【はじめての方へ】誤嚥(ごえん)を予防|自宅でできる嚥下リハビリ

加齢とともに「むせることが多くなった」「食が細くなってきたな」「飲み込みが負担だ」と感じている方も多いのではないでしょうか。

また、食事中の親の様子が以前とは違うと心配するご家族もいらっしゃるでしょう。

今回は、高齢者の嚥下障害と、その改善方法について紹介していきたいと思います。ぜひ参考にしてみてください。

“食べる”のメカニズム|意外と複雑な咀嚼と飲み込み

食べ物を口に入れてから飲み込むまでには、「のどの筋肉」や「唾液の量」「歯の状態」などさまざまな要素が連動しています。では、食べ物が飲み込みにくくなるのは、どのような原因が考えられるのでしょうか。

唾液量が減り飲み込みにくくなる

老化に伴って唾液の量が少なくなると、食べ物をしっかりと噛むことができたとしても、食べ物を滑らかに飲み込むことや消化することが困難になります。唾液と食べ物が混ざり合った“食塊(しょっかい)”が上手く作られて初めて、するりと喉を通るのです。

歯の状態が不安定だと飲み込みにも影響する

入れ歯が合わなかったり、部分的に歯が欠落しているとうまく食べ物を噛み砕くことができません。特に硬いものを小さく噛み砕くには負担が大きくなるでしょう。また、良く噛まないと、飲み込む力も通常より大きな力が必要になってしまいます。

全体的な筋肉・飲み込みに必要な筋力の低下

喉仏に手を添えてゴクンと飲み込んでみると、飲み込む際に喉仏が上がっていることがわかります。加齢による筋力低下でこの飲み込む力が衰えると、喉の途中に食べ物が溜まってしまったり、上手く流れなくなるのです。

また、気管(空気が通る道)に食べ物が入ってしまうと、「誤嚥(ごえん)」となり、誤嚥性肺炎を引き起こす原因にもなるのです。

誤嚥性肺炎について詳しくみる

症状からわかる嚥下障害

一言で嚥下障害といっても、実はさまざまな症状があります。早めに気付くことで、重篤な状態を防ぐことができるかもしれません。

では早速、嚥下障害の症状やリスクについて見ていきましょう。

嚥下障害とは

嚥下障害とは、飲み込んだ食べ物や水分が、食道ではなく気管へと入り込んでしまう状態をいいます。

食べ物や雑菌が気管から肺に入り込んでしまうと、嚥下障害による誤嚥性肺炎を引き起こしてしまいます。

肺炎と聞くと、簡単に治りそうなイメージがあるかもしれませんが、症状の長期化や何度も繰り返すこともあり重篤な状態になる場合もあります。

嚥下障害の症状は?自覚症状をチェック!

嚥下障害の症状やそれに伴う誤嚥性肺炎の症状は以下の通りです。自覚症状があったり、自分の家族に当てはまったりするケースがあるかもしれません。ぜひチェックしてみましょう!

食事中やお茶の時間にむせることが多くなった

味噌汁やお茶、唾液などの水分でのむせが顕著です。

飲み込んだあとも口の中に食べ物が多く残っている、のどに食べ物が残っているような感覚がある

十分に飲み込めていない状態です。

飲み込んだ後にしゃべると、ガラガラ声になる

十分に飲み込めていない状態です。

体重の減少が目立つ

他の病気の可能性もありますが、栄養が十分に摂れていない疑いも。

発熱や微熱を繰り返す

嚥下障害だけでなく、誤嚥性肺炎を起こしているかもしれません。

睡眠中も、むせたり咳込んだりする

横になっているときも唾液が気管に入り込んだり、のどに残っていた小さな食べ物が知らない間に気管に入り込んでいたりすると起こりやすい

上記から2つ以上当てはまる項目があった、または家族が似たような症状を抱えているという方は、一度受診することをおすすめします。嚥下障害の有無にかかわらず、他の病気が隠れている可能性も考えられるからです。

高齢者の嚥下障害について詳しくみる

自宅で簡単にできる5つの誤嚥予防法

ここからは、ご家庭で簡単にできる訓練を見ていきましょう。

①顔や首、口周辺のマッサージ
時間のある時やお風呂に入って筋肉が柔らかくなっている時などに、指や手の甲でやさしくマッサージすることで、筋肉の緊張を和らげます。何よりも自分が気持ちいいのが魅力的です。家族にやってもらっても良いでしょう。
②肩や首のストレッチ
両手を上げたり下げたり、首を傾ける、回すといったストレッチをすることで、飲み込みに必要な筋肉が鍛えられるほか、誤って食べ物が気管に入ってしまった際に、外に出す力をアップします。
③早口言葉や、4つの音を繰り返し言ってみる
お孫さんがいる方は、一緒に早口言葉を言ってみたり、口を大きく動かしながら『ぱたから・ぱたから・ぱたから』のように音を繰り返したりすることが、噛む時や飲み込みに必要な口の動き筋肉の動きをスムーズにする練習になります。
④口の体操
鏡を見ながら顔を大げさに動かしてみたり、変な顔をしてみたりすることで、自然と噛むときに必要な筋肉を鍛えられます。
⑤歌を歌う
日常的に歌を歌っている方は、それだけで誤嚥予防になっています!歌うことで腹筋が鍛えられ、食べ物が気管に入り込んだ時に外に出す力が高まります。
慣れ親しんだ曲や家族との思い出の曲、子供の頃に歌った懐かしの曲など、思い出して歌ったり、歌詞を読んだりすることも、嚥下訓練になり、それ以外の介護予防の役割も果たします。

以上、ご家庭で簡単にできる誤嚥予防法を紹介しました。

これらの運動は、“頑張りすぎない”ことが大切です。頑張りすぎて疲れてしまったり、体のバランスが乱れてしまっては、嚥下訓練も十分な効果を発揮できません。

“継続は力なり”とはよく言ったもので、頑張り過ぎず、毎日継続することで、嚥下機能のアップや誤嚥の予防、そのほか介護予防効果を発揮します。無理せず、楽しみながら、毎日の生活に組み込みましょう。

【動画でわかる】口腔嚥下体操

ふくくる体操レク動画/みなさんご一緒に!口腔嚥下体操①

ふくくる体操レク動画/みなさんご一緒に!口腔嚥下体操②

※動画協力「ふくくる」~介護現場ですぐに活用できるお役立ち動画配信サービス~
https://www.fuku-kuru.tv/taiso

食べる前に!5分でできる誤嚥予防

先ほど、ご家庭でできる嚥下訓練をご紹介しました。

それらを組み込んだ、食事前に行う「ショートバージョン」と「ロングバージョン」の2通りの簡単嚥下体操をご紹介します。

唾液の分泌量や飲み込み力をアップさせる効果があるため、ぜひ食べる前に実施し、より安全においしく食事を楽しみましょう。ご自身で好きなを組み合わせてアレンジしても楽しく取り組むことが出来ます。

ショートバージョン

①顎下腺マッサージ
あごと首の境目の柔らかい部分を、指で押してマッサージしましょう。5か所ほど行うことで、顎下腺を刺激して、唾液の分泌量をアップさせます。3回繰り返しましょう。特に唾液が出にくいという方は、耳の前を押してからマッサージをスタートさせると効果的です。
②咳をする
口を閉じた状態で3回咳をする、口を開けた状態で3回咳をするという方法です。喉に残った食べ物を外に出して、食道をクリアにする練習です。
③大笑いする
大きな口を開けて、「わははは」と大きな声で3回笑いましょう。口を動かすだけでなく、笑うことで腹筋が鍛えられ誤嚥を防ぎます。

ロングバージョン

①口とあごの運動
⑴「あー」と発声しながら、大きく口を開く
⑵「うー」と発声しながら、唇を前に突き出す
⑶「いー」と発声しながら、口角を横に引く
⑷再度、「うー」と発声しながら、唇を前に突き出す

これを4回繰り返します。
②頬の運動
⑴頬を膨らませたり、へこませたりするのを4回連続で行う
⑵頬を右・左と交互に膨らませるのを2回連続で行う
③舌の運動
⑴舌を上・下と交互に2回動かす
⑵舌を右・左と交互に2回動かす

下唇や上唇、左右の口角に舌をつけるイメージで行いましょう
④発声練習
⑴「ぱぱぱぱ」「たたたた」「かかかか」「らららら」の発生を2セット行う
⑵「ぱたぱたぱたぱた」「からからからから」と組み合わせた発声を2セット行う
⑤大笑いする
大きな口を開けて、「わははは」と大きな声で3回笑いましょう!

医療機関ではどんな嚥下リハビリが行われている?

医療機関などで行う嚥下障害のリハビリには、基本的に理学療法士、作業療法士、言語聴覚士といったリハビリ専門職が関わります。

姿勢や食べる動作に問題があれば理学療法士や作業療法士が。食べ物を噛む・飲み込むといったところに問題がある場合は、言語聴覚士が関わります。

では一体どんなことをするのでしょうか。具体的に見ていきましょう。

嚥下障害のリハビリ ─食べ物を用いない方法─

顔や首、くちびる周辺のマッサージ
口周りや食べ物を噛むときに使う筋肉(咀嚼筋)、首などがガチガチに固まってしまっていると、飲み込むときに通常以上の力を要します。緊張をほぐしてあげることで、飲み込みをスムーズにできるように促します。
喉のアイスマッサージ
アイス棒と呼ばれる、先端が冷たく凍ったマッサージ棒を使って、喉に刺激を与えることで、思わずゴクッと飲み込んでしまう嚥下反射を引き起こします。スムーズにゴクリと飲み込むことができない方に対して、飲み込み方を指導します。
舌や唇、頬の運動
舌や唇はもちろん、頬も噛む・飲み込むためにはとても大事な部分です。そこの筋肉がうまく動かせなっている方に対して、スムーズに動かす訓練を行います。にらめっこをしたり、面白い表情を真似たりして、楽しく行うことができます。
早口言葉
早口言葉や、意味のない言葉を繰り返し発声する練習を行うことで、口の中の動きをスムーズにすることができます。いつも使っていない筋肉の機能アップにもつながります。
シャキア・エクササイズ
横になって頭のみを少しだけ上げた状態を維持するエクササイズです。飲み込みに必要な筋力のアップを図ることができます。
プッシング法
胸の前で手を合わせて、「えい!」「やー!」と大きな声を出します。食べ物が喉に残っている時や痰がなかなか自力で出せない時に、自分で排出しやすくする力をつける目的で行います。ただ、血圧が上昇することがあるため、血圧の高い方は行わないのがルールな訓練です。自己判断で行うことは避けましょう。

嚥下障害のリハビリ ─食べ物を用いた方法─

食形態の判定
その人によって、むせやすいものや逆に飲み込みやすいものは変わってきます。どの姿勢で・どんな形状の食べ物が飲み込みやすいかを、検査や実食を通して判断します。場合によっては、トロトロのお粥にさらにとろみをつけたり、水分にもとろみをつけたりすることで誤嚥を防ぎます。飲み込みの検査は、訪問歯科の歯医者でも行っていますので、医療機関に相談してみましょう。
交互嚥下
ご飯やおかずを食べた後にとろみのある水分やゼリーなど、喉越しの良いものを食べて、喉に残った食べ物をするりと食道へ流し込む目的で行います。これを行うことで、喉に食べ物が残らないように、喉に残った食べ物をしらない間に誤嚥することを防ぎます。

誤嚥予防は毎日の積み重ねが大切

いかかでしょうか?今回は、食べるメカニズムから、リハビリテーション、家でできる嚥下訓練までをご紹介しました。

毎日の嚥下訓練の積み重ねで、食べる機能を維持することができます。年を重ねても、いつまでも笑顔でいられるように、ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

イラスト:安里 南美

この記事の制作者

oto

著者:oto(言語聴覚士(ST))

言語聴覚士、精神保健福祉士
2012年から医療機関で言語聴覚士(ST)として勤務中。
業務の傍ら執筆活動も行う。

森 裕司

監修者:森 裕司(介護支援専門員、社会福祉士、精神保健福祉士、障がい支援専門員)

株式会社HOPE 代表取締役 
医療ソーシャルワーカーとして10年以上経験した後、介護支援専門員(ケアマネジャー)に転身。介護の相談援助をする傍ら、医療機関でのソーシャルワーカーの教育、医療・介護関連の執筆・監修者としても活動。近年は新規事業やコンテンツ開発のミーティングパートナーとして、企業の医療・介護系アドバイザーとしても活動中。

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