アクティブシニアに働くチャンスを 歴ドル・小日向えりの挑戦

人生100年時代 が到来し、高齢者雇用の促進が求められるなか、シニアが社会で活躍し続けるための環境作りが注目されています。

歴史が好きなアイドル=歴ドルとして、Eテレ『NHK高校講座 日本史』などに出演する小日向えりさんは、2017年に高齢者の就労支援事業を行う会社「ぴんぴんころり」を創業。現在、高齢者が一般家庭の家事や育児を支援するサービス「東京かあさん」を展開しています。なぜ、シニア向け事業を始めたのか、異なる世代同士のコミュニケーションの難しさと面白さなどを伺いました。

 

今回のtayoriniなる人
小日向 えり
小日向 えり 1988年、奈良県出身。歴史好きアイドル、関ヶ原観光大使、信州上田観光大使などで活動。2017年に高齢者の就労支援事業を展開する会社「ぴんぴんころり」を創業、同社代表を務める。2019年7月「東京かあさん」サービス開始。

 

元気に働けるシニアのお手伝いをしたい

──小日向さんが「シニアの働き方」について注目するようになったきっかけを教えてください。

小日向

私の祖母は働くことが好きだったのですが、80代を目前に仕事をやめました。それを機に元気だった声に張りがなくなり、心配していた矢先に怪我をして入院してしまったんです。当時は医師から「もう歩けなくなるかもしれない」と言われ、幼い頃からおばあちゃん子だった私はすごくショックを受けました。

その経験から、「祖母にとっては働くことが元気の源だったのでは」と考えるようになり、アクティブシニア (仕事や趣味などの活動に意欲的な60代以上の世代)の就労支援に興味を持ち始めました。

──シニアとの関わり方はさまざま考えられるなか、小日向さんが起業を選んだのはなぜですか。

小日向

商売人の家系に生まれたせいか、やりたいことを見つけたら自分で自由に取り組んでみるタイプなんです。祖母の件もありますが、自分自身も30代を迎えるにあたり、芸能活動を続けながら起業家としても本格的に活動しようと考え、「ぴんぴんころり」を創業しました。社名は、「寝たきりや病気にならず、人生の幕引き直前までぴんぴん元気でいること」に由来しています。

──起業後、どのような事業を始めましたか。

小日向

まず取り組んだのが、ユニークな特技や技能を生かしたシニア向けスキルシェア のサービスです。ただ、展開していくうちに、特別な肩書きや資格を持たない普通のおじいちゃんやおばあちゃんが、それぞれの良さを生かして働けるようにお手伝いしたい気持ちが強くなりました。そこから考えた新しいサービスが「東京かあさん」です。

働く「お母さん」のイメージ (写真提供/株式会社ぴんぴんころり)

──「東京かあさん」とは、どのようなサービスなのでしょうか。

小日向

シニアスタッフが「お母さん」として利用者の自宅を訪れ、家事や子育てのサポートをするサービスです。料理や掃除をこなすだけではなく、要望があれば家事のやり方を教えたり、人生相談に乗ったりすることも。心身の負担が大きなことはできませんが、お子さんのお世話やペットの散歩、クリーニングの受け取り、話し相手になってほしいというお願いまで、さまざまな依頼に応えます。

理想の「お母さん」像はない、一人ひとりの経験を生かした「お母さん」に

──「お母さん」を務めるシニアスタッフと小日向さんはどう関わっていますか?

小日向

どんな人柄なのか、得意分野や苦手なこと、趣味、コミュニケーション能力などを知るために、採用面談はできるだけ私が担当します。良し悪しの評価基準がある訳ではないので、ときにはツッコミをまじえてフランクに話しかけて、心を開いてもらうようにしています。

──「理想のお母さん像」があるわけではないのですね。

小日向

そうですね。一人ひとりの性格や経験をなるべくそのまま生かしたいですし、若い世代と違って、シニアは教育では変わりにくいとも感じています。以前掃除の研修を開いたとき、参加者から「なんの勉強にもならなかった」と言われてしまいました。60年以上生きていると、確立された自分のやり方や考え方があるので。

──通常のサービス業では、従業員研修を行って均一のサービスを身につけてもらうこともあります。「東京かあさん」は全く違いますね。

小日向

言うならば、利用者とシニアスタッフの相性が鍵となるサービスです。実は先日、産後うつになってしまった方から利用依頼があったのですが、紹介した「お母さん」がとても的確な対応をしてくださいました。

後から分かったことでしたが、夫が長年鬱で闘病した経験をお持ちで、うつ病のケアに詳しい方だったんです。お互いに元気になれるような信頼関係を提供できるとうれしくなります。

家の外で働くのが初めてだという人もいる (写真提供/株式会社ぴんぴんころり)

──どんな方が働きたいと応募してくるのでしょうか。

小日向

例えば、仕事や子育てがひと段落して日々の張り合いのなさを感じている方や、孫のお世話以外の人間関係を外に持ちたいと考えている方です。いずれにしても「社会とつながりたい、誰かの役に立ちたい」という気持ちがみなさん強いですね。

──家庭外での仕事に慣れていない方からの応募もあるんですね。

小日向

アルバイトも含めて外で働くのが人生で初めてという専業主婦の方を採用したときは、利用者との顔合わせ前日に「私には無理かもしれません……」と電話がかかってきて励ましたことも。初めての勤務で不安になるのは当たり前ですよね。

どうなるだろうと私もハラハラしましたが、今では利用者とすごく仲良しで、「今日もとっても楽しく働きました」、「出張のお土産をもらいました」などの報告をいただくようになりました。

ITリテラシー、待ち合わせ、サービス残業…感覚の違いも受け入れる

──シニアの支援事業を進めるにあたり、壁にぶつかることはありましたか?

小日向

当初はアプリを使ったサービスを提供するつもりでしたが、実際にシニアの方と話してみると、ITリテラシーの個人差が大きすぎると感じ、サービスの仕組みを考え直しました。現時点では、シニアの方全員がアプリを使いこなすのは難しいです。

ただ、若い方と比べると時間はかかりますが、LINEの使い方などをマンツーマンで教えると意外と覚えてくれる、という発見もありました。

──シニアを対象としたサービス運営の難しさは、他にもあるのでしょうか。

小日向

サービス残業に注意しています。利用者は、高齢者の身のこなしを想定できていないことがあるので、3時間かかる作業を2時間分として依頼してしまうことも。そうした依頼を受けたシニアスタッフのなかには「終わらなかったら依頼主が困るだろうから」と、時間が過ぎても頼まれたこと全部をやってあげたくなってしまう方がいます。

──そんなとき、小日向さんはどう対処されているのですか。

小日向

まずは、シニアスタッフに「やらなくていい」と伝えます。それから場合によっては、利用者に事情を説明して、依頼内容を少し減らしてもらいますね。

──お話を聞いていると、「東京かあさん」は、利便性の追求とは別のところに良さがあるのだと感じます。

小日向

合理性を求めて家事をアウトソーシングしたい人には、別のサービスをオススメしますね。シニア世代と関わる楽しさは、交流したり精神的に寄り添えたりするところ。家事の完全な代行ではなく、一緒にやるイメージです。

とはいえ、高齢者はどうしても「うっかり」が増えるので、その分利用者の心理的な負担も考えて、なるべく良心的な価格設定にしています。ありがたいことに、利用者のほとんどがコンセプトを理解してくださって。サービスを開始して半年が経ちますが、利用をやめる方はとても少ないですね。

シニア世代とのコミュニケーションは認識のズレを埋めることが重要

──シニアスタッフと利用者、異なる世代でのコミュニケーションについて、運営上気をつけていることはありますか。

小日向

お互いに認識のズレがあるときは、間に入ります。あるとき、利用者がシニアスタッフに作ってほしいレシピの画像をLINEで送っていたのですが、画像の文字が小さかったんです。利用者は相手が画像の拡大方法を知っていることを前提に送ったと思うのですが、シニアスタッフが戸惑っていたため運営側が操作方法を動画で説明しました。

──お互いのことを知っていないと、些細なことがすれ違いを生んでしまう可能性もありますね。

小日向

信頼関係が築かれるまでは、感情面のすれ違いにも気を配っています。初回の顔合わせを終えて、「お母さん」のことを気に入った利用者から、運営する私たちにお褒めの言葉をいただいたのですが、当の本人は「ありがとうと言われなかった……」と利用者にネガティブな印象を受けていたことがありました。

すれ違っていると思ったら、間接的に「相手はあなたのことが好きですよ」と伝えます。今後は利用者のヒアリングにも力を入れたいですね。シニアが楽しく働くために立ち上げたサービスということもあり、私の目線がワーカー寄りになってしまいがちなので。

──小日向さん自身は、シニア世代との仕事を通して影響を受けていますか。

小日向

これまで自分の生活スタイルは、効率を追い求めすぎていたかもしれないと思うようになりました。昨日も面談をしたのですが、3名ほどが自分で作ったお洋服を着ていらっしゃいました。買ったほうが安いし合理的かもしれないけど、自分の手でお気に入りを作って楽しめるのはプライスレスで素敵なことじゃないですか。

シニア世代は健康志向の方も多いので、元気で長生きする秘訣を教えてもらう感覚です。利用者の方も、世代の異なる方の考え方にハッとする場面があるのだと思います。

──もし周りに「シニア世代と関わるのが苦手」という人がいたら、どうアドバイスされますか。

小日向

みなさん生きてきた分だけ引き出しがあるので、「昔はどんなことをしていたの?」など、今までの経験を聞いてみるのがいいかも。誰でも自分の話を聞いてもらえるとうれしいですよね。もし困ったら無理に話そうとせず、話を聞くだけでも仲良くできると思います。

今後は「東京とうさん」も? シニアを元気にする事業を幅広く

──今後は、事業をどう成長させていきたいですか。

小日向

まずは「東京かあさん」をサービスとして成功させたいです。家事や育児に関するノウハウへの需要は高まっていますし、主婦の力を即戦力として生かせます。その知見を基に「東京とうさん」も始められるといいですね。通信会社と提携して、シニアのITリテラシーを上げられるような活動や、シニアに特化したモデル事務所も面白いかもしれません。

──小日向さんの経験も生かせそうですね。

小日向

もちろん利益がないと会社として続けられませんが、就労支援に限らず、どんな形でも構わないのでいろんな挑戦をしたいです。今はどうすればシニアの方がより楽しく働けるか模索中。焦らず一歩ずつ挑戦していきたいですね。

編集:ノオト
撮影:小野奈那子
 

 

森夏紀
森夏紀

有限会社ノオト所属の記者、編集者。1994年、北海道生まれ。取扱説明書の編集職、企業のWebコンテンツ制作職を経て現職。街歩きや働き方に関する取材を担当。

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