって、実際にお金のことで苦労することもありましたね。

また昨今では、老後への不安や、高齢者本人だけでは適切なお金の管理が難しいといった事情から、使えるはずなのに使われない「高齢者のお金」の問題も報じられています。

そこでこの記事では、「高齢者本人のお金」について、本人の意思を尊重して使えるよう、家族がサポートできることはないか、ごくごく個人的な経験ベースになりますが、書かせていただきたく存じます。

2000万円が必要? 毎年結果にブレがある「老後に必要なお金」

まず客観的な事実として、老後に必要なお金に関するデータを見てみましょう。

以前「老後の生活には年金とは別に2000万円が必要になる」という報告書がちまたで取り沙汰されました。

「2000万円」という金額は、2017年の「家計調査報告」の高齢者世帯の結果から、年金では賄えず預貯金の取り崩しが必要となった金額を、平均余命で30年分合計したものです。最新版ではどうなっているでしょうか。

出典:「2020年家計調査報告」(総務省統計局)(https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/pdf/fies_gaikyo2020.pdf)

ええと……黒字(1,111円)になっていますね。黒字なら、年金の他にお金は要らない、ということになります。

2020年は特別定額給付金があった効果や、コロナ禍のため外出できなかった影響も大きいと思うのですが、そもそも家計収支の結果から算出される「老後に必要なお金」は毎年かなりのブレがあります。

「家計調査報告」(総務省統計局)過去の結果より筆者作図

一番多い時で2200万円、少ない時で1000万円くらいでしょうか。

かなり調査結果のばらつきは大きいようですね。ですので何が何でも老後に2000万円必要だというわけではないですし、「各ご家庭によりけり」という要素もあることは頭に入れておいても良いでしょう。

お年寄りって何にいくらくらいお金を使っているの?

ただ高齢者の家計支出については、より一般化できそうな傾向があります。

下記は、2019年の「全国家計構造調査」の結果より、65歳以上夫婦世帯の支出内訳について年齢別に整理したものになりますが、年齢が上がれば上がるほど、支出が減少していく傾向が見られます。

「2019年全国家計構造調査」(総務省統計局)(https://www.stat.go.jp/data/zenkokukakei/2019/index.html)より筆者作図

「65〜69歳」から「85歳以上」になる間に、交通・通信費は1カ月で4万円から1.5万円へと3分の1近くになり、教養娯楽費も3.3万円から1.8万円へと半分近くになります。

実は保健医療費も2万円から1.5万円へ、介護費を含むその他の消費支出も4.3万円から3.5万円へと2割ほど減少しています。

あれ? と思われるかもしれませんが、この結果は「家計調査を引き受けることができる程度には元気な高齢者」を対象としたものであることは念頭に置かなければなりません。

しかしそれだけ元気な高齢者でも、85歳も過ぎると、自分一人で出歩くことも難しくなり、遊びに使うことができるお金も減っていってしまいます。

「高齢者」を3つのステージに分けてお金のことを考えてみる

我々は「高齢者」と十把一絡げにまとめて考えてしまいがちですが、それは未就学児も、思春期のティーンも、社会に出てすぐの新入社員も、まとめて「若者」というようなものではないでしょうか?

かなり個人差はあると思いますが、高齢者はざっくり

  1.  65〜75歳:まだ元気で人によっては働くことができる
  2.  75〜85歳:働くことは難しいが一人で生活することはできる
  3.  85歳以上:介護がないと生活することが難しい

に分けられます。

それぞれの年齢層で、お金に関して考えることはかなり変わってくるでしょう。

1. の年齢層であれば、今やコンビニやファーストフード店で働く高齢者の姿を見ることは珍しくありませんが、いつまで・どの程度働くかが、お金のことについて考えるポイントになるでしょう。

2. の年齢層に入ると、外で働くことが難しくなってきますので、まだ体や頭が働くうちに、老後の余生をどう楽しむかがポイントになってくるでしょう。

3. の年齢層にまでくると、自分で遊びに行くことも難しくなってきます。そこで介護サービスにどうお金をかけていくのかを考えなければならなくなります。

いよいよ体が動かなくなり、頭も十分に働かなくなった後でお世話になる介護サービスは、「人生最後のお買い物」と言うことができるかもしれません。

先のことが見えないと、どうしてもお金を使うことを控える気持ちが強くなります。

しかし、まだ働けるうちにと思って働き過ぎて体を壊したり、お金はあっても体が動かないためにやり残したことができてしまったりするのは、高齢者にとってお金との良い関わり方とは言えないでしょう。

おばあちゃんのお金の管理で苦労したこと

では高齢者のお金を本人にとってより良い形で活用するために、周囲の家族はどんなふうにサポートしていけばいいか、私の個人的な経験から考えてみます。

おばあちゃんが、我が家の近くに私の妹と引っ越してきたのは、ちょうど2. の年齢層から3. の年齢層に移り変わっていく85歳くらいの頃でした。徐々に自分でお金の管理をすることも難しくなってきていましたので、お金のことについても我々で面倒をみていくことにしていきました。

まず大変だったのが「いくらお金が残っているのか」を把握すること。

高齢者本人が持っているお金があることに周囲が気付かず、そのお金で対応できたはずのことを実行できずに亡くなってしまうのは、本人だけでなく支える家族にも辛いことです。

老後のライフプランを考えるには、まず正確に高齢者の資産残高を把握し、必要があれば使える状態にしなければなりません。

おばあちゃんは「老後のために」と、銀行や証券会社で、定期預金や投資信託など、多種多様な資産運用をしていました。加えて複数の個人年金保険にも加入しており、さらにタンス預金も持っていました。

軽く認知症の症状も出てきていましたので、どこにお金を置いたのか自分でも分からなくなっており、資産の全容を把握することに大変な労力がかかりました(いまだに時折ヘソクリは発掘されますが……)。

それらの残高を確認し、必要な時に使えるように集約していきました。特に面倒だったのが、地方銀行の口座に残っていた投資信託です。

「解約は窓口でしかできない」と言われたものの、店舗は遠方の地元か都心にしかありませんでしたので、都心の支店まで本人を連れて行って解約するのが一苦労でした。

老いた家族を近くに呼び寄せる人は、まずは地元で身ぎれいにしてもらってからの方が良いかもしれませんね。

また手元にある現金を預金口座に入金させるのも、おばあちゃんとの骨の折れる交渉が必要でした。

もし現金がなくなることがあると、身近な人を疑いの目でみることになってしまうので、入出金の記録が残る預金口座に移しておきたい。ただそれは我々の都合であって、コンビニATMにも一人で行けないおばあちゃんからすれば、手元のお金がなくなるのは生殺与奪の権を他人に握られるのと同じなんですよね。

そこでまずは、「どうしても残しておきたいお金は全部この中に入れておこう」と簡単な手提げ金庫を用意しました。そしてお金をかき集めた後「いまいくら残っているかは、この機械で分かるからね」と残高確認アプリを入れたタブレット端末を渡して、移してもらうことにしました。

おばあちゃんの立場に寄り添ってコミュニケーションを取る

ただ我々からしたらなんてことのないタブレット端末の操作も、昭和一桁生まれのおばあちゃんが自分で使いこなすのは難しかったですね。

もちろん、いきなりLINEでメッセージをやりとりしたり、インスタで「いいね」を稼ぐコンピューターおばあちゃんになれるなんて思っていませんでした。

何もかもが初挑戦なので、混乱せずに操作の練習になるように、生まれたばかりのひ孫の写真をいつでも見れるアルバムと、地図を眺めて旅行気分を味わうことが趣味だったので地図アプリと、前述の残高確認アプリの3つだけを配置したおばあちゃん専用端末を用意して自由に触ってもらいました。

おばあちゃんのタブレット

かなり本人も関心を持って積極的に挑戦してくれたのですが、この年の高齢者にもなると「タッチパネルを使って操作する」ということ自体が理解に苦しむ行為なんですよね。

ボタンのように押した感触はなく、画面の切り替わる速度に認識が追いつかないんです。そして気付かずうっかりタップしてしまい予想外のことが起こると、もう元に戻せません。妹が、かなりシンプルで丁寧な使い方メモを作っていましたが、結局一人で使えるようにはなりませんでした。

我々からすれば、「どうしてそんなことができないのか」と思うようなことでも、思考力の衰えに伴い、どうしても生活の支障となることが増えていきます。

認知症の症状の一つに「物盗られ妄想」(※参考:認知症による被害妄想への対応方法は?)というものがあります。「昨日までそこにあったはずのものがない! これは誰かに盗られたに違いない」と思い込み混乱してしまうことです。

おばあちゃんと同居している妹は、「あれがなくなった」「いや、元からなかった」と毎日のようにけんかをしています。こうしたことが続くと、周囲の家族だけでなく、本人も精神的にすり減ってしまいます。

それを避けるには、まず本人の立場に寄り添ってコミュニケーションを取ることが大切です。

反論したくなるところをぐっと抑えて、「それは大変だね。一緒に探そう」とまずは相手の話を受け入れ、「あれ、この領収書の金額と同じだね。電気代の支払いに使ったんじゃなかったかな」というふうに返すのも一つのテクニックです。

認知症はストレスで悪化するとも言われています。短期的には負担になっても「お年寄りなんだから仕方ない」と受け入れた上で、「分からなくなったら、何度でも聞いていいよ」というスタンスで接していった方が長期的にはお互いイライラがたまらなくて良好な関係が築けると思います。

おばあちゃんの「生きがい」が私の「生きがい」になっていた

お金の管理について考えることももちろん重要ですが、高齢者と共に生活していく上で大切なことは、一緒に「生きがい」を作ってあげることなんじゃないのかなあと思うんですよね。

仲の良かった友人や親戚は、一人、また一人と鬼籍に入り、まだ元気にしている人とも外出をしたり遊びに行ったりすることが難しくなり、手元にお金があっても使うことができなくなっていきます。場合によっては、お金の心配をするどころか使う当てもなく貯まるようになってしまいます。

どんどん体は衰え、少しずつできることが減っていく――。周囲の人にお世話になる一方の日々が続く中で、おばあちゃんは「何のために生きているのか分からへん」といった言葉も口にするようになってしまっていました。

おばあちゃんが近くに引っ越してきた時に、私が最初に行ったのは折りたたみ式の車椅子を買うことでした。

もう足腰も弱ってきていましたので、長距離を歩いて移動することは困難です。駅までたどり着くだけでも大冒険になってしまいます。おばあちゃんのペースに合わせて行動するとどこにも行けませんが、車椅子一台あれば、かなり自由に行動できます。

レンタカーを借りて、一緒に花見に行ったり、牧場に行ったり、初日の出を見に行ったりしました。そういえば、開業して間もない「渋谷スクランブルスクエア」にも行きましたね。

車代を出してもらう代わりにドライバーを引き受ける。半ば持ちつ持たれつの関係での小旅行でした。普段よりも遠回りになることもたくさんありましたが、初めてみる景色に喜ぶ姿や、懐かしそうにする昔話を聞いていると、いつもよりもずっと楽しい時間を過ごすことができました。

今振り返ってみれば、私にとっても、おばあちゃんと遊びに行くことは大切な生きがいの一つになっていました。

共に豊かに老いていくために

少々失敗してもまだ挽回のチャンスのある若者よりも、残った資金を取り崩しながら生活する高齢者の方が、お金についてよりシビアな現実が突きつけられています。なんとか子供や孫に迷惑を掛けないようにと、限られたお金を切り詰めて生活しているお年寄りも多いでしょう。

お金の心配は当人たちの方がしっかりとしていることも多いので、支える側にできることは「より良いお金の使い方を探す」ことかもしれません。

子供があっという間に大人になってしまうのと同じで、お年寄りはあっという間に衰えていってしまいます。そして誰しも1年たてば1年死に近づきます。

当たり前のことですが、老いているのは高齢者だけじゃないんです。あなた自身が今できていることが、来年もできる保証はありません。

いつかやってみたいと思っていたことに挑戦することは、お互いにどんどん難しくなっていきます。

そのことを胸に刻み込みながら、おじいちゃん・おばあちゃんに「何をしてあげなければならないのか」考えるよりも、「何をしてあげたいのか」を考えた方がお互いにとって良いお金の使い方ができるような気がいたします。

「長生きしてよかった」そんなふうに言われるのは、なかなか良いもんですよ。

ではでは、今日はこのへんで。

編集:はてな編集部

らくからちゃ
らくからちゃ

都内IT企業で働くごく普通の会社員。数字を見ると興奮する性癖があり、仕事だけでは飽き足らず、せこせこグラフを作っては夜な夜なブログを書いていたが、今は主に2歳半と1歳半の年子のお世話係担当。

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