第3回繰り返す転倒は病気のサイン!?高齢者に起こりやすい『頸髄症』と診断された義母…介護体験エッセイ:うちの義母は要介護5!

ふとした転倒、ちょっとした気になる言動……あれ? と思っている間に、気付けば親の介護は始まっているものです。編集・ライターの小林さんもそのひとり。「まさか…」と思っているうちに始まった義理のお母さんの介護を小林さんが振り返る、体験エッセイです。

今回のtayoriniなる人
小林保
小林保 (株)都恋堂所属。1988年より、格闘技、スポーツ、健康・医療、エンタテインメントなど幅広い分野で執筆・編集を手掛ける。2013年、妻の母が倒れ介護生活がスタート。以来、妻をサポートしながら義母のケアにあたっている。

2013年8月末、MRIとMRAによる脳の検査で、義母に「認知症の可能性あり」という診断が下されました。もちろん本人には診断結果を伝えませんでした。それは私たち家族が、義母の認知症を認めたくなかったからかも知れません。まだ「可能性あり」の段階だから、と思いたかったのです。

しかし、検査の一週間後くらいから、義母の様子が目に見えておかしくなってきたのです。異変は次のようなものでした。

・朝起きると前日の記憶がすっかりなくなっている。
・目がうつろだったり、目は開いているが、ぼーっとしている時間が長い。

そんな状態が数日続いたある朝、義母が布団から起き上がれなくなってしまったのです。異変に気付いたのは二世帯住宅の2階に住む義姉でした。連絡を受けた妻が実家に向かうと、義母は目覚めているものの布団の中で身動きができない状態。付き添っていた義姉と一緒に義母を布団から起こそうとしましたが、当時の義母はまだそれなりに体重があったため、女手では移動させるのも困難ですし、脳の異変ならば動かすのは危険と判断し、救急車を呼ぶことになったのです。

搬送先は、近隣にある総合病院でした。そこですぐにCT検査と血液検査と受けたところ「糖尿が出ている」と診断され、その日は様子を見るために入院。翌日から自宅で静養することになったのです。

初めて頚椎の異常を指摘されて…

我々、家族が危惧したのは、義母がこのまま寝たきり状態になってしまうことでした。そのため退院後の自宅では、なるべく布団から起こしソファに座らせたりするなど、少しでも本人の力で歩かせるように気を配りました。

ところが、体の動きが鈍くなったのに反して、なぜか以前より義母の言葉数が多くなったのです。しかし、脈絡もない話のため、聞いている側は何を言っているのか理解できなかったり、同じ話を何度も何度も繰り返すようになってしまいました。

妻が「お母さん。その話はさっきもしたでしょ」と言うと義母は

「何言ってるの。いやだ〜、初めて話すのに」

と笑うのだそうです。そして、5分後にはまた同じ話を始めるという繰り返しだったようです。

その頃には私たち家族は「認知症の可能性あり」ではなく、「認知症以外の可能性はない」のではないかと考えるようになりました。しかし、身内に認知症患者がいなかったこともあり、認知症は他人事、知識もありませんでした。インターネットで情報を集めてはみたものの、素人判断ではどうしようもないと感じ、以前義父がお世話になった脳神経外科医院を受診することにしたのです。

そこで下された診断は、「大脳皮質基底核変性症」または「頚椎の異常」というものでした。大脳皮質…と言われても正直何のことやらって感じですが、気になったのは「頚椎の異常」の可能性でした。今まで複数の病院でさまざまな検査を受けてきましたが、頚椎の異常を指摘されたことがなかったからです。

「先生、頚椎に異常があると転びやすくなるものでしょうか?」

そう妻が問いかけると、身体のバランスを取りにくくなったり、思い通りに足を動かせなくなる瞬間があるため転倒のリスクも高まるとのことでした。

屋内外問わず、時には病院の病室内でも転び、ケガを繰り返してきた義母。私たちは、その原因を足腰の衰えにあると勝手に考えていましたが、もしかしたら原因は“首”にあるのかもしれない。衝撃的でした。これまで大学病院を含め、数軒の病院で検査を受けてきましたが、「頚椎の異常」を指摘されたことなどなかったからです。同時に、首の異常が原因で転び続けていたのかと妙に納得できたのです。

ただ、診察を受けた脳神経外科医院では頚椎の検査ができないため、紹介を受けた池袋の病院に行くことになりました。

妻と義姉が付き添い、タクシーで病院に向かったのですが、降りる時に義母が

「もうお墓に着いたの?」

と言ったそうなのです。もちろん出かける際に、今から病院に行くのだと本人に伝えてはありましたが、記憶が混濁したのでしょう。と言うのも、義母の実家のお墓が浅草にあり、以前は義父とタクシーで墓参りに行くことがあったからです。もっともタクシーでは他の場所にも行っていましたが…。

「違うよ。ここは病院だよ」と妻が言うと、屈託のない笑顔を浮かべ、

「間違えたー」と笑ったそうです。

この頃から、トイレに行くのが間に合わず、漏らしてしまうことがたびたび起きるようになりました。

新たな検査で『頸髄症』であることが判明

結局、池袋の病院ではハッキリしたことが分からず、大学病院での検査を勧められました。患者の家族からすると、藁にもすがる気持ちで病院に行っているのに、結果的にたらい回しされているような感覚でした。

数日後の朝、義母が胸の苦しさを訴えたため、自宅にある血圧計で測ってみたところ、いつもより少し血圧が高い状態。念のため、近所にあるかかりつけのクリニックで診察を受け、心電図をとってもらったものの結果は「異常なし」とのことでした。

医師は精神的な不安が原因だと考えたのでしょう。精神安定剤を処方されたのですが、これが義母に悪影響を与えてしまったようなのです。薬を飲んだ後から様子がおかしくなり、とろ〜んとした顔になり、同じことを何度も何度も口にするようになってしまったのです。これまでも、ぼーっとする時間や意味不明なことを口走ることはありましたが、その状態が一気に加速した感じでした。

数日後、近隣の大学病院で詳細な検査を受けたところ、義母は『頸髄症』と診断されました。『頸髄症』とは、頚椎の椎間板などが加齢によって変性することが原因で脊髄を圧迫し、正しい情報が手足に伝わらなくなる病気なのだそうです。義母は『頸髄症』が原因で、思うように手足を動かすことができなくなり、転倒を繰り返していたことが判明しました。

もっと早く気付くことができたなら、こんなことにはならなかったのではないだろうか。私たち家族には後悔の念しかありませんでしたが、医師も分からなかったくらいなのですから、どうしようもないことなのですが…。それでも当時、妻は自分を責めていました。病気は患者本人だけではなく、家族をも苦しめるものなのだと身をもって知りました。

もし身内に、最近転びやすくなっているお年寄りがいる方は、頚椎の異常を疑ったほうがいいかもしれません。

結果、義母は状態を放置しておくと首から下が全く動かなくなる可能性が高く、その先に待っているのは寝たきり状態だと医師に言われ、手術をすることになりました。しかし、手術前にまた問題が発生。手術が先延ばしになったことが、さらに義母の状態を悪化させることになってしまったのです。

(第4回に続く)

イラスト:ちーぱか

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