親とのコミュニケーションは「共通の話題作り」が大切。『あつ森』が僕たちに最適な見守りツールであるワケ

親が高齢になっていくにつれて、どのような距離感で見守ればいいのか、どうコミュニケーションを取ったらいいのか、悩んでいる人も少なくないと思います。また、仕事を辞めた親に、新たな生きがいや楽しみを見出してほしいと思う人もいるのではないでしょうか。

今回お話を伺ったのは、2023年の始めにX(旧Twitter)で「77歳の母が『あつ森』にハマっている」様子を投稿し、大きく話題になったTFjしろくまさんと、お母さんご本人です。お母さんはゲーム『あつまれ どうぶつの森』にすっかりハマって、手書きの攻略本を作ってしまったほどだそう。それが親子のコミュニケーションを増やし、何よりもお母さん自身の生活にハリを生んでいるようです。

『あつ森』をきっかけに、ゲームを介して家族間のコミュニケーションがどう変化したのか、高齢のお母さんを見守る上で大切にしている点はどのようなものなのかといったことを中心に、お話を伺いました。

今回のtayoriniなる人
TFjしろくまさん&お母さん
TFjしろくまさん&お母さん 2023年始めに「77歳の母が『あつ森』にハマっている様子をSNSに投稿したものが話題に。お母さんはハマって1年で1,500時間以上プレイし、自分の姉と妹にもプレイを勧め、説明のために自作攻略本を作るまでに。それが姉妹相互での見守りにもつながっている。

最初は『敦盛』という戦国武将のゲームだと思い込んでいた

──77歳になるお母さんが熱心に『あつ森』(あつまれ どうぶつの森)に励む姿は、X(Twitter)でも大反響を呼びました。今ではお母さん自ら、自分の姉妹にも勧め、毎日お互いの島で遊んでいるため、ゆるやかな「見守り」や安否確認にも役立っているそうですね。TFjしろくまさんが、見守りツールのひとつとして『あつ森』に着目したきっかけを教えてください。

TFjしろくまさん(以下、しろくま):実はそこまで深く考えていたわけではありません。妻や子どもたちが「あつ森」で遊んでいるのを見て、母がその仲間に入れれば、共通の話題が増えるし、プレイ時間が分かる(※)ことが間接的に見守りにもつながるかなと思った程度です。

まさか、こんなにハマるとは想像もしていませんでした。そもそも、最初に勧めたときは「ゲームなんて無理。やれるわけないでしょ!」とキッパリ断られてもいるんですよ。

(※)『あつ森』が動作するNintendo Switchには、登録しているフレンドのゲームプレイ時間を見られる機能がある。プレイ時間が増えているのが分かるので見守りにも使える。

TFjしろくまさんのお母さん(以下、しろくま母):息子から「『アツモリ』っていう面白いゲームがあるんだよ」と言われて、すっかり「敦盛」という戦国武将のゲームだと思い込んでしまったんです。もともと、ゲームなんて興味はありませんでしたし、ましてや戦うなんて絶対にイヤ! とずっと、断り続けていました。

Nintendo Switch Liteで『あつ森』を遊ぶお母さん。

──ゲームを敬遠していたお母さんが『あつ森』にハマったきっかけは何だったんでしょうか。

しろくま母:お正月に孫たちが遊びに来た時に、『あつ森』を持ってきて、うちのテレビに映し出してワイワイ遊んでいたんです。横で見てたら、すごくかわいくて面白そう。しかも、全然戦わない!

これなら私にもできそうだと思ったので、息子に「やってみたいから買ってきて」とお願いしました。今思うと、息子はどうしても私に『あつ森』をやらせたくて、そのために見せたのかもしれないですね。

しろくま:子どもたちがお正月に「あつ森」で遊んでいたのは“わざと”ではなく、偶然です(笑)。ただ、おかげで母がその気になってくれたので、しめた! とも思いました。実家から車で30分ぐらいのところに住んでいるのですが、翌週にはNintendo Switchとソフトを購入し、持っていきました。

――WiFiや本体の設定、操作説明などは、しろくまさんがサポートされたのでしょうか。

しろくま:そうですね。母はゲーム経験がほぼなく、本体とソフトを買ってきて渡すだけでは難しいだろうと思っていました。任天堂のアカウント作成などは私がやり、ゲーム内の設定や操作方法は子どもたちからレクチャーしてもらいました。もう少し手こずるかなと思っていたんですが、意外にスラスラやっていましたね。

しろくま母:操作といっても「ここに移動して、こっちで空を見上げて」というぐらいなので、案外簡単でしたよ。さほど覚えることも多くないし。登場するキャラクターもかわいいし、ひたすら島を作り上げていくのが楽しくて。

しろくま:もともと母はガーデニングや洋裁、日曜大工などが好きだったので、『あつ森』の世界観が好みと合っていたというのも大きいんでしょうね。

三姉妹で互いに見守りながら毎日『あつ森』をプレイ

寒くなったら、手袋をして『あつ森』をプレイ

――『あつ森』にハマったお母さんが、ご自分のお姉さんや妹さんにも勧めるようになった経緯を教えてください。

しろくま母:『あつ森』を始めてみたらすごく楽しかったので、80歳になる姉と、72歳の妹にも「一緒にやろう」と勧めました。でも、二人とも「そんなの、できるわけないでしょう!」って、最初はまったく聞いてくれませんでしたね。

楽しさを少しでも知ってもらおうと、「YouTubeで『あつ森』って検索するとゲームの様子が出てくるからちょっとのぞいてみて」と伝えてみたり、「こんな魚が釣れるよ」と画面キャプチャ―を送ったりしていたんですが、それでも反応はかんばしくなくて。

――全然興味を持ってもらえなかったんですか。

しろくま母:でも、ある日、姉からあわてた声で電話がかかってきたんです。「ちょっと困ったわ。孫が『あつ森』を買いに行っちゃった!」って。

大学生の孫が遊びに来た時に、私から『あつ森』を勧められてるって話したらしいんです。すると孫が「僕もやっているから、おばあちゃんもやろう」とゲームを買いに行ってくれたと。そのまま孫ちゃんが初期設定を全部やって、「分からないことがあったらおばちゃんに聞いて」と、私ともゲーム内でやりとりできるよう、つなぐところまで全部段取りをつけてくれました。

――お孫さんがきっかけだったんですね!

しろくま母:なので私も、姉が分かりやすいよう、『あつ森』攻略本を作って、写真で送ってあげたりしました。あの攻略本はもともと姉に説明するために作ったんですよ。すると、いつまでもガラケーを使い続けていたぐらい機械が苦手な姉が、すっかりハマってしまいまして(笑)。

――妹さんも、お姉さんたちがハマるのを見て、『あつ森』を始められた?

しろくま母:そうなんです。妹は最初、まったくやる気がなくて「もう勧めないで!」と言っていたぐらい。でも、あの機械が苦手な姉ちゃんがすっかり夢中になっているし、うちの息子(しろくまさん)が「母ちゃんはいまひとり暮らしだから、ちょっと『あつ森』でもやって見守りしてもらえるといいんだけど」と話をしたことで、重い腰を上げてくれました。

しろくま:時系列でいうと、うちの母親が始めて3カ月後に、上のおばさん(お母さんの姉)が始め、10カ月以上たってから下のおばさん(お母さんの妹)が始めていますね。

しろくま母:最後まで「私はゲームなんてやらない」と言っていた妹が、今では一番ハマっています。私はせいぜい1日4時間ぐらいしかやっていませんが、妹は6時間はやっています。

――すごいですね! 今でもコンスタントに4~6時間、「あつ森」をプレイされているんですか。

しろくま母:そうですね。私はだいたい明け方3時には目が覚めて、5時半ごろに『あつ森』にログインします。5時50分ぐらいになると妹がやってくるので「おはよう! グッドモーニング」と声をかけると、「おはよう」と返事が返ってくる。6時を少し回ると、今度は姉がやってくるので、3人で「おはよう」と言い合う。これがすごくうれしいんですね。そばにいてくれる人がいるなと思って、ホッとします。

夫が亡くなって6年になりますけど、朝になって目が覚めたときに「おはよう」と言うと、隣から「おはよう」と返ってくることがどれだけ幸せなことか、身に染みて感じています。

しろくま:私が当初考えていたような、「子どもが親を見守る」段階を超えて、「姉妹3人で見守り合う」という新たなステージに突入しているんですよね。想像していたのとはちょっと違うけど、かえって理想的な形に着地しているのかなと思っています。

しろくま母:姉や妹とは『あつ森』の中で毎日のように話していますし、「お互いに“ちょっと変”だと思ったら、直接本人には言わず、息子たちに連絡しようね」って言い合っています。妹はずっとヘルパーとして働いていましたし、私は4人の親を介護した経験があります。だから、きっと、介護をしたことがない人よりは、少し早めに気付けるんじゃないかなって。

しろくま:ゲームをやってる最中に、上のおばさん(お母さんのお姉さん)のキャラクターが急に動かなくなって、心配していたら「ごめん、ちょっとゴミを捨ててたわ」なんてやりとりもあったよね。

しろくま母:そうそう。珍しくゲームをしていない日があって、LINEを入れても返事がないので、翌日電話をかけたら「携帯電話をカバンに入れっぱなしにしちゃってたわ」なんてこともありました。

しろくま:でも、こういうやりとりを重ねていることで、ちょっとした異変に気付けたり、すぐ動けたりもするんだろうなと思っています。

自分で調べることが脳トレにもつながっている?

――お母さんが『あつ森』で遊んでいる姿を見て、特に驚かれたことや印象的だったことはありますか?

しろくま:もう少しゲームに関して質問が来るかと思ったんですが、ほとんど来なかったんです。全てネットを使って、自分で調べちゃうんですね。

しろくま母:タブレットやスマートフォンを使っています。機械音痴だった姉も、今では自分で調べられるようになったんですよ。脳トレになっているのかもしれません。今では検索ワードが分からないときには、姉と情報交換もしています。

しろくま:あと驚いたのは、ネットでキャラクターを増やす方法を調べて、いつの間にか「父」と暮らしていたんですよ。

――お父さんですか?

しろくま:6年前に亡くなった父のアバターを作って、家を建てて大きいデッキでつないで二人で暮らしているんです。母は「動いている父がいる!」って泣いてしまって。

しろくま母:そのために息子に「コントローラーを買ってきてほしい」と言いました。

しろくま:複数コントローラーの操作も、すぐに習得していましたね。

しろくま母:もちろん、亡くなった家族への思いは人それぞれだと思うんですが、私は夫との生活をゲームの中でまた体験できたことに、すごく感激したんです。

『あつ森』という趣味ができて、退屈だと思う時間がなくなった

『あつ森』という共通の話題で盛り上がる

――『あつ森』をきっかけに、ご家族のコミュニケーションに生じた変化などがあれば教えてください。

しろくま:やっぱり会話は増えたと思います。妻も子どもたちも、甥っ子も叔母たちもみんな『あつ森』という共通の話題があるので。ちなみに、母と叔母たちの話題もほぼ『あつ森』なので、「最近、庭に花が咲いたのよ」と言ってるのがリアルな庭の話なのか、ゲーム内の話なのか分からず、混乱します(笑)。先日、母と下のおばさんも一緒に、家族で那須高原にキャンプに行ったんです。二人ともNintendo Switchを持ってきていて、本物の森の中で『あつ森』をやっていましたからね。

しろくま母:『あつ森』のおかげで、退屈だと思う時間がなくなりましたね。やらなければいけないことがたくさんあるし、いろんな人とやりとりするので忙しい。以前はコロナ禍で家に引きこもらざるをえなかったこともあって、姉がよく電話をかけてきては「今日もテレビっ子で1日が終わるね」なんて言っていましたけど、今はそれがゼロ。そんな電話はまったくかかってこなくなりました。

あと、姉がすごく喜んでいたのは大学生の孫と共通の話題ができたことですね。これまで、孫が遊びに来てくれるのはうれしいんだけど、何を話せばいいか分からなかった。でも今は『あつ森』のおかげで、話題に困らなくなったって。

先日、Webニュースで取り上げられたときは、孫ちゃんの大学でも「すごいおばあちゃんがいる」と話題になって「それ、俺んちのばあさん」と言ったら大騒ぎになったと、笑いながら教えてくれました。

しろくま:子どもの誕生日の時も、『あつ森』の中でお金をプレゼントしたりしているしね。

しろくま母:そうそう。孫たちには「ゲームの中では、ばあばのお金をあげられるけど、リアルではお金がないから、ちょうだいと言ってもダメ。アルバイトしてね」と言ってあります。

実際に楽しいところを見せる「さりげなさ」が大切

――「ゲームを介して、見守りたい」という息子さんの思いを知った時、お母さんはどんなお気持ちでしたか。

しろくま母:ありがたくて涙が出そうになりました。そんなふうに考えてくれていたんだ、と。

――親が不愉快に思うのではないかと思って言えないお子さんがいたり、実際に「年寄り扱いするな」と反発される親御さんもいるようですが、そのあたりはどうでしょうか。

しろくま母:「さりげなさ」が大事なんだと思います。うちの場合はあんまりワイワイうるさくは言ってきませんし。この間は「そろそろ免許返納したら?」と言われて、ついに返納してきました。息子たちの言うことを聞く年齢になってきたんだなあと思っています。

しろくま:母親も80歳近いので、耳が悪くなったり、目の手術が必要になったりと、身体のあちこちにガタが来ていますし、心配もあります。でも、わざわざ見守りに来たという感じではなく、何かしら理由をつけて会いに来るだとか、そういったことが大事なのかなと。

「自宅に荷物を置けなくなったから、実家に置いておいてほしい」とか。これ、言っちゃうと次から言い訳として使えなくなっちゃいますが(笑)。

しろくま母:親の方も隠し事をせず、何でも言うようにするのが大事だと感じますね。困ったことも伝えるし、お願いごともする。私の場合は一つ気を付けていることがあって。何かお願いごとがあったら、まずお嫁さんに伝えます。お嫁さんに隠れて、息子にだけ伝えることは絶対しません。

息子たちからは「妻にばっかり言う」と文句を言われることもありますけど、長年そうやってきたことで、お嫁さんとの深い信頼関係ができました。それがうちにとっては、家族円満の秘訣(ひけつ)だと思っています。

――高齢の親御さんに趣味を持ってほしい、ゲームを介した見守りもしてみたいと思っている人にアドバイスをお願いします。

しろくま:うちはたまたま『あつ森』がハマりましたけど、これは人によっても違うと思います。「ゲームなんて絶対にやらない」という人もいるだろうし、最初の設定さえクリアできれば楽しめる人もいるかもしれない。なかなか『あつ森』なら大丈夫と言い切れないところもありますが、ただ、家族で共通の話題になるようなものを勧めてみるのがいいんじゃないかとは思いますね。

しろくま母:ただ「やった方がいい」と勧められるより、実際に楽しいところを見せてもらえると、「やってみようかな」「自分もできそうかな」と思えるような気がします。遊んでいるところを見てもらうのもいいだろうし、YouTubeを一緒に見るのもいいですよね。「あつ森」は本当に楽しいし、操作も簡単なので、ぜひみなさんも少しでも興味があったら、家族で楽しんでみてください。

取材・構成:島影真奈美

イラスト:caco

編集:はてな編集部

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