親が認知症になったらどう対応したらいい?家族としての向き合い方を「システム思考」で考えてみる

親が突然倒れた、さぁどうする?

会社員歴20年、その後クリエイティブコンサルタントとして独立し8年。

仕事一筋で生きてきた、介護のことなんてまるでわからない独身ワーキングウーマン、中村美紀。

突然母が倒れ、その半年後に父も倒れるという同時多発介護になったのが48歳。

その後、仕事と介護の両立にてんやわんやしながら、仕事人間としての特性を活かし、「ビジネス思考」でなんとか介護を乗り切っていくという、壮絶だけど、コミカルな記録。

父が認知症!?物盗られ妄想でいきなり怒鳴られてショック

とある日。

たまたま外泊して家に戻ると、いきなり父が怒鳴りだしました。

父

「俺の扇風機盗っただろ!(怒)」

扇風機? はて? 状況がつかめません。

扇風機だったら納戸にあるはず。二人で見に行くと、部屋の真ん中に鎮座しています。

私

「あるじゃん」

父

「おまえが隠して、今戻したんだろ!(怒)」

え? どういうこと? 

父に話を聞くと、私の外泊中ずっと扇風機を探していたが見つからなかった、それは私が盗んだからだ、というのです。

最初は冗談かと思いました。「それ本気で言ってるの?」と聞くと、「お前が盗んだに決まってる、なんだったら警察を呼ぶ」とまで言い出しました。

冗談を言ってる雰囲気ではありません。最近見たことのないような本気で怒っている表情です。

いきなり盗人扱いされて、ふざけるなー!と私も怒鳴り返す始末。

これは姉に報告しないと怒りがおさまらんと姉に電話し、状況を説明しました。

すると姉が電話の向こうで言いました。

姉

「それ…認知症じゃない?」

え? え! えー!!

盗られたと怒鳴る父。いきなりの盗人扱いに憤怒する私。これが「物取られ妄想」だということは後から知りました。

※物取られ妄想とは…認知症などによる記憶障害と、認知症の症状を認めたくない不安により「誰かが盗った」と妄想してしまうこと。

(参考:LIFULL 介護「認知症による被害妄想への対応方法は?」)

認知症かもしれない父の対応方法がわからない!ケアマネジャーに相談しよう

父が認知症!?  もしそうだったらどうしよう…。

さっきまでの怒りはどこへやら。私はいきなり不安に襲われました。

認知症の場合どんなケアが必要なのか。今回のこの件ひとつとっても、どう接すればいいのか。

例えば私が何かを盗んだと言われた場合、「私は盗んでいない」と諭した方がいいのか、「そうかもね」と聞き流せばいいのか、対応がわかりません。

私はすぐにケアマネジャーに相談しました。

ケアマネジャーに状況を話すと、「認知症検査を受けた方がいいかもしれない」と言いました。

ケアマネジャーは訪問看護師と連携し、かかりつけ医に連絡。父は認知症検査を受けることになりました。

診断結果は、「軽い認知症」でした。

医師から電話が入り、「認知症レベルはほとんど標準と差がないくらいの軽度。薬を処方することもできるが、血圧の薬を飲んでいる父には心臓への負担がかかる」と説明してくれました。

私は医師と相談し、しばらく父の生活の様子を見て、変化を感じたら改めて薬の処方を依頼する、ということにしました。

この結果を父にどう説明すればいいか。認知症だと診断されたと伝えていいものか。

悩んだ結果、「隠さず伝えるが、前向きになれるように言おう」と決めました。

私

「医師から電話が来て、認知症の診断が出たけどまだ軽度だから、心臓の負担がないように薬の処方は様子を見る、ということになったよ」

父

「そうか…」

それ以上、父は言葉を発しません。どう思っているのか聞くと、「自分でも頭の様子が変だと感じているから薬を飲みたい」と言いました。

私は、父が自分の様子がおかしいと気づいていたことを初めて知り、驚きました。

父には、なんとか元気づけたいと思い、前向きになれるような形で話しました。

私

「とりあえず心臓を気遣って、薬は様子を見るということになったけど、医師も、ケアマネジャーも、訪問看護師も、この結果を知って連携を図ってくれているからダイジョブ。安心して」

父

「そうか」

父は安堵の表情を浮かべました。

こうして一旦は、なんとか父の体への対応に目星がつきました。

しかし、日々の日常生活においての父への対応のイメージが、私はまだわきません。

何か自分にできる工夫はないのでしょうか?

認知症の「悪循環」を「好循環」に変えるには?「システム思考」で考える

父と二人の生活は、ただでさえぶつかることが多いです。

父がゴミを残したままだったり、暖房をつけっぱなしにしていたり、使った皿の洗い残しがひどかったりすると、よくないとわかっていても「なんで出来てないの!」とついつい小言を言ってしまいます。

父の認知症との診断で、このままではいけない、何かを変えようと決めました。

「相手は変えられない。自分が変わるしかない」

仕事で学んだ教訓です。

変わるのだったら自分。ではどう変わればいい?

そこで「システム思考」で考えてみることにしました。

「システム思考」とは、互いに影響を及ぼし合う要素をシステムでとらえ、問題の発生を構造化することで改善につなげる、という思考法。

「悪循環」のサイクルを見える化して、どこを変えれば「好循環」になるのか、検討しやすくする、というものです。

まず父とのぶつかりを「悪循環」として構造化してみます。

「悪循環」サイクルイメージ

父が「何かできない」と、私が怒る。たまにできても、あたりまえだとスルーする。すると父は萎縮し、ますます出来ないことが増えてしまう。

私が、父に対して「できるのがあたりまえ」という考え方でいると「悪循環」に陥ってしまいます。

変えられる部分を変えて「好循環」にするにはどこを変えればいいでしょうか。

「好循環」サイクルイメージ

父は「できないのはあたりまえ」だと、私がとらえる。たまにできたら、よくできた!と褒める。すると父は活動的になり、できることが減りにくくなる。

私が父に対して「できないのはあたりまえ、できたら嬉しい」と捉えられるかどうかが「好循環」実現のポイントです。

自分の気持ちも、日常も、簡単に変えられないとわかっています。

ですが、「好循環」の構造がイメージできるとできないでは大違い。さっそく気持ちを切り変えます。

認知症の「悪循環」をなんとか乗り切り、父も私も穏やかな日常へ(今のところ)

今まで頭ではわかっていても、なかなか気持ちがついかない部分もあった自分。

父の「認知症」の診断結果は、気持ちを切り替えるきっかけになりました。

覚悟を決め、「好循環」への変化を目指して、出来たことをなるべく見つけ、褒めまくることに。

少々わざとらしく、自分でも滑稽だな、と思うこともありましたが苦笑、それでも続けました。

すると父に変化が出てきました。

何か出来たことに対し、「これやっといたよ」と報告をくれるようになったのです。

この変化からしばらく経ち、今でも日々の生活からは私の小言はなくなりません。

それでも「悪循環」「好循環」のイメージが頭に浮かぶようになり、気持ちを切り替えられるきっかけになっています。

皿を洗ってくれた父に「ありがとう!助かるよ!」と言いながら、こっそり洗い直す自分。前よりは穏やかな日々が増えました。

この日々がなるべく長く続きますように。

まとめ

・認知症にみられるという物取られ妄想。怒鳴られた家族は突然なので相当びっくりします。私は全く知らなかったので、父も私も辛い思いをしました。今からこんなことがあるんだと知っておくだけでもプラスになると思います。

介護で困ったらまずケアマネジャーに連絡。我が家は、訪問看護師やかかりつけ医の連携が素早くはかられ、認知症診断までスムーズに行うことができ、助かりました。

・困ったり感情的になったりすると、物事が冷静にみられずなかなか解決策が浮かびません。「システム思考」を意識して「好循環」「悪循環」を見える化すると、どこを変えればいいのか検討しやすくなります。

とはいえ介護は続きます。変化も大きいのでその都度対応を迫られます。考え方も行動も、出来る範囲で何かを変えて対処していく…。私も日々、父の洗い残しの皿を洗い直しながら、なにくそ!精神で乗り越えようと思います笑。

中村美紀
中村美紀 クリエイティブコンサルタント・編集ディレクター

(株)リクルートフロム エー、(株)リクルートに20年在籍し、副編集長・デスクとして10以上のメディアにかかわる。2012年に独立し、紙・WEBメディア設計、編集コンテンツ企画制作、クリエイティブ研修講師、クリエイティブ組織コンサルタントなどを請け負う。 国家資格キャリアコンサルタント/米国CCE,Inc. GCDF-Japanキャリアカウンセラーでもある。

プロフィールhttps://miki-nakamura.com/ブログhttps://oyakaigo.miki-nakamura.com/ 中村美紀さんの記事をもっとみる

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