高齢者への住宅の貸し渋りが社会問題となっており、住宅確保策が求められています。2021年国土交通省の調査データによれば、約7割の大家が高齢者の入居について拒否感を持っていることが判明しています。主な理由は家賃の支払い能力への懸念や室内での死亡事故発生に対する不安です。
高齢者向けの不動産仲介を専門にしているR65不動産の調査によると、65才以上の26.8%が現在の収入とは無関係に「年齢を理由とした入居拒否」を経験しているといいます。また25.7%の不動産会社が「高齢者の入居可能な賃貸住宅が全くない」と答えており、28.3%が「直近1年間で、年齢を理由に高齢者の入居を断ったことがある」としています。
高齢者や障害を持つ人など、一般的に住宅を借りることが難しい方々の強い味方となっているのが居住支援法人です。
居住支援法人とは、高齢者を含む住宅確保要配慮者が民間賃貸住宅にスムーズに入居できるように支援を行う法人です。都道府県から指定されたNPO法人や社会福祉法人、一般・公益社団法人、一般・公益財団法人、居住支援を目的とする会社などが改正住宅セーフティネット法に基づき、支援にあたっています。
住宅確保要配慮者とは賃貸住宅市場において、自分の力で適正な住宅を確保することが難しいため住宅の確保に特に配慮を要する方々のことで、高齢者や障害者、低額所得者などが対象として定められています。なお高齢者の心身の状態には個人差があるため、一律に下限年齢は設けられていません。
居住支援法人は、家賃債務保証の提供や賃貸住宅に入居するために必要な住宅情報の提供・相談、見守りなどの生活支援を行っています。また、居住支援法人の活動を促進するために全国居住支援法人協議会が2019年に設立され、ノウハウなどの情報を共有し、つながりを深める役割を果たしています。
政府は、居住支援法人が賃貸を借り上げて、それをまた貸しする「サブリース方式」を促進する方針です。サブリース方式の利点は、入居の判断を居住支援法人が行えるため“断らない住宅”が実現することです。住宅を確保するだけではなく、入居後の見守りや、福祉団体と連携しながら生活相談も含めた総合的な支援を目指しています。
また居住支援を実効性のあるものにするため、「居住ケアマネ」の育成も提言されています。居住ケアマネは、相談対応や日常生活支援、さまざまな別の支援制度へのつなぎ、死後の事務などの役割を担います。これらは長い時間軸での対応になるため、高齢者の住宅を安定的に確保するための制度設計と、コーディネートを行う居住ケアマネの育成が急がれます。
賃貸物件の入居を拒否される高齢者は四人に一人の割合で存在します。
この背景には、「孤独死」や「認知症によるトラブル」「残置物の処理」といった懸念があります。物件によっては、身元保証会社との契約を通じて入居が可能になる場合もあります。ただし、保証会社によって契約金が高額になることもあるため、金額と保証内容を慎重に検討する必要があるでしょう。
一方の家主も、空室が増えて困っている実情もあり、近年はIoTセンサーなど「安否確認システム」の導入が広がりつつあります。入居者の動きが一定時間ない場合、保証人や家族など各所に通知され孤独死の防止に役立ちます。家主の心理的負担を軽減できれば、貸し出しに前向きになる可能性が高まります。
また、入居者が要介護状態になった際に住み続けられるかどうかも課題といえます。物件のバリアフリー化だけでなく、介護サービス事業所との連携も欠かせません。すでに入居している50代以上の方も10数年後には高齢者になります。安心して生活できる環境整備の促進は、入居中の方にとっても重要となるでしょう。
編集プロダクション代表。早稲田大学を卒業後、PR会社やメディアを経て独立。介護関連の取材・執筆を始めて6年経ちました。イベントやインタビュー記事、現場取材など、人の声を伝えるのが得意。読者のプラスになる記事を書くことを大切にしています。
ヤムラコウジさんの記事をもっとみるtayoriniをフォローして
最新情報を受け取る