母さんの涙 - 岡崎さんちのダブルケア(3)

認知症の父さんと、まだ幼い長男のたー君を抱えたライターの岡崎杏里さんは、育児と介護を同時進行で行う、まさに「ダブルケア」の当事者です。

育児も介護も大変な状況がクローズアップされがちですが、幼い孫と認知症のじいちゃんが織りなす日々は、意外にも笑える場面が多かった!岡崎さんちの日常をお届けします。

母さんが大変なのはわかっていたけど…
産後の肥立ちが悪く、甘えるしかなかった
でも…「申し訳ないけど帰ってもらえる…?」
母さんが倒れたら全員共倒れだもんね

今回は、たーくんを出産するときの話です。

実は、これまでに次々と大病を患ってきた母さん。同居する認知症の父さんの介護は、とても大変なことでした。そのため、私は出産のときは実家に里帰りせず、夫のヒロさんと二人で乗り越えようと考えていました。

ところが、想定外の難産だったうえ、産後の貧血や血圧の上昇などに悩まされ、生まれたばかりのたー君と急遽、里帰りをすることに。今、思えばヒロさんに育児休暇を取得してもらい、助けてもらう方法もあったのですが、それも叶わず。「帰っておいで」という母さんの言葉に最終的に甘えてしまったのです。

(余談ですが、ヒロさんは男性だらけの職場で、育休を取得した男性は今までゼロ、当然ヒロさんが取得することも難しかったのです……それもどうなのよ!)

母さんが忙しいことは目に見えていました。孫が生まれたその日もすぐに病院に来ることができず、「父さんがデイサービスに行ってから病院に行くから!」と父さんのお世話をしていたし、やっと病院に来られても「もうすぐ父さんがデイサービスから帰ってくるから」と飛ぶように帰っていったくらいです。

そんな母さんを頼るのは申し訳ない。しかし、体調が戻らない中で初めての出産、育児に不安を抱えていた私に、母親に頼りたい気持ちがあったことも否めません。

ただ、こんなふうに親を頼ることができた私はとても恵まれています。ダブルケア仲間の中には、どんなに親に頼りたい場面でも乳飲み子を抱え、フラフラになりながらも要介護の親のお世話もしている人もいるのですから。

産後の里帰りがスタートすると、父さんにはショートステイに行ってもらうなど、できる限り母さんの負担を減らす配慮がなされました。ですが、たー君の生まれたタイミングが年末年始だったため、ショートステイの延長など時間の融通を利かせることが難しく、どうしても母さんへの負担を避けられないところもありました。

緊急里帰りをして10日が過ぎたころ「申し訳ないけど、私の体力がそろそろ限界。もう、帰ってもらえる?」と、すまなさそうな顔して母さんが相談してきました。私の体調はまだ戻っていない状態でしたが、母さんが倒れたら全員が共倒れ状態になってしまいます。それだけは絶対に避けたいので、私はたー君とともに自宅に戻ることを決めました。

母さんが自宅へ送り届けてくれたのですが、「父さんが帰ってくるから…」と帰るために玄関で靴を履こうとしゃがみ込んだところ「大変なときに、助けてあげられなくてごめんね」と、泣いていました。その小さく震える背中を、私は忘れることができません。

それからしばらくして、やはりあの時、母さんは無理していたんだと痛感する出来事が起きるのです。そのお話はまた次回……。

漫画/栗生ゑゐこ

茨城県つくば市出身。池袋の近くと横浜市の内陸部を経て、つくば市在住。書籍編集・ライティング→IT関連企業を経て、2009年よりフリーランスのイラストレーターとして活動中。
書籍・雑誌・WEB・広告などの媒体をメインにイラストを提供しています。著書に「赤子しぐさ」「赤ちゃんのしぐさ」(共著)があります。

岡崎杏里
岡崎杏里 ライター&エッセイスト

ダブルケアラー(介護と育児など複数のケアをする人)として、介護に関する記事やエッセイの執筆などを行っている。2013年に長男を出産。ホームヘルパー2級。著書に23歳から若年性認知症の父親の介護、ガンを患った母親の看病の日々を綴った『笑う介護。』や『みんなの認知症』(共に、漫画:松本ぷりっつ、成美堂出版)などがある。

ブログ続・『笑う介護』 岡崎杏里さんの記事をもっとみる

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