超シュール!父さん流赤ちゃんのあやし方 - 岡崎さんちのダブルケア(1)

認知症の父さんと、まだ幼い長男のたー君を抱えたライターの岡崎杏里さんは、育児と介護を同時進行で行う、まさに「ダブルケア」の当事者です。

育児も介護も大変な状況がクローズアップされがちですが、幼い孫と認知症のじいちゃんが織りなす日々は、意外にも笑える場面が多かった!岡崎さんちの日常をお届けします。

父さん、孫のたーくんだよ

はじめに

私が社会人1年目、23歳のときに、父さんは53歳で糖尿病と高血圧が原因による脳出血で「脳血管性認知症(65歳以下なので若年性認知症)」になりました。それから、まるっと20年以上認知症の父さんの介護をしています。

この20年、いろいろなことがありました。母さんが卵巣ガンになり闘病生活を送ったり、両親の介護と看病を一人で抱え込み、自分自身が心療内科のお世話になったり。

でも悪いことばかりではありません。発想の転換により「意外にも笑うことも多い介護生活」のことを綴った『笑う介護。』などを出版。さらに諦めかけていた結婚をして、息子を授かることができました。

そして、始まった「ダブルケア生活」(※ダブルケア:介護や育児など複数のケアをすること)。もちろん大変なことも多いです。でも、やっぱり「意外にも笑うことも多いダブルケア生活」。そんな「岡崎さんちのダブルケアな日々」を、紹介させていただきます。

登場人物のプロフィール

人物紹介

杏里:23歳から認知症の父親の介護とガンになった母親の看病を担う。その経験より介護関連の記事を執筆するライター&エッセイストのお仕事をしつつ、現在は父さんの介護と息子のたーくんの育児に奮闘するダブルケアラー(介護と育児など、複数のケアを担う人)。

たーくん:杏里のひとり息子。5歳にして認知症のじいちゃん(父さん)を気遣うヤングケアラー(若くして介護を担う人)。大好きな電車の話をしだすと止まらなくなる超マイペースな面も。

父さん:53歳から脳出血が原因による脳血管性認知症(若年性認知症に)になり、介護生活は今年で21年目に突入。糖尿病にも関わらず、食べることへの情熱がハンパない。

母さん:いつもガハガハ笑う元気なオバちゃんである一方、実はガラスのハートの持ち主な面も……。父さんの介護中に卵巣ガンを患うも、奇跡の復活を果たす。

ヒロさん:出張の多い仕事で留守にしがちだが、岡崎家のことを理解し支えてくれる杏里の頼れる夫。

超シュール! 父さん流赤ちゃんのあやし方

父さん、孫のたーくんだよ
しかしその数分後…
父さん何してるの!?お…お焼香?
この指の動き…もしかして「指パッチン」!?

今回は「ダブルケアな日々」の幕開け、父さんとたーくんが初めて対面したときのお話です。

認知症で要介護な父さんがいるため、出産前後の里帰り予定はありませんでした。ところが想定外の難産で、急遽、里帰りすることに…。

ちょうどショートステイに行っていた父さんが約1週間ぶりに帰宅し、いきなり家に赤子がいるとどうなるのか!? ドキドキしながら見守るも、父さんは孫の前を何事もないように通り過ぎてる~っ(驚)。まさかの孫との初対面シーンに私と母さんは「えーっ!」となりました。

ところが、しばらくすると音もなく、孫のもとに近づき、突然、孫の顔の上で“お焼香!?”。

「なんで、お焼香なのー」と私と母さんがツッコもうとすると、瞬きをしたら見逃してしまうぐらいの一瞬、父さんが満面の笑みに。やっぱり孫の誕生はうれしかったようです。認知症になってからめっきり表情が乏しくなった父さんの久々の笑顔に私と母さんがウルッしている一方で、父さんは孫の顔の上で黙々と“お焼香”を続けます。

「いくらトンチンカン父さんでも、それはないよね⁉」と見守り続けると、“お焼香”をしているかと思われた指先が何度も“スリスリ”と動いているのです。も、もしや、父さん、孫をあやすために“指パッチン”をしているの? ですが、残念なこあとにマヒの残る手では音が鳴らりません(涙)。

母さんが「“いない、いない、ばー”とか赤ちゃんのあやし方って他にあるでしょう」とツッコミと入れても、「これでいいんだ!」と孫の顔の上でひたすら“指すりすり”。父さんなりに孫を一生懸命にあやしてくれているのですが、その光景は孫の顔の上で、ひたすら“お焼香”をしているようでシュール過ぎます。きっと息子も戸惑っていたに違いありません。

このシュールな父さん流赤ちゃんのあやし方は私たちが里帰りを終えるまで続きました。が、な、なんと、帰宅直前にすりすりしていた指が“パチン”が鳴るようになったのです。父さんの孫への愛と、“指パッチン”であやしたいという執念がマヒした指の力を蘇らせたのでしょう。これを私と母さんは「ダブルケアの奇跡」と呼ぶことにしました。

漫画/栗生ゑゐこ

茨城県つくば市出身。池袋の近くと横浜市の内陸部を経て、つくば市在住。書籍編集・ライティング→IT関連企業を経て、2009年よりフリーランスのイラストレーターとして活動中。
書籍・雑誌・WEB・広告などの媒体をメインにイラストを提供しています。著書に「赤子しぐさ」「赤ちゃんのしぐさ」(共著)があります。

岡崎杏里
岡崎杏里 ライター&エッセイスト

ダブルケアラー(介護と育児など複数のケアをする人)として、介護に関する記事やエッセイの執筆などを行っている。2013年に長男を出産。ホームヘルパー2級。著書に23歳から若年性認知症の父親の介護、ガンを患った母親の看病の日々を綴った『笑う介護。』や『みんなの認知症』(共に、漫画:松本ぷりっつ、成美堂出版)などがある。

ブログ続・『笑う介護』 岡崎杏里さんの記事をもっとみる

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