
介護保険サービスは現在、利用者が原則として1割を負担するルールになっています。ただし収入によって負担の割合が異なり、2割、3割を負担する人もいます。
現在、1割負担の人が全体の91.8%、2割負担の人が4.6%、3割負担の人が3.6%で、多くの高齢者が1割負担で介護サービスを受けています。
介護を必要とする高齢者は、2023年3月末時点で、介護保険制度開始時の3倍以上に増えています。少子高齢化が進むなか、介護保険制度を維持するため、2割負担の対象拡大が議論されてきました。
しかし厚生労働省は2024年の制度改定では見送る方針を固めました。その背景についてみていきましょう。
介護保険サービス利用料の自己負担割合は「合計所得金額」と「65歳以上の方の世帯人数」に応じて設定されます。
合計所得金額とは「年金収入」と「それ以外の所得(不動産、利子、配当、雑所得など)」の合計のことです。個人事業を営んでいる方は、上記の収入から経費を差し引いた金額が合計所得金額となります。
介護保険サービスの自己負担割合の決め方について、詳しく知りたい方はフローチャートをご参照ください。


介護保険サービスの自己負担割合はいくら?
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介護サービスに必要な金額は毎年増えており、2023年度の総額は13兆8000億円で、2040年度には約26兆円になると試算されています。介護保険の自己負担引き上げの議論の背景には、少子高齢化による財源の確保の厳しさがあります。
厚生労働省の試算では、単身世帯の2割負担の対象を現在の年収280万円から270万円以上に広げただけでも、対象者は8万人増えます。1人当たり最大で月2万2000円程度の負担増となり、介護給付費の削減効果は90億円とされています。
自己負担の引き上げによって懸念されているのが、介護サービスの利用控えです。実際に、日本デイサービス協会が2022年に行った調査で「仮に原則2割負担(現在の2倍の利用料)になった場合のデイサービス利用について」どのように考えるかを聞いたところ、利用を控える方向で見直すと回答した人が3割いました。
1割負担だった高齢者が2割になった場合、自己負担額が単純計算で2倍になるため必要なサービスが行き届かなくなるのではないかと懸念する声は、議論の場でも上がっていました。さらに昨今の物価高騰による家計負担を考慮し、今回の自己負担拡大は見送られる形になりました。
介護サービスの利用控えの先を懸念する声として多かったのは「運動が減るので筋力低下等で調子(体調等)が悪くなる」「人と会わなくなるので生活意欲が落ちる」ことでした。
デイサービス(通所介護)の役割には、利用者の身体機能の維持や社会的な孤立感の解消、自立支援などがあります。そのため、利用控えが進むと介護度が上がってしまい、結果的に介護給付が増える、あるいは家族の負担が重くなる恐れもあります。利用者のQOL向上と制度の持続可能性を両立させるため、今後も議論が続きそうです。
2024年は、三年に一度行われる介護報酬の改定年となります。この改定は、介護サービスに設定された報酬の適正化に留まらず、サービスの質向上、制度の改正、職員の処遇改善、利用者の負担額の見直しなど、幅広い項目について議論し、改定を行います。
介護保険の二割負担の対象拡大は、今回の改定では見送られました。
その一方で、65歳以上の介護保険料に関しては、年間合計所得が420万円以上の高所得者に対する保険料の引き上げが決定しました。また、住民税非課税世帯や生活保護受給者など低所得者に対しては保険料を引き下げ、所得に応じた「応能負担」の原則が強化されました。
現在、高齢者1人に対して現役世代が2人で支えるという状況にあります。現役世代も自身の老後のための資金を準備する必要があり、その負担をこれ以上増やすことは困難です。次回の改定(2027年度)までに、二割負担拡大に関する結論を出すことが厚生労働省から発表されています。応能負担の適正化をさらに進めることで、高齢者の負担増も避けられない見込みです。


編集プロダクション代表。早稲田大学を卒業後、PR会社やメディアを経て独立。介護関連の取材・執筆を始めて6年経ちました。イベントやインタビュー記事、現場取材など、人の声を伝えるのが得意。読者のプラスになる記事を書くことを大切にしています。
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