この連載は、親の老後や終末期のことが気になってはいるけれど、なかなか本音で話ができないという方に向けて、どうしたら親と老後についての話をしていけるのかのヒントをお伝えしていきます。
指南いただくのは、アドラー心理学をベースとしたファミリーカウンセリングを日々実践し、家族間の様々な問題を解決に導いてきた熊野英一先生。
第4回目の今回は、親と人生会議を成功させるために気を付けたいポイントについてご紹介。親に直接言いづらい老後や終末期の話をうまく持ちかけるためには? 家族と大事なことを話し合う場面で注意すべきこととは? 今すぐ実践できる具体的アドバイスが満載です。
これまでの記事はこちら↓↓
家族と本音で話せない人へ ~心理学に教わる『親との人生会議のはじめ方』〜
伯耆原
前回の記事でお伝えした「悩み解決ワークシート」で親に対する悩みや心配事を整理することによって、「人生会議で話し合うべき内容のポイントが明確になる」とのことでしたが、こうして会議の前に話し合いたい内容を議題としてまとめておくことはとても大事ですよね。「何から話そう」と迷わなくなりますし。
そうなんです。前回もお伝えしましたが、人生会議で話し合いたい内容というのは、親の老化度や状態によって変わってきます。
まだ親が元気な状態なら「老後はどんな暮らしがしたいのか?」「もし自立が難しくなったらどういうサポートを望んでいるのか?」など将来的な希望が議題になるでしょうし、親が急に倒れて介護が必要となった時には「具体的にどういう介護をしていくのか? 誰がメインで面倒を見るのか? 介護費用はどうするのか?」など、目の前のタスクや役割分担が議題となるでしょう。
「高齢になった父親はいつまで運転するつもりなのかが気になる。免許返納については考えているのか?」など、子ども自身が気がかりなことを議題にしてもいいですね。
話し合いたい議題を、ワークシートを使って明確にしたり、ノートにまとめておいたりすることで思考が整理されて前に進みやすくなります。
伯耆原
もし兄弟姉妹がいる場合は、事前に議題を共有しておくと意見やアイデアをもらえたりして力になってくれそうですね。そもそも、この手の話題に乗ってくれる兄弟姉妹ならいいのですが(笑)。
そうですね。「こういうことを話したいんだけど」と事前に相談しておけば、協力体制ができて、親との話し合いもスムーズになると思います。ただ、おっしゃる通り、家族と言えどもそれぞれ性格や考え方が異なるので、相手がどんな反応を示すのか、イマジネーションを働かせておくことが大切です。
「きっとお兄ちゃんだったらこう言うだろうな」「きっと妹ならこういう反応をするだろうな」と想像しておくと、マイナスの反応をされた時にも慌てないで済みます。これは親に対してもそうです。
人生会議で話し合うべき内容というのは、親の老後の暮らしから介護のサポート方法、終末期医療、葬儀の希望、遺産相続のことなど多岐に渡りますし、親の状態によって都度変わりますので、会議が1回で終わることはまずないでしょう。
長期戦になることを心しておくと同時に、毎回話し合いの前に「相手からどういう答えが返ってきそうか」、シミュレーションおくと冷静に対処できるはずです。
とはいえ、ある程度想定はしておいても、「どうせ話してもケンカになるだけ」と最初からあきらめないでほしいです。実際に話をしてみたら、「意外にこの先のことを考えてくれていたんだ!」という新たな発見があるかもしれないからです。マイナスの固定観念で固めず、プラスのイメージも併せて持っておきましょう。
伯耆原
プラスもマイナスも含めて想像力を働かせておくことが、会議の成功のコツかもしれませんね。では、いよいよ人生会議をしようと思った時、親への効果的な会議の持ちかけ方はありますか?
たとえば、親が急に倒れて介護が必要になっている時は、家族皆「話し合ったほうがいいよね」という空気感になっているので、その延長で会議を設定すればいいのですが、一番話を持ちかけづらいのは親が高齢になっているものの、まだ自立して生活ができている状態ではないでしょうか。
その場合はいきなり「人生会議やろう」というよりは、第1回の記事でもお伝えしたようにまずは親と連絡をとってみる、実家に帰ってみるなどして段階を踏みながら接する機会を増やしていくのがおすすめです。
その際に親に直接老後や終末期のことを聞きづらかったら、「最近、年のせいか体にガタが来ていて。老後のことを真剣に考えるようになったんだよね」と自分の身の上話から始めて、「お母さんも何か考えてることあるの?」と聞いてみるのも良いかと思います。
ここ数年ブームになっている「エンディングノート」を自分で書いて、親に見せるというのも効果的です。「今回コロナのこともあったし、自分もいつどうなるかわからないと思って、エンディングノートを書いてみたんだ。もしもの時の延命措置とか、お葬式の希望とか色々書いてみたけど、なんだか気持ち的にスッキリしたよ」と親に見せれば、「へ~そんなにいいものなの?」と興味を持ってくれるかもしれません。
伯耆原
親がエンディングノートを書いてくれたら、もはやあらたまって話し合いの場を持たなくても済むのかもと思いました。
ただ、エンディングノートの項目って細かいですし、高齢の親が一から書き上げるのは難しい部分もあるのかなと。やはり口頭で話し合う必要性は出てきそうですね。
実際に家族で話し合う場面になった時、気を付けたほうがいいことはありますか?
もし家族会議としてしっかりとした場を持つのであれば、話し合う議題をまとめた「アジェンダ」を作ることをおすすめしたいです。
「家族なのにかしこまっちゃって」と思われるかもしれませんが、家族会議も立派な会議の一つです。家族ゆえに甘えが生じて話がうやむやになってしまったり、いつの間にか話題がそれてしまったりするので、話し合うべき議題を押さえておくといいでしょう。
また、第1回目の記事でもお伝えしましたが、最初に話し合いの最終ゴールを家族間で握り合うことが大事です。最終ゴールとは「主人公である親自身がどんな風に人生を終えたいのか?」を見出すこと。まず、「親自身がどういう最期を迎えられたら幸せか?」というイメージを家族間で共有してみてください。そこがすり合わさっていれば、会議の方向性がブレても、様々な問題にぶち当たっても中心軸に立ち返ることができます。
伯耆原
確かにゴールを見失うと、何のための話し合いかわからなくなってしまいますもんね。
話し合う時のスタンスはいかがでしょうか? 家族に対してはどうしても思い入れが強くなって、自分の言い分ばかりになってしまいそうです。
だからこそ、こちらの言い分を一方的に伝えるのではなく、相手の想いをしっかりと聴く。そして論破しようとするのではなく、「対話」を意識していただきたいです。
どうしても「討論」になってしまうと、自分の考えを相手に理解してもらうために、時に意見がぶつかり合うこともあります。すると、声の大きな、発言力のある人が有利になってしまうこともあるんですね。
一方、「対話」は、お互いの事情や立場にも目を向けながら、「なぜ考え方が違うのか?」、意見を重ねていきます。そうすることによって、自分や相手の考え方も変化(進化)し、想像を超えた新しいアイデアが生まれることもあります。
何より、話し合いの雰囲気が良くなって、いい解決策が浮かびやすくなります。
伯耆原
なるほど。意見を闘わすのではなく、わかり合おうとする姿勢が大事なんですね。
たとえば、「お父さんはどう思う? なんでそう思ったの? 詳しく聴かせてくれない」と掘り下げてみるとか。「お兄ちゃんはさっきのお父さんの考えについてどう思った?」などと質問を重ねていくと会話が深まる気がします。
私自身、仕事で度々座談会のインタビューを行いますが、インタビュアーのつもりになって客観的な姿勢で臨めば、これまで気づかなかった相手の想いや新たな一面を発見できるかもしれないと思いました。
それはいいと思います。一歩引いた目線で、家族一人ひとりのことを見られますからね。家族と話し合うとなると抵抗を感じる人も多いかもしれませんが、まずは相手の意見を否定せず、共感しながら聴くということを意識してみてください。
ちょっと想像してみてほしいのですが……たとえば、こういうお父さんがいたとしましょう。
高卒で学歴コンプレックスを人知れず抱えてきた一人の男性が、昭和の時代を懸命に駆け抜け、子ども2人と奥さんを養ってきた。
生産性を上げることでしか自分の価値を証明できなかった昭和の男が、定年して職を失い、収入は年金だけになった。新たな仕事に就くこともできず、貯蓄はどんどん減っていき、行き場がなくて毎日家でぼーっとテレビを見ている……。
いかがでしょうか。
これはあくまで1つの例ですが、老いた親世代が持つ「喪失の悲しさ」です。
なのに、娘や息子から「感染が怖いから外に出ないで!」「危ないから運転しないで!」と一方的に言われたら、「外ぐらい散歩させてくれ! 運転ぐらいさせてくれ! 俺から何もかも奪わないでくれ」と反抗したくなりませんか?
そうした喪失感にさいなまれているお父さんの心の声に耳を傾け、どうすればいいか皆でアイデアを練っていくのか? それとも一切共感せずに、「危ないからダメ!」と頭ごなしに言ってしまうのか? 後者のスタンスでは傷つけることは明らかではないでしょうか。
伯耆原
老いた親の立場に立って、リアルに想像してみると、なんだか泣けてきますね。でも、その喪失感はいずれ自分が老いた時に感じるものかもしれない。そう思うと親に共感したくなるし、そんな親の心の叫びに耳を傾けることが必要だと感じます。
家族の誰もがそれぞれの正義があって、想いがあるわけです。両親も兄弟姉妹も、義理の姉も、親戚の叔父さんも、皆自分のわかってほしい何かを抱えています。
「お金ないから介護費用は出せない」「遠方にいて親の世話ができない」「子育てで忙しくて無理」など、それぞれの事情があって、「できればこれはしたくない」「こういう負担は避けたい」と思いながら、会議に臨みます。だからこそ、そうした想いも理解しつつ、皆が安心して話し合いができる場にしていく必要があります。
伯耆原
いかに共感することが大事か、先生のお話でよくわかりました。こうして家族と話し合いの場が持てればいいのですが、そもそも会議を持ちかけてもスルッと逃げられてしまうケースもあるなと。
特に兄弟姉妹は、親に対する想いも感覚もそれぞれ違うので、反応が薄い場合もあると思うんです。「俺(私)は親と話すの苦手だし、任せるよ」と拒否されたらどうしましょう?
話し合いの場から逃げてしまう人というのは、「本音を言うのが怖い」「自分の想いをうまく伝える自信がない」と思っているケースが多いんですね。
自分の意見を表明して、万が一言い争いになったり、負担を強いられたり、不利な立場に追いやられたりすることを極度に恐れているのです。なので、そういう面倒な話し合いの場とは距離を置いて、マイペースに好きなことだけをやっていきたいんですね。
その場合は、逃げたくなる相手の気持ちに共感して、その人の不安や恐れをなるべく取り除く対策を取るといいです。
「お兄ちゃん、会議には出なくていいから、話し合った内容をLINEで共有するよ。その内容を見て何か意見があったら返信して」と伝えるとか。
何か家族内で決めなければいけないことがあったとしたら、「AとBの選択で迷ってるんだけど、どちらがいいと思う?」と選択肢だけを示すとか。そうすれば、相手も答えやすくなるでしょう。
伯耆原
うわぁ、そこまで寄り添ったほうがいいですか(笑)。でも、相手は気が楽になって逆に意見を言ってくれるかもしれませんね。
そうなんです。相手の不安や恐れを軽減できるような、「一番心地いいサポート」をしてあげれば、抵抗感が減って心を開いてくれる可能性は大です。
それでも一切のコミュニケーションを拒絶されたら、白紙委任をもらったと思って、「議事録だけ送るから、いつでも参加したかったら連絡して」と伝えるのもよいかと。
「どうせ連絡しても返事来ないし」と最初からのけ者にするのは、相手をリスペクトするというアドラーの教えからほど遠くなります。曲がりなりにも家族ですから、一報は入れるべきでしょう。
伯耆原
そうですね。相手に対してどんな感情を抱いていようと家族の一員ですから、はなからあきらめずにコンタクトは取ったほうがいいですね。
先ほど先生は「会議に参加しない家族には議事録を送る」とお話されていましたが、やっぱり家族会議でも議事録って必要でしょうか?
仕事のように事細かに書く必要はないのですが、ある程度、誰からどんな意見が出たのかを記録しておくといいでしょう。
そうした議事録がないと後で「言った・言わない」になりますからね。家族と話す際には主観が入りやすいので自分の都合のいい記憶しか残っていないことが多いものです。そのため、議事録をまとめて会議後にグループLINEなどで共有しておけば、「前の話、どうなってたっけ?」とならずに済みます。
その議事録をもとに次回話し合うアジェンダを作れたらベストですね。
伯耆原
すごい。アジェンダに議事録……家族の人生会議ってある意味「一大プロジェクト」ですね。
でも、家族も一つのチームと考えると、「親が幸せな最期を迎えられるようにする」というゴールに向かって、お互いが意見を重ねて、助け合うことが大切になってくるんでしょうね。
これができたら、あらゆる人間関係の難題を乗り越えられる気がします。
ただ一方で、話がうまくまとまらず、家族間で衝突してしまうケースも多いのではないかと。次回は話し合いがこじれた場合の対処法についてお伺いしたいです。熊野先生、次回もよろしくお願いします!
********
<まとめ>
<そろそろ人生会議を始めたい時に読んでおきたい書籍>
著者:熊野英一
出版社:海竜社
発売日:2020年7月8日
撮影:佐々木睦
日経ホーム出版社(現・日経BP社)にて編集記者を経験した後、2001年に独立。企業のトップから学者、職人、芸能人まで1500人以上に人生ストーリーをインタビュー。働く人の悩みに寄り添いたいと産業カウンセラーやコーチングの資格も取得。12年に渡る、両親の遠距離介護・看取りの経験もある。介護を終え、夫とふたりで、東京・熱海の2拠点ライフを実践中。自分らしい【生き方】と【死に方】を探求して発信。
伯耆原良子さんの記事をもっとみるtayoriniをフォローして
最新情報を受け取る