テクノロジーの活用で平均80%もの夜間業務を削減! 『ライフレンズ』で実現する入居者ファーストの介護とは

運営する老人ホームでのケアの様子

介護業界の課題に、最先端テクノロジーを導入して解決を模索する企業があります。首都圏を中心に「イリーゼ」のブランドで有料老人ホーム、デイサービスなどを展開するHITOWAケアサービス株式会社もその一つ。パナソニック社と共同開発した見守りシステム『LIFELENS(以下、ライフレンズ)』が、働く人々や入居者にどのような変化をもたらしたかを伺いました。

お話を聞いた方々

・パナソニック ホールディングス株式会社 事業開発室 山岡勝さん

・HITOWAケアサービス株式会社 事業連携部 Care Innovation Team 古作麻友子さん

・HITOWAケアサービス株式会社「イリーゼ西大宮」ケアワーカー 藤本軒遠さん

睡眠を見守る複数のセンサーで介護者の心身負担を大幅軽減

――まず、『LIFELENS(以下、ライフレンズ)』の製品概要を教えていただけますか?

山岡

はい、『ライフレンズ』は、ベッドに設置するシート型のセンサーや映像センサー等様々なセンサーを組み合わせ、居室内の入居者さまの状態やご様子を把握できる見守りシステムです。

各種センサーで睡眠やバイタル等の入居者さまの細かな状態を把握するだけではなく、訪室の必要があるかを映像センサーで判断できる点がその他のシステムとは異なります。

ベッドに設置するシート型のセンサー
古作

共同開発で最初に取り組んだのは、夜間の「巡視業務」の効率化です。弊社施設では2時間に1度すべての居室に訪室をして安否確認を実施していますが、2時間に1度となると、その業務に大半の時間を取られ、他業務に影響を与えるという問題が出てきます。また訪室の際、注意を払っていても足音などで起こしてしまうこともあり、『ライフレンズ』を活用し、入居者さまの状態に合わせて必要なときに訪室を行う形に変更しました。

山岡

また、センサーからデータを収集し、機械学習のモデル化をしているため、利用者さま・入居者さまの睡眠リズムが可視化でき、平時と今とを比較してケアに活かすなど、データを活用した介護ができるようになる点も特長です。

特に誤嚥性肺炎などの場合、4日くらい前から変化が見られるとわかっているので、データを有効活用すればいち早く気がつき、肺炎になる前に適切な処置をすることも可能になるかもしれません。今後は入院率などを観測し、取り組みを進めていければと考えています。

――『ライフレンズ』はパナソニック社とHITOWAケアサービス社の共同開発ということですが、こういった製品を開発することになった経緯を教えていただけますか?

山岡

はい。まず我々パナソニックは、「テクノロジーによって社会問題を解決し、人々を幸せにしたい」という考えをベースに持っています。介護施設の夜間業務の負担や、高騰していく介護人材の時給など、介護業界全体が抱える問題をテクノロジーで解決したいと考えていました。

当初は一番負担が大きく、改善インパクトの大きい夜間業務の身体的な業務負担削減に着目していました。しかし、HITOWAさんから話を伺ったところ、肉体的な業務負担だけでなく、「さまざまな既往のある方数十名を、夜間に1人で見なければならない」など、介護者の精神的な不安も大きいことに気づかされました。そこで、システムを作り替えて今の『ライフレンズ』が出来上がったのです。

大事にしているのはシステムありきではなく、現場が使いやすいシステムにすることなので、現場経験のある古作さんらCare Innovation Teamの皆さまのアドバイスをいただきつつ、開発しました。今も定期的なアップデートを行い、カスタマイズを続けています。

HITOWAケア様は一番利用する方が多い価格帯の施設をお持ちで業界全体に与えるインパクトが大きいこともあって、パナソニック側からぜひとお願いして共同開発が実現しました。貴重なフィードバックをたくさんいただきながら開発できていることを、ありがたく思っています。

導入後、80%の夜間業務削減に加え、きめ細やかな介護を実現

――実際に導入された効果としては、どのような声が上がっているのでしょうか。

山岡

今までは例えばスタッフ1人が入居者さま20人それぞれのお部屋に2~3時間おきで安否確認をしにいくなど、1人にかかる負担が大きい状態でした。しかし、実証実験では安否確認の訪室が91%削減。その後導入いただいた施設でも、平均80%の夜間業務削減ができていると伺っています。

古作

山岡様がおっしゃる通り、スタッフの働き方が本当に変わりました。入居者さまに合ったタイミングで、訪室できるようになったのは大きな変化です。

特に、看取りケアの対応は、単に身体的な負担だけでなく、「駆けつけたタイミングが遅かったら…」という精神的な負担が非常に大きいです。しかし、『ライフレンズ』があればいつでも状況を確認できますし、これまでより異変に気付きやすくすぐに駆けつけられるというのが安心材料になっています。

また、導入当初はデータをあまり活用できず、単に蓄積しているだけでしたが、睡眠状態をみて医師と相談しながら睡眠剤の提供を変えるなど、データを活用した介護が浸透しつつあります。

訪室のタイミングもよりご本人さまのタイミングに合わせて行えるようになりました。立つことや歩行が不安定な入居者さま、排せつの介助だけ必要な入居者さまは、それぞれケアが必要なタイミングが異なるので、その方に合わせたタイミングで訪室しています。

――定時の巡視をしていたときよりも、きめ細やかな介護が実現できたということでしょうか?

古作

はい、そのように実感しています。業務が効率化された分、ケアを必要としている方により時間を使えるようになったという声が、施設側からも上がっています。

また、時間の有効活用という点では、夜間の空いた時間に日中の業務を行うという全体的なオペレーション改革を行うことで日中に入居者さまと過ごす時間を作る取り組みを行っています。その時間を使って、普段行っているレクリエーションに加えて、同じ趣味の方で参加していただくクラブ活動や、より質の高いアクティビティを開催しています。

『ライフレンズ』を導入したことで弊社の事業理念にもある「QOLの向上」が実現できたのも、非常に象徴的な事例だと思っています。

レクリエーションの様子
藤本

私の所属施設でも、『ライフレンズ』の導入により忙しくても日中の見守りが可能になった、夜間巡視が減り、入居者さまから「ぐっすり眠れるようになった」と聞くことが多くなったなどの効果を実感しています。

また、起き上がり検知機能により、いつ転倒するかわからないという精神的な負担も減りましたし、日中に時間ができたことで転倒注意の方のケアを手厚くできるようになったので、事故も未然に防げるようになってきています。

また、ケアの介入頻度の少ない自立度の高い方であっても、『ライフレンズ』によって居室内での異変に気付き、事故を未然に防ぐことが出来たという事例や、不安を感じて眠れない方等を『ライフレンズ』で確認し、訪室して傾聴することで、睡眠時間が改善された事例もあります。

こうして一人ひとりを手厚くケアできる時間が増えたのは、本当に大きな変化だと思っています。

目的はICTの活用ではなく、「現場のケアを変える」こと

――『ライフレンズ』を活用した今後の展望について教えてください。

古作

今はバイタルや睡眠、生活リズム(2023年1月発表の排せつセンサーも順次追加予定)をデータ化できていますが、今後は食事やその他の業務にもテクノロジーの力を活用できるのではないかと思っています。

データ化と予測によって、これまでの介護の当たり前を崩すことができると感じています。排せつに関していえば、今は食事後や、起床後にお連れするなど、タイミングを介護現場側で決めていることも多く、必ずしも入居者さまに合った排せつリズムでご案内ができているわけではありません。

しかし、今後排せつセンサーで正確な排せつ情報やリズムを可視化することができれば、トイレへ適切なタイミングでご案内するという先回りしたケアができるなど、入居者さまファーストなケアを実現していきたいと思っています。

――データを分析や予測に活用していくことで、、入居者さまがご自身のリズムに合わせて快適に過ごすことができるようになるということですね。

古作

はい。私たち介護者は本来、入居者さまの生活のお手伝いをしていればいいというわけではなく、これからの人生をその人らしく幸せに過ごしていただけるようサポートしていくことが仕事です。しかし、人手不足などの問題で手が回りきらない現実もありますし、今後さらに、人の力だけでは実現できないことも出てくると感じています。その部分を、テクノロジー・ICTなどを活用して改善していきたいですね。

増えたのは時間だけでなく、楽しみや安心を生み出すケア

――『ライフレンズ』導入後の現場はどのように変化したのでしょうか?

藤本

日中の時間が捻出できるようになり、プラスアルファの工夫ができるようになりました。例えば、これまでレクリエーションに参加したがらない方に以前好きだった趣味などを調査して、それを取り入れた少人数のサークル活動として開催してみるなどの工夫をしました。

結果、レクリエーション自体を楽しみにしてくださる人が増え、施設内がより明るい雰囲気になったと感じます。入居者さまが楽しく生活をしてくださる姿を見るたび、介護をやっていて本当によかったと感じます。

また、訪室しているときに別の部屋での起き上がり検知を手元のスマートフォンで確認できるので、訪室先の入居者さまに一言断って退出し、別の部屋にすぐ訪室できるのも負担軽減につながっています。

職員側の気持ちに余裕ができたことで、日々の対応にも変化が出ていると感じます。「巡視に行かなければ」という時間に「眠れないから話を聞いてほしい」と依頼されたり、日中の業務に追われているときに「わからないけどどうしたらいい?」と聞かれたりする際にも、入居者さまをお待たせしてしまうことが少なくなってきました。

介護で楽しいのは、入居者さまの困りごとに対応してお役に立てたとき。ですから、その部分に労力を割けるようになったのは良いポイントだと思います。これまでは「やらなくてはならないこと」に時間を取られていましたが、今では「テクノロジーを活用し、入居者さまに寄り添ったケアができるようになった」ことでやりがいが増えたと感じます。

山岡

藤本さんのようにやりがいを感じて働いていただける職員の方が増えたのは、業界にとっても大きな成果だと感じています。今後はさらなるデータ活用を実現し、HITOWAケア様と一緒にケアを変えていきたいと考えています。

HITOWAケア様では既に2000床近く導入いただいているので、入院・ご逝去された方のデータなども蓄積され、「いつから兆候があったのか?」という様にデータを遡って検証できるので、今後のケアにも活かしていけると思っています。

古作

私どももパナソニック様と一緒にケアをアップデートさせていきたいと思っています。それと同時に今でも、施設によっては「活用方法がわからない」という課題がありますので、継続的な現場支援や育成の観点でもCare Innovation Teamで取り組んでいきたいと考えています。

今後は蓄積したデータを活用してどのような使い方ができるかを全体に浸透させ、入居者さまはもちろん、職員にとってもより良い状態を作り、介護業界を明るくしていけたらと思っています。

写真提供:HITOWAケアサービス株式会社

高下真美
高下真美 フリーライター

人材ベンチャーや(株)リクルートジョブズでの営業を経て、2016年よりフリーランスのライターとして活動。Webメディアで採用からサービス導入事例など幅広い企業インタビュー、SEO記事などを執筆。最近ワーママとなり、子供が手のかかる時期に親の介護問題が浮上してくる可能性が高くなったため、自らが気になることを調べて記事にしています。

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