福祉用具はレンタルすべき?購入すべき?多点杖など一部で選択可能に

この記事のポイント
  • 2024年度から一部の福祉用具について貸与(レンタル)か販売のどちらかを選べるように
  • 選択可能になるのは、定期的なメンテナンスの必要性が低いものや廉価な品目
  • 貸与と購入のどちらが良いかはケアマネや福祉用具専門相談員からの助言を得られる

4つの種目について貸与か購入か選べるように

厚生労働省は貸与・販売を利用者が選ぶ選択制の導入を提案しており、2023年10月30日の有識者会議で2024年度から導入が決定しました。

スロープや杖など4項目が対象に

選択制の対象となったのは、下記4項目です。福祉用具のなかでも比較的廉価、かつ貸与金額の累計が購入金額を上回ることの少ないものが選ばれています。

固定用スロープ 段差のある場所にブロック状のスロープを敷き、高齢者の歩行、車椅子での移動を楽にするもの。短時間で設置できて撤去にも時間がかからないため、使い勝手の良い点がメリット。
歩行器(歩行車は除く) 足に痛みがある場合や、筋力の低下でバランスをうまく取れない方が体を支えながら歩行するための福祉用具。主にリハビリに使われる。
単点杖(松葉杖は除く)

T字型になっており、地面と接する先端が1点であるため、単点杖と呼ぶ。歩行する際に安定感を出してくれるため、脚力が弱っている、足に痛みがある場合の歩行に役立つ。

多点杖 単点杖とは異なり、地面に接する先端が3~4本に分かれている杖のこと。単点杖より安定感が増すため、単点杖では不安定さを感じる方などに向いている福祉用具。

これら4つは可動部分がないものも多く、購入した後、度々故障してメンテナンス費用がかさむ可能性が比較的低い福祉用具です。

購入した方が自己負担を抑えられる利用者も

福祉用具はもともと貸与が原則となっており、利用者の状況に合わせて貸与するものを変更していく方法が取られていました。しかし、過去の給付データを確認すると、貸与期間が長期間に及ぶ場合、購入した方が自己負担を抑えられる利用者が多いという実態もありました。

また、生産年齢人口が減り、高齢者が増えていく日本においては、介護関連の制度に持続可能性が確保されているかが重要です。持続可能な制度にするためには、制度を部分的に変更していく必要性があることはデータからも明らかです。

これらの事情を踏まえて厚生労働省が選択制を提案し、2024年度から選択制の導入が決定しましたが、同省は導入以降も“貸与原則”を覆すわけではないとしています。

利用の流れ

利用する際はどのように貸与・販売の判断をするのか、流れを解説します。

まず、どちらにするかを検討する際は、ケアマネジャーまたは福祉用具専門相談員が医師・リハビリテーション専門職などの医療職を含めてサービス担当者会議を開くか、各専門職に照会して意見聴取したものを踏まえて利用者に提案、判断の補助をします。

貸与した場合、貸与後は利用開始から6ヶ月以内に1度モニタリングを実施し、貸与継続の必要性を検討します。その後も貸与継続の必要性については検討する必要があります。

販売の場合は、福祉用具サービス計画の目標達成状況の確認とメンテナンスが必要です。そのため福祉用具専門相談員は商品に何かあった際、利用者が連絡を取れるよう、連絡先を提供しておかなければなりません。

また、利用者から求められれば、どのように使っているか、正しい使い方の指導・修理など、保証期間を超えた場合も対応する必要があります。

選択制の課題は?

利用者目線で選べて、トータルで安価に済む可能性が高い選択制ですが、現状ふたつの課題があります。

状態変化に細やかに適応できない可能性

課題のひとつは、状態変化やメンテナンスに即座に対応できない可能性があるという点です。

貸与であれば、利用者の状態変化に合わせて福祉用具を変更できていました。しかし、選択制で販売を選べるようになると、状態が変化して想定よりも福祉用具の利用期間が短くなった場合、貸与よりも高くつく、あるいはさらに買い替えが必要になり、金銭的な負担が増すケースもあります。

日本福祉用具供給協会の調べたデータでは、福祉用具貸与の利用期間が想定よりも短かったと答えた人が4割でした。また、利用者自身が貸与か販売かを選べるようになっていますが、利用者が自分の今後の身体状況を予測することは簡単ではありません。

日本福祉用具供給協会はこれらの事情を考えると、福祉用具の導入段階で利用期間を推定するのは難しいと警鐘を鳴らしています。

ケアマネや福祉用具専門相談員の負担増に懸念も

先程ご説明した貸与・販売の判断に際して、ケアマネや福祉用具専門相談員、そしてかかりつけ医などの負担が増加する点が懸念されています。

利用者自身では判断が難しい貸与・販売の判断を補助するためには、ケアマネや福祉用具専門相談員の負担が増加します。サービス担当者会議や専門職への照会、保証期間を過ぎても使用方法の指導・修理などの対応となると、相当量の負担がかかる可能性が高いです。

そのため、厚生労働省は正式な導入までに業務負担にも配慮した制度設計を実施する見込みです。

LIFULL 介護編集長 小菅のコメント

厚生労働省がケアプランの内容を調査した「予算執行調査(2020年度)」によると、福祉用具貸与のみのケアプランが全体の6.1%を占め、その内訳は歩行器や杖などの「歩行補助具」が約7割を占めていました。

もしも長期間にわたる使用が予想される場合には、貸与ではなく購入することで、利用者にとって経済的にも合理的な選択となる場合があります。さらに、一度購入すれば貸与に必要な諸手続きを省けるため、結果としてケアマネジメントにかかる費用を抑制することにも繋がりそうです。

しかし、購入して自分に合わなかった場合、顧客都合による返品交換が出来ない場合もあります。また、高齢者の身体状態は日々変化するので、短期間で不要となるケースも出て来るでしょう。

中には、本当は身体に合わなくなったのに、「せっかく買ったのだから」と無理して使い続けてケガに繋がる可能性も考えられます。

今回の方針では杖やスロープ、歩行器が対象のようですが、これを皮切りにメンテナンス頻度の低い福祉用具も徐々に購入へ移行するかもしれません。貸与か購入か。先々の身体状態の変化も考慮し、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員などに相談して決めたいものです。

編集長プロフィール
小菅秀樹
小菅秀樹 LIFULL 介護編集長。老人ホーム、介護施設の入居相談員や入居相談コールセンターの管理者を経て現職に就任。「メディアの力で高齢期の常識を変える」をモットーに、さまざまなアプローチで介護関連の情報を発信しています。
高下真美
高下真美 フリーライター

人材ベンチャーや(株)リクルートジョブズでの営業を経て、2016年よりフリーランスのライターとして活動。Webメディアで採用からサービス導入事例など幅広い企業インタビュー、SEO記事などを執筆。最近ワーママとなり、子供が手のかかる時期に親の介護問題が浮上してくる可能性が高くなったため、自らが気になることを調べて記事にしています。

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