
高齢の親の老後を見守る上では、一つの選択肢として「同居」があります。
親の様子を近くで見られる安心感はありつつも、特に子どもが複数人いる場合、きょうだいのうち誰が同居するのか、一緒に暮らさない子どもはどのようにサポートするのか、負担の偏りが発生しないか、といったさまざまな課題も出てくるでしょう。
近々「母と妹が同居を始める」予定だというライターのほそいあやさんが、姉妹間の連携や見守りのポイントについて専門家に聞きました。
70代半ばの私の母は現在、長年住んだ住まいを離れ、理想の老後の生活を実現するために新居(戸建て)への住み替えを進めている。新居では、母と独身の妹(次女)が同居する予定だ。
千葉県内の閑静な土地を買い、二人であーだこーだ言いながら間取りなどの設計を決めていて、これから着工という段階だ。バリアフリーの平屋で、二人で保護犬を飼うことを決めている。やることが多く大変そうだが、それなりに楽しそうである。
長女の私は現在東京に住んでいるが、夫の家業の関係で気軽に引っ越すことができない。今後、母の介護が必要になったり、妹が結婚することになったりしたときに、どのようにすればいいかと考え始めている。
今回は、住み替えによって母の理想の老後の生活を実現しつつ、将来的な介護なども見据えて今から考えておくべきことについて、母と共に専門家の方にアドバイスしてもらった。


今回相談したのは、地域の高齢者のための相談窓口である地域包括支援センターでの勤務経験がある橋本さんだ。

ほそい:高齢者の住み家として、ここは押さえておきたいというポイントはありますか? 新居はまだ着工していないので、今のうちに聞いておきたいなと。
橋本:まず気にかけたいのは、手すりの設置や、転倒防止の策がちゃんと取れているのかどうかなど、安全面ですね。新居はバリアフリー対応の平屋ということで、ある程度考慮されているのかなとは思います。
ただ、住み始めてからも定期的に確認していただくことをおすすめします。実際に住んでみて「ここが気になるかも……」と初めて気付く部分も出てくるかなと思うので。
ほそい:なるほど。高齢者にとって一番怖いのは転倒だと、過去のtayoriniの記事でも学びました。
高齢者の介護が必要になるきっかけとして多いのが「転倒」です。家の中での転倒を防ぐためのポイントについては、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
もうすぐ70歳で一人暮らしの父の家、今のままで大丈夫?「老後の住まい」を見直すポイントを専門家に聞くほそい母:今は足腰に問題はないのですが、将来もし車椅子が必要になったときのことを考えて、今のうちに廊下の幅は広げておいた方がいいでしょうか? スロープなどは後からでも付けられると思うんですけど。
橋本:そうですね。通れる幅を確保できるなら、その方がいいと思います。
ほそい母:ちなみに、もともとバリアフリーに対応して建てられてないお家に住んでいる方は、どうされているんですか?
橋本:そういうお家の方の場合は、車椅子になると、施設を検討される方が多いかなと思います。生活の中で階段の上り下りが難しいとなった時に初めて「施設」という選択肢が出てくるケースが多いんです。
ほそい:(母に向かって)住み続けるなら、廊下は広げてもらった方がよさそうだね。
ほそい母:そうだね。今ちょうど新居の間取りを考えているところだから、まだ広げてもらうことはできるかもしれない。
ほそい:これは一緒に住む妹の立場からなのですが、高齢の親と同居を始めるにあたって、事前に母と話し合っておくべきことはありますか? 例えば日々の役割分担の考え方、お互いのプライバシーの確保についてのアドバイスなどがあれば教えてください。
橋本:そうですね。役割分担に関しては状況によっても変化する可能性はあるので、柔軟に対応しつつ、お互いに協力してできる限り無理なく取り組むことが大切かなと思います。
あとは、コミュニケーションを定期的に取る。何かあったらすぐに共有して話し合うのは大切だと思います。
プライバシーの確保に関しては、基本的なことですがそれぞれのパーソナルスペースを尊重する。「今日は一人で過ごしたい」というときは、率直に伝えてもいいのかなとは思います。
ほそい:これは本当にそうですね。私たちも一緒に住んでいる時間が長かったですが、けっこうけんかとかしてたんで……。
ただ、新居で母たちは犬を飼うので、犬がクッションの役割を果たしてくれそうな気はしています。私も遊びに行ったときは、一緒に散歩したい。
橋本:そうですね、共通の趣味とか、時間を持つのも大事だと思います。
ほそい:昔から頻繁に皆で出かけたりはしているので、今後もその関係を続けていけたらなと。母も妹も私もキャンプが好きでよく行くんですが、これからはそこに犬が加わるのが今から楽しみです。
ほそい:母との距離が今よりも離れるなかで、今後も私が母の状況を把握して適切にサポートするために、押さえておくべきポイントはありますか?

橋本:離れていてもコミュニケーションは大事なので、こまめに連絡を取ることと、お母さまの健康状態の把握を意識できるといいと思います。
もし今後お母さまが通院するようなことがあれば、一緒に行って先生からお話を聞くというのも一つかなと思います。
引っ越した先を一緒に散歩するのもいいでしょう。スーパーや薬局などがどこにあるのか、引っ越してすぐに一緒に見ていただくと、安心につながるのかなと。
ほそい:分かりました。通院については、今のところ持病はないですが、今後出てくるかもしれないので、その時は付き添います。
あと、新居は私の家から車で30分ほどの場所なのですが、もし母が一人の時に何かあったらと不安があります。そういう場合にとっさに連絡できたり、本人が連絡ができない状況でも通知がきたりするようなツールを導入したいと思っています。他の皆さんはどのようにしてらっしゃいますか?
橋本:私が地域包括支援センター在籍時に訪問させていただいたお宅では、ほとんどの方が見守りカメラや緊急通報装置のようなものを付けていましたね。
市が独自で貸し出しをやっていることもあるので、まずはお住まいの地域でそういったものが使えるかどうか確認していただくのがいいのかなと思います。
ほそい:そうなんですね! ちなみにちょうど最近、義父が「呼吸がしづらい」と電話をかけてきて、病院に連れていったら急性心筋梗塞だった、ということがありました。すぐに処置できたので助かりましたが、もし遅れていたら危なかったんです。
橋本:そういうケースもあるので心配ですよね。例えば携帯電話なら、緊急時にボタン一つで家族につながる設定をしておくといいと思います。
ほそい:なるほど。あと、tayoriniの過去記事でも出ていましたが、Amazonの「Echo Show」は声で発信できるので、万一動けなくなって近くにスマホがない、という時のためにもよさそう。新居に置いてもらおうと思います。
あとお母さん、さっきのお義父さんのこともあったから、ちょっとした異変でも連絡してね。
母:分かった。
下記の記事では「Echo Show」をはじめ遠方で暮らす父とのコミュニケーションツールについて、ライターの地主恵亮さんが紹介しています。
たまにLINEするくらいだった遠方の父67歳と僕。ITツール導入でコミュニケーションが劇的に変化したほそい:こまめなコミュニケーションを意識したとしても、私と妹では、母と関わる頻度がどうしても異なります。今後一緒に母を見守っていくにあたり、姉妹間で話しておくと良いことありますか?
橋本:お母さまの今後の希望や意向については、お二人で事前に確認をしていただきたいですね。
あとは何かあった際の緊急連絡先を誰にするのかとか、そういったところも事前に話していただくといいと思います。
ほそい:たしかに。妹は同居はしているけれど昼間は会社にいるし、話し合った方がいいですね。
橋本:あとは、お母さまの意向とも関わりますが、介護の必要性が出てきたら外部のサービスを使うのかどうかも、事前に相談しておくことをおすすめしたいです。
ほそい母:介護が必要になった場合は、地域包括支援センターに行けばいいのでしょうか?
橋本:そうですね、地域包括支援センターでは、いろいろな介護サービスについて、料金のことなども含めて教えてもらえます。
あとは、介護サービス以外に地域でやっているサークル活動などの紹介もしてもらえるんです。まずはささいなことでも、気軽に地域包括支援センターにご相談いただければと思います。
ほそい母:ありがとうございます。行ってみます。
「地域包括支援センター」については、下記の記事で詳しくレポートしています。
「地域包括支援センター」は何をしてくれるところ? 将来の遠距離介護に備え、不安や疑問をぶつけてみたほそい:母はまだまだ元気ですが、今後もし介護の可能性が高まってきたときのために、今から準備しておくとよいことありますか?
橋本:やはりまずは、お住まいの地域の地域包括支援センターがどこにあるのかを確認しておいた方がいいと思います。いざ介護が必要になったときにも、すぐ相談できるように。
あとは、できれば介護保険制度について多少知っておくと役に立つと思います。介護保険を活用してどんなサービスが受けられるのかを、事前にリサーチしておく形ですね。
ほそい:なるほど。確かに介護保険って名前はよく聞くけど、中身が全然分かっていませんでした。
橋本:ただ、使えるサービスが多岐にわたるので、結構複雑なところがあります。なのでそれも含めて、将来的にどういうサービスが利用できるのか、地域包括支援センターに聞いてみていただくのがいいかなと。
実際にサービスを組み立てるのは地域包括支援センターの方やケアマネージャーさんの仕事になるので、専門家の方々に相談しながら、安心して任せていただけたらと思います。
ほそい:ありがとうございます。あと移住先での介護を考える上で、家族が気にかけておくポイントはありますか?
橋本:先ほどお話ししたことにもつながりますが、何かあった時にかかれる病院が近くにあるのかというところですね。総合病院だと待つ時間が長かったりするので、気軽に頼れる町のお医者さんがあれば、よりいいのかなと思います。
あとは、地域のサービスにどんなものがあるか。介護保険以外の部分でも、地域で独自で行われている介護サービスなどもあったりするので、事前に確認していただくのがいいのかなと。
さらには地域のコミュニティー活動なんかも知っておくと、つながりが深められて安心かもしれません。
ほそい:最後に、介護への備えだけでなく高齢の親の「これからの暮らし方」をよりよくするために、家族としてどんな心構えがあるといいでしょうか。
橋本:一番は、お母さまの選択肢を尊重していただくことでしょうか。歳を重ねるにつれご自身でできることはどうしても減ってくるとは思うのですが、その中で家族がサポートしながら、どのようにお母さまの意思を尊重していくか。
あと言わずもがなですが、ご家族それぞれがご自身の健康も大切にすることですね。
ほそい:確かに、それはとても大事ですね。
ほそい母:私としては一番心配なのが、この先認知症になって、自分ではそのことに気付かず、適切な判断ができなくなってしまうことです。子どもたちに迷惑をかけたくないという思いがあります。そういう場合の対処法というか、どこに相談に行ったらいいかとかありますか?
橋本:それも、地域包括支援センターに相談に来ていただいて大丈夫です。ただ、認知症は発症したら治すのはなかなか難しい病気ではあるので、認知症にならないための「予防」が大切ですね。
できるだけ活発に外に出たり、友人や地域の方と関わる機会を持ったりすることで脳が活性化されれば、防げる可能性がある病気だといわれています。誰かと関わりながら、楽しく過ごしていただくのがいいのかなと思います。
ほそい:母は今、近くの公民館のような所で開催されている、布ぞうりを作るサークルに通っているんです。手先を動かす作業だから、認知症予防にもつながるんじゃないかな?
橋本:いいですね! そういう情報も地域包括支援センターの方でまとまっているので、やはり介護の必要がなくても、地域のコミュニティーを教えてもらう意味で、一度気軽に行ってみていただきたいです。
ほそい:なるほど。いきなり相談に行ってもよいものなのでしょうか?
橋本:そうですね。スタッフが出払っている場合もあるので、できれば電話で予約をしてから行くといいでしょう。
それと認知症の予防としては「予定を入れる」ということも効果的だといわれているので、サークル活動などで週に一回とか、定期的に外出の機会を作るのはいいですね。
ほそい:予定を忘れないようにすることも、脳にはよさそうですね。あと、今後は犬の散歩もルーティンになってよいかもしれない。
ほそい母:新居の近くに大きい公園があって、犬の散歩をしている人がとてもたくさんいるんです。毎日遭遇していたら、お友達もできるんじゃないかって。
あと、これはまだ分からないのですが、近所に子ども食堂とかをいろいろやってる場所があるんですけど、そこにボランティアに行きたいなと思ってます。私は以前学童の先生をしていたこともあるので、そういう場所で少しでも働けたらいいなと思っています。
ほそい:(母に向かって)え、引っ越したらそんな充実しちゃうの! 生涯現役でいられるのはいいことだと思う!
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今回橋本さんからお話を聞いて、これから家族で取り組みたいことをあらためて振り返ってみた。
今後するべきことや留意することが少し整理されたと思う。私たち家族にとって、大変ありがたい時間だった。
そしてこういったことを、親が元気なうちに考えておくというのは大切だと思った。
今、母と妹は私の家のすぐ近くで仮住まいをしている。育児などの手を貸してくれて、正直とっても助かっている。なんならずっとここに住めばいいのにと、何度考えたか分からない。
でも今回のお話を聞いて、二人の理想の住まいの実現を応援することに対して、より前向きになれた気がする。
これから家族皆で考えるべきポイントはあるものの、新居の完成(と犬)が、今から楽しみになってきた。
編集:はてな編集部

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