親の介護が必要になると、現役で働いている若い世代は、介護離職の問題に直面します。介護と仕事の両立をしたいと思っても、働く会社に介護への理解がなければ、難しいからです。
勤務している会社によりよい介護支援の制度や風土を作ってほしい、でも、いち従業員にはどうすることもできない……。
実はこの悩み、行政が支援や奨励をして、解決に導いていこうとしています。後編の今回は、東京都が行っている「介護と仕事の両立のための企業支援」について伺ってみました。
――前編では、東京都で行われている、個人と企業向けの、介護と仕事の電話相談窓口についてお伺いしました。他にも、企業に向けて、さまざまな施策を打ち出していますね。
東京都に居を構える企業が発展してくださらなければ、東京都の発展もありません。重要な経営課題である「介護と仕事の両立」をサポートすることは、東京都にとっても大きな課題です。
――具体的にはどのようなことをしていますか?
大企業が多いイメージがありますが、東京都の企業数の99%が従業員300人未満の中小企業です。東京都では、中小企業に対して、介護と仕事の両立だけでなく、育児と仕事の両立など、家庭と仕事を両立できる職場づくりに取り組もうという企業を、「奨励金制度」「専門家派遣」「研修会の実施」などにより支援しています。
――奨励金! お金をもらえるなら、企業側にやる気になってもらえるかもしれません。
奨励金制度については、例えば、「介護と仕事の両立に係る相談窓口を整備した」「法を上回る長さの介護休業等制度の整備をした」など、企業において、都が定めた要件に沿った取組を期間内に実施していただき、その実施が確認できた場合に奨励金を支給します。
介護との両立以外にも、育児との両立や非正規雇用労働者の待遇改善などの取組メニューがあり、これらを組み合わせて取り組んでいただくことも可能です。組合せによって最高100万円までの奨励金を支給させていただきます。
「専門家派遣」は、就業規則の見直しや、育児・介護休業規程を作りたいなど制度の整備に向けて、社会保険労務士や中小企業診断士を、企業に対して無料で派遣(奨励金との内容の重複はできない)しています。こうして、中小企業における家庭と仕事の両立可能な環境づくりを支援しています。
奨励金事業の、平成30年度の受付は終了しましたが、専門家派遣は受付中です。ホームページ「TOKYOはたらくネット」をご覧いただければと思います。
―企業側としては、雇用環境が整備できたら、社内にも社外にも周知してほしいところです。
育児や介護と仕事の両立支援に関する企業の取組を“見える化”する「家庭と仕事の両立支援推進企業 登録制度」を今年の秋から新たに開始しました。
両立支援制度を有しているか、実際に従業員に活用されているかどうかを点数化し、その得点に応じて、最高3つ星で、企業の取組を「両立支援推進企業マーク」で表すものです。
✩を獲得した企業は、マークを利用して、自社の取組をPRしていただけます。また、東京都でも、専用WEBサイトや、イベントなどで企業の取組を紹介させていただきます。中小企業でしたら、求職者向け企業説明会の開催や、学生向け情報誌への掲載など、採用活動についても応援します。
「家庭と仕事の両立支援推進企業登録制度」については「家庭と仕事の両立支援ポータルサイト」を参照ください。
最近では、学生が会社を選ぶ基準として、「自分の生活を大切にして働けるか」ということが重要なポイントになっていると聞きます。しっかりと両立支援をしている企業は、人材確保の点でも先んじることができると思っています。
―介護と仕事の両立に役立つものとして、東京都ではほかに何を推進していますか?
東京都では現在、「テレワーク」を推進しています。テレワークは、ICT(情報通信技術)を活用することで、通勤をしなくても、自宅や外出先などで仕事をするなど、時間や場所に捉われない柔軟な働き方を可能とするものです。育児中の方、介護で家を離れられないという方、病気で通院している方など、個々人の事情に応じながら、「ライフ・ワーク・バランス」を実現できる働き方として期待されています。
――テレワークは、介護者にとって、非常にありがたい仕組みです。
そうですね。介護をされている方は、たとえば「朝、デイサービスの方が来るまで、家にいたい。」「日中に、ヘルパーさんが来るまでの間、介助をしたい。」、そういう時に大変有効だと思います。特に、東京には、都外にご実家があるなど、遠距離介護をされる方も多くいらっしゃいます。職場に行かなくても、仕事をすることができれば、仕事をやめずに働き続けることが可能となります。
都庁においても、現在、小池知事のリーダーシップのもと、テレワークが推進されています。私自身も、時々テレワークを活用して在宅勤務を行うことがあります。職場のサーバーにアクセスできることで、自宅で資料作成や職員との意見交換が可能です。また、スマートフォンで職場のメールの送受信ができるため、通勤時間や移動中の電車の中など、メールチェックや職員への指示出しなど、時間を有効に使うことが可能です。
労働者側にとっては、ライフ・ワーク・バランスの実現につながるものですが、企業にとっても、オフィスコストの削減や台風・大雪などの自然災害時の事業継続などに資するものです。今後、2020年オリンピック・パラリンピックの交通混雑を緩和するためにも、テレワークの推進は重要だと考えます。
――ただ、導入できる企業が限られませんか? 社に来なくては仕事にならないという業務も多いと思います。
実際にテレワークを導入した企業を見ると、かなりの業務をテレワークで行うことが可能だと思います。もちろん、中には、「テレワークに適した業務がない」と考えているところもあります。「労務管理が難しい」「社内コミュニケーションをどうやってとったらいいのか」「情報のやりとりについてのセキュリティは保たれるのか」など、導入にあたり疑問や不安がお持ちの企業もあるでしょう。
それらの疑問や不安にお応えできる場所として、国とも連携して、飯田橋に「東京テレワーク推進センター」を設置しています。ここでは、実際のテレワーク機器に触れることができるほか、テレワークを導入している企業の事例や、国や都の支援制度についてもご紹介していますので、ぜひ利用していただきたいと思います。
センターには、専門のコンシェルジュがおりますので、企業の皆様の状況に応じて、例えばテレワークの導入を考える企業にはコンサルティング、具体的な導入を検討する企業には導入経費の補助など、適切なご支援を紹介させていただきます。
製造業でも、総務部門なら在宅勤務が可能ですし、営業部門はモバイルワークと、実は多くの企業で導入が可能です。既に、導入している企業の例を見ると、最初から全社で実施するのではなく、一部の職場や業務で導入することで、なかなか便利だということがわかる。それから全社に展開する、そういう企業が多いです。
――いろいろと充実した制度があっても、そもそも、企業の長時間労働や有給休暇の取りにくさ少なさが、介護者だけでなく働く人にとってネックになっています。
お話しのとおり、介護者だけでなく、男性も女性も高齢者も、誰もがいきいきと働けるためには、長時間労働の削減や年次有給休暇の取得促進などが不可欠だと考えています。東京都は、こうした働き方改革に取り組む企業を増やしていきたいと、平成28年度から「TOKYO働き方改革宣言企業制度」を開始し、働き方や休み方の改善に取り組む企業に対して、奨励金や専門家の巡回助言などの支援を行っています。
これまで2000社を超える企業に宣言いただき、支援をしてきましたが、2020年度には、これを5000社にしていきたいと考えています。
介護は、誰もが直面する可能性があることです。そうした場面にあっても、家庭も、仕事も大切にしながら働き続けられる、そうした職場づくりを進める企業を増やしていくことが東京都の役割だと考えています。これからも、行政として、働く方々にとってより良い労働環境を実現できるよう努めていきたいと思います。
東京都の働き方改革やライフ・ワーク・バランスの施策を始め、「東京ではたらく」ことに関する情報提供サイト。「企業の方へ」の項目の中に助成金や、テレワークの活用のしかたについて記載されています。
「家庭と仕事の両立支援推進企業登録制度」についてはこちらを参照ください。このサイトは、介護と仕事、育児と仕事の両立についての情報提供をしています。
女性誌や子ども関連雑誌・書籍の執筆を長年手がけ、現在も乳児や幼児のママ向けフリーペーパーで食育の連載を担当。生涯学習2級インストラクター(栄養と料理)。近年は介護・福祉・医療関連の記事、書籍編集も数多い。社会福祉士資格を取得し、成年後見人も務める。福祉住環境コーディネーター2級。
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