自身の出産・介護経験の知見を活かし地域に還元する-カラーズ田尻久美子さんに聞く、「親の老い」への心がまえ

今の仕事や生活で、みんないま手一杯だ。

未来のことなんて……気にしている余裕がない、と思っている。

でも否応なく、多くの人が80歳まで生きる日本。

2065年には、平均寿命が男性 84.95年、女性 91.35年、人口の約38.4%が65歳以上という推計もある。

年金の受取額だって、これからどんどん減っていく。

仕事も、どんどん減るんじゃないだろうか。

そんな世界で、これから親も自分も「老いてゆく」。体はどんどん衰える。

私たちは、どんな「したく」をしておけばよいのだろう?

新しい視点で「老い」と向き合い、革新的に立ち向かい実践している人々がいる。

彼らに、私たちがこの国で老いるヒントを、3つだけ聞いてみよう。

株式会社カラーズ 代表取締役 田尻久美子さん
株式会社カラーズ 代表取締役
 田尻久美子さん

経験を実践につなげ、社会へと打ち返す

田尻さんが代表を務める株式会社カラーズは、東京都大田区でヘルパー事業、ケアプランを作るケアマネジャー事業、住まいの環境を整える住宅改修、福祉用具の貸与・販売を提案する事業を行っている。きめ細やかな現場対応はもちろん、そこでの疑問や課題を野放しにせず、社会に還元するのがカラーズの特徴だ。

例えば、老老介護の現場で道路の水勾配のためお年寄りの力では車いすがうまく取り回せないとわかれば、地場産業である製造工場と協働して、軽い力でまっすぐ進める車いすを開発する。

一人暮らし高齢者の安否確認に不安があれば、やはり地元企業とともに服薬管理を兼ねて行うロボットを開発する。

現場から高齢者が孤立していることが浮かび上がれば、地元商店街や自治会とつながり、地域イベントや地域住民の集まりにも会社として参加して、地域住民と高齢者をゆるくつなぐ。

「直進軽快車いす」(左)、服薬管理ロボット「FUKU助」(右)
地元企業と共同開発している「直進軽快車いす」(左)と服薬管理ロボット「FUKU助」(右)

さらに田尻さんは、自身の出産経験から、訪問介護員のスキルを産前産後のママ支援に活かす事業も行っている。

そもそも、カラーズを開業したのも、田尻さんが実母を亡くした経験からだ。田尻さんも家族も「それほどひどい病気ではない」という認識で、覚悟のないまま弱冠48歳で亡くなった。後悔し、IT業界から転身して開業した。

田尻さんは自己の経験を社会につなげることをやめない。「ちょっと手を広げすぎて……それだけ課題が山積みということなんですが」と明るく笑う。

田尻さん(アップ)

自宅での父の看取りが、家族の財産に

田尻さんが父を亡くした時は、母と違う最期だった。田尻さんが起業し2回目の、しかも双子の出産直後に、父が肺がんになった。父は「家で過ごす」と強く希望した。亡くなる3ヶ月前に、抗がん剤が効かなくなった。徐々に在宅での看取りへと移行した。

子育てと介護のダブルケア。筆舌に尽くせない大変さだった。でも、「やってよかった」と心底思った。父の最期を穏やかにし、思う存分家族で過ごせた。家族が父を囲んで思い出を語り合い、話しかけた。小さな子どもたちにも、自然な死の有様を見せることができた。

父が自分の死をもって子どもたちにいのちを教えてくれているのだと思った。これらはみんな、残された家族にとって大きな財産になった。

父の在宅看取りを経験してから、彼女の中で「自宅で看取る」ことの意義がよりリアルで明確になって、自社でも在宅終末期ケアを積極的に扱うようになった。

介護への不安があるなら、知ることが必要

事業所を運営する田尻さん自身も介護が大変だった。介護を知らない人の不安はどれほどだろう――。調べてみれば、想像以上だった。

大田区内の中小企業で、社員の方々に介護離職の実態把握と離職防止についての調査をした。すると、介護保険の情報をまったく知らない人が約5割、地域介護全般の相談窓口である地域包括支援センターの名も利用方法も知らない人が約7割。

介護休業制度の「介護休業」とは、介護に専念するための期間と考えていた人が約45%(本来は主に仕事を続けながら介護をするための体制を構築する期間)だった。介護保険に自分が入っているかどうかの認識さえ、あやしい。

この知識の有無と、「介護への不安」をクロス集計すると、介護保険や制度内容について「知らない」人の方が「介護と仕事を両立できない」と不安感を強めていることがわかった。制度などの基礎的・具体的な知識がない人ほど不安なのだ。

設問、公的介護保険制度
設問、介護休業
一般社団法人大田区支援ネットワーク「平成29年度独立行政法人福祉医療機構(WAM)社会福祉振興助成事業 大田区内の中小法人における仕事と介護の両立に関するアンケート結果調査報告書」より。2018年3月。大田区内で働く29社593名に調査。
介護保険制度について具体的な情報を知っているほど、または介護休業制度は働きながら介護するための期間と正確に把握しているほど「介護と仕事を両立できると思う」人の割合が高かった。

自身の経験を元に活動を広げる田尻さんに、私たち一般のひとびとが介護に備えるのに役立つ「3つのしたく」を聞いた。

3つのしたく その1 老い~死を「どう過ごしたいか」を明確にしてもらう

介護ってみんな、直面してから焦って考えますが、上の結果でもわかるように、不安があればあるほど「事前に知ること」が大事だと思うんです。一般的な介護の知識ももちろんですが、その前提として、介護されるであろう本人の「意思」を聞いておくことが本当に大切。

私の父はとても明確に在宅ケアを希望していて、だから家族も迷いなく注力できました。少なくとも、体の自由がきかなくなったときに、どんなふうに過ごしたいかを親から聞き出すことは、本当に大切だと思っています。

命にかかわる局面は誰でも必ずやってきます。それは思いがけず突然やってくることも少なくないんです。その時、家族が決断を迫られることも多いですが、医療の意見が混乱する家族を圧倒して、本人の意思を考える間もなく流されがちです。

その後仮に亡くなると、家族は自分が下した判断が本当に正しかったのかと後悔して、ずっと辛い思いをする人もやはり少なくないのです。

本人は話した後も揺れるかもしれませんが、少なくとも全く考えていない状況は避けられます。聞いていなければ、家族が本人の意思を推測するほかない。

でもそれぞれ、意見が違ってもめることもけっこう多いんです。だから、事前に親の意思を聞き出せたら、もう片方の親や兄弟に共有しておくことも実は重要なんです。

親に最期のことなどをあらたまって聞くと「まだ元気よ」「殺す気か!」「何か思惑があるのか」と反発されやすいですが、下のような自然なかたちで水を向けることもできると思うんです。機会を見計らって長期的に、でも早めに意思を聞いておくことってとても大切です。

親と「最期の過ごし方」を話すタイミング
  • 65歳で介護保険証が届いたときに、介護保険について一緒に調べながら
  • 有名な人が病気になった、倒れた、死んだというニュースとともに
  • 闘病のドキュメンタリーを一緒に見ながら
  • 親が自分の体の衰えを自覚したタイミングで

病気だけどまだ希望はあるとき、もう希望はなく終末期に入ったとき、それぞれの局面でどうしたいかを聞き取れるといいですよね。

3つのしたく その2 自立を手放さないための「つながり」を培おう

私自身ヘルパーとして活動する中、感覚でわかったのは、老後も主体性を手放さず自立している人が元気だということです。

ここでいう「自立している」というのは、誰の助けも借りない、ということではありません。むしろ逆!できるところは本人が主体となってやり、できないところは人との「つながり」や「交流」を使いなんとか手を講じて頼る。でも体も心も弱ってしまうから頼り切らない。そのバランスが大事なんです。

例えば、軽度の認知症をお持ちですが、1年半前にアパートに引っ越し、一人暮らしを開始した96歳の女性がいます。みんな転居先に介護施設を薦めました。でも、それまで自炊をしていたご本人には「自分で好きなものを作って食べ続けたい」という強い希望があったんです。

認知症でも、鍋を焦がすなど調理に関する不安はなかったので、警報装置や見守りヘルパーなど、ある程度の安心を確保する環境設定にご納得いただきつつ、区営アパートへの転居を支援しました。

この方は今も一人暮らしを続けています!引越当初はヘルパー自作の地図を持ちながら、近所に一緒に買い物に行っていましたが、徐々にひとりで行けるようになり、自立度が上がっています。他者に頼りつつ自己実現する96歳。すごいですよね!

田尻さん(縦)

リスクは施設でも在宅でも、どこにでもあると思います。その状況下のリスクを最小限にした上で、能動的に生きるのが本来の「暮らし」じゃないでしょうか。人との「つながり」を培い、のぞみの暮らしを実現できる環境を持ち続けることが大切だと思います。

3つのしたく その3 年をとってもできる「役割」を担ってもらおう

介護保険事業所を運営していますが、実は高齢な方が本当に求めていることって介護保険ではできないことが多いと思います。ご高齢な方は多くが「助けてもらうこと」だけを求めているのではなく、「してあげる」「役割」を求めていることも多いから。

でも、介護保険では役割を設定するのではなく、むしろ奪いがちです。高齢な方にもしっかり担ってもらう姿勢が、周囲の人にも必要なんです。

当社が地域に出て活動しているのは、利用者さんに役割を担ってもらうためでもあります。当社には手仕事が好きな利用者さんが多くいるんです。漫然と作るよりも、誰かに喜んでもらえると思って作る方が、ご本人のやりがいが違います。

例えば、認知症の方が上手に縫ったぞうきんを若いママさんに差し上げると、子どもが学校で使うのにいいととても喜ばれるんです。また、別の利用者さんが作ったぬいぐるみは子どもに大人気。イベントで配り、子どもたちにメッセージを書いてもらってご本人にお渡しすると、思わず笑顔がこぼれます。

ぬいぐるみ達
利用者さんの手作りのぬいぐるみ。趣味の手作りでも完成度は高い。あげた子どもたちは喜び、それを聞いた本人も喜ぶ。

こんなふうに、「誰かの役に立っている」感覚は、「生きよう」という意欲と直結することを強く感じます。子どもが親に「役に立ってもらう」システムを作ることは、親が生きるのを助けることになるのです。


退職後の高齢男性の行き場がないという話を聞きますが、バカバカしいと思わずに、地元の人や子どもたちなど近くの人とつながり、役割を担えるように子どもとしてお手伝いするといいと思います。当社でも大田区のシニアのボランティア養成講座に関わっています。

70歳代の男性がボランティア活動を通じて80~90歳代の先輩の生活や老いの様子を目の当たりにして、自らの生活を見直すこともあるんですよ。こんなふうに、「誰かの役に立っている」感覚は、「生きよう」という意欲と直結することを強く感じます。子どもが親に「役に立ってもらう」システムを作ることは、親が生きるのを助けることになるのです。

カラーズ 田尻久美子さんが語る、今からできる3つのしたく
  • 老い~死まで「どう過ごしたいか」を明確にしよう
  • 自立を手放さないための「つながり」を培えるようにしよう
  • 年をとってもできる「役割」を担ってもらおう

写真:多田由美子&カラーズご提供

編集工房まる株式会社 西村舞由子
編集工房まる株式会社 西村舞由子

介護・医療・福祉情報専門で「伝える」コンテンツやツールを制作する編集プロダクション。現在、「伝え合い・つながる」を体感するカードゲームを開発中。 舞台演出家の父をもつ代表の西村は、芸術ではなく法律や介護福祉など実学の道に進むが、近年「実学の情報を芸術で伝える」ことの意義深さに気づきつつある。

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