遺留分とは、ある一定の相続人が、被相続人(亡くなった人)の財産から、法律上もらえる最低限の取り分のことです。
民法(相続法)が昭和55年以来、約40年ぶりに大きく改正されました。平均寿命が長くなると、ライフスタイルの変化に対応して、法律も税制も変わるのです。
「相続」というと、「お金持ちの話でしょ」と思われがちですが、人が亡くなれば必ず「相続」は起こります。
家族の将来設計に大きな影響のある相続について、相続専門税理士の廿野幸一さんが、正しい知識を伝授します!
平成30年7月の相続法改正について何回かお話ししてきましたが、今回の法改正で押さえておきたい重要ポイントの一つが「遺留分制度の見直し」です。
――えーっと、そもそもの話で恐縮ですが。遺留分とは何ですか?
遺留分とは、ある一定の相続人が、被相続人(亡くなった人)の財産から、法律上もらえる最低限の取り分のことです。
――ある一定の相続人!?
具体的に考えてみた方が、わかりやすいでしょう。
たとえば、「夫婦+子供二人」という家族があったとしましょう。
お父さんが遺言書を用意していなかった場合、遺産を相続人全員で話し合って分ける必要があり、この方法を「協議分割」といいます。協議分割をする際の目安とする分け方を、「法定相続分」といいます。
――「法定相続分」という言葉は聞いたことがありますが、どういうものなのでしょうか。
法定相続分とは、民法で定められた各相続人の相続の割合のことを言います。
先ほど、「遺言書がない場合は」とお伝えしましたが、遺言書があった場合は、相続は遺言書をもとに手続きを進めます。
ただ、すごく極端な例かもしれませんが、仮にお父さんに愛人がいて、「愛人Aに全額、相続させる」という遺言書を作成していたとしましょうか。この場合、赤の他人のAさんが全額相続することになってしまいます。
――ちょっと、それはひどいですよね…。「家族はどうなるの?」と、思います。
そう思いますよね? ですから、相続人が、①配偶者、②子供、③父母の場合は、民法で「最低限の取り分」を保障されているんです。これを「遺留分」といい、遺留分は法定相続割合の原則半分(※)となっています。
――ようやく、今回の本題である「遺留分」に話が辿り着きました。
本当に(笑)。では、本題にいきます。
今回の法改正では、「遺留分減殺請求権」が、「遺留分侵害額請求権」になりました。字面で見るとわかりづらいと思うので、変化した部分の色を変えて、もう一度、お伝えしますね。
――これって、何が違うのですか?
相続法の「改正前」と「改正後」でお話した方がわかりやすいでしょう。まず、「改正前」のお話しをします。漫画の例で考えてみましょう。
――二世帯で住んでいた家を、長男がそのまま相続するんですよね?
そうです。実態としては、お母さんを看取った後、長男家族が住み慣れた家に住み続けているというだけの話です。
――よくある話だと思いますけど…。何か問題があるのでしょうか?
このお母さん名義だった二世帯住宅は、相続財産なんです。漫画の例の家族の場合、相続財産がお母さんの持ち家(二世帯住宅)だけだったので、次男は何も相続できないですよね? 次男が、それに対して不満を感じた時など、先ほどお話しした「遺留分」として、次男は実家の1/4の所有権を請求する権利があるんです。
――法律的には、そう考えるんですね。
はい。次男が相続に不満があった場合など、「遺留分の権利を侵された」と考え、次男には遺留分を請求する権利があると考えます。
これが、「遺留分減殺請求権」です。改正前は、遺留分の減殺請求権を使うと、この二世帯住宅が長男と次男の共有の状態になり、財産に共有関係が生じていたんです。
――二世帯住宅を共有するって、次男夫婦が引っ越してくるんですか?
それも現実的には難しいですよね。ですから、これまでは、この共有関係を解消するために、長男が次男に金銭を支払うことで、決着することもありました。
――そういった話、聞いたことがある気もします‥‥‥。
長男が次男に金銭を支払うことを、「価額弁償」といいますが、これまで、価額弁償は例外的な対応として行われていました。
けれども、改正によって、例外的な取り扱いだった遺留分の金銭での支払いが原則的な対応になったんです。
――つまり、長男は、お金を支払わないといけないんですか?
そうなんです。今回の例のように、次男(遺留分侵害額請求をした人)と、長男(遺留分侵害額請求をされた人)が合意していない場合は、金銭での支払いが原則になったんです。これが、今回の法改正である、「遺留分侵害額請求権」です。
――それは、大変ですね!
でも、次男の立場から考えてみると、金銭でもらえることが法律で定められたことは、ある意味では、フェアかもしれませんよね。
ここで次男の立場として知っておきたいことは、遺留分侵害額請求をするのは、期限があるということです。法律では、下記のように定められています。
遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年間行使しないときは、時効によって消滅する。 相続開始の時から10年経過したときも同様とする。
――長男側の立場としても、期限などはあるんですか?
請求されたお金をすぐに用意できない場合もありますよね。そんな場合は、裁判所へ申し立てることで、支払い期限の猶予を受けることができます。
いずれにせよ、「遺留分侵害の請求が金銭での支払いが原則になった」ということを知っていないと、この話は始まりません。だからこそ、是非とも、皆さまに周知したい事柄なのです。
1)遺留分は、法定相続分の原則半分
2)遺留分の侵害額請求は、金銭での支払いが原則になった
3)遺留分の侵害額請求には期限がある
イラストレーター、Webデザイナー。
記事やコンテンツに合うイラストを提案していくスタイルが得意。 わかりやすく面白いイラストを心がけています。趣味は登山・キャンプ・ゲーム・インターネット。
ウェブサイト「主婦er」運営。夫は長男、私は長女。「親の介護」が集中する(であろう)家庭の主婦です。双方の両親は、お陰様で「まだ」元気。仕事をしながら息子3人を育てている今、「介護」は脅威でしかありません(笑)。そんな私が、「知りたいこと」を記事にしていきます。
楢戸ひかるさんの記事をもっとみるtayoriniをフォローして
最新情報を受け取る