少子高齢化の日本は、“課題先進国”と呼ばれることが増えてきました。そんな中、AI(=人工知能)の力で課題解決を目指していく動きが加速しています。とはいえ、“AIが人間の仕事を奪う”といった未来予測もあり、手放しで歓迎すべきものなのかわからない方も多いと思います。
そもそもAIとは何なのか、AIが超高齢社会の何を変えるのかについて、「みんなの認知症情報学会」理事長であり、静岡大学教授である竹林洋一先生にお話を伺いました。
――AIが認知症介護を変えるというお話、とっても刺激的でした!
「AIは人工的につくる知能」と誤解している方が多いので、お伝えするのがなかなか難しいんですよね。僕は、一昨年亡くなったAIの創始者のミンスキーと、30年以上にわたって交流しました。なので、人間の意識・感情・常識・自己などの自然知能を理解し、それをコンピューターで表現し実現するのがAI研究であると考え、子どもの発達や認知症を研究しています。
――じつは、取材させていただく前までは、認知症で困っている人をAIでなんとか助けてあげようとか、認知症を受け入れる社会をつくらなくてはならない……と、ちょっと上から目線で入ろうとしていました。でも、そうじゃないと。結局、認知症介護は、自分自身をもっと知ることができる機会であるし、自分を客観的に理解できると、社会のことも知ることができるんだなって。
そう感じてくださったのは、ものすごく嬉しいです。僕自身もAIと介護の研究を始めてから、自分自身と高齢社会の未来について考える機会が増えました。毎日、とにかく自分自身の探求にもつながりますからね。経験や知識が豊富になると、考え付くアイデアが増える。「自分を知る」って、いいキーワードですね。
――読者の方のなかにも、すでに「みんなの認知症情報学会」の会員になられた方がいらっしゃるかもしれません!
そうであればとても嬉しいですね。じつは、いまは会員になっていただけば、信頼できる知識や最先端の取り組みを学びながら、認知症研究に貢献することができます。
一番のおすすめは、精神科医の上野秀樹さん(みんなの認知症情報学会副理事長)と静岡大学のAI研究者が中心となって開発した「上野流認知症見立て塾」です。家族、介護士、看護師、医師が「ごちゃまぜ」で「症例から認知症の本人の状態と原因を多面的に探り、ケアにつなげるための考え方を学びます。
「改善可能、治療可能な認知症を見逃さないようにする」のがポイントで、『みんなの認知症情報学会』の重点事業として、多くの方に気軽に受けられる遠隔学習システムを開発中です。一般市民の認知症に関する考え方が大きく変わり、信頼できる知識が身に付くという意味で画期的だと思っています。
――ケアについての取り組みは?
多様な認知症の人の見立てに加ええて、多様な「個性」のある認知症のある方の暮らしを支えるための「生活環境をデザイン塾」の実践的AI研究も進めています。静岡大学の石川翔吾さんと「あおいけあ」の加藤忠相さんが、みんなの認知症情報学会のサービス事業として試験的に提供予定です。
また、株式会社エクサウィザーズは、認知症介護の学びのシステム「コーチングAI」をつくっていて、これがかなり画期的です。エクサウィザーズは、AIを利活用することであらゆる社会課題を解決していくことを目指していて、ユマニチュードの研修も全国各地で開催しています。
――認知症介護の学びシステムとは、どのようなものですか?
AIコーチングの場合、映像をもとにユマニチュードのインストラクターが赤ペン先生のように、もっとこうしたらいいといコメントしてくれるシステムです。そのコメントに対し、さらにほかの専門家がコメントをすることができる。
――すごい……。
そんなふうに、AIによって学びのシステムをいっぱい作れる可能性があるんです。
――学びのシステム、と捉えると、認知症ケアだけではない分野にも広がるのでしょうか。
まさに。人間の脳による認知発達がわかるようになれば、幼児教育や発達障害の分野にも応用できると思っています。
――それが「人間中心のAI」につながっていくのですね。
AIというと、自動運転技術がわかりやすいので、そういったことばかりが語られがちですが、みんなAIの本質をよくわかってないんですよ。だって、人間を理解することの方が、自動運転よりも大きなチャレンジだって思いませんか?
――人間中心のAIによって、認知症ケアに関するエビデンスと知が豊かになり、みんなで認知症について学び続けることによって、認知症の状態や介護現場の状況が「見える化」でき、わたしたちの偏見をとりのぞいて、みんなで、その人のこと、わたしたちへの理解を深めることができる。
大事なのは、他者の状態を理解し、そこに共感して長期的な目標を持つことです。いまを生きるだけでなく、その人らしく生きていくために、どんな目標を作ったらいいか。それがあってはじめて、どんなケアが必要になるか導き出せるのです。
――介護が少し身近になった気がします。
介護とか看護現場のいいことは、いろんな多様な人に出会い、ほかの人を理解しながら、もっとこうすればよくなると試行錯誤すること。それは、自然といい社会をつくることにつながっています。みんなが、看護師とか、ケアをする人になると、世の中もっとよくなるんじゃないかな。
例えば、「アロマセラピーをする人は、アロマセラピーをされる人よりも、オキシトシンという愛情ホルモンが分泌されて、健康になれるとのことです。世代・立場を超えて、認知症ケアについて学び、「認知症の見立て」能力を高め、ケア技術を身に付ければ、認知症の本人も、家族も、介護者も負担が軽減し、みんなが心豊かに暮らせる生活環境が実現できます。
認知症の人が暮らしやすい社会は誰もが笑顔で暮らせる社会です。認知症の当事者になる前でも、認知症情報学会に参加することで当事者意識を芽生えさせることが可能です。ぜひ未来へつなげていきましょう。
――ありがとうございました。
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「みんなの認知症情報学会」
……“当事者重視の市民情報学で、みんなで学び、みんなをつなぎ、知を創りだす”をテーマに、人間中心の様々なAIとITの研究開発と利活用を推進。「みんな」が世代や職種を超えて「ごちゃまぜ」で研究に参画することにより、認知症に関する「多面的な知」を創り出すことを目指す。市民会員、学術会員、賛助会員を募集中。
医療健康マガジンの編集部を経て、フリーランスで編集・執筆を行う。ライフスタイル、美容、旅などさまざまなジャンルの書籍・雑誌・WEBメディアの企画制作も担当している。
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