行ってみたら、ずっと楽しかった――話題の介護施設に、若手映像作家が1年間密着!『僕とケアニンとおばあちゃんたちと。』

神奈川県藤沢市に、国内外から視察の絶えない介護の会社があります。その名は「あおいけあ」。NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』で、代表の加藤忠相さんが密着ドキュメンタリーとして紹介されたため、会社名だけでもご存じの方は多いかもしれません。

ドキュメンタリー映画『僕とケアニンとおばあちゃんたちと。』では、若手映像作家の佐々木航弥さんが「あおいけあ」に1年間密着。

作品に携わるまで、介護施設に足を踏み入れたことが佐々木監督にはありませんでした。まっさらな状態で踏み込んだ「あおいけあ」での率直な思い、福祉や介護に関するイメージの変化など、お話を伺いました。

今回のtayoriniなる人
佐々木航弥さん
佐々木航弥さん 1992年生まれ、岩手県出身のドキュメンタリー映画監督、フリーランス映像ディレクター。大阪芸術大学映像学科卒業。在学時は、映画監督の原一男に師事する。卒業制作『ヘイトスピーチ』(2015年)が全国公開された。
「あおいけあ」とは

神奈川県藤沢市にある高齢者向け介護福祉サービスの会社。利用者やスタッフの笑い声が絶えず、その人らしい生活が送れる施設としてNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』『あさイチ』、読売新聞、日経ビジネスなど、多くのマスコミで紹介される。「あおいけあ」では、小規模多機能型居宅介護の「おたがいさん」、デイサービス「いどばた」、グループホーム「結」の3つの施設を経営。

身内の介護経験もなく、施設にも行ったことがなかった

佐々木航弥監督
佐々木航弥監督

――映画『僕とケアニンとおばあちゃんたちと。』は「あおいけあ」の施設で過ごすおばあちゃん、おじいちゃんの日常を丁寧に紡いでいます。ドキュメンタリー映画を撮るきっかけは、そもそも何だったのでしょうか?

佐々木

大学を卒業して1年後ぐらいに、映画プロデューサーの方にお話をいただいたのがきっかけです。2017年に公開された映画『ケアニン〜あなたでよかった〜』で、「あおいけあ」は劇中に出てくる介護施設のモデルになっていました。今回の映画のプロデューサーが『ケアニン』のプロデュースも兼ねていたため、僕はドキュメンタリーを2016年の春から2017年の春まで撮りながら、合間に先に公開となる『ケアニン』のメイキング・ディレクターとしてもお手伝いしました。

――プロデューサーの方には何と声をかけられたのですか?

佐々木

「とにかくすごい施設なんだよ」と言われまして(笑)。その時に「あおいけあ」が他の介護施設と違うところについて、ざっくりとお聞きしたんです。

例えば、他の施設では利用者の方が包丁を使ってのお料理は危ないからできないけれど、「あおいけあ」では元職人さんのおじいちゃんにのこぎりを使ってもらっているとか……。

――監督ご自身は介護施設に対して、どんなイメージを持っていましたか?

佐々木

介護にも介護施設に対しても、良くも悪くも決まったイメージがありませんでした。何しろ、撮影に入るまで老人ホームや介護の現場に、僕自身、行ったことがなかったので。祖父は僕が生まれる前に亡くなっていますし、祖母は今でも元気ですし。身内で介護経験がなかったんです。

――介護の知識がまったくない状態で現場に入られたのでしょうか?

佐々木

本当に介護知識ゼロの状態から現場に入りましたね。なので、デイサービスと聞いてもピンとこないくらいで。先入観がまったくないまま1年間密着をして、現場で感じたことを基に撮ろうと思っていたので、撮影に入る前、特に介護について勉強しませんでした。撮影を始めてからは「あおいけあ」には平均して週3回は通っていましたね。

撮影開始から2〜3ヵ月でようやく被写体の目星がつく

――作品を観ていくと、認知症のトヨコさん、新人スタッフの相原さんなど、さまざまな人物が浮かび上がってきます。監督は「この人は撮ろう」といった登場人物の目星はついていたのですか?

佐々木

いえ、ついていなかったです。撮影を始めて2〜3ヵ月で、撮影範囲をデイサービスの「いどばた」に絞った時に、おばあちゃんのトヨコさんなどをメインにしようと被写体も決まっていきました。

――被写体を決めた理由は?

佐々木

「興味のある人を撮らないと、絶対にいい画が撮れない」という大学時代に師事した原一男先生の教えがあったからです。僕が興味を持ったのは、トヨコさんをはじめとするおばあちゃんやおじいちゃん、スタッフの小池さん親子でした。

――「あおいけあ」といえば、代表の加藤忠相さんがメディアに数多く出られていますが、この映画では出てきませんね?

佐々木

加藤さんは出さないと決めていました。加藤さんが映ってしまうと、「加藤さんの映画」になる可能性があるからです。あと当初からイメージしていることがもう1つあって、あまり悲しいドキュメンタリーにしたくはありませんでした。

――それはなぜですか?

佐々木

僕自身が「いどばた」に通っていて、楽しかったんですね。居心地のよさをそのまま画面で伝えたい。介護を題材にした作品ですと、どうしても悲観的な内容になりがちですが、結果的にそうならなくてよかったと思います。

認知症の人は僕を忘れてしまう。被写体との距離が縮まらない

――映画には、認知症の利用者の方も多く登場していますね。作品のナレーションにも「僕のこと、全然覚えてくれてなかった」という箇所があります。取材をしても、被写体の方に覚えてもらえないことについてどう思いましたか?

佐々木

撮っていて、そこはすごく難しいところだと思いました。僕としてはドキュメンタリーを撮る上で、被写体との関係性がよくなる部分を映像で見せていきたいんです。でも認知症の人は、僕のことを忘れてしまう。

毎回、お会いした時に「はじめまして」となるので、撮っても撮っても、被写体との距離が縮まらない感覚を覚えてしまうんですね。でも編集してみたら、僕が自然とおばあちゃんたちに近づいている映像だったので、結果的によかったのかなと思いましたね。

――「なんだ、認知症の人だって普通に話せるじゃん」というナレーションがあります。監督が「認知症の人も普通だ」と本気で感じたのは、いつ頃だったのですか?

佐々木

本気で感じたということに関しては、半年ほど経った頃だったと思います。

正直に言うと、当初は認知症の人と接するのが怖い気持ちはありました。認知症の症状が軽い方は特に怖く感じませんでしたが、症状の重い方だと、突然「わーっ!」と声を上げるようなこともあったんです。

でも撮影を続けているうちに、自分の気持ちも「わからないから怖い」から「利用者さんが怪我してしまいそうで怖い」に変わっていきました。スタッフ目線といいますか。映画の中でもありますが、おじいちゃんが1人で「散歩に行きたい」と言い出して、そのときスタッフの方々はバタついていて。風も強い日だったので心配になって「僕、撮りがてらついて行きます」と言ったら、スタッフさんに「じゃあお願い!」と託されたこともありました(笑)。

介護に対してプラスのイメージを持つようになった

――1年間、利用者の方ともスタッフさんとも共存する対象として、「あおいけあ」で時間を過ごして、率直に感じたのはどんなところでしょうか?

佐々木

「あおいけあ」のスタッフさんの“やりがい”はどこにあるのかということです。認知症のトヨコさんなどはスタッフさんのことを覚えていますが、覚えてくれない利用者さんもたくさんいるのに、なぜそこまで献身的に尽くせるのかと。

お医者さんなら病気を治したらゴールですし、僕らなら映画を1本作ったらゴールです。でも介護はゴールがない。その部分を映画で使っていませんが、スタッフさんに率直に聞いてみたんです。皆さん一様に「ゴールがない。だから突っ走れる」と言っていました。

――最後に監督ご自身が撮影を通して、介護や福祉に対して気持ちが変化したことはありますか?

佐々木

介護施設に対してよくないイメージを持つ人がいます。その人たちに対しては「施設に入ることは、決してマイナスではないよ」と伝えていきたいですね。

あと介護に対していいイメージが持てるようになりました。ドキュメンタリーの撮影を通じて、働いている人が仕事に誇りを持つことが大事なのかなと思わされました。「あおいけあ」のスタッフさんは、笑顔で楽しそうに利用者さんに寄り添っているんです。会社によってはスタッフ個人が自由に介護できないところも多いのでしょうが、やはりスタッフさん、利用者さんの気持ちの持ちようだなと思いました。

作品情報

佐々木航弥監督のドキュメンタリー映画『僕とケアニンとおばあちゃんたちと。』が、吉祥寺・ココマルシアターを皮切りに2019年5月18日(土)より順次公開。

公式サイト
横山由希路
横山由希路 ライター

フリーの書籍ライター・編集者。人の心理を対話で優しく掘り下げることを得意とし、「東洋経済オンライン」「週刊『SPA!』」などで介護、ビジネス、演劇記事を執筆する。広瀬宏之「『ウチの子、発達障害かも?』と思ったら最初に読む本」(永岡書店)で一冊構成。認知症である実母の成年後見人も務める。

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