2030年には245万トンに―増える高齢者の“紙オムツ”をどうする?

この記事のポイント
  • 高齢化にともなって紙オムツの廃棄量も増えている
  • 紙オムツゴミは水分を含むため、輸送や焼却にもコストがかかる
  • 自治体と企業が協同でリサイクルを進めている

2030年には245万トンに達すると推計

日本の高齢化率は2023年9月15日時点で29.1%、世界で最高(200の国・地域中)の割合となっています。高齢者の増加に伴って課題となっているのが、大人用紙オムツの生産と廃棄(ごみ)です。

紙オムツのごみは2020年の調査で年間225万トンを超え、ごみ全体の5%以上にも上っており、自治体によっては可燃ゴミの1割を紙オムツが占めているところもあります。

さらに環境省の推計では、2030年には245万トンを超えるといわれています。

紙オムツごみの焼却は環境負荷も大きい

それだけ増えているのであれば、リサイクルすればいいのでは?と思われる方もいるかもしれません。

しかし、紙オムツの材料はパルプ、不織布・防水フィルム(プラスチック)、高分子吸収材(SAP)など、複数の素材が使われており、かつ汚物がついているため分別しにくい特徴があります。

さらに紙オムツごみは、輸送・焼却時にも環境負荷が大きい点が問題視されています。

・紙オムツごみは水分を含んで重いため、輸送時や焼却時のCO2排出量が増える

・水分を含むため最初は燃えにくく、助燃剤で燃やす必要がある

・助燃剤の費用も燃料費の高騰で金銭的な負担がかかっている

・プラスチック素材を含むため、一度燃えだすと一気に高温になって焼却炉を傷める原因になる

これら4つの点で、紙オムツごみを焼却処理する際に大きな問題が生じています。

             

紙オムツを燃料に―各地で進むリサイクル

CO2の増加、焼却炉の故障、焼却コストの増大などを問題視した自治体が、メーカーと協同してリサイクルの実証実験を始めています。

鹿児島県の志布志市や大崎町では、ユニ・チャームなどと実証実験を始め、汚物を洗浄した後、素材をそれぞれに分解して消毒・漂白をして紙オムツを捨てるゴミ袋に生まれ変わらせるなど、資源を再利用しています。

多くが紙オムツごみを洗浄、あるいは乾燥させて破砕し、ペレットなどの燃料にするリサイクルです。

また、鳥取県伯耆町では事業者と連携して紙オムツごみのすべての素材を固形燃料化することに成功し、再利用を実現しています。その他、福岡県の大木町、みやま市、千葉県松戸市などがリサイクルに取り組んでいます。

しかし、環境省が2022年に行った調査によれば、リサイクルを実施する自治体は全体の1~2%と少ない状況です。この状況を危惧した環境省は、2030年までに再生利用に取り組む自治体を100まで増やすと発表しました。

使用済み紙オムツを新品に?ユニ・チャームの取り組み

自治体と連携して再生利用に取り組んできたユニ・チャームは、2020年、使用済み紙オムツを新品紙オムツに再生させる水平リサイクルを成功させました。

固形燃料などにリサイクルされる低質パルプにオゾン処理を加えることで、上質パルプに生まれ変わらせ、新たな紙オムツの素材にして新品を作るというリサイクル循環です。

水平リサイクルというのは、リサイクル前後で用途が変わらない資源循環方法です。使用済みのペットボトルが新しいペットボトルとして使われるように元の製品の品質に戻して活用できるため、ごみの削減、CO2排出量削減、同じ資源で豊かに暮らす循環型社会の形成により効果的なリサイクル方法です。

この水平リサイクルで作られた新品のオムツは、九州地方の一部の介護施設や医療機関向けに販売開始されています。

LIFULL 介護編集長 小菅のコメント

育児や介護をする人にとってオムツの処理は負担になっています。
そこで国土交通省は2018年に、「下水道への紙オムツ受入実現に向けた検討会」を設置しました。

この検討会では、社会実験を通じて紙オムツが下水道システムに与える負荷や、処理施設や環境への影響などを分析するなど調査をしています。

オムツをトイレで流すことができれば、育児や介護の負担軽減、また認知症高齢者がオムツを誤ってトイレに流し詰まらせるなどの解決策にもなるでしょう。

また、環境保護の観点からも注目を集めました。

しかし、社会実験では処理装置による時間が掛かること、作業の煩雑化、排水にマイクロプラスチックが含まれること等が懸念点としてあげられ、2023年3月の経過報告で実現は先送りになりました。

国土交通省は、今後も紙オムツ処理のガイドライン策定や研究開発を推進し、新しい解決策を模索する方針です。

紙オムツの下水道受け入れが実現すれば、衛生的かつ環境にやさしい処理方法として確立されそうです。

これは、持続可能な社会の構築に向けた重要な一歩としても期待されるでしょう。

編集長プロフィール
小菅秀樹
小菅秀樹 LIFULL 介護編集長。老人ホーム、介護施設の入居相談員や入居相談コールセンターの管理者を経て現職に就任。「メディアの力で高齢期の常識を変える」をモットーに、さまざまなアプローチで介護関連の情報を発信しています。
高下真美
高下真美 フリーライター

人材ベンチャーや(株)リクルートジョブズでの営業を経て、2016年よりフリーランスのライターとして活動。Webメディアで採用からサービス導入事例など幅広い企業インタビュー、SEO記事などを執筆。最近ワーママとなり、子供が手のかかる時期に親の介護問題が浮上してくる可能性が高くなったため、自らが気になることを調べて記事にしています。

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