【対談】介護ドキュメンタリー映画『99歳 母と暮らせば』監督・谷光章が楽しむ、明るい介護とは?

映画『99歳 母と暮らせば』は、71歳の監督が、99歳の認知症を抱えた実母との暮らしを、四季折々の街の風景とともにとらえた、介護ドキュメンタリー作品です。

時に排泄に失敗し、時にいるはずのない人を目撃するお母さま。息子である谷光監督は、その言動を否定したり、腹を立てたりせず、終始やさしく寄り添っています。

監督のカメラには、「介護される認知症高齢者」ではなく、得意のハーモニカを奏で、息子と冗談で笑い合う、いきいきとした99歳の女性の暮らしが収められています。『99歳 母と暮らせば』は、家族間の介護であっても、知識や考え方次第で互いに気持ちよく過ごせる、ひとつの可能性を示してくれる作品です。

2019年6月10日、東京・新宿K’s cinemaでの上映終了後、本作を手掛けた谷光章(たにみつ あきら)監督と、老人ホーム検索サイト『LIFULL介護』編集長の小菅秀樹がトークイベントを行いました。

施設での介護について、さらに認知症の方と共生する社会などの話題が飛び出した、その模様をお届けします。

怒っても認知症は治らない(笑)その人らしさに目を向けて介護を(谷光監督)

谷光章
谷光監督

小菅さんは老人ホームの検索サービスを運営していらっしゃるそうですね。この映画は在宅介護を撮ったもので、さらに言えば老老介護なんですけど、施設での介護はどのように違うのでしょう?

小菅秀樹
小菅

施設での介護の場合は、朝食や入浴、レクリエーションなど、何時から何時までとある程度決まっています。規則的な生活を送るというのが、施設介護の一番の特徴です。施設と在宅、どちらがいい介護か比較されがちですが、単純にどちらがいいか悪いかはないと思いますね。

谷光章
谷光監督

認知症になっても、「その人らしさ」は残っていると言われています。介護する側からすると、できなくなったことに目が向いてしまい「また同じこと言って!」、「また変なことして!」と怒りたがるようになるんですが、怒っても認知症は治らないので(笑)。その人がまだ持っている「できること」「好きなこと」に目を向けて、うまく介護を続ければ、暴言を吐いたり怒ったりしなくなるんじゃないかな、と思います。施設で介護されている方は、どんな接し方をしてるんですか?

小菅秀樹
小菅

施設のスタッフも、入居者の方が大切にしていることや、趣味はなるべく長く継続していただくよう当然考えています。その環境をいかにつくるか、ですね。今回、映画を拝見させていただきましたが、お母さまはハーモニカを吹いていらっしゃいましたね。そうした趣味、好きなことが末永く続けられる環境を整えることは、施設のスタッフも力を尽くすところです。

10年前から現在まで「あと10年で認知症は治るようになる」と言われ続けています(小菅)

谷光章
谷光監督

認知症の方と接するときは、自分の今までの常識や経験をいったん置いてみて、認知症の人達の世界に寄り添うといいのかなと。相手の性格、個性、好き嫌い、得意なことや、されると嫌なことをちゃんとわかったうえで接すれば、介護する側も、される側も安心できるんじゃないでしょうか。

小菅秀樹
小菅

僕がこの業界に入った10年前、「認知症は10年後になくなる」と言われていました。でも、10年経った今でも、「あと10年したら認知症は治るようになる」と言われ続けています。認知症に効果的な薬が開発されればいいなとは思いますが、「どうしたら認知症の方と気持ちよく共に暮らしていけるか」を考えていったほうが、薬の完成を待つよりも現実的なんじゃないかなと、最近は思いますね。

谷光章監督
谷光章監督
谷光章
谷光監督

そうですね。薬の開発は望まれるところだとは思いますが、2025年には3人に一人が65歳以上、そのうち5分の1が認知症を抱えるようになると言われています。私達のくらしの周辺に、認知症の方や、超高齢の方たちが当たり前にいる時代になっているんですね。ご家族や近所の方だけじゃなく、社会全体で、偏見を持たずにあたたかく見守れるようになっていくといいですね。

介護施設は、介護における選択肢のひとつとしてとらえる(小菅)

小菅秀樹
小菅

介護施設は年々増加していて、介護における選択肢のひとつとしてとらえていただければと思っています。長年暮らしてきた家に最後まで住みたいと思うのは自然なことですし、できる限り在宅でお好きな暮らしをするほうがいい。ただ、どうしても在宅生活が難しくなってきた場合、老人ホームという選択肢があることを知っておくのは、重要だと思いますね。

特に有料老人ホームは、入居するのにかなりお金がかかると、数年前までは言われていました。しかし、ここ最近は昔に比べ入りやすくなってきています。「お金がかかる」というイメージだけで拒否して、無理に介護を続けても苦しくなっていくので、そういった知識を持っておくのはポイントだと思います。

LIFULL介護編集長 小菅秀樹
LIFULL介護編集長 小菅秀樹
谷光章
谷光監督

在宅介護の場合は、介護する側が「自分が面倒をみなければ」と追い詰めることで悲劇が起きるので、ぜひ抱え込まず、利用できることはどんどん利用していただきたいですね。公的な相談場所もたくさんありますし。

小菅秀樹
小菅

監督は介護の相談はケアマネジャーにされているんですか?

谷光章
谷光監督

そうですね。ケアマネジャーさんが毎月1回、母の状態を見にいらしてくれるので、母の状態を把握している方に相談できるのはありがたいです。

小菅秀樹
小菅

介護を一人で抱え込んでしまう方はいらっしゃると思うんです。些細なことが日々積もり積もってストレスになり、悲劇が起こってしまうこともありますが、なるべくそうならないように、回りが気づいてあげられるといいですね。地域ぐるみで高齢の方を見守る社会が築ければ。

母の幻覚とか幻視を、逆にこっちも楽しんでいます(谷光監督)

小菅秀樹
小菅

テレビやインターネットでは、介護に関する暗いニュースにあふれています。でも、この作品のように、介護という営みの中にも、何気ない幸せな瞬間があるはず。それをもっと多くの方に知っていただきたいなと思いました。介護をポジティブに扱った作品が増えて、一人でも多くの方に届いたらいいなと思います。

谷光章
谷光監督

私なんかは、母の幻覚とか幻視を、逆にこっちも楽しんでいます。不思議なものを見させてもらえる貴重な体験だ、と。介護されている人それぞれに、色んな事情がありますから、簡単にはいかない状況もあるかと思いますが、あまり自分を追い込まないで、日々を楽しく過ごせるといいですよね。

『99歳 母と暮らせば』上映情報

2019年7月6日から
吉祥寺 ココロヲ・動かす・映画館○COCOMARU THEATER
横浜 横浜シネマリン
名古屋 名古屋シネマテーク

2019年8月10日から
大阪 シアターセブン
京都 京都シネマ

公式サイト
登壇者
谷光章
谷光章 1945年香川県丸亀市生まれ。1967年日本映画新社入社。ニュース映画企画者として3億円事件、大阪万博、浅間山荘事件などにかかわる。1977年よりフリー演出家として多岐にわたる作品を演出。ドキュメンタリー映画「さわる絵本─盲児たちの世界」(ヘラルド配給、厚生省特選)「飛べ!マリンジャンボ」(広告電通賞グランプリ)「日本の中小企業」(文部省特選)など。1994年イメージ・テン設立。新3K(環境、健康、高齢化)に沿ったテーマを中心に映像作品を制作。2012年にはドキュメンタリー映画「DX(ディスレクシア)な日々 美んちゃんの場合」で児童福祉文化賞を受賞。2014年には前衛いけばな作家・中川幸夫の壮絶な人生と創作の秘密に迫った「華 いのち 中川幸夫」で注目される。
小菅秀樹
小菅秀樹 1981年 神奈川県横浜市生まれ。老人ホーム紹介センター主任相談員。入居相談コンタクトセンターのマネジャーを経て、2013年に株式会社ネクスト(現 株式会社LIFULL)へ入社。現在はLIFULL介護の編集長としてコンテンツ制作を行う。趣味は映画、バイク、ウィスキー。今まで見た映画は1600本以上

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