「人生100年時代」と言われる今の時代。ところが、寿命をまっとうする以前に多くの人に「健康寿命」が訪れ、体や精神がままならない晩年を過ごすことが一般的だ。
どうせなら死ぬまでいきいきと暮らしたい。そのためには、会社を退職しても、家族と死別しても、絶えず居場所や生きがいを持つことが重要だと言われている。
そんなとき、何かの趣味に熱中し、そこに居場所を見つけた人の生き方は、人生100年時代を楽しく過ごすヒントになるのかもしれない。
今回は、日本有数のスノードームコレクターとして知られる伊達ヒデユキさんにお話を伺いました。もともと怪獣オタクだったそうですが、なぜ怪獣とはかけ離れたスノードームの世界に魅せられたのか? 話を聞いていくうちに、スノードームの奥深い世界が見えてきました。
――日本有数のスノードームコレクターとして知られていますが、もともとは怪獣フィギュアのコレクターだったそうですね。これまでの蒐集歴と、スノードームを蒐集するようになったきっかけを教えてください。
誰しも子供の頃って何かしら物を集めたがりますよね。私が子供の頃は、切手や古銭集めにはじまり、第一次・第二次怪獣ブームだったこともあって怪獣のソフビ人形を集めたり、当時社会問題になった仮面ライダーカードを集めたりしていました。
中学高校時代は映画のチラシを集めていて、二十歳を過ぎてからは怪獣フィギュアを集めるなど、子供の頃からずっと何かしら集めていたんですよね。
――いずれもわりとポピュラーな蒐集対象ですよね。スノードームコレクターというと日本では少数派だと思うのですが、スノードームとの出会いはどんな感じでしたか?
32歳のときにハワイ旅行のお土産として、友達がホノルルのアンティークショップで買ったスノードームをくれたんです。それがきっかけで18歳の頃の記憶を思い出したんですよ。
免許の取りたての頃って、休みの日になると友達と車でドライブしたりするじゃないですか。あるとき友達と鴨川シーワールドにドライブして、スノードームという名称すら知らずに買ったことがあったんです。
なぜ買ったかというと、当時好きだったクラスメイトの女の子にプレゼントするつもりでした。だけど、当時の私はまだ純情だったので、結局、あげそびれてしまったんですよね……。
――スノードームにそんなほろ苦い記憶があったとは……!
私は蒐集癖があるから、そのスノードームを捨てずに段ボール箱にしまっておいたんです。友達からハワイ土産のスノードームをもらったとき、そのことを思い出して鴨川シーワールドのスノードームを探し出したんですよね。
それを見て純情だった頃の記憶が蘇りまして、「どうせ集めるなら、こういう素敵なものを集めたいな」と思ったのがきっかけでしたね。
――たしかに男の子が好む怪獣フィギュアと比べると、スノードームは幻想的な雰囲気があって女性に好まれそうですよね。
可愛らしさもありノスタルジーもあり、それまで私が趣味で集めていたものとはぜんぜん違いますよね。こういうきれいなものを集めて部屋に飾っておけば、女の子にモテるんじゃないかって、よこしまな考えを持ってしまって(苦笑)。
――実際、本当にモテるものですか?
モテましたね。だから特に男性にはスノードームを教えたくない。モテるから(笑)。
なぜモテるかというと、スノードームって作ろうと思えば自作できるんですよ。好きな子の名前を入れたオリジナルのスノードームを作ってプレゼントすると、けっこう女性に喜んでもらえるんですよね。
――聞くところによると、奥さんとの馴れ初めもスノードームだったとか?
妻との最初の出会いはペットの犬でしたね。私が犬を散歩させていると、いつも「犬を触らせてください」と声をかけてくる女性がいたんです。だんだん話をするようになったところ、私が卒業した美容専門学校の一個下の後輩だということが判明したんです。
当時から彼女は美容室を経営していたので、お店のロゴが入ったスノードームを作ってプレゼントしたんです。それが今の妻で、美容室の名前が「クールラッシュ」だったんですね。
――「クールラッシュ」というスノードームのネットショップを運営されていますが、もともとは美容室だったんですか?
そうです。本来は美容室の店名で、今も妻が経営しています。
最初は私が集めたスノードームをネットで販売しようと思い、経理の関係もあって美容室の一部門としてスノードーム販売を始めたんですよ。その後、私は49歳のときに会社を辞めてスノードーム販売を本業にするようになったわけだけど、面倒だから店名をそのままにしているだけなんです。
――自分でスノードームを作ってみたい人にアドバイスをお願いします。
クールラッシュでスノードームの制作キットを販売しているのですが、作り方の説明書が付いているので、それを参考に作ってもらえるとうれしいですね。
ガラス製のボールに好きなものを入れて作るのですが、コツとしてはあまり大きなものを入れないことです。水によるレンズの作用で実物より1,5倍から2倍くらい大きく見えるので、「ちょっと小さいかな」と思うくらいの大きさのほうがスノードームの見栄えが良くなります。
あとは水に溶けない材質や色落ちしない物を入れることがポイントですね。
――32歳からスノードームを集めて、今では3000個以上ということですが、どんなふうに集めていきましたか?
最初は旅行先の土産物屋で買ったり、雑貨屋で買ったりしてましたね。日本ではそんなに置いてなかったりしますが、海外ではスノードームはメジャーなので、どの国にもスノードームがあります。私も海外旅行するたびに買っていました。しょっちゅう海外に行けるわけでもないので、海外旅行をする友達に頼んだりもしてましたね。
――海外でメジャーということは、やはりコレクターも多いのでしょうか?
アメリカやヨーロッパでは90年代からスノードームのコレクターズガイドが出版されていて、当時から中古売買の相場の本があるほどポピュラーでしたね。
それに比べると日本ではまだまだマイナーですけど、最近はスノードームコレクターが増えているように感じます。その多くは女性だと思いますが、芸能人の千秋や木村カエラが集めているみたいですね。
――コレクターの世界を知れば知るほど、より珍しいスノードームが欲しくなるものですか?
私の場合は、珍しいものというより、古いスノードームに興味を持ちましたね。アンティークのスノードームは日本ではまず手に入らないので、海外コレクターとのトレードや海外オークションで探すようになったんです。
ちなみにこの『オズの魔法使い』のスノードームはトレードで手に入れたものなんですが、たまたま裏を見て「1989 50th anniversary Love Mom」と書かれていることに気づきました。おそらく金婚式の記念に旦那さんが奥さんに贈ったものだと思うのですが、古いスノードームには、そうした人の思い出が詰まっていることが魅力なんですよね。
――アンティークのスノードームは、高値で取引されるものなんですか?
私が海外オークションを利用していた十数年前で2、30ドルでしたから、そこまで高値ではないです。ただし、落札価格の他に輸送費がかかるんですよね。以前は手ごろな料金の船便があったんですけど、それが廃止されたことで輸送費が高くつくようになったんです。それで海外オークションから手を引いてしまったんですよね。
――一つひとつはそこまで高いものではなかったとしても、3000個となると相当な額になりそうですね。これまでいくらくらい費やしましたか?
わからないです(笑)。オークションは値段が決まっていないし、トレードで交換したとしても海外からの輸送費がかかりますからね。おそらくスノードームの値段と輸送費を合わせて1000万円は超えていると思いますね。
だけど、無駄遣いをしているつもりはなかったですね。普通の大人の男の遊びというと、飲み食いしたりキャバクラに行ったりしてお金を使うわけでしょ。それよりも自分の好きなものにお金を使ったほうがいいと思っていました。何も残らないことにお金を使うより、手元に残るものに使いたかったんでしょうね。逆に言うと、ケチなのかもしれない(笑)。
――これからスノードームを集めてみたい人にアドバイスするとしたら、どんなふうに集めていけばいいでしょうか?
一番見つけやすいのは、観光地の土産物屋ですよね。奈良だと大仏、長崎だとグラバー邸というふうにご当地のスノードームがあるんですよ。
海外の土産物屋には、必ずといっていいほどスノードームが置いてあります。特にアメリカやヨーロッパの有名な観光地は、商品の入れ替わりが激しいので、毎年のように新作が登場します。同じ観光地でも滅多にかぶることはないので、海外旅行をする人に頼んでおくのもいいと思います。
他には、ミュージアムショップに置いてあることもあります。私も国立新美術館に商品を卸しているのですが、アートをモチーフにしたスノードームが売っています。
時期的には、クリスマスシーズンに探してみるのがオススメです。クリスマスがモチーフのスノードームがかなり多いので、もっとも市場に流通するのがその時期なんです。クリスマスシーズンになると、企業がノベルティでスノードームを付けることも多いので、企業のHPでチェックしてみるといいと思いますね。
――スノードームはいろんな種類があって、その一つ一つに箱庭的な世界観があるので鑑賞する楽しさがありますよね。
手の中に治まるほどの小さな世界の中にいろんなストーリーがあって、それを想像する楽しさがあるんですよね。
スノードームは外から眺めることはできても、決して中には踏み入れない。そのもどかしさ、切なさ、儚さ……そういったところに惹かれるんです。
スノードームを手に入れたら、必ず振ってから中の情景に想いを馳せてほしいですね。
――スノードームを集めるだけでは飽き足らず、オリジナルのスノードームの製造販売も手掛けていますね。自分の好きなことを仕事にした「趣味人の極み」といった印象ですが、かなりマニアックなスノードームを作っているようですね。
スノードームを集めているうちに、商社を通してスノードームを作る会社を見つけたのがきっかけでしたね。
製造会社を見つけたことで、自分が欲しくなるようなモチーフでスノードームを作ろうと考えました。それが私の昔からの趣味である銭湯通いでした。さまざまな銭湯を巡っているうちに昔ながらの歴史ある銭湯に惹かれるようになって、それをスノードームにして残そうと考えたんです。それで大田区の明神湯をモチーフにスノードームを作ったのが最初でしたね。
――それがきっかけでスノードームの製造販売が本業になっていたわけですか。
2005年頃からネットショップを運営していましたが、その頃は趣味の延長線という感じで、自分が集めたものや制作キットを販売する程度でした。ところが製造会社にスノードームを発注するには、最低でもロットが500個からだったんです。銭湯の他にも昭和30年代の時代風俗やお化けをモチーフにしたスノードームをオーダーしていたので、3種類で計1500個です。もちろん売るつもりで作りましたけど、当初はぜんぜん売れなかったですね。
その頃はサラリーマンと二足のわらじを履いていて、多少の余裕もあったので、たとえ売れなくても自分のコレクションが増えたと思えばいいや、という感じでしたね。
――自分の好きなものという点では、まさに怪獣オタクならではのモチーフでウルトラマンのスノードームを作っていましたが、最近はどんなモチーフで作っていますか?
最近では、漫画家の根本敬さんとコラボしてスノードームを作りました。私は若い頃から根本さんの作品に多大な影響を受けているので、これはぜひとも作りたかった。このとき同時に昭和風お色気イラストで人気の吉岡里奈さんに原画を描いてもらってスノードームを作りました。
今後も好きな作家さんとコラボしてスノードームを作っていきたいですね。私は昔から漫画誌『ガロ』が好きなので、いつか東陽片岡さんのスノードームも作ってみたいですね。
――特殊漫画家・根本敬のスノードームを作ろうなんて、伊達さん以外、誰も発想しないですよ(笑)。マニアにはウケそうですが、逆に売れ筋のスノードームというと?
東京をモチーフとした『TOKYO SNOW DOME』シリーズですね。これも自分の好きな世界なので、このシリーズも続けていきたいと思っています。
ただしコロナ前は空港のテナントに置いてもらって一番の売れ筋商品でしたが、コロナ禍になって外国人観光客が激減したことで、売上がゼロになってしまって……。今さらながら、二足のわらじを履いたままにしておけば良かったと思ったりもしますね(苦笑)。
――あらためて27年間に渡って3000個以上のスノードームを集めてきた趣味人生をどう振り返りますか?
他にもいろいろ集めましたけど、これだけ数を集めたのはスノードームだけですね。ここまで来ると自分のカルマみたいな感じですよ。誰に頼まれたわけでもないのに集め続けて、ある意味、究極の自己満足ですよね。我ながら業が深いと思います(笑)。
良かったことというと、怪獣にうつつを抜かしていた頃よりは、多少はモテるようになったんじゃないかな。もっともこの歳になると、女性にモテたいとも思わないけどさ(笑)。
――今後も趣味人生を追求していくつもりですか?
私も来年還暦を迎えますから、これからは自分が蒐集したものを大事にしながら余生を送りたいですね。経済事情もありますから、集めるのもほどほどにして(笑)。
一日一個ずつメンテナンスしながら、スノードームと一緒に年老いていければいいなって思っていますね。
――メンテナンスしながらスノードームの思い出に浸るのも味わい深いものがありそうですね。本日はありがとうございました!
週刊求人誌、月刊カルチャー誌の編集を経て、2000年よりフリーランスのライター・編集者として活動。雑誌、書籍、WEBメディアなどでインタビューや取材記事、書評や企画原稿などを執筆。カルチャー系からビジネス系までフィールドは多岐に渡り、その他、生き方ものや旅行記など幅広く手掛ける。全国津々浦々を旅することがライフワーク。著書に矢沢ファンを取材した『1億2000万人の矢沢永吉論』(双葉社)がある。
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