皆さんこんにちは。私は2000年から続く映画サイト破壊屋ブログの管理人です。
今日は介護を描いた映画についてお話します。
「介護映画って面白いのか?」と思うかもしれませんが、面白いです! もちろん社会派映画としても面白いのですが、ギャグあり涙ありの娯楽映画としても見ごたえがあるのです。
普段「介護」と聞いてもまだピンと来なかったり、他人事のように感じている人も、まずはこれからの「介護」について、また、介護とは切り離せない「老い」について考えるきっかけとなるような映画を紹介したいと思います。
※ 編集部注:以下には、作品内容に触れる情報が含まれています
※ 映画の公開年度は、日本での公開年度になります
老いや介護を描いた映画は世界にたくさんありますが、国によって描き方に特徴が出ます。
例えば、認知症をテーマにしたものだけでもずいぶんと違います。
家族という単位を大切にするアメリカ映画では「家族の愛で認知症をどうやって乗り越えるか」というテーマが好まれる印象にあります。『アリスのままで』(2015年)や『やさしい嘘と贈り物』(2010年)がその例で、認知症を優しく受け止める家族が描かれます。
中東になるとまた視点が変わってきます。イラン映画の傑作『別離』(2012年)は、認知症の父親を介護するために女性の介護士を雇うというストーリーですが、「女性介護士が男性の世話をするのは宗教的に問題あるのでは?」という展開になります。古い宗教的な考え方を批判する映画ですが、その一方で宗教に従うことで誠実な生き方ができる側面も描かれます。
人権意識の強いヨーロッパ映画では「認知症=人間の尊厳の危機」として描かれる傾向があるように思います。本日紹介する『しわ』(2013年)という映画がまさにその例です。
『しわ』(2013年)はスペインのアニメ映画ですが、日本ではスタジオジブリが輸入する形で公開したので一応ジブリ作品です(製作にはスタジオジブリは関わっていません)。
ヨーロッパのアニメ映画を観たことはないという人が多いかもしれませんが、日本やアメリカのアニメとは違って、ヨーロッパのアニメ映画は絵画的な作風を重視しており、観ているだけで美術品を鑑賞しているような気分になります。
『しわ』は老人ホームの生活を描いたアニメで、この映画のテーマは「今日の老人、明日の老人、すべての人に捧げる」です。
老いを迎える全ての人間に「老いるということは、こういう事なんですよ、心構えはできているのですか?」と問いかけてきます。分かりやすく言ってしまうと老人ホームの生活が疑似体験できる映画です。
銀行の支店長だった主人公は認知症になり、息子家族と別れて老人ホームに入ることになる。老人ホームでルームメイトとなる男は、家族が誰も面会に来ない独身男。彼は気楽にそしてずる賢く生活している一方で、実は老いに怯えており自殺の準備をしています。
観る人は老人ホームの生活に慣れようとする主人公に感情移入しながら鑑賞します。ところが途中から主人公がゆっくりとルームメイトに切り替わっていき、クライマックスはルームメイトが老いをポシティブに受け入れる様子が描かれます。主人公を切り替えて老いを描く手法が見事です。
では我らが日本映画は認知症をどう扱うのかというと……「認知症コメディ」という特殊な映画が作られることもあります。
今回紹介する『大鹿村騒動記』(2011年)はあらゆる認知症を扱う映画の中でも最高傑作です。この作品は、言葉は悪いですが「ボケちゃったのだから仕方がない」というスタンスで作られています。
『大鹿村騒動記』の主人公は原田芳雄演じる初老のシカ肉料理店店主。一人暮らしをしていた彼の元に18年前に駆け落ち不倫で逃げた妻が間男と一緒に戻ってきた。
妻は認知症を患っているらしく、間男は「彼女、駆け落ちした俺のことも分からなくなっている。だから返す!」とトンデモないことを言い出す。不倫のドロドロ劇は数多くあれど、不倫の返品という設定は珍しいですね。
こうして認知症の妻の介護を押し付けられた主人公。試しに妻に料理を作らせてみると間男好みの料理を作られるなど、踏んだり蹴ったりの状態。それでも何だかんだで介護生活はうまく回っていきます。ちなみに間男もなぜか村に残って生活している。
諸外国の描き方に比べると「ボケちゃったのだから仕方がない」はネガティブな表現かもしれません。でも、ポジティブに介護に取り組むためには重要な視点ではないかと思います。神経を張り詰めるかのごとく認知症と向き合い過ぎると、介護する側も押しつぶされることだってあるはずです。認知症コメディ映画を観ると、その視点に気付かされます。
田舎の村のドタバタ騒動を描く小規模な映画ですが、キャスティングはかなり凄いです。
・村のバスの運転手:佐藤浩市
・村の役場の事務員:松たか子
・村の郵便配達員:瑛太
田舎の村どころか、六本木のど真ん中のような超豪華なメンツ。しかし一番凄いキャストはやはり主役を演じた原田芳雄です。撮影当時の原田芳雄は複数の病気にかかっていましたが、病気を全く感じさせない軽快なコメディ演技を見せ、歌舞伎まで演じてくれます。そして本作の公開三日後に肺炎で亡くなりました。
認知症コメディというのは日本映画独特の特殊なジャンルで、『大鹿村騒動記』以外では認知症になるとオレオレ詐欺にも引っかからないから良かった! というエピソードが見られる『ペコロスの母に会いに行く』(2012年)があり、これも傑作です。
日本の映画監督の中で老いや介護を描いた方と言えば、新藤兼人監督を紹介しておかなければなりません。新藤兼人監督は原爆を題材にした映画で世界的な名声が高いですが、晩年は「老い」と「介護」をテーマに映画を作っていました。
もっとも有名なのは『午後の遺言状』(1995年)かと思います。当時の日本アカデミー賞もキネマ旬報賞(映画評論家たちが決める映画賞)も独占しているほどの傑作です。
映画界では『カメラを止めるな!』(2018年)のようにマイナー映画が突然社会現象になる現象が数年に一度発生しますが、『午後の遺言状』でも同じ現象が発生しました。公開時には新聞各紙が大絶賛、映画館に人が多く集まり、日本映画で初めてマイナー系映画が興行収入1億円を突破する記録を打ち立てました。
映画の内容は、ヒロインの老女が避暑地で別荘の管理人と暮らしているところに、重度の認知症になった親友と、親友を献身的に介護する夫がやってきて夏を過ごすというもの。ここまでは普通の映画ですが中盤から衝撃の展開に。
実は管理人の娘が、ヒロインの死別した夫と不倫して生まれた子だったことが判明。穏やかな前半とは打って変わってドロドロした話になりますが、ここからさらにムチャクチャな話になります。管理人の娘は山の中で出会ったマムシ取りの青年(演じるのは若かりし松重豊)といきなり婚約。結納の代わりに村人たちの目の前で初夜を迎える儀式を行うのです! そして、それを見て元気をもらう実母(使用人)と義理母(ヒロイン)の姿が描かれます。
呆然とする展開ですが、映画のテーマ的にはちゃんと意味があって、性のパワーで老いを吹き飛ばすという比喩表現なのです。
新藤兼人監督は再び老いと介護をテーマに『生きたい』(1999年)を製作しますが、圧倒的高評価だった『午後の遺言状』とは打って変わって、公開時には批判されました。
作中では、老人ホームに入る様子を姥捨て山と表現していたり、さらに家族が引き取って介護することを「姥捨て山からの救い」として描いていたりと、介護の家族負担を考えればちょっと安易過ぎです。現在公開されていたら批判どころか炎上間違いなしでしょう。
ただ老いを吹き飛ばすパワーの比喩表現として今度は銃を乱射するという豪快過ぎるシーンがあります。
新藤監督作品の「老い」に対する結論は一貫していて、それは「死を迎える老人が元気に死を否定する」というもの。老いてからの生きるパワーを見せてくれるのです。
そして新藤兼人監督は人生の最後に究極の介護映画『一枚のハガキ』(2011年)を撮ります。この映画の内容は終戦直後の日本を描いており介護とは全く関係ないです。
なぜこれが究極の介護映画なのかというと、100歳になった新藤兼人監督が孫娘(彼女も映画監督)に介護されながら撮ったのです。そして再び映画賞を独占して逝去、見事な有終の美を飾りました。
『任侠ヘルパー』はテレビドラマの映画版ですが、テレビドラマを観ていない人にも自信を持ってオススメできます。なぜならこの映画を傑作だと評価している私もテレビドラマ版を観ていないからです。本作では、介護に興味がない・関心がない人にも楽しめるように娯楽要素と社会派要素をうまく混ぜた内容です。
『任侠ヘルパー』(2012年)は前半・中盤・後半で描く内容が変わります。前半は草なぎ剛演じるヤクザの主人公が介護ビジネスに手を出すというもの。介護にあまりなじみがなかったり、興味がなかったりする人が鑑賞しても、ここでグッと映画に引き込まれます。しかも貧困介護ビジネスの実態を描いていて、社会派な展開です。
中盤は心機一転、悪徳老人ホームの入居者たちが主人公の元に一致団結して、老人ホームを改善していく様子を描いています。
この時点で十分に面白いのですが、クライマックスではさらにジャンルが変わります。
クライマックスで主人公はヤクザとしての仁義を通すために、金儲けに走ったヤクザたちと抗争する(たった一人で)。これは任侠映画のフォーマット通りの展開なのです。
任侠映画が大ブームだったのは遠い昔で、『仁義なき戦い』のような実録モノが登場した70年代にはすでに任侠映画ブームは縮小していました。しかし『任侠ヘルパー』が任侠映画を現代社会で再現することに成功したのです。社会的にも映画的にも廃れた任侠道を現代で貫く草なぎ剛の姿が感動的です。
日本でも大ヒットした映画『最強のふたり』(2012年)。ご存じの方も多いでしょうが、介護映画の代表的存在なので改めて紹介します。実話を元にしたフランス映画です。
首から下が麻痺している大富豪を、移民で貧困層の青年がひょんなことから(というか失業保険目当てで適当に就職活動していたら)介護することになります。
フランスには『愛、アムール』(2013年)というアカデミー賞とカンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞した介護映画があります。『愛、アムール』と『最強のふたり』には共通点があって、それは「介護の素人が介護を学んでいく」というもの。
ところが『愛、アムール』は介護を愛の行為として描くのに対して、『最強のふたり』は介護をギャグとして描きます。
『最強のふたり』に登場する青年はいわば介護の素人。なので、当然ながら介護に失敗してばかりです。車椅子への固定を忘れる、熱いお茶をこぼす……などなど。これらをコミカルなシーンとして描いているのです。一見すると重くなりがちな介護シーンを楽しく描く、という発想には痛快さを感じます。
また愛ではなくて雇用関係で結ばれているためか、青年と大富豪はお互いに文句を言いまくり。美術品を購入しオペラを鑑賞するハイソサエティな生活を送る大富豪と、そんな生活にいちいちツッコミを入れる貧困層の青年とのカルチャーギャップコメディです(高額美術品に素人目線で文句言うシーンが最高!)。
今回のコラムに登場した映画はどれも自信を持ってオススメできる映画ですが、私が太鼓判を押さなくても実際に数々の映画賞を受賞した作品ばかりです。そして実際に面白い映画が多いのです。
娯楽としても面白い! 社会派としても面白い! のはもちろんですが、これから介護や老いについて向き合う世代(私自身もアラフォーです)には、身につまされる話としても発見があります。というわけで介護映画、オススメです!
2000年から映画サイト「破壊屋」を続けています。今は「破壊屋ブログ」がメインです。スパイダーマンスーツとスパイダーマンパーカーを10着以上持っていて、土日はプロフ画像みたいな格好でうろついています。
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