【イラスト解説】家族信託とは?親が元気なうちに考えたい認知症対策

認知症にまつわる家族の「マネー事件簿」と、その対策を紹介する連載第2回。

親が認知症になり、管理していた財産が処分できなくなるケースを聞いたことはないでしょうか? そのような事態に陥らないよう、健在なうちに話し合い、検討しておきたいことがあるんです。真奈美さんの相談ケースを見てみましょう。

両親ともにまだ元気だけど、もしも認知症になったら…?

都内に戸建ての実家がある真奈美さん(45歳)には、結婚して専業主婦の妹(43歳)と、自称「作家」の弟(38歳)がいます。収入が不安定な弟は未だ実家住まいです。

今は両親ともに元気ですが、親が体調を崩した、あるいは認知症になった時のことが気がかりです。親の医療費や介護費用は、実家を売却したお金を充てようと思っていましたが、ママ友の美恵子さんから、「認知症の母を施設に入居させようと実家を売却するのに、思わぬ出費がかかった」という話を聞きました。

美恵子さんから「事前に対策をしておけば、思わぬ出費を防げた」と聞いたので、司法書士の元木さんに相談してみることにしました。

真奈美さん
真奈美さん

親が体調を崩したり、認知症になった時のことが漠然と心配で、そのことを考えると憂鬱です。美恵子さんから話を聞いて、『長女の私がリサーチを始めないと!』と感じ、相談にきました。

元木翼(もときつばさ)
元木さん

そういうご相談は最近とても多いです。ご両親がまだお元気なうちに認知症対策について情報を得ておくことはとても大事です。情報は力ですからね。

今から準備したい「家族信託」……って、何ですか?

真奈美さん
真奈美さん

そうなんですね。「将来の親の介護が心配」と漠然と心配なのは、私だけではないんですね。何だか少しホッとしました。でも、実際に今から何か対策を立てることはできるんですか?

元木翼(もときつばさ)
元木さん

私がおすすめしているのは、「家族信託」という制度です。家族信託は、元気なうちに家族に財産の管理を託し、託した財産を誰が引き継ぐのかを決めておく制度です。

「家族」を「信」じて「託」す。だから家族信託と言います。

真奈美さん
真奈美さん

家族信託⁉ 今日、初めて名前を聞きました。何だか難しそうですね……

元木翼(もときつばさ)
元木さん

そうですよね……けれども、家族信託で行っていることは決して難しいことではありません。高齢の親に代わって子供が代わりに財産の管理を行うことは昔から行われてきましたよね。例えば、子供が親の通帳の管理を行ったり。
ただ、今の世の中は、本人確認などコンプライアンスがとても厳しくなっています。いくら子供であっても、ただそれだけで「親の代理」をすることが、とても難しい時代となっています。
ですから、家族信託を利用して、親が元気なうちに、法的にしっかり子供に財産の管理権限を移しておく必要があるのです。

親子は2人、家族信託に登場する人物は、3人……?

真奈美さん
真奈美さん

そうなんですか。何だか難しそうですが、私でも大丈夫でしょうか?

元木翼(もときつばさ)
元木さん

大丈夫です。まずは、下記の図をご覧下さい。家族信託の登場人物は、基本的には親子二人ですが、役割としては「委託者」「受託者」「受益者」の3つあります。

元木翼(もときつばさ)
元木さん

役割の一人目は、委託者(財産を預ける人)で、上記の場合は親御さんです。二人目の登場人物は、受託者(財産を預かる人)で、お子さん、親と子が信託契約を結びます。 
この時に知って頂きたいポイントとしては、「どの財産の管理を、子供に任せるか?」を、自由に決められるということです。例えば、施設入居費用や介護費用だけを家族信託して子供に管理を託しておき、残りは今までどおり自分で管理することができます。こうすれば親御さんの心理的な抵抗感は少なくなりますよね。
二つ目のポイントは、家族信託は、子供にお金を「あげた」のではなく、「管理権限」だけが子供に移行するという点です。

「権利」を「権」と「利」に分けるって?

真奈美さん
真奈美さん

『管理権限』だけが、子供に移行する・・んですか? どういう意味なんでしょうか?

元木翼(もときつばさ)
元木さん

ここの部分、本当に難しいですよね。財産を持っているということは、いわば「権利」を持っているということです。。その権利が、信託により二つに分かれるイメージです。「権」(名義)を持つ人が子供で、「利」(利益)を持つ人が親御さんです。
 ここで3人目の登場人物である受益者(利益を受ける人)の話が出てきます。利益を受ける人は、家族信託では通常財産を預ける人と同じ人ですから、親御さんになります。

真奈美さん
真奈美さん

なるほど。権利を、『権』と『利』にわけて考えると、家族信託という制度の仕組みが理解しやすいですね。

元木翼(もときつばさ)
元木さん

信託で管理権限は子供に移行していますから、通帳管理や事務手続きは子供に任せることができます。例えば、将来的にご両親が老人ホームに入居する際に、入居費用を工面するためご自宅を売却する場合。名義人である親御さんが認知症を発症していると売却が難しくなります。
けれども、家族信託を利用することにより、ご自宅の、管理権限はお子さんに移っていますので、売却はお子さんの方で行うことができます。一方で、売却代金は、親御さんのものですから、入居費用のお支払いは売却代金から支払うことができます。

いざ、家族信託。手続きの流れは?

真奈美さん
真奈美さん

いざという時に慌てないよう、親子(家族)で話し合いをしておく・・。それが大切なのは、わかります。でも、親や弟妹と話し合うキッカケがなかなか持てなくて・・。

元木翼(もときつばさ)
元木さん

なかなか、話し合うこともないですよね。「家族信託」を検討することが、家族間の話し合いのキッカケとなることがよくあります。また、我々のような専門家が話し合いに同席することで、話がスムーズに進むケースが多いです。家族信託を行うかどうかはさておき、家族で一度話し合いをしておくことは、とても大事ことですよ。

専門家もまじえた手続きの流れ

1)    ご面談・ヒヤリング
2)    家族会議(推奨)
3)    業務委託契約(専門家と依頼者との契約)
4)    家族信託契約締結(依頼者・家族)
5)    家族信託開始(信託登記、信託口口座開設など)

真奈美さん
真奈美さん

なるほど。そういう考え方もあるんですね。家族で検討してみます。

元木翼(もときつばさ)
元木さん

そうですね。お話し合いをする前に、「認知症になったら何ができなくなるのか」についての知識があった方が良いかもしれません。それは、次回、お話ししますね。

監修
元木翼(もときつばさ)
元木翼(もときつばさ) チェスナット司法書士法人・行政書士事務所代表。家族信託、後見、相続、遺言などが専門。家族信託の相談実績は累計500件を超える。
豊富な経験・事例を基に、「オーダーメイド」の終活・相続対策サービスを展開している。

イラスト/なとみみわ

楢戸ひかる
楢戸ひかる ライター

ウェブサイト「主婦er」運営。夫は長男、私は長女。「親の介護」が集中する(であろう)家庭の主婦です。双方の両親は、お陰様で「まだ」元気。仕事をしながら息子3人を育てている今、「介護」は脅威でしかありません(笑)。そんな私が、「知りたいこと」を記事にしていきます。

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