今回は女性のがんである子宮頸がんのお話です。女性特有の臓器、子宮にできるがんで、特に子宮の下の方(頸部:下イラストの茶色部分)にできるがんのことを指します。
このがんは日本人女性のうち、毎年1万人が罹患し、約3000人の方が死亡する重要ながんの一つですが、がんの中ではそこまで突出して多いがんとは言えませんが対策のしやすいがんでもありますので一緒に見ていきます。
がんは基本的には高齢になってからなることの多い病気です。例えば、親が膵臓がんになっても、その子供の自分が膵臓がんであることを心配したりはしません。しかし、子宮頸がんの場合はその心配を少しはした方がよいでしょう。
このがんは遺伝をするわけではありませんが、高齢の方以上に若い方がなるがんです。もし、親が子宮頸がんと言われたら、ご自身も子宮頸がんの可能性も考えて、検診でがんがあるかどうかチェック(検診)しましょう。
子宮頸がんは進行の早いがんの一つで、前回の前立腺がんのように発見しても治療せずに経過観察をするということはありません。子宮頸がんになる一歩手前の段階(異形成)の場合は治療せずに治ることはありますが、がんになってしまったら進行する一方なので治療を行います。
ただ、子宮頸がんの場合、標準治療として手術と放射線治療があり、どちらもがんに対して有効のため患者さんはどちらかを選ぶ必要があります。しかし日本では(不適切なまでに)手術がされていたり、放射線治療をするにも不適切な病院の選択をしている場合が散見されますので、大まかに方針を確認しましょう。
治療法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
手術 | 妊娠の可能性を残せる場合がある。 治療を短期で終えられる可能性がある。 |
進行していると、手術だけでは治療が完了しない。 上記の場合、治療期間も長くなる。 |
放射線治療 |
どのステージ(病期)であれ、手術に劣らない成績で治療ができる。 |
治療期間が長い。 治療のできる施設が限られる。 |
手術のメリットは妊娠の可能性を残せる場合があることと、治療を短期で終えられる可能性があることです。
例えば極初期であれば円錐切除といって、がんとその近傍だけをくり抜いてくる手術だけで妊娠の可能性を残すことができます。また妊娠の可能性を残す必要がなければ子宮だけを摘出する単純子宮全摘術を行うことで治療を完遂できます。
ただし、少しでも進行すると、子宮頸がんは骨盤内にがんが広がりやすいため、子宮全体を摘出するだけでなく、卵巣やその周辺のリンパ節もごっそり摘出する必要があります。このあたりから手術のメリットは小さくなり、デメリットが大きくなります。
たとえば少しでも周辺に広がっている形跡が残っていれば(例えばリンパ節に腫瘍が転移していたら)追加で放射線治療を行う必要があります。手術+放射線治療をすることによってリンパの流れがかなり悪くなり、治ったとしても浮腫を抱えて生きていくことになります。治療期間も最初から放射線治療を選ぶよりも長くかかります(2ヶ月程度)。
治療成績も最初から放射線治療(+抗癌剤)をする方が概ね良いです。世界的なガイドライン(※)でも腫瘍が4cmを超えたあたりから放射線治療(+抗癌剤)を初回治療として望ましいとしています。それにも関わらず、日本ではうまく説明されておらず、手術を選択し、浮腫を抱えてしまう方が多い状況です。
放射線治療は子宮頸がんのどのステージ(病期)であれ、手術に劣らない成績で治療が可能です。また、がんの状態によってはⅠ期であっても放射線治療(+抗癌剤)のほうが治療成績も良い場合もあり、あらゆる場合にも放射線治療を選んでしまいたくなります。ただし、2つのデメリットも理解しておく必要があります。
1つ目は長い治療期間が必要なことです。約2ヶ月の通院治療期間を要するため患者さんに負担をかけます(ただ手術後に追加で放射線治療が必要な場合も同様の治療をするので結果的に手術を選択したほうが長い期間を必要とする場合もあります)。
2つ目は放射線治療ができる施設が限られることになります。子宮頸がんの治療は通常のリニアックによる外照射(台に5分程度横になって機械で外から放射線を当てる治療)に加えて、小線源治療(腔内照射)というものを加えてする必要があります。この小線源治療は特別な器具と装置が必要なため、これがない施設はできません。
腫瘍が更に大きくなりステージがⅢ期やⅣ期になると手術で取り切ることは不可能で、放射線治療(+抗癌剤)の独壇場になります。
ただし、腫瘍が大きすぎて通常の器具では十分な放射線量が当たらず、組織内照射という特別な技術が必要になります。以下の写真のような針を子宮周囲に浸潤した腫瘍に刺入して十分に、そして大事な臓器は守るようにして放射線をかけていきます。
こうした治療をすることでたとえ子宮頸がんが隣の膀胱を食い破ってしまっていたとしても、腫瘍を縮小・消滅させて膀胱が元の形に戻るというのを、よく目にします。
ただし、これらができる施設は更に少なくなり、そういった施設はかなり限られますので場合によっては(施設の予約状況によっては)適切な時期に治療を受けられない場合があるので、できるだけ早めに受診し、治療スケジュールを組む必要があります。
子宮頸がんは若い方の場合は検診などで早期に見つけられることが多いのですが高齢の方は検診も積極的にはいかず出血や痛みなどで病院に行き診断されることが多いため、進行して見つかっているケースが多いです。
進行すると特別な治療(組織内照射)が必要となりますが、可能な施設が少ないため地域や時期によってはよいタイミングで治療を受けられない場合があります。
腫瘍が大きくなればなるほど放射線治療が望ましいのですが、それでも産婦人科の先生の存在は大事です。皆さんや親御さんの子宮頸がんを最初に診断してくれるのも、その後の治療方針を最初に説明してくれるのも産婦人科の先生です。
この記事を読むと放射線治療が良いと思われるかもしれませんが、やはり初期の頃は手術の方が妥当なケースが多いので早合点をせずによく主治医の話を聞いてください。
もし少し進行していて手術と放射線治療が悩ましい場合は、むりやり放射線治療の選択を主張するのではなく「追加で放射線治療が必要になりそうなら・・・」や「手術して放射線をすると浮腫がひどいと聞いたのですが・・・」というようにご自身の懸念事項をお伝えする形にすると、放射線治療を選んだあとも良好な関係を続けていくことができると思います。
進行してからも放射線治療が有効だといえども、やはり早期で発見して治療することがベストです。大きくなった腫瘍自体の疼痛や出血で不快になったり、2ヶ月近く通院する必要があることと同時に使用する抗癌剤で下痢や気持ち悪さに悩まされることもあります。また、残念ながら癌が治らずに死に至るケースもあります。
この子宮頸がんは検診すれば見つけやすいがんの一つです。高齢者の方はもう年だからと言わずにご自身のためにも2年に1回は検診をうけてください。国が推奨する検診の1つですので、自治体からの補助を利用すると良いでしょう。
また進行期で長い治療を必要となると家族が通院への付き添いなどをしなければならないため、家族にかなり負担がかかります。是非、ご本人のためにもご家族のためにも検診を受けましょう。
子宮頸がんはウイルスが子宮頚部の細胞に感染することで発症します。近年になってそのウイルスを感染させないためのワクチンができました。性交渉によって感染するため、特に若いうちに打つのが一番予防効果が高く、小学生〜高校生1年生までは公費で(無料で)接種することが可能です。
日本では副反応の問題が取り沙汰されましたが、落ち着いて調査したところワクチンと問題となった副反応には何の関連性もないことが立証されました。また世界的な調査においても重大な副反応は認められず、むしろ麻痺などが減ったという報告で、いまでは胸を張って安全なワクチンであると言えるようになっています。是非お子さんに打ってあげましょう。
またこのウイルスは男性にも感染して喉のがんを発症させたり、パートナーに感染させたりするため男性にも有効です。私も接種しています。今の若い世代にこの子宮頸がんにかかって治療で苦しんだり、死亡してしまうことがないようにワクチンを打って欲しいと思います。
引用文献)
*1 A multi-institutional survey of the quality of life after treatment for uterine cervical cancer: a comparison between radical radiotherapy and surgery in Japan: J Radiat Res. 2021 Mar 10;62(2):269-284. doi: 10.1093/jrr/rraa107.
*2 NCCN Guidelines Version 1.2021 Cervical Cancer
*3 Systematic Review and Meta-analysis of Postlicensure Observational Studies on Human Papillomavirus Vaccination and Autoimmune and Other Rare Adverse Events Pediatr Infect Dis J. 2020 Apr;39(4):287-293.
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