「そろそろ次のお引越し先を決めていただきたいです」
親が突然倒れた、さぁどうする?
会社員歴20年、その後クリエイティブコンサルタントとして独立し8年。
仕事一筋で生きてきた、介護のことなんてまるでわからない独身ワーキングウーマン、中村美紀。
突然母が倒れ、その半年後に父も倒れるという同時多発介護になったのが48歳。
その後、仕事と介護の両立にてんやわんやしながら、仕事人間としての特性を活かし、「ビジネス思考」でなんとか介護を乗り切っていくという、壮絶だけど、コミカルな記録。
介護が必要になった母が、介護老人保健施設(以下、老健)に入居してしばらく経ちました。
施設に入居してからも容態が安定せず、入退院を繰り返す母。
入居した老健は入院するたびに退所扱いとなったため、その都度退所し、退院すると再入居する状態でした。
一般的に老健は、在宅復帰を目指すためのリハビリ提供を目的とした施設。滞在期間は3ヶ月〜6ヶ月が目安となっているよう。
気づけば、母の容態が安定する頃には、滞在期間は1年半となっていました。
「そろそろ次のお引越し先を決めていただきたいです」
担当の若手ケアマネジャーさんからの催促です。
今いる老健は、コロナ禍でも退院後の出戻りを許容してくれ、ありがたい限りでした。母の容態が安定した今、滞在期間に制限がある以上はそろそろ出ていくことを検討しないといけません。
家族会議を開き「特別養護老人ホーム(以下、特養)」に入居することを決断。新たに施設を探すことにしました。
「特養への入居を希望されるんですね。特養施設の一覧を渡しますので、決まったら教えてください」
特養への引っ越しを希望すると伝えると、行政サイトに掲載されている特養一覧が印刷された紙をペラッと渡されました。
「えーそれだけ?(心の声)」
今いる老健は、家族だけで施設情報の収集から検討・決断・入居までの段取りを行いました。
介護の知識が全くない中、自分たちだけで段取りをつけ入居まで行ったので、それはそれは大変な経験でした。
後に、なぜ大変だったのかを考えましたが「まだ頼れる担当ケアマネジャーがいなくて、家族だけで一から探したから」というのが私なりの結論でした。
行政サイトに掲載されている特養一覧で一から探すなら、担当ケアマネジャーがいなかったあの頃と同じです。
「もっとケアマネジャーに頼れるはず(心の声)」
心のスイッチが入りました。
介護について何もわからない頃と比べて、今では多少なりとも介護専門家や介護サービスの知識がついてきた自分。
相談にのってくれる役割でもあるケアマネジャーは、頼っていい存在のはずです。
家族だけで探すのは本当に大変、と身に染みている私。なんとか巻き込みたい、と必死でした。
「その特養一覧は既に持っています。どのように決めるのかが難しいので、相談に乗ってもらえませんか」
思い切って協力のお願いをしてみました。すると奥から別のベテランケアマネジャーさんが来ました。真打の登場です。
「ご家族の希望はありますか?」
「ほらキター!(心の声)」
やった、協力してくれるんだ!と思いました。
相談してみると、家族の意向や条件を提示してくれたら、該当する施設候補をピックアップするとのこと。
これはありがたい!
希望する入居施設の条件は、おおまかに整理できていました。なぜならこの老健に決める際に、自分たちは何を重視し、何にこだわるのかを家族会議でまとめた経験があったから。あの大変な経験を無駄にはしません。
入居したい特養の条件をどう整理するか。
希望条件が複数あるので「マスト条件」と「ウォント条件」に分けて示そうと思いました。
「マスト条件」とは“絶対に”叶えたい条件、「ウォント条件」とは“できれば”叶えたい条件のこと。
「マスト/ウォント」とは英語のMust/Wantのことで、仕事の優先順位を示す際によく使われる言葉です。
要望が複数ある場合は、全ての要望を叶えることが難しいかもしれないので、優先順位を示した方がいい。その方が重視している条件が伝わりやすいと考えたのです。
この考え方を元に整理を始めます。
早速洗い出した希望条件を、マストとウォントで整理してみます。
最初にマスト条件としてあげたのは「支払い可能な利用料であること」。
我が家の懐事情でいくと、特養であればどこでも支払い可能な利用額だと判断し、特養であることを条件として最初に示しました。
次のマスト条件は「通える場所にあること」。
基本的に車で移動している我々。家から車で30分圏内の場所にある施設にしたい、と伝えました。
さらにマスト条件としてあげたのは「母の容態のケアが可能な病院と提携している施設であること」。
脳の手術をした母は、老健に入居した後もてんかん発作を起こしたり、蜂窩織炎(ほうかしきえん)という感染症にかかったりと、容態が安定せず入退院を繰り返していました。
今は安定しているものの、再び容態を崩す可能性があるので、ケアできる病院と提携している施設をマスト条件として伝えました。
あとは「清潔感」や「介護施設スタッフのお人柄」などにもこだわりたいと思いましたが、こちらは主観的なもの。
条件としてあげても判断がバラつくだろうと思ったので「見学したい」という要望を伝え、自分たちで見て判断しようと決めました。
しかし見学は、コロナ禍では難しいかもしれません。
よって「できれば」とし、ウォント条件としました。
・条件1<マスト>
(支払い可能である)特養であること
(試算上で特養であれば支払い可能と判断した)
・条件2<マスト>
自宅から通える範囲にあること
(車で30分圏内とした)
・条件3<マスト>
母のケアが可能な病院と提携している施設であること
(脳の手術をし、てんかん重積や蜂窩織炎を起こしているので、これらのケアが可能であることと具体的に伝えた)
・条件4<ウォント>
見学してから決めたい
(主観的な判断である「清潔感」「スタッフの人柄が良い」などは自分たちで見て判断した方がいいので「コロナ禍で難しいとは思うができれば見学したい」と意向を伝えた)
しばらくすると、ベテランケアマネジャーから該当する特養が見つかったと連絡が入りました。
詳細を聞いてみると、希望したマスト条件はすべて叶えられていました。
ウォント条件として伝えた見学の要望は、限られる範囲内であれば可能とのこと。やった!伝えてみるものです。
ここまでは、なんてスムーズ!
以前の老健探しの大変さが、まるで嘘のようです。
やはり介護は家族だけで物事を進めるよりも、頼れる専門家には遠慮せず、ダメ元でも頼った方がいいと思いました。
そして、いよいよ施設見学。
コロナ禍で見学できたのはとてもありがたい!のですが、いざ見学をしてみると、制限された範囲の中で判断するのはやっぱり難しかった〜!
そんな中、我々はどこを見て、どう判断したのか。
独自の見学ポイントを定めて判断した自分。詳しくは……次回へ続きます!
(株)リクルートフロム エー、(株)リクルートに20年在籍し、副編集長・デスクとして10以上のメディアにかかわる。2012年に独立し、紙・WEBメディア設計、編集コンテンツ企画制作、クリエイティブ研修講師、クリエイティブ組織コンサルタントなどを請け負う。 国家資格キャリアコンサルタント/米国CCE,Inc. GCDF-Japanキャリアカウンセラーでもある。
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