イノフィス社が手がける『マッスルスーツ』が、介護現場の深刻な問題を解決する!?

介護業界の離職率の高さは、従事者の腰痛が大きな原因だった

介護ロボットと聞くと、コンピュータを搭載した最先端の精密機械をイメージされる方が多いのではないでしょうか。しかし、株式会社イノフィスの『マッスルスーツ』は、「えっ、これがロボット?」と思わせる、どこかアナログ感さえ漂うリュックサック型。ところが、すでに全国の介護施設で約2000台が導入されている実績を持つ、優れた介護ロボットなのです。

ただし、正確に言うならば『マッスルスーツ』は介護を必要とする要介護者が対象ではなく、介護する側の人たちの身体をサポートするためのもの。人の代わりを果たすのではなく、装着することで働く人をサポートするウェアラブルロボット。ここに大きな特徴があるのです。

離職率が高いことで知られる介護業界ですが、ある調査によると、離職される方の約半数は腰痛が原因ということが分かったそうです。そんな状況を打破するべく開発された『マッスルスーツ』は「腰の補助」に特化することで、介護従事者の負担軽減はもちろんのこと、人手不足が深刻化している介護業界の強力なミカタとして、業界内では知る人ぞ知る存在となっているのです。

株式会社イノフィスの介護ロボット「マッスルスーツ」各種モデルⒸINNOPHYS CO.,LTD.All Right Reserved.

「夢のようなロボットではなく、人のためのロボット」を作ることが会社のミッション

『マッスルスーツ』は、東京理科大学工学部の小林宏教授によって開発され、実際に力仕事を行う現場に従事する人たちに使用してもらい、その声を元にトライ&エラーを繰り返して実用化に成功。2013年、商品販売を行うため東京理科大学発のベンチャーとして設立されたのが、株式会社イノフィスです。

同社のビジョンの一文に、こんな記述があります。

 我々が特に注力しているのは、困っている人をロボットの力で支えることです。

まさに『マッスルスーツ』は、その思いを具現化したものといえるでしょう。 現在、『マッスルスーツ』は介護業界のみならず製造業界や物流業界、農業分野などでも広がりをみせ、2014年の発売開始から累積で約4000台(✳2019年4月時点)を販売。そのうち約4〜5割のシェアを占めるのが介護業界なのだとか。このニーズこそが、介護の現場で働いている人たちの腰痛や腰への負担が業務上の大きな問題となっていることの証と言えるのではないでしょうか。

電気を必要としないから安全に、長く使えて作業場所を問いません

介護用に限らず、人間の動きをサポートするロボットは他社からも発売されていますが、『マッスルスーツ』の特長であり、他社製品との大きな違いは動力にあります。モーターではなく、空気で動く人工筋肉(下部イラスト)を採用しているため充電の必要もなければ、そもそも電気を必要としないのです。

ⒸINNOPHYS CO.,LTD.All Right Reserved

そのため場所を問わず安全に使用できるうえに、複雑な操作を必要としません。さらには、100万回を超える耐久試験をクリアしているので、故障のリスクはほとんどなく、購入後はメンテナンスフリーと手間いらず。電力を使用していないので、濡れるような場所での使用も問題なし。

では、問題となる装着感や使い勝手はどうなのか。介護の現場で最も多く利用されているモデル『マッスルスーツEdge』の本体重量は4.3キログラム。2リットルのペットボトル2本をリュックサックに入れて背負っているようなイメージです。女性にも多く利用されているので、重さ的には全く問題なし。

装着方法ですが、まずはリュックサックのように背負ったならば、腰のバックルをロックし、自分のウェストサイズに合わせてベルトを締めて調節します。

次に、太ももの前部にパットを固定したなら胸元のバックルをロックし、ベルトを引っ張って本体がズレないように調節すれば装着は完了。慣れてしまえば10秒程度で装着できるそうです。

そして、『マッスルスーツ』が本来の機能を果たすため、付属のポンプを上下させて人工筋肉に空気を送り込みます。空気が入っていくと、徐々に背中を後ろに引っ張られ、姿勢が正されるような感じになります。空気を送り込む量で補助力が変わるので、これは仕事の内容や自分の感覚で覚えていく必要があります。

ちなみに、『マッスルスーツEdge』の最大補助力は25.5kgf(キログラム重) だそうです。と言われても、どのぐらいのパワーなのか分かりませんよね。そこで私自身が、ビールケースを用いて『マッスルスーツ』のパワーを体感させていただいたのですが、全く腰への負担を感じることなく、スーッと持ち上げることができたのです。体の奥から力が湧き上がってくるような、何とも不思議な感覚。「こんなに楽なの!?」と驚いてしまいました。

これならば、介護施設の職員の方が、寝たきりのお年寄りをベッドから起こす際にも、腰への負担を感じることなく笑顔で作業できるだろうと感じさせるパワーでした。

キツい、辛い、といった介護のイメージを変えるロボットへと成長させたい

すでに全国の介護施設で利用されている『マッスルスーツ』。実際に使用されているユーザーからどんな反響があるのかを、株式会社イノフィス 営業部マネージャーの諸川周太郎さんにうかがいました。

「一番多く聞かせていただくのは、40代50代の女性スタッフの方の『夜勤業務が楽になった』という声ですね。夜間はスタッフ数が減るため、少人数で対応しなければいけないので身体への負担が大きくなってしまいます。夜勤明けの日はスタッフの方は休日になるのですが、それまでは腰痛で1日中寝ている状況だったのに『マッスルスーツ』を使用するようになってからは、腰痛もなく活動的に動けるようになったと。次の日、仕事へ行くのも億劫にならなくなり、生活のリズムも整って健康的な生活を送れるようになったという声を非常に多くいただいています。最近は若い男性や女性スタッフの方でも腰を痛めてしまっているケースも多いので、まだ今は体に不調を感じていない若い方にも腰痛予防のために、ぜひ使っていただきたいですね。」

また、近い将来、介護施設だけではなく、自宅で介護を行っている一般の方々にも『マッスルスーツ』を利用してもらいたいという思いがあるのだとか。

「国も施策として推進する方向に進んでいるので、今後、在宅介護は増えていくと考えられます。その意味において『マッスルスーツ』の必要性はさらに高まると思っています。『マッスルスーツ』を使うことで、一般の方であってもできることの幅も広がりますし、キツく、辛いという在宅介護のイメージを変えることができれば。そのためにも、もっと軽く、使いやすさを追求して、一家に一台ではないですけれど、要介護者のいらっしゃる家庭に普及させていくことが目標です。」

ただし、そこで問題となるのが価格。現状、『マッスルスーツ Edge』の希望小売価格は49万8000円となっています。介護ロボットの価格としては、決して高価ではありませんが、一般家庭が購入を考えるには二の足を踏んでしまう金額ではあります。もうちょっと、どうにかならないものか…。 「『マッスルスーツ』の存在を広く世の中の方に知っていただきたいですし、まだまだ完成形ではないと思っていますので、今後も開発を進めていきます。また、利用者様からいただくさまざまなニーズのうちの一つがコストダウンだと感じています。もちろん、そこも目指していきます」

身体への負担を軽減し、人の温もりを感じられる介護を提供し続けるためには、最先端技術を駆使した機械ではなく、『マッスルスーツ』のような、“人のためのロボット”の存在が必要なのかもしれません。

撮影:田中 秀典

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