相続トラブルは、どの家族でも起き得る!?「相続の現場で何が起きているのか」を知ることから始めよう!

まさか、私が相続トラブルに巻き込まれるなんて!

データから知る「争族」

――漫画を見ると、「うちも危ない⁉」と、ちょっと心配になります。

廿野 幸一(つづの こういち)
廿野(つづの)

そうなんです。最初に知っていただきたいことは、「遺産分割で揉めるのは、どこの家庭にも起こり得ることだ」ということです。ですから、私が相続のセミナーをする際は、「実際の相続の現場で、今、どんなことが起こっているのか?」を、受講者の方にイメージして頂くことから始めます。

よほどの富裕層でない限り、相続を「自分事」として考えている人は、それほど多くありません。だからこそ、できるだけリアルに、「実際に起きていること」を、お伝えしているのです。

――そんなに困るものなんですか?

廿野 幸一(つづの こういち)
廿野(つづの)

下記のグラフは、相続関連の仕事をしている人なら、誰もが知っているグラフです。 けれども、相続関連の仕事の一歩外に出ると、ほとんどの人が、この話を御存じありません。家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割の事件数は、遺産総額が5000万円以下のケースが全体の75%を占めています。一般の方で、この話を「知っている」という方の方が少ないと思うんです。

家庭裁判所へ持ち込まれた 遺産トラブルの⾦額

(出典:裁判所HP『平成28年度司法統計年報』より廿野さん作成)

最も多いのが、子供間での兄弟姉妹トラブル

――こんなデータがあるんですね‥‥‥。

廿野 幸一(つづの こういち)
廿野(つづの)

はい、そうなんです。相続が起きれば(人が亡くなれば)、故人が残したもの(遺産)をどうするか? について必ず話し合うことになります。「家族の相続」というのは、誰にでも訪れるものなんです。

――相続を経験した全体の2割弱が、「子供間の兄弟姉妹トラブルを経験した」というデータを見つけました(下図参照)。どういったことが、トラブルになるんですか?

廿野 幸一(つづの こういち)
廿野(つづの)

たとえば、「孫ひとりにつき300万円ずつ教育資金を援助した」という場合。孫の人数は、世帯でバラつきがありますから、「うちは子供が一人だけど、あなたのところは二人だよね?」ということは起こり得ます。

また、漫画の例であげた、「あの時とは、状況が違う」というのも、よく聞くセリフです。介護のキーマンが実家を相続することが暗黙の了解だったとしても、相続の際、自分の生活が窮状に陥っていれば、権利を主張する人は実際にいます。権利を主張すれば、お金が貰えるのですから。

相続トラブルの経験

(出典:日本財団「遺贈に関する意識調査」 2017年より抜粋)

ハンコを押してもらうだけでも大変!

――でも、上記のデータから考えたら、8割の方は、「トラブルまでには、発展していない」とも言えますよね‥‥‥。

廿野 幸一(つづの こういち)
廿野(つづの)

ただ、トラブルに発展しないまでも、「相続をする」ということが、わりと大変な作業だということは、知っておいて頂いた方が良いかもしれません。俗に、「ハンコ代」と呼んでいる話なんか、わかりやすいですね。

――ハンコ代? それって、何ですか?

廿野 幸一(つづの こういち)
廿野(つづの)

遺産分割協議書にハンコを押してもらうお金です。遺産分割協議書とは、「相続人全員で遺産の分け方がまとまりました」ということを書面にしたものです。遺言書がない場合、相続をするのに遺産分割協議書が必要なんです。

――遺言書がないと、遺産分割協議書が必要なんですか?

廿野 幸一(つづの こういち)
廿野(つづの)

はい、そうです。具体例で考えてみましょうか。たとえば、「ずっと二世帯同居をし、介護もキーパーソンとして動いてくれた長男に、持ち家の権利を譲りたい」という親の意向を兄弟姉妹全員が知っていたとします。こんな場合でも、遺言書がなかったら、親の持ち家の権利を長男が相続するためには、遺産分割協議書が必要なんです。

――なるほど。

廿野 幸一(つづの こういち)
廿野(つづの)

ハンコ代というのは、遺産分割協議書にハンコを押してもらう、つまりは財産のほとんどを長男が相続をするために、兄弟姉妹が協力してくれたお礼として支払うといった意味合いのお金です。

遺産分割協議書に実印をもらうのは、色々な意味で大変な場合があります。何度、相続の現場を経験しても、実印をもらうまでは、とても緊張します。

「実際の場面」をリアルに想像してみたら……。

――一緒になってドキドキしてきました。

廿野 幸一(つづの こういち)
廿野(つづの)

「色々な意味で大変」というのは、何も揉めた場合だけではないんです。物理的に大変なこともあります。私が遭遇したのは、遺産分割協議書の捺印を海外にいる自分の兄弟姉妹に依頼したケースです。兄弟姉妹の一人が、アメリカの田舎に住んでいて「捺印は、領事館で領事の前でサインが必要」というルールでした。

アメリカの田舎だったので、領事館に辿り着くのに何時間も車を走らせる必要がありました。時間や労力はもちろん、ガソリン代だってバカになりません。書類を送付する海外郵便の料金も、国内とは違います。そういった一連の手間に対して、遺産分割の際に配慮をするというのも、「ハンコ代」の意味のひとつなんですよね。

――普段、普通に生活をしていると、そんなこと考えてもみないですもんね

廿野 幸一(つづの こういち)
廿野(つづの)

本当にそうですよね。ハンコ繋がりで言えば、兄弟姉妹の分全員の遺産分割協議書を集めているうちに、早く届いていた人の印鑑証明書の期限が切れてしまったという事例もありました。金融機関の相続手続きの際、提出を求められる印鑑証明は、発行から3か月or 6か月で期限が切れてしまことが多いんです。こんなふうに、遺言書がないと、「遺産分割協議書に全員の捺印をもらうこと」だけでも、労力がかかるものなんです。

実際に相続の現場で何が起きているのか? ということは、大事件にでもならない限り、一般の人は知りません。当事者も、わざわざ他人にそんな話をしませんしね。だからこそ、相続の現場で実際に起きていることを、一般の方々にお伝えしていくことは、相続専門の税理士としては大切なことだと思っています。

監修
廿野 幸一(つづの こういち)
廿野 幸一(つづの こういち) 税理士・ファイナンシャルプランナー。相続専門で20年以上の経験、関与した相続税の申告は1,000件を超える。不動産相続・税務調査対策が得意。
相続税セミナー講師を多数担当。
現場での経験に基づいたお客様へのアドバイスは分かりやすいと好評を得ている。
漫画/松永映子

イラストレーター、Webデザイナー。
記事やコンテンツに合うイラストを提案していくスタイルが得意。 わかりやすく面白いイラストを心がけています。趣味は登山・キャンプ・ゲーム・インターネット。

楢戸ひかる
楢戸ひかる ライター

ウェブサイト「主婦er」運営。夫は長男、私は長女。「親の介護」が集中する(であろう)家庭の主婦です。双方の両親は、お陰様で「まだ」元気。仕事をしながら息子3人を育てている今、「介護」は脅威でしかありません(笑)。そんな私が、「知りたいこと」を記事にしていきます。

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