理学療法士がオープンしたカフェ「FLAT STAND」が目指す、誰もがいていい「居場所」作り

東京都新宿区でケアマネジャーをしております森岡真也です。

今回は「相談どころ」ではありませんが、理学療法士の方が開いた、ちょっと気になるカフェが府中にあるので、訪ねてきました。

カフェの名前は「FLAT STAND」。京王線「多磨霊園」駅から徒歩1分の、商店街の中にあります。

FLAT STAND

こちらでは、カフェのほかに、この場所をレンタルスペースとして貸し出しているのだそう。イベントやワークショップ、さらにアーティストのギャラリーや、地域の方が出店するマルシェとしても活用されています。

「FLAT STAND」をオープンしたのは、株式会社シンクハピネスの代表で、理学療法士の糟谷さん。

株式会社シンクハピネス代表 糟谷明範さん

みなさんは、そもそも理学療法士とはどんなお仕事かご存知ですか? 理学療法士とは、ケガや病気などで日常生活の基本的な動作が難しくなった方に、リハビリテーションを行う専門家です。

そんな医療・福祉のプロフェッショナルが、なぜカフェを立ち上げたのか。糟谷さんはこう話しました。

「医療・福祉の専門職として働くなかで、違和感が積み重なっていったんです」

「リハビリを受けるにも気を遣う」と言われ

カフェを立ち上げる前、糟谷さんはさまざまな病院などで、理学療法士として勤務していました。そこで感じたのは、病院で働く医師や理学療法士などの専門職と、入院している患者さんが「世話をする人/される人」として不均衡な関係になってしまうことへの違和感でした。

「医療のプロとしてしっかり伝えなければいけないこともあるから、どうしても上から目線になってしまうことは、少なからずあると思います。だけど、一歩病院から離れれば、患者と専門職ではなく人と人。そんなことを忘れたような態度で接する人も多くて。その関係性にずっと違和感を持っていました」

さらにあるとき、ひとりの患者さんにこう言われました。「私たちもリハビリを受けるのに気を遣っているのよ」と。

医療職と、街の人々の間には壁がある。そんな現状を変えたいと、糟谷さんは株式会社シンクハピネスを設立。訪問看護ステーションを立ち上げた後、さらに「FLAT STAND」をオープンさせました。

FLAT STAND店内

「患者のAさんには、『府中のどこどこの街で暮らすAさん』としての顔がもちろんあります。その顔がわかっているのといないのでは、提供できる医療も違ってくると思うんです。病院から帰った元の暮らしが、より良いものになったり……」

糟谷さんが目指したのは、医療職だけでなく、教育者や八百屋さん、本屋さんなど、さまざまな得意分野を持つ人が対等な立場で暮らし、困ったときに助け合える関係性をつくること。そのきっかけづくりの場として、カフェでありレンタルスペースでもある「FLAT STAND」をオープンしました。

一瞬の打ち上げ花火では終わらない関係づくりを

以来、「FLAT STAND」では福祉専門職の勉強会から流しそうめんまで、さまざまな催しが行われています。これらは、スタッフによる街の人との丁寧な関係づくりによるもの。

「ただ人を集めて何かをしてみよう、というのはそのときだけの打ち上げ花火と同じです。何がしたいのかを聞きながら、じょじょにお互い歩み寄っていく。あくまでも自然体に、日常の中で、じょじょに関係性がつくられる。そんな場をつくりたいんです」

そんな糟谷さんの活動に、京王電鉄から声がかかり、2019年3月にオープンしたのが、京王線武蔵野台駅の中にある「武蔵野台商店」です。

武蔵野台商店

こちらのカフェでも、トークショーや朝ヨガなどさまざまなイベントが行われており、駅ナカという好立地もあってさまざまな人が集います。さらにこちらでは、地元の農産物を売る八百屋さんと、地元のベーカリーが併設されています。

「武蔵野台商店は、暮らしていくうえで必要な選択肢が、自然と手に入るような場所にしたいんです。この前はカフェの営業時間中に、アルバイトの子がノルウェーに短期留学に行った話をする会を開いたんですよ。例えば、そういう話が食事をしている最中に耳に入ってくると、ノルウェーに行ってみようかなって選択肢も生まれますよね」

武蔵野台商店の店内

カフェには”医療福祉”から、”食”、”暮らし”などさまざまなジャンルの本が。こうした本を手に取ることでも、今まで気づかなかった「選択肢」が得られそうですね。

誰でもいられる「居場所」をつくる

「FLAT STAND」や「武蔵野台商店」は、いわゆる”コミュニティカフェ”とは違う役割を持ちたいと糟谷さんは語ります。

「『コミュニティには参加したくないけどこの場にいたい』という人もいると思うんです。誰でもそこに安心していられる場所を提供したいですね。医療福祉の目線で言えば、そうすることで社会的に孤立していき、それを引き金に体調を崩して健康寿命が短くなってしまう人も、減らせるんじゃないかと思います」

医療のプロフェッショナルとしての思いを出発点に、誰が主役にもならない、場所自体に色を持たない。そして、時代によって役割を変えていける、そんな場所づくりを目指す糟谷さん。原動力となるのはやはり、来てくださる人の存在なのだそう。

誰もが自身の居場所を持ち、ときに自分の得意分野で支え合える、「お互いさま」の社会を目指して。糟谷さんの活動は続いていきます。

森岡真也
森岡真也 株式会社モテギ新宿ケアセンター長/モテギケアプランニング新宿管理者/主任介護支援専門員/社会福祉士

東京都新宿区で活動する現役ケアマネジャー。 居宅介護支援事業・訪問介護事業・地域密着型通所介護事業を運営する株式会社モテギ新宿ケアセンターを統括している。 本業の傍ら、区内の専門職や住民のネットワーク作りに奔走する。 実は家事・育児が本業との噂もある。

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