老後について考えるうえで欠かせないのが、葬儀とお墓のこと。
とくにLGBTQsの方々にとっては、婚姻にもとづき親族になった者たち同士、つまり「イエ」で受け継がれていく旧来のお墓の在り方は、悩みの種となっています。
そんな中、お墓を管理する寺院にも新しいお墓の姿を模索する動きが生まれているようです。近年では墓石のないお墓、「樹木葬」の需要が増え、見学に訪れるLGBTQsカップルも多いのだといいます。
「樹木葬」を扱い、「LGBTカップルと墓地管理者向けのガイドライン」を制定した株式会社アンカレッジ・菊池社長、そして樹木葬も含んだ墓地を管理している愛知県・實成寺(じつじょうじ)の渡邉英晃(わたなべえいこう)住職にお話を伺いました。
――最近、「樹木葬」の見学に訪れるLGBTQsの方が多いと聞きました。樹木葬とは、どのようなお墓なのでしょうか。
樹木葬は木や草花の下で眠れるお墓で、その多くは永代供養墓に分類されます。
先祖代々受け継いできたお墓を末代まで守っていくのが一般墓に対し、永代供養墓のお世話は一代限りでよく、以降はお寺や行政といった墓地の管理者が守ってくれるんです。お墓を継ぐ人がいない方や、継ぐ人がいても残された方に負担をかけたくない方にも使っていただきやすいのが永代供養墓のメリットかなと思いますね。
2019年の鎌倉新書の調査では、永代供養墓の中でも樹木葬がお墓業界全売上の40%を占め、すべてのお墓の中で1位になるほどの人気です。
――継ぐ人がいなくても利用できるという観点から、戸籍・血縁上の家族を持ちにくいLGBTQsの方からの需要が高まっているだけでなく、お墓業界全体でも人気なんですね。同性カップルやペットと一緒に入れるという話も聞いたのですが、本当ですか?
確かに、最近の樹木葬には、同性カップル同士やペットと同じお墓に一緒に入れるものも増えてきています。ただ、すべての樹木葬でLGBTQsのカップルの受け入れをしているわけではないんですね。
厚生労働省が発表している墓地管理規定のひな型には「お墓に入る人は、そのお墓を維持・管理する人の親族を原則とする」といった一文が書かれています。同性婚が認められていないLGBTQsカップルは墓地管理規則の壁に阻まれて、同じお墓に入るのが難しくなっているのです。
そうした規則に則るかどうかは墓地管理者の考え方によるので、一般墓だけでなく、永代供養墓でも親族以外の受け入れを拒否するところもあります。永代供養墓には、お世話は一代限りで良いという特性があるために、親族以外も広く受け入れている墓地管理者が多いのではないかと思いますね。
――すべての永代供養墓および樹木葬が柔軟、というわけではないんですね。
そうなんです。LGBTQsの方がお墓に入ること自体、法律上は問題ないのに慣習が妨げている。
そのほかにも、誰かが亡くなったときに亡くなった方の納骨をどう弔っていくのかを決める「祭祀主宰者(さいししゅさいしゃ)」をめぐってのトラブルも多いですね。亡くなった方が生前に祭祀主宰者を指定しておけば、親族以外の方であっても法律上は問題ありません。
指定がない場合は一番近い親族の方が祭祀主宰者になることが定められていますが、ほとんどの方は生前に意思表示されないので、一番近い親族の方が祭祀主宰者になるきまりだと考えていらっしゃる方が多いんですね。こうした背景から、故人の生前の意思が尊重されないトラブルも多々ありました。
――葬儀やお墓に関しては、法律が認知されていないために慣習が優先されてしまうんですね。
そうなんです。そうした背景から、弊社では「LGBTカップルと墓地管理者向けのガイドライン」をつくりました。このガイドラインでは、墓地管理規則を改定して柔軟に対応できるようにしたり、生前から意思表示をした書面をもらっておくよう促したりしています。
書面をもらっておけば、同性カップルの意思が尊重されるだけでなく、血縁関係にない方が同じお墓に入ることに反対した親族の方が「お骨を返してください」と言ってきた際にも書面を見せることで対応できます。墓地管理者側もトラブルを避けられるメリットがあるのです。
法律以上に慣習が力を持っている葬儀やお墓の現場。これまでにどのようなニーズや課題があり、どのように乗り越えてきたのでしょうか。
墓地管理者の寺院にもお話を聞きました。
――實成寺さんでは、LGBTQsの方の葬儀やお墓への受け入れを積極的に行っていると伺っています。どういったことがきっかけで、始められたのでしょうか。
LGBTQsの方に限らず、事実婚をされている方や再婚された方などでも、思った通りの葬送ができない事例が多かったんです。パートナーが祭祀主宰者になれないケースや、お亡くなりになった方の血縁者や戸籍上の家族に先に連絡が行くことで立ち合いすらさせてもらえないケースもありました。
私がハワイのお寺で住職をしていたときは、個々の信仰で、故人の望んだお寺でお葬式をして、故人が望んだ場所に納骨することが当たり前でしたが、日本に帰ってくるとそうではなかった。お葬式は自分が“してもらうもの”という認識が強かったために、自分がどうしたいかと考える余地がなかったんですね。
そうした背景から2001年に永代供養墓を始めました。その後に樹木葬を取り入れたところ、さまざまな立場の方がご自身の想いを吐露してくださるようになりました。
――最期の迎え方についての考えを、胸に秘めていたんですね。LGBTQsの方に関して、具体的にどのような問い合わせがありましたか。
10年くらい前までは性的マイノリティの方のご両親からのお問い合わせが多かったですね。お墓に入るのは血縁者で、且つ「家を継ぐ」人に限られることが多かったので、子どもを持たない可能性が高い性的マイノリティのお子さんを同じお墓に入れていいのかと心配されたようです。
最近では当事者の方からの相談も増えて、パートナーの方と一緒のお墓に入りたいというご要望はもちろん、トランスジェンダーの方や性的欲求がない方など、ご自身のセクシュアリティをオープンにしたうえでのご相談も増えてきています。
――アンカレッジさんのガイドラインができたことで、現場に変化はありましたか?
私たちのお寺ではもともと、故人の生前に、祭祀主宰者を誰にするかを定めた契約書を交わせるようにしていました。公正証書よりも効力は弱いものの、口約束よりもトラブルに発展しにくくはなりますから。
ただ、他のお寺では祭祀主宰者の確認が後追いになることが多くて、トラブルも少なくなかったでしょう。そういった意味で、アンカレッジさんの墓地管理者向けガイドラインに助けられる寺院は多いと思います。
2020年には自筆の遺言書を法務局に預けられる「自筆証書遺言補完制度」ができたことで、遺言者の最終意思が実現しやすくなりました。家族のかたちもますます多様化する中で、最期の迎え方に関する意識も変わってきているのかもしれません。
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LGBTQsの認知が広まったとはいえ、墓地管理者の考え方によっては未だに親族ではない方が同じお墓に入るのは難しい現状があります。保守的な考え方を持った方も多く、連帯も強いお寺業界では、独自の考え方を打ち出しにくいことも理由のひとつでしょう。
しかし、實成寺の渡邉住職は、仏教の「臨終正念(りんじゅうしょうねん)」の考え方に則しても、故人の意思を尊重することは大事だと話します。臨終正念とは、人生の終わりを悩みや恐れがなく、仏さまのように心安らかなで迷いが晴れた、正しい念(おもい)で迎えること。
民間企業によるガイドラインの制定だけでなく、法律の改正も進んできています。LGBTQsであるか否によらず、自分の望んだ最期を誰もが当たり前に迎えられる時代はもうそこまで来ているのです。
文筆業。「家族と性愛」を軸に取材記事やエッセイの執筆を行うほか、最近は「死とケア」「人間以外の生物との共生」といったテーマにも関心が広がっている。文筆業のほか、洋服の制作や演劇・映画のアフタートーク登壇など、ジャンルを越境して自由に活動中。
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