アルツハイマー病治療薬「レカネマブ」が保険適用に

超高齢社会の日本では、認知症患者の増加が課題視されています。2020年の総務省の発表では、2025年に約700万人(65歳以上の高齢者の約5人に1人)に達すると見込まれているのはご存じでしょうか。

認知症患者の増加に伴って要介護者も増え、介護医療費の増大、介護人材のさらなる人手不足が懸念されます。

そんななか、認知症の原因の67.6%を占めるアルツハイマー病の新治療薬「レカネマブ(レケンビ🄬)」が2023年12月に保険適用となりました。レカネマブは、新しい効能を持った薬として期待されています。

アルツハイマー型認知症の原因は「アミロイドβ」という物質が神経細胞を壊すことだといわれています。これまでのアルツハイマー型認知症の治療薬は、残った神経細胞の活性化を促す作用を持つもののみで、アミロイドβに働きかけられるものはありませんでした。

しかし、今回販売が決まったレカネマブは認知症の原因物質と見られるアミロイドβを排除する薬として、注目を集めています。

エーザイの発表によると、臨床試験では18ヶ月の投与でプラセボ薬と比べて病気の進行を27%抑制する効果がみられました。

費用は年間298万円と高額

アルツハイマー病進行の抑制効果への期待が高まる一方、その費用にも注目が集まっています。


レカネマブの費用は、年間298万円(体重50kgの人の場合)と高額であるものの、「高額療養費制度」を利用すれば、外来による年間負担額の上限を14万4,000円にまで抑えられます(住民税非課税世帯を除く年収約370万円以下で70歳以上の患者の場合)。

高額療養費制度とは

高額な治療費用を抑えてくれる、高額療養費制度とはどんなものなのか、簡単に紹介します。

高額療養費制度は、1月(同じ月の1日~末日)に支払う医療費が、自己負担限度額を超えた場合に超えた分が払い戻される制度です。入院中の食費や差額ベッド代などは含まれません。

自己負担限度額は年齢(69歳以下、70歳以上)所得によって異なる値が定められています。一度支払って後から払い戻しを受けるのではなく、支払う前に給付を受けたい場合は「限度額適用認定証」、もしくは「限度額適用・標準負担額減額認定証」の交付と提示が必要です。

こちらは事前に申請をしなければ窓口での支払い時に提示ができないため、支払い期日に間に合うよう手続きしなければなりません。

レカネマブの投与対象となる人

2031年度には3万2,000人に投与されることが予想されているレカネマブですが、投与対象は条件付きとなっています。


レカネマブの投与対象となるのはアルツハイマー病患者で軽度の認知症の方、さらに薬剤投与の禁忌に当てはまらない方が対象となるため、現在の認知症患者のなかで対象となる方は多くありません。

【禁忌】
・レカネマブの成分に対し重篤な過敏症の既往歴がある患者。
・レカネマブ投与開始前に血管原性脳浮腫、5 個以上の脳微小出血、脳表ヘモジデリン沈着症又は1 cmを超える脳出血が認められる患者。

また、点滴での投与を2週間に1度、1年半継続する必要があり、対応している医療機関も限られています。

副作用については、頭痛・寒気・吐き気、数ヶ月以内に脳の腫れ、少量の出血などが生じるケースもあるため、MRI等を備え、副作用を早期に発見できる医療機関での対応が定められています。

LIFULL 介護編集長 小菅のコメント

僕が介護業界に携わり始めたのは15年以上前のことですが、その当時、ある介護関係者から『10年後には認知症が薬で治療できるようになるだろう』と聞いたことがあります。

しかし、人間の脳は非常に複雑で、マウスなどの動物を使った実験では再現が難しいこと。さらに、治験で効果が実証されるまでには長い年月がかかります。これには莫大な研究開発費が必要となり、結果として世界を代表する大手製薬会社が次々と撤退してしまいました。そんな中、レカネマブの登場は認知症治療における“一筋の光明”と言えます。

ただし、レカネマブの対象は軽度の認知症に限られ、その効果は「進行を27%抑制する」とされています。さらに、記事で指摘されているように、その高額な薬価も大きな課題です。現役世代が高齢者を支える負担が限界に達している中、保険適用が妥当かどうかは、世代を超えた議論が必要だと思います。

参考:厚生労働省「最適使用推進ガイドライン レカネマブ(遺伝子組換え)」(PDF)

編集長プロフィール
小菅秀樹
小菅秀樹 LIFULL 介護編集長。老人ホーム、介護施設の入居相談員や入居相談コールセンターの管理者を経て現職に就任。「メディアの力で高齢期の常識を変える」をモットーに、さまざまなアプローチで介護関連の情報を発信しています。
高下真美
高下真美 フリーライター

人材ベンチャーや(株)リクルートジョブズでの営業を経て、2016年よりフリーランスのライターとして活動。Webメディアで採用からサービス導入事例など幅広い企業インタビュー、SEO記事などを執筆。最近ワーママとなり、子供が手のかかる時期に親の介護問題が浮上してくる可能性が高くなったため、自らが気になることを調べて記事にしています。

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