認知症のお父さんと、まだ幼い長男たー君を抱えたライターの岡崎杏里さんは、育児と介護を同時進行で行う、まさに「ダブルケア」の当事者です。
育児も介護も大変な状況がクローズアップされがちですが、幼い孫と認知症のじいちゃんが織りなす日々は、意外にも笑える場面が多かった!岡崎さんちの日常をお届けします。
母さんも介護が必要な状態になってしまい、岡崎家は「ダブルケア」から「トリプルケア」へ。疲れ果てた杏里の心を支えたものとは…?
父さんの介護生活も21年目を迎えた今年の夏。母さんが体調を崩し、父さんの介護を在宅で続けていくことが限界となりました。
認知症により、すぐに忘れてしまうとしても、父さんに岡崎家の厳しい現状を伝え、「施設への入居」について一緒に話し合いました。すると、日に日に衰弱していく母さんの様子に父さんも「うん……」と首を縦に振ってくれました。
それから超短期間で、父さんが入居する老人ホームを絞り検討し、見学、申し込みをしました。70代前半の父さんは介護があと何年続くかわからないため、比較的費用の安い公的な老人ホームである、「特別養護老人ホーム(※)」(以下、特養)を選んだのでした。
ですが私たちの住む街では、特養は空きが全くなく、どこも200人以上の待機者がいる状態です。入居の順番は申し込み順などではなく、本人や家族の状態を加味して決定するとのことですが、すぐに「OK」とはなりませんでした。
その結果、ほぼ要介護状態となった母さん、認知症の父さん、まだ幼い息子の3人のケアを私が一人で担う“トリプルケア”状態になってしまいました(夫のヒロさんは長期海外出張中で留守)。
ケアマネジャーに、この厳しい現状を相談。父さんにはできる限り介護サービスを使いこちらの負担を減らすように努めてもらいました。
それでも、2軒分の家事、両親の介護、息子の育児に自分の仕事と、身体はもちろん、精神的もいっぱいいっぱいに……。そのうちに、“疲れているのに、夜眠れない状態”に陥っていったのです。
そんなときに、なにげなく海外出張中のヒロさんに「眠れないよ」と、スマホアプリでメッセージを送りました。
特に返事を期待していたわけでもなかったのですが、こちらの深夜が、ちょうど仕事が終わる頃だったヒロさんから、「大丈夫?」と返事が!
そのひと言の返信に、仕事で疲れているヒロさんに悪いと思いながらも、それまで一人で抱えて込んでいた思いがドドッーと溢れて、泣きながら「もう、限界かも…」と、メッセージアプリで愚痴をこぼしていました。
ヒロさんは「そうか…。メッセージのやり取りしかできないけど、つらいことをここに吐き出していいよ。あと、とにかく、ちゃんと寝ないと倒れるよ」と、心に染み入るメッセージをくれました。
本人の顔が見えるでもなく、もちろん声を聞いたわけでもありません。深夜に携帯画面に浮かび上がった、ヒロさんからの60文字あまりのメッセージが私の心を大きく癒してくれました。
それから眠れなくなるたびに、仕事が忙しくたとえ返事がなくても、ヒロさんにアプリごしにSOSを送るように。遠く離れていても、私のSOSを受け止めてくれる人がいることが、今は何よりも大きな支えになっています。 そして、携帯画面に文字にして吐き出すだけで心が軽くなるのです。
※特別養護老人ホーム…社会福祉法人などが運営し、在宅での生活が難しくなった主に要介護3以上の人が介護を受けながら生活する公的な施設。
茨城県つくば市出身。池袋の近くと横浜市の内陸部を経て、つくば市在住。書籍編集・ライティング→IT関連企業を経て、2009年よりフリーランスのイラストレーターとして活動中。
書籍・雑誌・WEB・広告などの媒体をメインにイラストを提供しています。著書に「赤子しぐさ」「赤ちゃんのしぐさ」(共著)があります。
ダブルケアラー(介護と育児など複数のケアをする人)として、介護に関する記事やエッセイの執筆などを行っている。2013年に長男を出産。ホームヘルパー2級。著書に23歳から若年性認知症の父親の介護、ガンを患った母親の看病の日々を綴った『笑う介護。』や『みんなの認知症』(共に、漫画:松本ぷりっつ、成美堂出版)などがある。
岡崎杏里さんの記事をもっとみるtayoriniをフォローして
最新情報を受け取る