連載も4回目となりました。
前回は実際の数字を見ながら、がんと診断されても早めに見つけるとその5年生存率は高いので、絶望したりせず、前向きに落ち着いて主治医と話をしてくださいというお話でした。
今回はもし、がんと診断された時にどうすれば良いかを3つの手順「味方を増やす・治療を決める・復帰する計画を立てる」で見ていきます。
がん治療の第一歩は味方を増やすことです。
簡単な治療で済む場合は良いですが、しっかりした治療を受ける場合はご本人やご家族だけで抱え込む事は精神衛生面上も得策ではありません。この時に確認して頂きたい事は「がん相談支援センター」です。
この「がん相談支援センター」は、全国の「がん診療連携拠点病院」や「小児がん拠点病院」「地域がん診療病院」に設置されている、がんに関する相談の窓口です。がんについて詳しい看護師や、生活全般の相談ができるソーシャルワーカーなどが、相談員として対応しています。
ここではがんに対しての相談をなんでも受け付けています。患者さんでも家族の方でも利用は無料です。保険や補助金の使い方などのお金の事、療養の事、社会復帰の事、がんに関わる一般的な事はここでおおよその情報を手に入れる事ができます。
相談員になるのは看護師さんやソーシャルワーカーさんなので診断や治療の中身の良し悪しなどの相談はできませんが、担当医以外からの意見を聞きたい場合などはセカンドオピニオンの手順を教えてもらえたりと、がん治療において良い相談相手になってくれます。
特にがん治療に向き合うのが初めての時は力強い味方になってくれますので、精神的な安定に繋がりますし、がんとの向き合い方が一段階レベルアップします。
実際に利用する時は、国立がん研究センターのこちらのサイトで、がん相談支援センターを探して電話で予約を取ると良いでしょう。
多くの方にとってはがん治療の目的は「がんと戦う事」ではなくて、「がんを克服して社会復帰する事」です。本人も周りも消耗しない事も大事ですので、是非味方を増やしてうまくがん治療に取り組みましょう。
次は「治療を決める」段階になります。この時に確認して頂きたい事は「標準治療」です。
前回でも少し触れましたが、1つのがんに対して、治療の選択肢が複数ある事が多いです。その中で科学的根拠に基づき、現在利用できる最良の治療のことを「標準治療」と言います。
まずは標準治療の方を軸に検討して頂いて、(先進医療や治療しない事も含めて)自分に合う治療を選んで頂ければと思います。
この標準治療については主治医に聞くのが1番手っ取り早いです。標準治療は「手術」「放射線治療」「薬」の3種類を組み合わせて行います。
初期の乳がんのように3種類全て使う事もありますし、初期の肺がん(非小細胞肺がん)のように手術のみ、放射線治療のみといった事もあります。
何故標準治療を確認するかというと、主治医の進めるままに治療をするとその主治医が得意な治療や、その施設でできる治療を勧められる事がしばしばあるからです。
1) 手術
2) 低線量率小線源治療/高線量率小線源治療
3) 外照射
前立腺癌の標準治療はこれだけ手段があります。さらに手術では開腹手術もあればロボット手術もあり、小線源治療や外照射ではspaceOARという高額な副作用軽減材料を使う方法もありますし、外照射では37回通院するものもあれば5回で終了のものもあります。
患者さんも詳しく治療法を聞いて選びたい方から、考えるのも面倒だから一切お任せの方が良い方までいらっしゃいますので、医師の方も後者と判断した場合はそれとなく説明を省略したりします。
この判断はやはり完璧ではありませんので、患者さんや家族の方から詳しく聞かせて欲しいと言う事も必要です。その場合、医師の方も喜んでお話すると思いますので気兼ねなく聞いてみてください。
具体的な聞き方としては「標準治療にはどんな治療があって、先生のお勧めは何ですか?」と聞くとスムーズにコミュニケーションができると思います。
治療法をご自身で調べてみたい方もいらっしゃるかと思います。その場合、一呼吸おいて正しい心構えを身につけてから調べてください。治療の必要があるのが高齢の親御さんの場合は、ご家族が冷静になって一緒に情報を調べてあげてもいいかもしれません。
書籍やインターネットで無闇に探すと情報の波に飲まれてしまい、お金と時間を無駄にする事がよく起こります。なんの裏付けもない治療法を、さも世界で認められた素晴らしい治療であるかのように宣伝するクリニックや、ただのサプリメントを「奇跡のサプリ」と称して高額で売りつけるサイトが後を経ちません。
医療情報を選別する前提の知識がない方には「正直な情報」か「嘘の情報」かの区別は難しいと思います。
そこで、私がお勧めするのは「最高のがん治療」という本です。
統計学の津川先生(公衆衛生)、がん治療の勝俣先生(内科医)、新薬開発の大須賀先生(外科医)というプロフェッショナルの3人の先生が、一般の方にどうにかしてわかりやすく伝えられないかと苦心して作られた著作です。私も読みましたがとてもわかりやすく、痒いところに手の届く情報の提供を行っています。
例えば、前述した「先進医療」は「海外や国内の基礎研究、臨床研究で効果がある程度認められているものの、国が承認して保険適用にするほど信頼性の高いデータが得られていない治療法」と紹介し、実際に効果が証明されて保険適用になったのはわずか「6%」と実際の統計データを紹介しながらわかりやすく説明しています。
多くの方にとっては「先進医療」とは「先端的で最も優れた医療」と取りがちなのですが、実際は「最も優れた医療になり得る可能性はあるものの、その可能性は現段階では低い医療」と、誤った認識を正しい方向に修正してくれる、いわば情報収集の道標となってくれます。
もし、親御さんがご自身で色々調べたいと仰った際には、こちらの本をおすすめしていただければと思います。
がんは大変な病気ではありますが、多くは克服できる病気でもあります。がんになったのがご本人であれ、親御さんであれ正しい見通しが大事です。
例えば早期胃癌であれば1週間の入院で治療は済みますし、前立腺癌の治療は今では5回の通院治療(定位放射線治療を選択した場合)で済みます。
それでも厚生労働省の資料(*1)ではがんの診断を受けて離職をした方が被雇用者で35%、自営業者で17%おり、そのうち4割が治療開始前から離職をしています。がんに対する(不治の病の)イメージが強く影響していると思われます。
治療を選んだら、あるいは選ぶ際にどう言った見通しになるか予め主治医に確認しておきましょう。
親御さんががんになった場合も同様です。どのくらい介護者として一緒に病院に来たり、介護したりする必要があるかを率直に主治医に聞いてみましょう。大変な治療になりそうだとなっても、この時に介護離職する事は一度踏みとどまって頂ければと思います。
がんが最も治りやすい方法を提示するのも大事ですが、一方で介護で家族が消耗しない治療を提示する事も大事だと私たち医療者は思っています。
最大限に親御さんのお世話をする事が善だとは思っていませんので、正直にどこまでできるか主治医に打ち明ける事が難しければ、前述の相談支援センターでも良いので相談して頂ければと思います。
検診などで初期の段階で見つけた場合はある程度治療計画が決まっています。(逆に言えば、進行してしまったがんは確かに制御が難しく、最初の治療を試し、次の治療を試しという手探りのような状態でなかなか先の計画が立てづらいのが正直なところです)。
例えば限局生前立腺癌で手術を選んだ場合は2週間程度の入院、放射線治療の場合は5回の通院で両者ともその後数ヶ月~1年毎の血液検査で5年〜10年を見ていき、最初の所見がなければ通院も終了という形になりますので、手術は(体力の回復も含めて)1ヶ月弱の休業をするだけで済みますし、放射線治療を選んだ場合はほとんど就労や介護には影響しません。このようなイメージは是非持って頂きたいと思います。
また、これは私たち医療者側が啓発をしていく必要があるものですが、職場からの理解も必要です。仕事を続けながらがんを克服できると患者さんが思っていても、職場から「がんだから働けない」と思い込みで解雇に至る場合もあります。
また、通院治療で必要な時短勤務などが難しく退職に追い込まれる場合もあります。職場の理解が進むように私たち医療者も努力をしていきますが、是非皆さんも同じ職場の方ががんである事が判明しても、がんの多くは克服し得るもので職を続けながらでも可能なのだという視野を持って同僚をうまくサポートして頂ければと思います。
1.味方を増やす(がん相談支援センターを利用する)
2.治療を決める(標準治療を確認する)
3.復帰する計画を立てる(安易に仕事を辞めない)
これら3つの手順を踏む事で前向きにがん治療に取り組んで頂ければ、がん治療で患者さんや家族の人生を消耗してしまう事は少なくなると思います。
(*1) がん患者・経験者の仕事と治療の両立支援の更なる推進について
「緩和ケア」と「がん治療」--生活の質だけでなく余命も伸ばす治療法
延命治療や死後のことを親と話すのは難しい。まずは「これからの未来」について話してみませんか?
九州大学医学部卒。放射線科専門医。国立がん研究センターを経て現在は東京大学病院で放射線治療を担当。無料動画で医療を学ぶ「YouTubeクリニック」では「10分の動画で10年寿命を伸ばす」を掛け声に30-40代の方やがん治療に臨む方へ向けた日常生活や治療で役立つ医療話を毎日配信中。
上松 正和さんの記事をもっとみるtayoriniをフォローして
最新情報を受け取る