
実家には高齢の親だけが住み、子どもである自分は遠く離れた土地に住んでいる。
そんな状況においては、親が歳を取るにつれ「この先、老老介護になりそうで心配」「自分に遠距離介護ってできるのだろうか?」といった不安がつきものです。
実際に親の老老介護を目の当たりにしたライターの宗像幸彦さんが、そんな不安を解消するヒントを専門家に聞きました。
2024年師走のある日、熊本に住む父親から「お母さんが倒れて入院した」とLINEで連絡が入った。
朝方トイレに行こうとして足がもつれて倒れ、病院に連れて行ったところ即入院になったという。実はそれ以前にも認知症を疑うような兆候はあったが、まさかこんな形で急展開するとは思わなかった。
診断の結果、母親は認知症ではなくラクナ梗塞という病気に罹患していることが分かった。
しばらくして母親は退院し、2025年2月から父親が母親を在宅でケアする「老老介護」の生活が始まった。幸い、当初深刻だと思われた後遺症もさほど残らず、時間が進むにつれ母親は奇跡的な回復を遂げた。
現在は、日常生活において父親のサポートが必要な場面はほぼなく、状況は落ち着いている。
とはいえ僕は実家から遠く離れた東京に住んでいるし、両親の年齢を考えると、この先また何かあったら……と心配は尽きない。
そこで今回は、医療ソーシャルワーカーとして多くの方の退院後の生活を支援してきた経験もある「LIFULL 介護入居相談室」相談員の原さんに、この先両親を見守る上で気を付けるべき点を聞いてみることにした。

本題に入る前に、念のため実家の状況をお伝えしておこう。

――うちの実家のケースは、元気な父親が母親をケアする、いわゆる「老老介護」です。こういったケースでよくある課題、特に「見えにくいけれど注意しておいた方がいいリスク」にはどのようなものがあるのでしょうか。
原:一口に老老介護といっても本当にさまざまですが、共通するリスクといえば「共倒れになってしまうこと」でしょうか。
お父さまはまだまだお元気かと思うのですが、それゆえ頑張り過ぎて一人で抱え込んでしまう恐れはあるかと思うんです。
――84歳になる父親は今でも車の運転をしたり(過疎地域の性質上、移動手段が極端に限られるため)、ちょっとした農作業もこなしたり、この年代にしてはかなり体力もある方です。とはいえ、この先もずっと元気でいられるわけではありませんし。
原:80代半ばで思うように体を動かせて、自分のことを自分でできるのって、素晴らしいと思うんですね。
ご本人の自信にもなりますし、お母さまのケアを含めた日常生活のあらゆる動きが健康寿命を伸ばすために役立っているはずなので、できる範囲内で今の生活を続けていただくのがいいと思います。
ただ、しんどいときに「しんどい」「つらい」と正直に言える状況や相手がいるのも大切です。周囲が気付かないうちに限界がきて、ある日急にパタッと倒れてしまう。そんなケースも決して少なくありません。
――実はそれがいちばん怖いなと思っていたことです。母親の健康状態もさることながら、むしろ父親の方こそ心配だなと。
原:そうですよね。特に男性の場合、なかなかSOSが出せなかったりします。なので「周りに助けを求めることは悪いことじゃない」とご本人にお伝えいただくのがいいかもしれません。
ご家族はもちろん、ケアマネージャーさんをはじめ専門職の方々に頼ることで、最悪の事態を免れられることもありますから。

――老老介護において、やはりプロの目が入るのは大事なんですね。
原:それは間違いないですね。現在、ケアマネさんは定期訪問されているのでしょうか?
――だいたい月1回ペースで訪問してもらっています。
原:なるほど、標準的な頻度かと思います。ただ、それだけでは状況を全て把握するのが難しいケースもあるんです。
ご家庭の状況を考えると、ヘルパーさんや訪問リハビリのような専門職の方々に、定期的に来ていただくのもいいかと思いました。
何よりそうすることで、お母さまの変化にも気付きやすいと思うんですね。「言動が以前と違うな」とか「ちょっと歩行がつまずきやすくなっているかも」とか、専門だからこそ分かることが多々あります。
あと「じゃあ次はおうちの周りを散歩できるようになりましょう」「好きだった◯◯ができるようになりましょう」とか、次の具体的な目標も立てやすくなるんです。
それが結果的にお母さまの状態をよりよくするためにもなりますし、お父さまの負担軽減にもつながるのではないでしょうか。
――自宅介護がスタートした今年2月は、介護ヘルパーさんに来ていただいて食事のサポートや入浴介助をお願いしていたのですが、体調が上向くにつれてストップしちゃいました。あと、当初はデイサービスの利用を予定していたものの、結局一度も行ってないんですね。母親の性格上、あまり向いていなくて。
原:はい、もちろんご本人のご意向なのでそこは尊重くださっていいと思います。ただ、今後のことを考えると、本当はデイサービスなどの通所サービスには行っていただきたいところなんですよね。
というのも通所サービスに慣れていない方って、この先の施設入居もすごくハードルが高くなる傾向があるんです。もし可能でしたら今のうちに集団生活に少しでも参加していただいて、なるべく抵抗感を少なくしておくのもいいのかなと。
今後、例えばお父さまが何かご病気やけがで入院するようなことがあったら、お母さまを「ショートステイに預けたい」となることもありますよね。そういうときにお母さまご本人が施設に慣れていないと、ものすごいストレスがかかってしまうんです。
――う、なんか想像するだけでこっちにも心理的負荷がかかりそうです。正直、今の母親にとってデイサービスはハードルが高いですね。
原:通常のデイサービスって朝の9時から夕方4時くらいまでで、お歌を歌ったり、おしゃべりしたり入浴したりして、結構長いですよね。
であれば、半時間のリハビリ特化型のところに行ってみるのも手です。午前中だけとか、あるいは午後だけでお風呂もなく、体操とかリハビリに徹するだけのプログラムを組んでいるところもあります。
デイサービスについては、下記の記事で詳しく紹介しています。
デイサービス(通所介護)とは?費用や種類・内容、メリットなど――ところで、今後気がかりなのが母親の介護度です。現在は要介護度4ですが、退院当初から比べると、だいぶ回復してきており、次回の認定(2026年1月予定)は明らかに要介護度が下がることが予想されます。そのときに受けられなくなる支援など、知っておくべきポイントがあれば教えてください。
原:確かにお母さまの状態を伺っていると、現在の要介護から要支援に変わるかもしれません。ただし介護度が変わったからといってサービスの種類が変わるわけではなく、サービスを受けられる量が変わってくるんですよね。例えばそれまでデイサービスに週3回行けていたのに、1回しか行けなくなるとか。
唯一サービスの種類が変わるのは、福祉用具くらいですね。例えばレンタル車椅子は、要介護度2以上の方しか借りられない、といった具合です。
要支援・要介護度によるサービスの違いは、下記の記事で詳しく紹介しています。
要支援と要介護の違いは?状態や受けられるサービスの違いを解説――母親の場合、最初の介護認定で要介護度4が下りた当初、車椅子や簡易トイレをレンタルでそろえたのですが、結局は一度も使わずに返却してしまいました。
原:全然問題ないと思いますよ。車椅子は状態に応じて借りたり返したりするものなので、また必要になったら借りればいいんです。「退院直後はいろいろそろえてみたのに、まったく使わずに返すことになった」という方はすごく多いです。


――ちなみに、要介護度が下がるケースは多いのでしょうか?
原:状態が良くないから入院しているので、入院中に受ける介護認定ってわりと重く出がちではあるんですね。
なので、退院した後に要介護度が下がるのはまったく珍しくないですし、むしろ下がることは自信に思っていいんです。「健康状態がよくなって、サービスが必要なくなった」ということなので。
逆に「状態が悪化したな」と思ったら、ケアマネさんに依頼して、要介護度を上げてもらうための区分変更の申請を出してもらうことが可能です。現状の有効期間がまだ残っていたとしても、認定の見直しをしてもらえます。

――うちの場合は、老老介護に加えて、自分が東京在住というハンディもあります。離れて暮らす子どもとして、親の心身の変化に早く気付くためにできることはありますか?
原:お電話の会話だけではなかなか分かりづらいこともあると思うので、帰省なさった時には、ぜひ次のようなことがないかチェックしていただきたいです。
――母親の体重かぁ。うーん、全然把握してないですね。
原:体重って、実は重要なポイントなんです。デイサービスなんかだと、体重を測ってもらえて、そこで栄養状態や病気に気付くこともありますから。
あとお風呂に入れてもらうときに体を見てもらうことで、ケガをしていないかどうかも分かります。高齢者の場合、あちこちぶつけてしまってあざができているようなケースも結構あるんです。
――なるほど、完全に盲点でした。そうなると親が元気なうちから、一回一回の帰省でちゃんと観察しておく必要がありますよね。
原:あとは冷蔵庫の中をチェックするのもいいかもしれません。「これ、いつの?」という食品が、以前はなかったのに増えたなとか。
もし自分で気付きにくいのであれば、家の中の写真を帰省のたびに軽く撮っておくのも手です。「こないだ帰省したとき、これまでと様子が全然違ったな」「ちょっと体調が怪しかったな」などと思ったら、ケアマネさんに相談してみるといいでしょう。
――あらためて、私たちが今後に向けて備えておくべきことがあれば教えてください。
原:介護生活って、どうしても想定外のことが起こるんですよね。どれだけ準備をしていても、予定通りにはいかないというか。
そこを理解した上で、何か起こった時に、そのとき考えられる中での最善を尽くす。そう心構えした方が、いざ予定通りに行かなかったときにも、心が揺らぎにくい気がします。
――まさに人生そのものですね。決して思い通りにはいかない。
原:そのために、さまざまな制度や専門家の存在があると思うんです。
なのでどんどん頼りにしていいし、本当に急を要するときに誰に連絡するかを、あらかじめ押さえておいた方がいいと思います。ちなみに宗像さんは、ご兄弟はいらっしゃるのでしょうか?
――妹が1人いて、熊本市内に住んでいたので何かあれば頼るしかないと思っていた矢先に、(妹の)夫の仕事の事情で鹿児島の離島に転勤になってしまって。なので緊急時は近所の方か、同じ地域に住んでいる親戚に頼るしかないのかなと思ってます。
原:なるほど。加えていうなら、ケアマネさんも頑張って緊急対応をしてくれるケースもあるので、一応はそこも視野に入れつつ、何かあれば警察に電話することも頭の片隅に入れておいてください。どうしても誰にもつながらず緊急を要するときは、110番するのも一つの手段です。
――ただ、将来的なことを考えれば、兄妹間のコミュニケーションはなるべく密にしておいた方が後々いいですよね。うちの場合、恥ずかしながらそこが課題というか、昨年末に今後の両親のサポートについて話しているうちに兄妹ゲンカになっちゃって……。
原:難しいかもしれませんが、なるべく兄妹間で話す機会を持たれた方がいいと思います。家族の老後・介護に関しては、それぞれ異なる意見を持っていることが多々あります。
例えばよくあるケースだと、親をいちばん介護している息子さんなり娘さんなりは、親のことを考えて最後まで家で暮らせるようにしてあげたいと思っていても、遠方に住むご兄弟は「施設に入れるべき」と強く主張したり。
入院してるときでも、家族それぞれが違う要望を病院に言ってきたり。延命治療でも、治療をどこまで続けるのかとか、兄弟間で意向が違って揉めるケースが本当に多いんです。
――事例を聞いているだけで具合が悪くなりそうですが、やはりとことんまで話し合うしかないんでしょうね。
原:私たちのような介護の専門職の中で言われているのは、施設入居の調整とか、在宅サービスの調整とかいろんなお仕事がある中でもっとも大変なのは「意思決定支援」なんです。
どういった選択をすればご本人やご家族に納得いただけるのか。そこがご本人を含めたご家族にとっても、われわれにとってもいちばん難しい上に、時間と労力をかけないといけないところなんですね。
なので、例えば「将来、施設入居がいいと思ってるんだけど、どう思う?」とか「こういうケースになったらどうしよう?」とか、それとなく話し合っておいた方がいいかもしれませんね。
――自分としては、親の望むようにさせてあげたいですね。父親は自分の生まれ育った土地とか実家にすごく愛着を持っていて「この家がいい」とずっと言ってますし。しかも、夫婦でともに暮らした方が幸せだというのは、両親の姿を見て痛感したので。
原:はい、まずは当事者、宗像さんのご実家であればお父さまとお母さまがどういう老後の暮らしを望んでいるかが大切ですよね。余生を自宅で過ごしたいなら、やっぱり自宅がベストですし。
介護中のご家族にはいつも申し上げているんですが「どんな状態であってもご自宅で暮らせないことはない」んです。寝たきりや難病の方だって、いろんなサービスを利用しながら自宅で一人暮らしをされていている方もたくさんいらっしゃいます。
私自身、両親には「自分たちの好きなように生きてね」って常々言ってるんですよ。ただ、「転んでも知らないからね」とは釘(くぎ)を刺していますけど(笑)。
――ある程度のところで諦めも必要だったり、ときには突き放す覚悟も持つべきなんでしょうね。それにしても「どんな状態でも自宅で暮らせないことはない」と聞くとこちらも励まされます。
原:あとはもう一つ、ご家族が介護生活で犠牲にならないことも同じくらい大切です。
まだまだ長い人生を生きなきゃいけませんから。いかに自分の生活や人生をないがしろにしないで親をサポートするか。この点をぜひ意識していただきたいと思います。
編集:はてな編集部
老人ホーム選びの誤解とポイント、入居条件の確認と探し方のポイント、見学予約〜入居までの流れなど、老人ホーム選びの疑問について分かりやすくまとめた「後悔しない 老人ホームの選び方ガイドブック」を無料でプレゼントしています。
お申し込みはこちら
tayoriniをフォローして
最新情報を受け取る