高齢者がペットを飼うときに気をつけるべきポイントは?家族の協力も重要に

一般社団法人ペットフード協会が行った「平成29年 全国犬猫飼育実態調査」によると、20〜60代における犬の飼育率・飼育意向はともに減少傾向。しかし、70代はそのどちらも維持していたそう。

「自身に寄り添ってくれるパートナー」として、犬を求める傾向が高齢者にはあるのかもしれません。

「生活に癒しや安らぎが欲しい」「運動不足を解消したい」「家族や夫婦間のコミュニケーションに役立つと思ったから」など、ペットを飼うきっかけは人それぞれ。高齢者がペットを飼う際に考えておきたいことを、獣医師ネットワークVESENA(べセナ)に所属する荒川弘之(あらかわひろゆき)さんに伺いました。
 

今回のtayoriniなる人
荒川 弘之(あらかわ・ひろゆき)
荒川 弘之(あらかわ・ひろゆき) 獣医師・博士(獣医学)、NPO法人 VESENA(べセナ)事務局長、株式会社エルムスユナイテッド動物病院グループ経営管理室長。獣医師として活動する傍ら、高齢者のペット飼育を支援する獣医師ネットワークVESENA(べセナ)でも活動に取り組む。

犬がきっかけで生まれる高齢者と社会のつながり

――まずは、荒川さんが所属しているNPO法人「VESENA(ベセナ)」の活動について教えてください。

荒川

べセナは、「高齢者のペット飼育を支援する獣医師ネットワーク」です。首都圏を中心とした動物病院獣医師によって結成されました。高齢者が何らかの理由でペットを飼えなくなった場合、新しい飼い主を探すことがまず主要な活動です。ペットの健康状態や性格、新しい飼い主との相性を深く調べ、その上で丁寧にマッチングさせる活動と、ペットの散歩や訪問看護などの高齢者のペット飼育の支援活動を行っています。

――べセナではどのような動物が対象になりますか。

荒川

私たちが支援しているのは、今のところ犬のみです。これは、犬を飼うことを通して高齢者が社会に関わりやすくなることと関係しています。

――犬がもたらす、高齢者と社会の関わりとは?

荒川

犬の世話をしていると、散歩で外に出る機会が生まれますよね。同じく散歩している人から声をかけられたり、愛犬家たちが集まる地域コミュニティに入りやすくなったりします。私たちはこうした社会的な繋がりから、犬と接する高齢者の生活QOL向上を目指しています。高齢化や単身化が増え続ける現代において、ペットの役割はますます必要とされるようになるのでは、と考えています。

――確かに犬がきっかけとなって、周囲の人との会話や地域との接点、コミュニケーションが生まれることは大いにありそうです。

荒川

そうですね。また、動物を世話することで生まれる「生命を扱うことへの責任感」が、高齢者にとって大きな生きがいや喜びになることもあります。個人的には、高齢者がペットを飼うことにはたくさんのメリットがあると感じています。

子犬ではなく、しつけられた成犬を譲渡してもらう選択肢も

――高齢者がペットを飼いたいと考えた時、本人が最初に考えるべきことは何でしょうか?

荒川

まず、ペットを飼うということは、毎日の食事や散歩、身の回りのケアや健康チェック、病気の対処や予防接種など様々な義務を負担しなければなりません。そのためには、「経済面」と「心理面」、どちらにも余裕が必要だということを知っていて欲しいです。

――それぞれ具体的に教えてください。

荒川

経済面でいえば、普段のエサやトリミングなどにかかる費用以外にも、予期せぬケガや病気で思わぬ出費が必要となることもあります。日頃のケアやメンテナンスの程度にもよりますが、長期的に見てトータルで100万円ほどは、そういった出費があると考えた方が良いでしょう。

――では、「心理的」な余裕とは何でしょう。

荒川

心理的な余裕というのは、ペットを最期まで見届ける覚悟が必要ということです。ペットの寿命はヒトよりも短く、年老いたペットの介護や悲しい別れを経験することもあると思います。高齢者に限った話ではないですが、いわゆるペットロスと向き合う可能性があることを忘れてはいけません。ペットを失うことで、めまいや無気力といった心身の症状が出る方もいます。その期間は人により様々ですが、経験として新たにペットを迎え入れることでペットロスが軽減される方は多いと感じています。

――ちなみに、高齢者にオススメの犬種はありますか?

荒川

好みがあるのでオススメの犬種については断言できませんが、性格が大人しい犬の方が好ましいですね。あとは、子犬から飼い始めるとしつけがうまくできず甘やかしてしまい、結果として手におえなくなる場合も。すでにしつけられていて性格もある程度わかっている成犬を譲渡してもらうなどの選択肢もあります。

――なるほど。世間一般では「ミニチュア・ダックスフンド」「チワワ」などの小型犬が高齢者に人気のようです。

荒川

力が強い大型犬だと引っ張られて転んでしまう可能性もありますからね。高齢者の場合、世話中のアクシデントや散歩中の思わぬ転倒などでケガをしてしまう人もいます。先ほど、経済的、心理的な余裕が必要と話しましたが、可能であれば自宅をバリアフリーにするなど、ペットと過ごす空間も余裕のある作りにしておけると、なお安心だと思います。

 家族みんなで考えたい、ペットの世話と介護について

――高齢者自身もその家族も含め理解しておきたい要素ばかりですね。もし高齢の親に「ペットを飼いたい」と相談されたら、家族はどうしたら良いでしょう。

荒川

高齢者とペットが暮らすには、やはり家族の協力が必要です。忘れがちなんですが、「犬も介護が必要になる可能性がある」ということは覚えていてほしいです。犬も年老いてくると目が見えにくくなったり、トイレや食事が上手くできなくなったりします。つまり、ヒトと同じように介護が必要になるかもしれないんです。

――なるほど。犬の介護は考えたことがありませんでした。

荒川

ただ、高齢者自身は周囲が見えていないこともあるため、家族が意識する必要があるんです。犬を取り囲む現実を全ての人が理解した上で、「家族として迎え入れるのか?」から一緒に考えてほしいと思います。

――では、どのような心構えで私たちは向き合ったら良いですか?

荒川

住まいが離れていたとしても、「一緒に飼う」というくらいの気持ちがあるのが理想ですね。実家に通える距離なら定期的に訪問することで、ペットだけでなく、お父さんやお母さんの様子を知るきっかけにもなります。遠方で訪問することが難しくても、ペットの成長を話題にすることでコミュニケーションの一つにもなりますよね。

――家族全員で犬と向き合うことで、高齢者も含めたコミュニケーション関係を築いていくわけですね。

荒川

そうです。高齢者の方の中には、「最後まで世話をする自信がないから」とペットを迎え入れることを躊躇してしまう人もいます。その責任感はとても大切ですが、家族・獣医師・愛犬家コミュニティーなど様々な人と繋がることで、そういった不安は軽減できるかもしれません。気軽に相談することができる、かかりつけ医を見つけておくことも必要だと思います。

ペットを飼うと、生活が楽しくなったり、気持ちが安らいだり、ペットを介した周囲とのコミュニケーションが取りやすくなるなど、他には変えがたい素晴らしい体験ができます。我々も、高齢者の方が抱く将来の不安を減らし、安心してペットを飼えるサポートを続けていきたいと思います。

ライター:スギモトアイ
編集:ノオト
 

スギモトアイ
スギモトアイ

1988年生まれの兼業ライター。医科学(修士)。健康・ヘルスケアをはじめ、ビジネスやIT関係のテーマにも取り組む。散歩と食べることが好きで、新しい土地を散策するのが趣味。

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