現在、公的な介護保険を使わない介護やヘルスケアにまつわるサービス、「介護保険外サービス」が注目されています。
その市場規模は2025年に約33兆円になると試算されています。また、経済産業省が2023年7月に公表した「新しい健康社会の実現に向けた『アクションプラン2023』」では、2050年に77兆円の市場にする目標が打ち出されました。
介護が必要になった場合、公的な介護保険サービスが頼りになることはよく知られています。どうして保険外サービスが必要なの?と思われる方もいるかもしれません。しかし、介護保険サービスは利用できるサービスの範囲が明確に決められており、介護者やそのご家族にとって使いにくい場合がありました。
例えば、ヘルパーが生活支援サービスとして食事作りを行う時、サービスの対象になるのは要介護認定を受けている人だけなのでご家族の分を用意することはできません。また、散歩や趣味のための外出を支援することも、介護保険の範囲ではできませんでした。こうした介護保険サービスの穴を補うのが保険外サービスです。
保険外サービスは介護保険サービスに比べ利用料が割高ですが、柔軟な対応ができることから需要が高まりつつあります。近年は働きながら介護をする方も多く、仕事と介護を両立させるためには、使い勝手がいい介護保険外サービスの利用が欠かせないという声もあります。
介護保険外サービスの内容は多岐に渡ります。既存インフラの活用で追加投資を最小限に抑えて開始できるため、訪問介護事業所などが保険外で生活支援サービスを提供することも多いです。
訪問介護事業所の介護保険外サービスは一般的な家事代行サービスと異なり、介護資格を持つスタッフが対応するので利用者にとっても安心感があるでしょう。また、ヘルパーの指名料を取ることも可能で、介護職員の賃金アップも見込めます。
また、ニーズが高いサービスの一つに「病院の付き添い」があげられます。介護保険でも条件を満たせば「通院介助」が認められていますが、送迎や受診手続きに留まり待ち時間の同席や院内介助には適用されません。病院付き添いサービスでは、院内介助はもちろん診察の同席や家族への報告、ワクチン接種の同行等にも対応し、利用者の多様なニーズに応えることが可能です。決して安価ではないものの、家族が仕事を休んで付き添うことを考えると、費用対効果の高いサービスと言えそうです。
保険外サービスが注目されている理由は、利用者側の利便性だけではありません。介護サービスを提供する側からも期待が寄せられています。
高齢人口の増加、社会保障費の増大により、介護保険は幾度となく報酬の減額が議論されてきました。介護給付が抑制され、特に中小の介護事業者の経営環境は年々厳しくなりつつあります。介護保険外サービスは介護保険の改訂による影響を受けないため、経営を持続させる上での頼みの綱となる成長事業として、参入する介護事業者が拡大しているのです。
介護保険制度自体の持続可能性と、介護事業者の持続可能性、その双方の打ち手として介護保険外サービスが注目されている状況と言えます。
期待の眼差しを向けられている介護保険外サービスですが、市場の成長には課題も存在します。そのうちの一つは、サービス提供者側に事業を続けるためのさまざまなノウハウが不足していることです。
これまで介護事業を行ってきた事業者は、介護保険給付を前提とした事業経営しか行っておらず、自身で価格を設定し、自身でサービスの売り上げ拡大につなげる経験が足りません。
一方で新規参入の事業者には一般的な事業ノウハウがあっても、サービスを利用する高齢者や介護者家族についての知見が不足している、あるいは利用者からの認知、販売チャネルがないケースが多く見られます。
介護保険外サービスは特に、事業を開始してもサービスの認知を得ることが難しいのが現状です。生活に困りごとを抱えた高齢者や介護者家族が主な利用者層ですが、彼らが介護の情報を得る主な接点はケアマネジャーや地域包括支援センターです。
専門職が、日々新しく生まれる介護保険外サービスを網羅的に把握することは難しいでしょう。利用者やご家族、利用者に接点がある専門職にどこまで情報を届けられるかが、サービス提供者側には大きな課題となっています。
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