介護業界大手のSOMPOケアが手がける、60歳以上の元気な方から介護が必要な方までを対象としたサービス、「いきガイド」。
2022年3月にオープンした、東京・世田谷 三軒茶屋にある「いきガイドステーション」には、日々多くのシニアが集まり、笑顔があふれていると言います。ここでは実際にどんな取り組みが行われているのでしょうか。
この事業を立ち上げ、牽引している同社のシニアリーダー・片岡陽さんと、日々現場で高齢のお客様のサポートをしているライフガイドの井尻さとみさんにお話を伺いました。
――「いきガイド」は、60歳以上のお元気な方から介護が必要な方までを対象とした、シニア向けのサービスだそうですが、御社がこの事業を始めたきっかけについて教えてください。
弊社は、介護保険サービスでの事業をメインに、介護付きホーム、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)、グループホーム、在宅サービス事業を展開している会社です。
私たち介護事業者は、シニアが介護の手が必要になった時に初めて関わりを持ち始めます。しかし介護保険のサービスは法的にできる範囲が決められていて、お客様からご要望があっても介護保険のサービスの中では提供できないことが多々あります。そのため介護が必要になる前のもっとお元気な状態から“接点”を持ち、サポートをさせていただくことによってその方への理解度が高まり、より多くのシニアが住み慣れた場所で、自分らしく、生き生きと暮らし続けることに貢献できるのではないかという問いが現場から生まれるようになりました。そんな現場の想いから、介護保険を使わないサービス「いきガイド」の事業が立ち上がりました。
22年3月に、東京・世田谷区 三軒茶屋を拠点に「いきガイドステーション」をオープン。介護現場で多くの高齢者に寄り添ってきた職員が“ライフガイド”となり、お一人おひとりのご要望や日常のお困り事に応えていく、オーダーメイドのサービスを開始しました。
※ライフガイド:お客様の叶えたい生活をお聞きし実現する生活のコンシェルジュです。
――こちらの拠点では、どんなサービスを行っているのでしょうか。
大きく分けて2つのサービスを展開しています。
まず1つ目は、「お客様の日常でのご要望やお困り事にお応えするオーダーメイドサービス」です。お客様の日常を支える、あるいはより豊かにするために、ご自宅に直接伺い、健康、栄養、楽しみ、つながり、見守りの5つのカテゴリーでサポートをさせていただきます。
例えば、定期的な見守りや家事の代行、病院への受診同行などの生活周りの支援から、旅行やお祝い会などのイベント事の企画・同行まで、その方のご要望に合わせてお手伝いをさせていただいています。
そして2つ目は、地域のシニア向けの「イベント事業」です。地域の方同士の「コミュニティづくり」や「生きがいづくり」を目的に、多彩なイベントを開催しています。
フラワーアレンジメントやアロマセラピーなど暮らしを楽しむ講座をはじめ、運動機能を高めるトレーニング、マンツーマンでのスマホレッスン、手作りの焼き菓子を販売するマルシェなど、月20本程度、イベントを行っています。
このようなイベントではお客様が受講者として参加するだけでなく、シニアご自身の得意なことを活かして「講師」となっていただく機会も設けています。イベントを通じて、シニアの活躍の場を広げることも目的の一つです。
――日々の生活支援からイベント事の企画・同行まで幅広いですね。井尻さんは、“ライフガイド”として普段はどんなお仕事をされているのでしょう。
まずはお客様ご本人やそのご家族からご依頼があった際に、私たちライフガイドがご本人様やご家族様と直接対話をし、その方がどんなことを望まれているのかヒアリングをさせていただきます。
ご家族が遠方にいらっしゃる場合は、ご家族とも密に連絡を取りながら、ご本人様のライフスタイルやご要望に合ったサービス内容を提案していきます。
ライフガイドが直接、お客様のご自宅にお伺いしてサービス提供させていただくこともありますし、75名ほど在籍している「いきガイド」の登録ヘルパー(通称:キーパー)が対応することもあります。お伺いしている区域は世田谷を中心に、23区全域になります。
――ライフガイドの方も、直接お客様のご自宅に訪問してサービス提供されるんですね。
そうなんです。7名在籍しているライフガイドは全員介護職の経験がありますので、お身体に触れる介助はもちろん、料理、掃除、買い物など生活支援全般、対応が可能です。庭掃除でも、お部屋の片付けでも、私たちができる範囲のことは何でもお引き受けします。
また、エアコンの掃除や電気工事など技術を要することや、財産管理・登記簿の名義変更などお金にまつわることなどは専門の方たちにおつなぎして、対応させていただいています。
――なるほど。井尻さんが実際に担当されているお客様の事例について、教えていただけますか。
身元保証会社さんのご紹介で、一年ほど前から、88歳になるお一人暮らしの女性のサポートを担当することになりました。私自身、体操のインストラクターの資格を持っていますので、運動機能の維持・向上のお手伝いを目的に、週に1回、ご自宅に訪問して、パーソナル体操の指導をさせてもらっています。
毎週、定期的にお伺いしていくと「今週はこんなことがあってね」と、いろいろとお話をしてくださるようになったんですね。すると、お客様との心の距離も少しずつ縮まり、「今度、歯医者さんに行くから一緒に来てくれないかしら?」と受診同行を頼まれるようになりました。
一緒に外出すると安心されるのか、どんどん行動範囲が広がりました。「今度はホームセンターに一緒に行きたいわ」と、新たなお声かけをいただいています。
――信頼関係が深まったからこそ、ご本人の望みも出てきやすくなったのかもしれませんね。
ありがたいですよね。担当しているお客様の中に98歳の方がいらっしゃるんですが、最初は「この歳まで生きて何の意味があるんだろう」と悲観的に捉えていらっしゃったのが、初めてカフェに一緒にいったことをきっかけにどんどん自信をつけられ、「遠方に旅行をしたい」とおっしゃるようになりました。
ご本人の思い出の場所である熱海や箱根、甲府などにもご一緒するようになり、最大4泊5日の旅行を企画して同行したこともあります(笑)。
――それはすごいです! ますますお元気になられていますね。
まさに「生きる喜び」に満ちてくださって、この仕事をしていて良かったなぁと、ライフガイド冥利に尽きます。
他にも、74歳の男性のお客様でどんどんお元気になられている方がいらっしゃいます。この方は別のライフガイドが担当しているのですが、当初は足腰に不安があってシルバーカーで歩いていらしたんですね。
もともと「いろんなところに遠出がしたい」という意欲がある方なので、ライフガイドと一緒に、大好きな富士山の麓の神社に初詣に行ったところ、すごく感激されたようで。それが自信につながったのか、「次は富士山に登りたい」という新たな目標が生まれたそうです。
足腰を鍛えるために公園で運動を始めたり、登山グッズを買いに行ったりと、ますます意欲的になられたと伺っています。
――「いきガイド」は、まさにシニアの方々の「生きがい」を生み出していらっしゃるんだなと、さまざまなエピソードから伝わってきました。他にもお客様から喜ばれた事例はありますか。
先日、お客様から「ヒューズが飛んでしまって、停電してしまったから助けてほしい」というご依頼がありました。すぐにご自宅に伺って、ブレーカーを上げてみたのですが、停電が改善されず……。そこで電気工事の業者に依頼したところ、無事に復旧することができました。こうした緊急時での対応も、お客様から喜ばれているケースの一つです。
急に倒れた場合などの医療が関わる緊急時は、直接お身体に触れることや医療行為に該当するようなことは医師ではないのでできないのですが、夏にエアコンが壊れてしまったなど、生活面での緊急時にはお力になれることがたくさんあります。
――緊急時に頼れる存在がいるのは、ご本人もご家族も心強いですね。
そう思っていただけるのは嬉しいですね。
例えば、遠方に住むご家族から、「最近、母(父)の体調が気になるので、様子を見てきてほしい(受診に同行してほしい)」というような、事前に予定が立てられるものに関しては対応させていただいています。
他にもこんなケースがありました。一日中、つきっきりでご家族の介護をされている方から、「夜間だけ見守りをしてもらえないか」とご依頼があったんですね。
私たちがその方の代わりにご家族の見守りや身の回りのお手伝いを介護をさせていただいたことで、「夜間にしっかりと休息できて回復できた」と大変喜ばれました。介護が必要な方だけでなく、日々介護をされている方のお力にもなれたことも、うれしかった出来事の一つです。
<他にこんな活用事例も>
●遠方で行われる親戚の結婚式の同行
●定期的に通っている区民プールへの同行
●趣味のプラモデル制作の代行
●推し活(コンサートなど)の同行
など多数
――ライフガイドとして、井尻さんが心がけていることとは何でしょうか。
シニア中には、相手に頼むことが悪いのではないかと気を遣われて、本音を言ってくださらないケースも多々あります。
だからこそ、ご本人の言葉にならないお気持ちをしっかりと引き出すことが大切だと感じています。毎月月末には「モニタリング」の時間を設け、ご本人が思いを話していただけるような取り組みにも力を入れて、その想いを元に翌月のサービスにもつながるような関わりも大事にしています。
また、ご家族が遠方に住まわれている場合、ご本人様の状態について心配されていると思いますので、ご希望される方には何か変わったことがあれば随時、連絡するようにしています。毎月、ご本人様の写真を添えたお手紙をお送りしていますが、それも喜ばれている取り組みです。
――最後に、ライフガイドとして、「いきガイド」のリーダーとして、今後の展望を聞かせていただけますか。
私個人としては、ご夫婦そろって活動できる機会がつくれたらと考えています。女性の場合、比較的、趣味やコミュニティの集まりにアクティブに出かける方が多いですが、男性の場合は仕事を離れると、積極的に外に出る機会が少なくなる傾向があります。
ですので、ご夫婦そろって出かける機会があれば、きっと外に出やすくなると思うんですね。私自身、体操のインストラクターもしているので、例えば朝早い時間にご夫婦そろって参加できる体操教室ができたらいいなと考えています。
現在は、要介護・要支援など介護を必要とする方へのサポートが中心ですので、お元気なアクティブシニアの方にももっと活用してもらえるよう、力を注ぎたいです。
「いきガイド」では、イベント講師をはじめ、登録ヘルパーとしても、多くのシニアの方に活躍いただいています。サービスの受け手としてだけでなく、「支え手」として活躍してもらえるような仕組みをつくっていきたいですね。
私たち「いきガイド」の特長は、シニアの生活支援のみならず、ご本人が本当に望む暮らしや生きがいを実現するためのサービスを提供していることです。
皆様がご自身の住み慣れた場所で、より自分らしい暮らしが実現できるよう、ときには医療とも連携を図りながらかゆいところに手が届くサポートをしていきたい。いわば「地域包括ケアシステムへの深化、促進への貢献」を目指し、お一人おひとりの理想を叶えられるサービスを追求していきたいと考えています。
日経ホーム出版社(現・日経BP社)にて編集記者を経験した後、2001年に独立。企業のトップから学者、職人、芸能人まで1500人以上に人生ストーリーをインタビュー。働く人の悩みに寄り添いたいと産業カウンセラーやコーチングの資格も取得。12年に渡る、両親の遠距離介護・看取りの経験もある。介護を終え、夫とふたりで、東京・熱海の2拠点ライフを実践中。自分らしい【生き方】と【死に方】を探求して発信。
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