高齢者の「家を借りられない」を防ぐ!住宅セーフティーネット法改正の概要と期待できる点

住まいの確保に特別な配慮が必要な方に向けられた『住宅セーフティーネット法』が、2024年3月に改正されました。「何が変更されたのか」「その背景にはどのような課題があったのか」を高齢者の住まいの専門家の視点を交えて解説します。

そもそも住宅セーフティーネット法とは?

住宅セーフティネット法とは、高齢者や障がい者、低所得者、子育て世帯などの住宅確保に配慮が必要な人々(住宅確保要配慮者)への支援を目的とした制度です。入居を拒まない住宅の確保や、要配慮者の円滑な入居をすすめる仕組みを提供します。

主に、以下の3つが制度の柱になっています。

住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅(セーフティネット住宅)の登録制度

賃貸住宅の大家が、所有している物件を「住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅」として登録できるシステムです。登録すると専用の検索サービスなどで、自治体が必要な方への情報提供を行います。

登録住宅の改修や入居者への経済的な支援

「セーフティネット住宅」として登録された住居に改修が必要な場合、大家にその費用を補助します。また、登録住宅の入居者に対しても、住み替えの費用や家賃を補助します。

住宅確保要配慮者に対する居住支援

住宅確保要配慮者が民間住宅に円滑に入居できるように支援を実施します。具体的には、自治体や不動産関連団体、NPOなどが連携できる場として「居住支援協議会」を設置。また大家のリスクを軽減するため、家賃債務保証業者の登録制度を創設しています。

関連サイト

セーフティネット住宅とは

業界最大級の老人ホーム検索サイト | LIFULL介護

法改正による変更点

2024年3月に、住宅確保要配慮者がより安定的に住まいを確保できるよう、住宅セーフティネット法が改正をされました。改正のポイントは以下の3つです。

大家が賃貸住宅を提供しやすく、要配慮者が円滑に入居できる市場環境の整備

賃借人の死亡時まで更新がなく、死亡時に終了する「終身建物賃貸借」の利用を促進します。また、家賃債務保証業者の認定制度を創設したり、居住者の残置物処理の業務を居住支援法人が担うようにしたりと、家賃の滞納や残置物処理に大家が困らない仕組みを作ります。

「居住サポート住宅」認定制度の創設と、居住促進

居住支援法人等が入居中の要配慮者のニーズに応じて、安否確認や福祉サービスへの連携を行う住まいを「居住サポート住宅」とし、市区町村長がそれを認定する制度を作ります。

住宅施策と福祉施策が連携した地域の居住支援体制の強化

自治体の担当者や、地域の不動産関連団体や社会福祉協議会などが要配慮者を支援するために連携する「居住支援協議会」の設置を促進し、入居前から退去までを支援できる包括的な支援の体制を整備します。

法改正の背景

  • 単身世帯の増加
  • 要配慮者(単身高齢者など)に対する大家の拒否感
  • 居住支援の担い手の増加

住宅セーフティネット法改正の背景は上記の3つです。

単身世帯の増加と持家率の低下により、住宅確保要配慮者の賃貸住宅への入居ニーズが高まっています。特に2030年には単身高齢者世帯が800万世帯に迫る見通しとなっており、一人暮らしの高齢者が賃貸住宅への入居を希望するケースは増加していく見込みです。

しかし、一人暮らしの高齢者をはじめとした住宅確保要配慮者の入居について、大家の拒否感や不安が強い現状があります。孤独死による居室の清掃や、死亡後の居住者の残置物処理などが、これまで大家にとって重い負担となっていたためです。一方で、民間賃貸住宅の空き室は約433万戸と一定数存在し、これらの空き室を有効活用することも求められています。

平成29年に住宅セーフティネット改正法を施行した後は、居住支援法人が700を超え、入居や見守りの体制が整ってきました。そこで今回の改正では居住支援法人などの支援を通じて、入居者も大家も安心できる仕組みを作り、空室になっている賃貸住宅への要配慮者の入居を促進しようとしています。

小菅編集長のコメント

住宅セーフティネット制度は、戦後復興期に誕生した低所得者向けの住宅制度が元になっています。2017年に新たな住宅セーフティネット制度がスタートし、入居を拒まない住宅と要配慮者のマッチングを促進したり、建物の改修費や家賃の補助などを行ってきました。

「セーフティネット住宅情報提供システム」では、登録されている物件情報を検索できます。しかし、この制度の認知度はまだ低く、利用者数も伸び悩んでいます。賃貸人と要配慮者の双方で、制度の知名度を高めることが大きな課題といえるでしょう。

令和6年3月8日の法改正では、これまで作ってきた「要配慮者が入居しやすくなる仕組み」と「大家が背負うリスクを軽減する仕組み」をより拡大し、利用を促進する狙いがあります。

特に注目したいのは、新たに創設される「居住サポート住宅」の認定制度です。ここには「入居を拒まない住宅」の数と質をより向上させる狙いがあります。特に一人暮らしの高齢者が入居する場合、見守りサービスが重要になってきますが、人感センサーなどのICT機器によって手軽にそうしたサービスを提供できるようになったことも制度の創設を後押ししているのでしょう。

また、地域の不動産関連団体や福祉関連団体、自治体担当者が連携して相談窓口となる動きも見逃せません。要配慮者の中には、低所得者、高齢者、子育て世帯など様々な背景があり、必要とする支援も多様です。様々な状況に応じて支援をコーディネートできることが求められます。

今回の改正により、制度の更なる認知度向上と、住宅供給の促進につながることが期待されます。

情報出典元

編集長プロフィール
小菅秀樹
小菅秀樹 LIFULL 介護編集長。老人ホーム、介護施設の入居相談員や入居相談コールセンターの管理者を経て現職に就任。「メディアの力で高齢期の常識を変える」をモットーに、さまざまなアプローチで介護関連の情報を発信しています。

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