定年退職や子どもの独立など、ライフスタイルの変化をきっかけに移住を検討している人もいるかもしれない。老後をどのように暮らすか? どこで暮らすのか? 移住を検討している人にとっては、重要なポイントとなることだろう。
移住を検討する際、特に高齢になってからの移住の場合は、その街にこれからも住み続けられるのかどうかは気にしておきたい。高齢になれば、やはり自動車の運転に不安を感じ、いつかは免許の返納を検討することになるかもしれない。自分が住む街や住み替えを検討している街がこれからも住みやすい街なのか、気になる人はこの記事を参考にしてみてほしい。
今回はLIFULL HOME’S総研副所長の中山さんに、免許返納を視野に入れた老後のための移住を考えるときに、どんなことがポイントとなるか教えていただいた。
――住み慣れた街からの移住を考えるのは、心理的ハードルも高そうですね。
将来的に免許返納するからといって移住すべきというわけではなく、住み慣れた街から出るのに抵抗があるなら、別に 転居する必要はありません。今回お話することは、老後を見据えて住み心地のいい街を探すきっかけになればと思います。今自分が住んでいる街や、移住を検討している街が、老後に免許を返納しても住みやすい街なのかチェックしてもらうといいと思います。
免許返納を視野に入れて移住を検討するのであれば、移住先としておすすめするのが「トカイナカ」です。
――トカイナカとは、どのような街なのでしょうか。
トカイナカとは、文字通り都会と田舎の要素を持ち合わせた街を指します。しかし明確な定義は特になく、情報の発信者によって基準は異なるでしょう。一般的には、都会の利便性がありつつ、ゆったりとした時間が流れるような街をイメージしていることが多いです。利便性は悪くなく、都会に出るのにも不便がない街で、落ち着いた環境でマイペースに過ごせそうな街を、私も「トカイナカ」と呼んでいます。郊外や準郊外と呼ばれるところが該当してきますね。利便性が確保できていれば、免許返納の不安も軽減されるでしょう。
都会に住んでいて、定年後になっても現役時代と同じような生活が送れるのであれば、別にわざわざトカイナカに移らなくていいと思います。当たり前ですが、都会の方が生活は便利ですからね。定年退職して所得が一時的に大きく下がったり、生活水準を下げないといけなかったりするのであれば、都会からトカイナカに移住して生活コストを下げるという選択をするのもありだと思います。また、車がないと生活できない地域から、車がなくても交通の便に困らない地域に移るという考え方もあるでしょう。
まずは、老後どのような生活を送りたいか、どのような住み方をしたいか、自分の希望を整理することをおすすめします。免許返納を機に生活スタイルも変わるでしょうから、住環境自体を変えてもいいかもぐらいのゆるい発想で、街を調べてみるのもいいでしょう。
――免許を返納しても、住みやすい街を選ぶポイントはありますか?
老後、免許返納、この2つのことを視野に入れて移住する街を探す際に、以下の6つを調べてみてください。
1つの基準が、人口30万人以上の都市です。
政令市(政令指定都市)は夜間人口が50万人以上ですが、それより少ない20万人以上の都市を中核市といいます。政令市まではいきませんが、中核市の中で規模が大きい街を「トカイナカ」のイメージとしてもらえるとわかりやすいと思います。
同じ人口30万人規模の街でも、人口が増えているのか減っているのか、直近数年の人口推移を自治体のサイトで見ておくといいでしょう。また、増えている場合は、どの年代が増えているのかを見ましょう。生産年齢人口(15~64歳)が安定している街というのが理想的です。
生活コストと利便性はトレードオフの関係にあります。免許返納したのに移動手段がないというのは困るため、公共交通機関を使って移動ができるような、交通の利便性が確保されているところを選ぶのは重要です。公共交通機関に加え、地域のコミュニティバスや、タクシーの割引などの自治体による高齢者向けの補助制度があるかを調べておくといいでしょう。
人口が少ない街だと住民税や所得税が少ないので、交通手段の整備などがなかなか難しい可能性があります。人口がある程度多いと行政サービスの恩恵が受けやすいので、人口規模も重要なポイントとなります。
大学病院や総合病院などの拠点病院があることは、とても大きなポイントとなります。行きやすいところに拠点病院があるかは、高齢になっていくととても重要になると思うので、街選びの際に条件に加えることをおすすめします。
大学病院と総合病院のどちらがいいかといったら、総合病院の方が安心できるでしょう。総合病院は診療科が多いので、さまざまな病気に対応ができます。大学病院は複数の診療科はありますが、基本的に大学の研究機関という位置付けで、臨床試験をすることが役割となります。そのため、臨床結果がハッキリしている病気の場合、受け入れを拒まれる可能性もゼロではありません。
大きな拠点病院は直接行っても診察してもらえないケースがあります。その場合、おそらく近所の行きつけのクリニックや病院などから紹介状を書いてもらうことになるでしょう。人口30万人規模の都市であれば、比較的町医者のネットワークもしっかりしているので、適切な病院を紹介してもらえると思います。地域の医療サービスについては、市役所や区役所で教えてもらえるので、相談してみるといいでしょう。
高齢になると介護の心配も出てくるでしょう。介護が必要になった場合、どのような生活を送りたいか、どのような身体状態かで、選択すべき介護施設が変わってきます。まずは自宅で訪問介護を受けるところからスタートになるかとは思いますが、自宅での介護が限界となったときのことを考えると、介護施設の選択肢が複数ある街がいいでしょう。
介護施設の種類によっても受けられるサービスに違いがあり、また運営会社が違うと方針や雰囲気が違います。さらにいうと、同じ運営会社でも施設長によって雰囲気づくりは変わってきます。そのため、より自分にマッチする介護施設を見つけるためにも、複数の選択肢があるというのは重要なポイントとなってきます。人口30万人規模の都市は、介護施設の選択肢も数多いので、安心材料になり得ると思います。
老人ホーム・介護施設の種類、それぞれの特徴
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人口の規模がある程度大きくて税収が安定していることは、行政サービスの質にも反映されます。人口30万人規模の都市は、ある程度行政サービスの充実が期待できるでしょう。しかし、注意すべきポイントがあります。それは、その自治体が税金をどのようなことに使っているかです。
年度始めに、自治体がどんなお金の使い方をしようとしているのか、予算の情報を見ておくといいでしょう。そこから自治体がどんなことを発展させていこうと考えているのかがわかると思います。
自治体によって金額は異なりますが、国からの「地方交付税交付金」を受けて税収の不足分を補っていますので、その規模が大きいのか、それとも比較的少なくて税収が安定しているのかも自治体を見る上でのチェックポイントです。おそらくみなさん、転職する際には候補としている企業の経営状態や理念・方針などを調べると思います。それと同様で、移住を検討するなら、候補となっている自治体の”経営状態”も見ておきましょう。
見慣れていない人には難しいかもしれませんが、支出がどうなっているかぐらいは見ておくといいでしょう。例えば高齢者が多くて医療費ばかりかかっているとか、働いていない人が多いので社会保障費が多くなっているとか、教育支援、交通インフラ整備、スポーツ振興などお金の使いみちはさまざまです。このように自治体のお金の動きも把握できると、より安心につながるのではないかと思います。老後と免許返納の要素で見るとしたら、交通機関や医療や介護のところを見ておくといいでしょう。
高齢者向けのサービスも、自治体によってサービスを受けられる対象年齢が違います。生産年齢人口が65歳までと規定されていますが、65歳になったらすぐ補助を受けられる自治体と、70〜75歳になってからから補助を受けられる自治体とがあります。それだけではなく、補助を受けられる金額や期間も全然違うのです。老後のことを考えると、これらは事前にきちんと調べるべき情報だと思います。免許返納のタイミングは人それぞれですが、早い年齢からサービスを受けられると安心ですね。
定年後に人とのつながりを持っておくと精神衛生的にもプラスになることが多いので、コミュニティも大事にすべきです。もちろん、コミュニティに参加するか否かは人それぞれで、好きでなければ無理して参加する必要はありません。心理的負担なく気軽に参加できそうなコミュニティがあるのが理想的です。
免許を返納した後の余生は、異なるコミュニティ3つに、異なる人格で参加するといいと言われています。複数のコミュニティに参加することで、さまざまな刺激を受けることができます。いろいろなコミュニティに積極的に参加できるような環境だと、生活もハリが出て意欲的になれることも多いので、健康面にも良い影響があると思います。
自治体のサイトにコミュニティの情報が出ているので見てみてください。第三セクターが運営している場合もあるので、「●●市 コミュニティ」「●●市 習い事」などと検索してもらうと情報が出てくると思います。
街の基本情報として、事前にハザードマップを確認しておきましょう。賃貸借契約や売買契約の際、重要事項説明で、きちんと説明してもらえる情報ではありますが、契約前に把握できるとよいですね。過去に大きな水害や、台風被害がなかったか、避難所の設置がどうなっているか、避難所に行くまでのルートなど、地域の防災の設計を確認しておきましょう。高齢になってからの避難所までのルートはとても大事です。
防災と並んで重要なのが、その街の治安です。地域の警察署のサイトを見ると、その地域でどんな犯罪が多いかなどがわかります。どのような防犯対策が必要になってくるのかが、イメージしやすくなるでしょう。
――前述した街選びのポイントに該当する地域はいくつかありそうですが、特に、再開発などで今後発展が期待できそう、または利便性が維持できそうな街はありますか?
その街が合うか否かは人それぞれです。ご自身が何を重視するのかを考えながら、街選びをしていただくといいでしょう。ご説明した街選びのポイントを踏まえて、期待値の高い街の例をご紹介します。他にも住みやすい街はあると思うので、ぜひ気になる街の情報を調べてみてください。
【街選びポイント該当自治体】
選定基準
関東エリア |
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北陸エリア |
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中部エリア |
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近畿エリア |
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※2022年10月時点
<参考資料>
国土交通省 都市モニタリングシート
総務省 令和2年国勢調査
東京から1時間以内で行けて、東京のベッドタウンとして発展してきた街です。東西にはJR、南北には東武スカイツリーラインが走るので交通の利便性はよいでしょう。商業施設や飲食店もあり、買い物にも不便はないという声も多いです。
高齢者向けの交通に関する制度 | - |
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免許返納の特典 | 【埼玉県】シルバー・サポーター制度 |
※2022年11月時点
名古屋中心部からJRや名鉄で30分前後で行けて、人口規模としてもトカイナカに該当します。名鉄岐阜駅周辺を再開発する計画が予定されています。
LIFULL HOME’Sの『住みたい街ランキング』 でも、岐阜市の人気は上がってきていて、名古屋から離れて岐阜に住む人が増えてきている印象です。岐阜駅周辺に街がコンパクトにまとまっていて、生活に必要なものが駅から半径2km範囲に集まっていて利便性がとてもいいです。
高齢者向けの交通に関する制度 | 高齢者おでかけバスカード交付 |
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免許返納の特典 | ICカード乗車券または高齢者おでかけバスカードへのチャージ |
※2022年11月時点
人口規模もあり、大阪のベッドタウンとして発展してきた街です。住民の高齢化に備えて、医療機関にも自治体が税金を使ってきました。枚方市と大学が提携し、地域の医療を一手に引き受けようという構想で病院を誘致したりしています。
免許返納するとバスやモノレールの割引を受けられます。生産年齢人口も多く、行政サービスの充実も期待できる街です。
高齢者向けの交通に関する制度 | 高齢者お出かけ推進事業 |
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免許返納の特典 |
※2022年11月時点
トカイナカよりは規模が大きく都会になりますが、札幌市は更なる発展が大きく見込める街です。
2030年に北海道新幹線が札幌駅まで延伸するので、札幌駅東側の再開発が 既に本格化しています。駅周辺にタワーマンションなどの住宅、商業施設、病院も続々と建設されています。非常に大規模な再開発が行われることと、新幹線で東京から4時間半程度で行けるようになるので、利便性も含めて期待値がとても高い街です。
高齢者向けの移動に関する制度 | 敬老優待乗車証(敬老パス) |
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免許返納の特典 |
※2022年11月時点
――基準だけ見て判断するのも難しそうですね。
補助金を出してくれて試し住みを奨励・推進している自治体もあります。これは、トカイナカよりも田舎の方でこの制度をやっている自治体が多いです。住むといいところなのに、なかなか知られていないという自治体が頑張っているケースがあります。試験的に住んでみて、その街が合うか合わないかを判断できるので、移住失敗のリスクヘッジとなるでしょう。ぜひ活用してみてください。
最初にお伝えしたように、住み慣れた街から無理に移住しようと考える必要はありませんが、ベストチョイスは今の街ではない可能性もあります。住み替えてみると、今の街よりも生活しやすいということもありえます(補助金や税制など)。行政サービスは本当に自治体によって違うので、調べてみると視野が広がります。街の情報をいろいろ調べて比較してみて、街探しをしながら住み替えるか否かを考えるといいと思います。
tayorini編集部
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