【ドクターごとう】訪問歯科診療チョー入門⑨|多職種による食支援

多種職による支援

みなさん、根本的なお話です。「歯科としての本分」って何でしょうか。

もちろん、審美歯科など派生的なものもありますが、歯科の目標は「口腔(お口の)環境を整え、口腔機能を維持向上させること」です。

歯科の目的は「食支援」

皆さんが歯科を受診するときはどんな理由でしょうか。歯が痛いから?しみるから?それとも歯が抜けたから?

それらは口腔環境が悪くなってしまったということです。

ですからそれらの問題が原因で食べることが難しかった方は、その問題が解決すれば快適に食べられるようになります。そうです、歯科の仕事というのはそもそも食支援なのです。

さて、今でこそ訪問する歯科診療所が増えてきましたが、地域の医科診療所に比較するとその割合はとても少ないです。まさに希少価値と言えるかもしれません。

訪問する医者

その根底にあるのは文化です。医科には古くから往診の文化があります。看取りが自宅で行われるのが普通だった時代、多くの地域のお医者さんたちは訪問しながら最期を看取っていました。

そんなことよりもまず、皆さんも往診をするお医者さんの姿は想像できるでしょう。一方、歯科はというと、多くの器材や消毒がネックになりなかなか持ち出すことができません。

訪問する医者

また、往診するお医者さんの多くは内科系なのですが、歯科は外科系なのです。麻酔をして歯を削ったり、歯を抜いたり。

このようなことも歯科が訪問することを妨げています。ただ、器材の小型軽量化なども進み訪問が可能になったのです。

私自身もそうですが、実際に訪問してみると歯を治すだけでは食べられない方は多くいます。いわゆる摂食嚥下障害であったり認知症であったり、栄養状態が悪い方など。

そもそも食支援までが歯科の目的だったのですが、歯科だけではできない食支援もたくさんあったのです。これが多職種による食支援です。

食支援とは多職種・行政・市民参加で取り組む課題

ところで食支援の定義とは何でしょうか。

以前調べてみたのですが、驚いたことに食支援を定義しているものはどこにもありませんでした。

それぞれの職種、それぞれの地域で自分なりの活動をして食支援と呼んでいるだけでした。そこで私も活動する新宿食支援研究会では食支援の定義を次のように定めました。

  • 本人、家族の口から食べたいと言う希望がある、もしくは身体的に栄養ケアの必要がある人に対して
    ①適切な栄養摂取
    ②経口摂取の維持
    ③食を楽しむこと
    を目的としてリスクマネジメントの視点を持ち、適切な支援を行っていくこと。

では、実際に栄養ケアの必要がある人はどれくらいいると思いますか?

「国民健康・栄養調査」(厚生労働省、令和元年)によると、65歳以上で16.8%、85歳以上では約2割が低栄養傾向と示されています。

また、平成26年の調査では摂食嚥下障害の要介護高齢者の割合は18%で、そのうち40%は在宅高齢者だと報告されています。

例えば、私の活動する東京都新宿区の高齢者数は6.7万人。上記の数字から考えると食支援が必要な高齢者は1万人以上にも及びます。

これらの方のケアは歯科だけでは到底できません。食支援とは多職種、行政、さらに一般市民参加で取り組む課題なのです。

多種職による支援

私は新宿区で新宿食支援研究会を立ち上げました。現在25職種145名の大所帯です。この会のトップが歯科医師とはどうしてかと聞かれることもありますが、歯科は間違いなく食支援職種です。

その歯科医師がトップになっていることは何ら不思議なことではありません。歯科の目的は本来食支援なのですから。

おわりに

歯科の目標は「口腔(お口の)環境を整え、口腔機能を維持向上させること」であり、それは食支援そのものといえます。

しかし、地域での食支援は歯科だけでできるものではなく、多職種で取り組まなくてはなりません。その中で歯科は中心となって活躍しています。

訪問歯科診療でできる事できないこと

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この記事の制作者

五島 朋幸

著者:五島 朋幸(日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授、新宿食支援研究会代表)

1991年日本歯科大学歯学部卒。1997年訪問歯科診療に取り組み始める。2003年ふれあい歯科ごとう代表。ラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」(全国15局で放送)「ドクターごとうの食べるlabo~たべらぼ~」(FM調布)パーソナリティー。著書に「訪問歯科ドクターごとう1: 歯医者が家にやって来る!?」、「口腔ケア○と×」、「愛は自転車に乗って 歯医者とスルメと情熱と」などがある。

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