親の老後について家族で意見が衝突!そんなときアドラー心理学ではどう考える!?

この連載は、親の老後や終末期のことが気になってはいるけれど、なかなか本音で話ができないという方に向けて、どうしたら親と老後についての話をしていけるのかのヒントをお伝えしていきます。

指南いただくのは、アドラー心理学をベースとしたファミリーカウンセリングを日々実践し、家族間の様々な問題を解決に導いてきた熊野英一先生。

第5回目の今回は、親の老後について家族で話し合ってみたものの、「意見が衝突してケンカになってしまった」「話し合いが平行線になってしまった」など、困った時の対処法についてご紹介。ぜひ参考にしてみてください!

これまでの記事はこちら↓↓

2021/04/09

家族と本音で話せない人へ ~心理学に教わる『親との人生会議のはじめ方』〜

今回のtayoriniなる人
熊野英一さん
熊野英一さん 株式会社子育て支援/ボン・ヴォヤージュ有栖川代表。1972年フランス・パリ生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。メルセデス・ベンツ日本にて人事部門に勤務後、米国インディアナ大学にMBA留学。その後、製薬企業イーライリリー米国本社および日本法人を経て、保育サービスを手がける株式会社コティに統括部長として入社。2007年、株式会社子育て支援を創業し、保育サービスを展開するかたわら、アドラー心理学の実践に基づくファミリーカウンセリングを行う。主な著書に『育自の教科書』『家族の教科書』(共にアルテ刊)、『アドラー式 老いた親とのつきあい方』(海竜社)などがある。

家族との話し合いで平行線になってしまったら……

伯耆原

親の介護や終末期の医療のことで家族と話し合っている時に、意見がぶつかってケンカになってしまうケースも多いと思います。

一旦時間を置くなど、お互い冷静になるのを待つほうがよいでしょうか?

熊野

そうですね。怒りというのはそんなに長く続くものではないので、話し合いを一旦終わらせて日常に戻れば、「あれ? なんでケンカになったんだっけ?」と我に帰ることも多いものです。

その時に、この話し合いは何のために行うのか? 目的・ゴールを明確にするといいですね。「お母さんが幸せな最期を迎えられるようにするのが目的であり、ゴールだよね?」などと、お互いに初心に立ち返ることができれば、より建設的な話し合いができるようになります。

伯耆原

目的やゴールにも納得してもらえず、いつまで経っても平行線になってしまう場合は、どうしたら……?

熊野

ケースバイケースですが、納得してもらえない相手に「話し合いの場から降りてもらう」というのも一案です。

たとえば、一人残されたお母さんの老後について、家族で話し合いをしたとしましょう。

その際に、お母さんから突然、こんな想いを打ち明けられました。
「私は長い間、お父さんの家族と上手く行かず、すごくつらい想いをした。だから、〇〇家のお墓には絶対入りたくない。死んだら海に散骨してほしい」と。

それに対して長男だけが、「お母さんは〇〇家の人間なんだから、一族のお墓に入らないのはおかしい。絶対〇〇家のお墓に入るべきだ」と頑として譲らない……。このようにお互いの主張が真っ向から対立して、相容れないというケースはあると思います。

ここで改めて「誰のための話し合いなのか?」を振り返り、「最終的にはやっぱりお母さんの望みを尊重すべきだよね」という方向にまとまったとしましょう。でも、依然として長男だけが反対意見を唱えている場合には、彼に話し合いから降りてもらうこともできるわけです。

「お兄ちゃんの気持ちはわかるけど、お母さんの望みが第一だから、この件についてはこちらに任せてもらえない?」などと提案してもいいんです。

正解はないからこそ、家族なりの答えを出すしかない

伯耆原

それは、ちょっと衝撃です(笑)。家族でとことん話し合って全員の納得を得ることが大切なのかと思いきや、そうとも限らないのですね! 確かに話し合っている間に、親はどんどん年を取り、老いや病が進行し、待ったなしで結論を出さないといけない局面もあるので、その奥の手は有効かもしれません。

熊野

そうなんです。逆にこういうケースもあるでしょう。

「〇〇家は代々、家長である長男の意見が最優先される」など、話し合いの主役である親よりも、パワーを持つ誰かの意見によって物事が決められていくケースです。

一族の伝統やしきたり、宗教的な信仰など、それぞれの家族で考え方やルールが異なります。そこに従うのもありですし、自分たちで新しい形を生み出すこともできます。正解はないので、その家族なりの最適な答えを見出すしかありません。

伯耆原

そういう意味では家族の一人一人が、「自分はどう思うのか?」「親の幸せな最期のためにどうしたらいいのか?」、自分の意見を持って話し合いに臨むことが大切ですね。

家族との話し合いは精神的にハードな部分も多いと思いますが、心が折れそうになってしまったり、行き過ぎて関係性がこじれてしまったりした場合にはどうすればよいでしょうか?

行き詰ったら第三者の力を借りるという選択肢も

熊野

その場合は第三者の力を借りましょう。第一におすすめしたいのが、カウンセラーに相談することです。

今、介護や家族関係に悩む人向けにカウンセリングを行っている人はたくさんいます。僕もその中の一人ですが、そうした家族関係を専門とする心理カウンセラーに話を聴いてもらうことで、問題点が整理されて、解決の糸口が見つかる可能性が高いです。

もしかしたら、これまで蓋をしていた、親や兄弟姉妹への感情が出てくるかもしれませんが、カウンセラーに思い切って打ち明けることで抱えていたものが軽くなり、前に進みやすくなります。

伯耆原

そうなんですね。私自身、父や母が病に倒れた時に、誰にも相談することができず、一人悩んでいたことがありました。姉には相談はしましたが、家族だけに変に気を遣ってしまって、言いたいことが言えない時も多かったんですよね。

姉と親の面倒をどうやって見るか、金銭的な負担はどうするかについて話し合う段階になると、ある種、利害関係が発生するので、本音が言いづらかった部分もあります。

その時にカウンセラーに相談できたら、適切な対処ができたかもしれませんし、心身ともに追い詰められることもなかったと思います。

熊野

今、ネットで「介護 カウンセリング」「家族関係 カウンセリング」などで検索してみると、様々なカウンセラーがヒットすると思うので、「この人なら相談したい」と思う人の門を叩いてみるといいと思います。

もし家族との話し合いでこじれてしまった時は、その家族と一緒に同席してカウンセリングを受けることもできます。無理強いすれば余計にこじれるので、当人の意思が大切ですが、第三者が間に入ってお互いの言い分を“交通整理”することで、誤解やわだかまりが解けることはよくあります。

ほかにも、介護をしている人たちのための「介護者の会」や「家族会」なども、市区町村で開催している場合も多いです。同じような境遇の人たちと仲間になって想いを語り合うことで心が楽になったり、解決につながる情報やヒントが見つかったりすることもあります。

一人で抱え込まないこと。それが最も大切です。

伯耆原

第三者の力を借りるという意味では、「医療側からアプローチをしてもらうのも有効」と別の取材で聞きました。

2021/04/09

嫌いな親の介護が降りかかったらどうなる?『毒親介護』著者・石川結貴さんに聞きました

たとえば、親の介護が必要になって要介護認定を受けてほしいけれど、本人に拒まれているというケース。そうした場合にかかりつけ医に頼んで、それとなく親に介護サービスを勧めてもらうと、「先生が言うなら使ってみます」とスッと納得する人も多いそうなんです。

昔ながらの価値観を持つ高齢者の方は、病院の先生を「お医者さま」として一目置いている人も多いので、先生に口添えしてもらうというのは効果的だと思いました。

熊野

そのアプローチはいいですね。「親がなかなか運転をやめてくれない」「持病の薬を飲んでくれない」「介護サービスを受けたがらない」「施設に入所することを拒んでいる」など、子どもがいくら説得しても受け入れてくれないことはたくさんあると思います。

たとえば親が「権威のある人の言葉に弱い」など、「この人の言うことなら聞いてくれそう」という人に協力をあおげば、すんなりと納得するかもしれません。親がどういう人の言葉なら受け取りやすいのか、よく観察しておくといいでしょう。

うまく行かなくてもできる限りのことをやれば後悔は少ない

熊野

親が幸せな最期を迎えるために、「家族で話し合うことの大切さ」や「どうしたら話し合いがうまく行くか?」について、これまでの記事でたくさんお伝えしてきました。

最後にこんなことを言って元も子もないかもしれませんが……。家族で話し合ってはみたけれど、結果的に「家族全員が納得できるものにはならなかった」「親の幸せな看取りが実現できなかった」ということもあると思うのです。

親、兄弟姉妹、親戚……それぞれに想いと事情を抱えた人たちと話し合うわけですから、理想通りに事が運ばないことも多々あります。

こうしなければダメだ、こうならなきゃ嫌だと完璧を求めすぎず、自分にできる限りのことをやっていけばいいと思います。

伯耆原

もう「なるときはなる」というある種、健全なあきらめも持っておくと、自分も相手も追い詰めずに済みますよね。

熊野

おっしゃる通りです。仮にうまく行かなかったとしても「自分なりに頑張ったな」と思えれば、後悔は少ないのではないでしょうか。

親の死に対してはどうしても「もっとやれることがあったんじゃないか」という想いがつきまといます。後悔の念を完全になくすというのは難しいものです。

だからこそやれることをやって、その後悔を少しでも減らしていくことが大切です。

親の老後が気になっている、この先のことを話し合いたいと考えているなら、まずは身近なパートナーや兄弟姉妹にその想いを伝えてみる、親に勧める前に自分でエンディングノートを書いてみる、など今すぐできる「小さな一歩」から始めてみましょう。

********
<まとめ>

  1.  話し合いの目的やゴールに納得してもらえない相手に、「話し合いから降りてもらう」という選択肢も
  2. 話し合いに行き詰ったら、第三者の力を借りるとすんなり解決する可能性大
  3. 家族との話し合いがうまく行かなくても、できる限りのことをやれば後悔は少ない

​​​​​​​<そろそろ人生会議を始めたい時に読んでおきたい書籍>

著者:熊野英一
出版社:海竜社
発売日:2020年7月8日

編集・ライター:伯耆原良子
撮影:佐々木睦
 

伯耆原良子
伯耆原良子 インタビュアー、ライター、エッセイスト

日経ホーム出版社(現・日経BP社)にて編集記者を経験した後、2001年に独立。企業のトップから学者、職人、芸能人まで1500人以上に人生ストーリーをインタビュー。働く人の悩みに寄り添いたいと産業カウンセラーやコーチングの資格も取得。12年に渡る、両親の遠距離介護・看取りの経験もある。介護を終え、夫とふたりで、東京・熱海の2拠点ライフを実践中。自分らしい【生き方】と【死に方】を探求して発信。

Twitter@ryoko_monokakinotenote.com/life_essay 伯耆原良子さんの記事をもっとみる

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