40代以降、子育てや仕事などが落ち着いてくると「自分はこの先の老後をどんなふうに過ごしたいかな」と考える機会が増えるかもしれません。友人との付き合いや自分の趣味を続けたい、夫婦や一人でも住みやすいコンパクトな家に住み替えたい……など、人によってさまざまな理想像があるでしょう。実際に、自分の老後と向き合い始めている人たちは、どんな暮らしを目指しているのでしょうか?
今回お話を伺ったのは、カラフルなファッションが目を引くインスタグラマーのはる。さんです。はる。さんは書店員として働くかたわら、50代からInstagramで自身のファッションの投稿を始め、61歳の今もパワフルに活動。大好きなファッションをめいっぱい楽しむための住まい作りなどにも取り組んでいます。その一方で現在、実家で暮らすお母さんの介護をしながら、自身の老後についても考えているといいます。
そんなはる。さんに、年齢を重ねるなかで好きなことを続けて楽しく過ごすコツや、家族との関わり方のヒントなどをお聞きしました。
――はる。さんはカラフルなファッションで注目を集め、Instagramでも3万人近いフォロワーがいらっしゃいます。こうしたファッションをするようになったきっかけはありますか。
もともとファッションには関心があり、学生時代は専門学校で服飾デザインを学んでいたんです。当時は「COMME des GARCONS」や「Y’s」のようなDCブランドを着ていましたね。
社会人になってからはバブル期ということもあって、「モテ」を意識したファッションをすることもありました。でも28歳で結婚し、母親になると、次は「ママ友の中で浮かない」ことを意識したファッションになって……。リネンのワンピースやボーダーTシャツのような、ナチュラルなファッションを楽しんでいました。それも全然苦ではなかったんですよ。「どこで自分らしさを取り入れてみようかな」なんて考えたり。
――ナチュラル系だったとは意外ですが、当時も自分なりに工夫されていたんですね! 現在のような個性的なファッションを楽しむようになったきっかけは何だったのでしょう?
45歳くらいの時に、子育てがひと段落したこともあって再び働きに出ることにしたんです。現在も働いている書店ですが、そこで年代の違う同僚ができたんですよ。彼女から、とあるアイドルを布教されたのがきっかけです。
それまでアイドル文化に触れる機会がなかったのですが、DVDを貸してもらって観るうちにハマってしまって。出演しているテレビ番組やライブDVDをチェックし、ついに現場にも行くようになり……。そこで、会場に来ているファンの方たちが、色とりどりの“推しカラー”を身に着けているのを目の当たりにしました。
それがきっかけで「私も、好きな色やテイストのものを身に着けてみよう」と、徐々に色を取り入れたりするようになっていったんです。
そんななかで、現在イラストレーター・漫画家として活動している長女のキシダチカ(当時は大学生)がアイドルの衣装プロデュースを依頼されるという出来事があり、彼女のアイデアをもとに、私が縫製を手伝うことになりました。
長女の作りたい世界観は、私が若い頃に好きだったテイストとよく似ていて。二人で古着屋を巡ってアイデアを形にしていくなかで、専門学校時代の気持ちがよみがえってきたんです。それに私のファッションを見たアイドルの女の子たちが「かわいい!」「おしゃれ!」と言ってくれたのが本当にうれしくて。「好きな服を着るのって楽しいんだ!」と確信できたんですよね。
――はる。さんのファッションはとてもカラフルで、パワーにあふれています。年齢を重ねて、ファッションの捉え方に変化はありましたか?
学生時代や社会人になったばかりの頃は「憧れ」の気持ちでDCブランドを着ることが多かったですね。でも今は「憧れ」よりも「かわいい」「好き」という気持ちで、ブランドなどにはこだわらずに服を選ぶことが増えました。
――はる。さんは2019年から、Instagramにコーディネートの投稿をされています。撮影のために、DIYで自宅の壁をポップな色に変えていく様子をXにアップされていましたね。お住まいをそんなふうにしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
現在住んでいる奈良の家は、25年ほど前に大阪から引っ越してきて以来ずっと住んでいます。ごく普通の二階建てで、二階に三人の子どもたち(長女・次女・長男)それぞれが使える部屋を設けていたんですが、長男が独立して家を出たタイミングで、長女が「弟(長男)の部屋に移りたい」と言い出して。
「壁の色も塗り替えたい」と言うのでOKしたところ、誕生したのがピンクとペパーミントグリーンの壁とイエローの天井でした。
「かわいいやんか~!」と思って、ちょうど始めたばかりだったInstagramの撮影に使わせてもらっていました(笑)。
――そうだったんですね! 現在よくアップされている赤い壁は、どのお部屋ですか?
あれは主寝室ですね。ある時長女から「部屋に家具を増やすので、撮影は他の部屋でやってほしい」と言われて。そうなると使えるのが主寝室だけだったので、思い切って自分好みにDIYしました。
もともとは、白い壁に茶色いドアというシンプルな部屋だったんですよ。以前、たまたま訪れた古着屋さんの壁が赤くて「カッコイイ!」と思ったんです。なので同じように壁を赤く塗り、ドアには壁紙を貼って雰囲気を変えました。
床はあえて何もせず、買ってきたカラフルなゴザを敷いて撮影に使っています。ササっと動かして掃除もできるのでとても便利ですね。
――壁とドアの色で、ガラリと雰囲気が変わりますね!
色見本や壁紙のサンプルをいくつも見比べて選んだこともあって、イメージ通りになって気分が上がりました! あと、昔からリサイクルショップ巡りが好きなんですが、そこで見つけたソフビグッズや雑貨を壁に飾って楽しんでいます。
――はる。さんのご家庭は、家族関係も良好なように見受けられます。お子さんとの関わり方で、意識されていることはありますか?
特に意識していたことはないんですが、挙げるとしたら、親の目が子どもばかりに向くのではなく、趣味や友達付き合いなど、家の外のことも見ているのがいいのかなとは思います。私がアイドルにハマりだした頃は息子の反抗期でもあったんですが、そのおかげでくよくよ思い悩む暇もなかったくらいで(笑)。息子が少し荒れていても問い詰めるようなことはせず、ご飯を作る、挨拶や声かけは欠かさないなど、親としてやるべきことはいつも通りしっかりやるようにしました。
親が外に趣味や交友関係を持っていて、いきいき楽しそうに過ごしている方が、子どもも気持ちが楽になるのかもしれません。
――はる。さんは、実家で暮らしているお母さまの介護もされているんですよね。
はい。4年前に父が亡くなり、母が大阪の実家で一人暮らしをしています。母がストーマ(人工肛門・人工膀胱)を使用していることもあり、うちや弟夫婦との同居なども考えました。でも、母は過去に自分が嫁の立場で同居した経験から「同居せず、気がねなく一人で過ごしたい」という思いがあったようで……。それを尊重する形で、今は弟と交代で週に一度実家に顔を出し、ストーマのパック交換をしたり、話し相手になったり、車を使って買い物の手伝いをしたりしています。
(ストーマのケアについては、下記の記事でも紹介しています)
ストーマ(人工肛門・人工膀胱)のケアと生活上の注意点
業界最大級の老人ホーム検索サイト | LIFULL介護
一人だと寂しくなるのではと思って、母が一人暮らしになったタイミングでiPadをプレゼントして、動画の配信サービスを見られるようにしたんです。母は映画が好きで、昔はよく映画館に出かけていたので「これで好きな映画を観られるよ」って。そしたら、偶然観た映画に出演していた若手俳優さんにすっかりハマってしまい、実家に行くたびにその俳優さんが出ている映画の話を聞かされるようになりました(笑)。
――さすが、はる。さんのお母さま!
「血は争えないな」と思いました(笑)。父が存命だった頃は、父への気遣いもあったのかあまり好きな芸能人の話などはしない母だったのですが、今はその俳優さんのほかに新しくアイドルの推しもできて、応援のためにInstagramのアカウントを作ったみたいです。父がいなくなった隙間を埋めてくれたのかもしれません。
他にも、YouTubeでは旅行の動画やかわいい動物の動画などを毎日気ままに楽しんでいるみたいで、いいプレゼントができたなと思っています。
――お母さまの介護を経験して、ご自身のこれからについて考えることはありますか?
もちろんです。還暦を迎え、職場の同年代の人たちとも老後についての話題が増えました。私は子どもに負担をかけたくないという気持ちが強くて、夫と二人で穏やかに過ごしていけたらと思っているんです。大阪に戻りたいという気持ちもありますね。
――そうなんですね。てっきり、今の家にずっと住まれるのかと。
今の家にも愛着はありますが、車が必要な今の地域に住み続けるのはリスクが大きいかも、と思うようにもなったんです。お店や病院が近くにあれば、二人でもやっていけそうですしね。何より、人との関わりをもっと持ちたいなと思っていて。
今住んでいるところは静かで暮らしやすいけれど、もっと密なご近所付き合いをしたいなという気持ちがあるんです。結婚したばかりの頃に住んでいた地域が大阪の下町のような感じで。商店街があって、ご近所さんと顔を合わせれば「おはよう!」「今日は何してたん?」と声を掛け合うような雰囲気がすごく気に入っていたんです。
そういう雰囲気のところにまた住みたいなという気持ちもありますね。子どもと離れて暮らすことを考えると、やはり近所の人との関係は大切にしたいなと思います。
――お仕事はどのように考えていますか?
収入をキープしたいという意味でも、生活のメリハリという点でも、仕事は続けたいですね。書店員として勤務して16年になりますが、新しい仕事をしてみたいなという気持ちもあるんです。
Instagramでもよく若い世代の方から「元気をもらえた」「年を取るのが楽しみになりました」と言ってもらえることがあって。そんなふうに、いろいろな方の役に立てるようなことを仕事にできたらな、と考えているんです。
――はる。さんのように、好きなことを続けていくためには、どんなことを意識するとよいでしょうか?
それぞれの方の性格もありますし、「こうすれば大丈夫!」みたいな正解ってないと思うんですよ。私の場合は仕事に行く日はよく歩くので、階段を使うなど歩く習慣を大切にして、少しだけ健康を意識しています。眠りにつく時間も早いですね。
もし何か始めてみたいことがあるなら、ぜひ思い切ってチャレンジみてほしいです。よく「やってみたいことがあるけど、一人ではちょっと……」と悩む方もいらっしゃると思いますが、ほとんどのことに「一人でやっちゃダメ」という決まりなんてないと思うんです。
それに、大人になるとなかなか新しい友達を作るのが難しかったりしますが、新しい場所に飛び込んでみることで「好きなこと」を通じた素敵な出会いがあるかもしれません。
趣味や交友関係を広げることが、老後をもっと楽しく過ごすための第一歩になるんじゃないかなと思います。もちろん無理のない範囲で、ぜひ楽しんでいってほしいです。
取材:構成:藤堂真衣
編集:はてな編集部
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