認知症の父さんと、まだ幼い長男のたー君を抱えたライターの岡崎杏里さんは、育児と介護を同時進行で行う、まさに「ダブルケア」の当事者です。
育児も介護も大変な状況がクローズアップされがちですが、幼い孫と認知症のじいちゃんが織りなす日々は、意外にも笑える場面が多かった!岡崎さんちの日常をお届けします。
第9回はどこの家庭でもある「孫へのプレゼント攻撃!」のお話。岡崎家の場合は…?
父さんが通っているデイサービスでは、脳の活性化やマヒした手先のリハビリを期待して、さまざまな創作活動をレクリエーションに取り入れています。
父さんは私の夏休みの宿題の工作を毎年手伝ってくれたのですが、気が付けば私よりも本気で工作に取り組んでしまうような、モノを作ることが好きなタイプでした。そんなわけで、スタッフによると父さんはデイサービスの創作活動の時間はイキイキしているそうです。
「これを作るのに、2週間もかかったんだぞ!」と、得意げにデイサービスで制作した力作を持ち帰ってきます。ですが、忙しい私や母さんは「へぇ~、すごい~」と、父さんの顔も見ずに褒めるようなそっけない対応ばかり。そして、いつしか父さんは持ち帰った作品をひっそりと棚に飾るようになっていました。
そんな中、言葉が話せるようになったころのたー君が「すごーい」と目を輝かせながらじいちゃんの作品を褒めるようになりました。
この新鮮な反応に、気をよくした父さん。「ほら、お土産だ!」と、渡し方こそぶっきらぼうですが、父さんなりにたー君へ気持ちを込めて制作した作品の、プレゼント攻撃が始まりました。
たー君も「わーい、ありがとー」と、期待通りの反応をします。そんな二人の微笑ましい姿を見て、私と母さんの心はほっこり。
が、そのほっこりタイムは秒速で悲劇の時間に…。なぜなら、「わーい」と喜びながら作品を受け取るたー君ではありますが、数秒後には父さんが何時間も掛けて作った作品を破壊し始めるのです。
たとえば、たー君のため父さんなりに頑張り、1匹でもいいところを3匹も糸を使って棒に吊り下げた鯉のぼりが、30秒後には、すべての鯉が棒から外され、無残に床の上に転がっていました(涙)。
そんな作品の行く末を見て、悲しそうな顔をする父さんに心が痛くなります。でも、そこは認知症のおかげ(?!)で、父さんは作品たちの悲しい末路をしっかり忘れ、孫に作品を送り続けるのです。ある意味で強靭な心の持ち主なのかもしれません。まぁ、これはこれで岡崎家らしい、じいちゃんと孫の交流のひとつなのかもしれません。
そして、現在、5歳になったたー君。今度は幼稚園でじいちゃんのために作ったという作品を「これ、プレゼント」と、逆に手渡す側になりました。それをぶっきらぼうに無言で受け取る父さんですが、心の中では大喜びしているのか、もらった作品を私たちが家に帰るまでずっと握り続けています。
茨城県つくば市出身。池袋の近くと横浜市の内陸部を経て、つくば市在住。書籍編集・ライティング→IT関連企業を経て、2009年よりフリーランスのイラストレーターとして活動中。
書籍・雑誌・WEB・広告などの媒体をメインにイラストを提供しています。著書に「赤子しぐさ」「赤ちゃんのしぐさ」(共著)があります。
ダブルケアラー(介護と育児など複数のケアをする人)として、介護に関する記事やエッセイの執筆などを行っている。2013年に長男を出産。ホームヘルパー2級。著書に23歳から若年性認知症の父親の介護、ガンを患った母親の看病の日々を綴った『笑う介護。』や『みんなの認知症』(共に、漫画:松本ぷりっつ、成美堂出版)などがある。
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