「発達障害と認知症を併発した際の特徴」とは。名古屋フォレストクリニック・河野和彦院長に聞く

認知症の患者さんの中には、発達障害を併発している人がいる。名古屋フォレストクリニックの河野和彦先生は、医院に通う患者さんの様子や問診でそのことを知ったと言います。

前回インタビューでは、認知症と発達障害の見分け方が語られました。

今回は、発達障害と認知症の併発のリスクなどについて伺いました。  

今回のtayoriniなる人
河野和彦さん
河野和彦さん 年間で新規の患者さんを700人以上診察する認知症・発達障害専門医。1982年に近畿大学医学部卒業後、1988年に名古屋大学大学院医学系研究科老年科学博士課程修了、医学博士。
2003年に愛知県の共和病院老年科部長に就任。共和病院時代から開始した「認知症ブログ」で認知症薬物療法マニュアルである「コウノメソッド」を公開する。2007年に「コウノメソッド」に賛同する全国の医師を実践医登録し、インターネットに公開することで、全国で的確な診療が受けられる体制を作り上げた。
2009年に名古屋フォレストクリニック院長となる。「コウノメソッドでみる認知症診療」(日本医事新報社)など著書多数。

発達障害があると認知症を併発するリスク

――発達障害があると認知症を併発するリスクは高いでしょうか。

河野

年齢によりますよね。1回目のインタビューで簡単にお話ししたように、50歳以降の患者さんは認知症を合併するリスクが出てくる。50代はまだ若いですから、MCI(軽度認知障害)との併発ですよね。

上のグラフは、クリニックに通ってくださった最近のADHDの患者さん91人の年齢分布ですが、40代までは認知症の合併がないでしょう? 50代以降からADHDの患者さんも徐々に認知症を併発しているのがわかると思います。だから私たち医師は、患者さんが発達障害と認知症の両方を持っている発想で診ないとダメですよね。

※ADHD=発達障害の1つで、注意欠陥/多動性障害のこと。行動が落ち着かないなどの「多動性」、思ったことをすぐ口にしてしまう、衝動買いをしてしまうといった「衝動性」、ケアレスミスや忘れ物が多く、仕事や作業を順序立てて行うことが苦手などの「不注意」の面がある。

――上のグラフは、年齢別に分けたADHD単独の患者数とADHDと認知症の合併した患者数を示したものですが、発達障害と合併しやすい認知症はどのタイプでしょうか。

河野

レビー小体型認知症です。イタリアの学者アンジェラ・ゴリムストックは、こんな報告をしています。アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症のADHDの合併率を調べた結果、レビー小体型認知症は47.8%、アルツハイマー型認知症は15.2%、健常な老人は15.1%でした。レビー小体型認知症の患者さんの約半数がADHDということになります。

レビー小体型認知症はうつ状態で元気のない印象のイメージであるのに、中には介護抵抗をしたり、興奮したりする患者さんがいます。私は、これをレビー・ピック複合(Lewy-Pick complex。レビー小体型とピック症状の複合)と呼んでいます。元気がなさそうなのに介護拒否や時に興奮する患者さんのほぼ全員が、ADHD-レビー小体型認知症ラインだとするならば、我々医師は初診時からADHDのチェックをしないといけないと思います。

話は変わりますが、東大の石浦章一先生の御本はこんな記述がありました。「IQが高いほど、小児期自閉症の確率は3〜6倍に上がる」。実はアルツハイマー型認知症は、学歴にさほど依りませんが、レビー小体型は反対に学歴の高い方が多い。レビー小体型とパーキンソン病はIQが高めの方が比較的多く、教育年数の長いことがリスクです。ご家族の話やご本人のこれまでの人生の話を伺いながら、探っていきますね。

意外と、ご本人よりもご家族の話で発達障害の要素がわかることもあります。例えば「施設の嘱託医はウチの親に向精神病薬を使ったので、施設に文句を言いに行った」などと聞くと、「親や施設に迷惑がかかっているのを認めないところをみると、もしかして息子さん、アスペルガー(※)っぽいのかな」と。発達障害は遺伝するので、そこからお父さんのことを探っていくこともあります。

※アスペルガー症候群=自閉症スペクトラムの1つ。社会的なコミュニケーションや他の人とのやりとりが上手く出来ない、興味や活動が偏るといった特徴があり、問診や心理検査などを通して診断される。

発達障害と認知症を併発する場合の特徴とは

――発達障害と認知症を併発している場合、どのような特徴があるのでしょうか?

河野

さきほどのゴリムストックの報告がまさにそうですね。「おとなしいはずの認知症のタイプなのに、介護拒否する人は発達障害併存の疑いがある」ことです。問診でわかります。

問診で何を聞くかというと、かつて鬱っぽい症状になったことがあるなどの既往歴、家族歴、繰り返しになりますが日常生活の話です。

幻覚があると言ってクリニックに訪れた患者さんを、多くの医師はレビー小体型認知症と診断できると思います。しかしレビー小体型の半数はADHDと合併しているので、次に注目するのは患者さんに「怒り」が出てくるかを見るんですね。

レビー小体型認知症単独ならば、疳の虫に効く漢方の抑肝散を処方すると静まることが多いです。でも抑肝散を飲んでも収まらずに「幻覚を見て警察に連絡してしまう」、「介護拒否が多くておむつ交換の際に介護者の方を蹴ってしまった」となると、アスペルガー症候群併存を疑わないといけないですよね。陰性症状の認知症なのに拒否をするということですから。発達障害は複数の要素が合わさったグラデーションの困り感です。レビー小体型とADHDが併存しているのだとしたら、少しアスペルガー症候群っぽいところも併せ持ちやすいのですから、おとなしいはずの認知症が介護抵抗する理由を悟れると思います。

――併発していると他にどんな特徴がありますか?

河野

福祉関係者が連れてきてくださった87歳女性がいました。台所と居間の写真を福祉の方に撮ってきてもらったら、ゴミ屋敷状態だったんですね。発達障害の知識がない医師だと、この方をピック症状(※)だと思うかもしれません。

※ピック病=脳の前方と横の部分が萎縮したり、機能が低下したりする認知症。脳の神経細胞に「ピック球」という物質が出来ている。ピック病を正しく診断できる医師が少ないため、アルツハイマー病と誤診されたり、うつ病や統合失調症と間違えられたりするケースが少なくない。記憶力の低下を主な症状とするアルツハイマー病に対し、怒りっぽくなるなどの性格変化や、同じことを繰り返すなどの日常生活での行動異常が特徴。次第に記憶障害や言葉が出ないなどの神経症状が表れる。最終的には重度の認知症に陥る。

彼女の脳の画像を見ると、右の海馬が萎縮している。また正常圧水頭症(※)の症状も少し見られる。彼女はアルツハイマー型認知症の兆候が見られる上に、そもそも若い頃から整理整頓をしなかったそうなんです。他人とあまり心が通わなくてもあまり寂しいと思わず、知的で自分で決めたい性格。掃除が苦手ながらも一人暮らしが出来ているので、アルツハイマー型認知症の周辺症状による困り感ではない。これが知的かつ自分で決めたいADHDの性格が色濃く出ている、アルツハイマー型認知症とADHDの合併例です。

※正常圧水頭症=脳脊髄液が頭に溜まることで起こる病気。記憶障害や運動障害など、認知症と似た症状が表れる。

あと認知機能が揺れ動く人は、レビー小体型認知症、発達障害、側頭葉てんかんの3つを疑わないとダメですね。てんかんも怖い病気で、認知症とも併発しますし、発達障害とも併発します。

――認知症、発達障害、いずれの方もてんかんを併発する可能性がありますか……。

河野

レビー小体型認知症とADHDは注意力欠如という側面があります。注意力欠如を私なりに言わせてもらうと、すごく軽い意識障害なんですね。意識障害となると、側頭葉てんかんも入ってくる。てんかんは、海馬の記憶能力を阻害するので、注意力散漫になりやすい。

てんかんの小発作が起こるのは、ほんの数秒ということもあるので、家族も気が付かないのです。目を見開いたまま数秒間、口をモグモグするとか。だから医師は注意深く様子を見ないといけないのです。

ウチのクリニックに来られたてんかんの方に、行動障害のテストをするため前回インタビューで紹介した積み木のテストをやっていただいたのです。

するとその方は積み木に取り掛かるのですが、「おかしいなあ。僕は建築関係の仕事をしているのに、なぜ出来ないのだろう」と言い出すんです。積み木がまったく出来なかった。その次に時計の絵を書いてもらいました。

図のATDとはアルツハイマー型認知症のこと

すると時計の絵は完璧に描けたのです。私は積み木がまったく出来なくて、時計の絵が完璧に描ける人を見たことがなかったので、もう一度積み木をやってもらったら、パパっとものの数秒ですべて出来た。要は最初の積み木の時に、てんかんの発作を起こしていたんです。その時でも普通に会話をするので、一般の人が見たら発作を起こしているかどうかわからない。でも積み木ができない時に、私が「あなた、積み木の見本をちゃんと見てる?」と話しかけると、「はーい」と返事はすれど上の空なんですね。

高齢になると、てんかんは全体の1〜2%発症します。さらに認知症を患っているとプラス1%増える。さらにアルツハイマー型認知症などで処方されるアリセプトを飲んでいると、さらに1%増える。だから海馬が萎縮した認知症で、アリセプトを飲まされていた高齢の患者さんがいらしたら、てんかんを併発している方が少なくとも4%いることを頭に入れておかないといけないんですよね。85歳以上なら10%ですよ。
 

発達障害と認知症を併発している時の適切な処方とは

――発達障害と認知症を併発している際の適切な処方を教えてください。

河野

発達障害は遺伝で、認知症は進行していくので、病気の中核部分を治療するというのは難しいと思います。だけどご本人もご家族も介護施設の方々も困っていらっしゃるのは、周辺症状ですよね。徘徊とか暴言とか介護拒否とか。アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症であっても、ピック病のような行動障害を起こす患者さんがいる。その行動の源は何かと考えたら、怒りですよ。

その人の怒りをどうするのかを中心に考えないといけないですよね。アリセプトなどの抗認知症薬を増量するのではなく、その薬はある程度のところで抑える。興奮が鎮まるチアプリド(※)を出すだけでも、ADHDのソワソワ感すら収まりますから。認知症が悪化してしまうと医師が勘違いして、抗認知症薬を増やすと、その人はさらに怒りっぽくなってしまう。やはり抗酸化物質などのサプリメントを処方できないと、副作用が出るので厳しいですね。

※チアプリド=中枢のドーパミン受容体を遮断して、神経伝達物質であるドーパミンの働きを抑えることにより、興奮、攻撃性の症状を改善する薬。通常、攻撃的行為・精神興奮・徘徊・せん妄の改善などに用いられる。一般的にはグラマリール錠の薬品名で知られる。

――サプリメントを処方できないと、認知症と発達障害の併発する患者さんの治療は難しいですか。

河野

サプリメントはADHD、鬱、アルツハイマー型認知症とどの疑いもある時に飲ませても体に害は起きない。皆さんだって、毎日飲んでいるでしょう? マルチビタミンとかカルシウム、ミネラル、マグネシウムのサプリメント。でも具合が悪くなったことはないでしょう? 副作用ゼロで症状に効くに越したことはないのだから。

例えばアルツハイマー型認知症の場合、アミロイドβ(※)を処理するミクログリア(※)はアミロイドβが凝集すると、突然攻撃モードになる。お掃除モードが攻撃モードになると、自分の正常な神経細胞までやっつけてしまうフリーラジカルとサイトカインという物質を放出してしまう。よって脳が萎縮します。アルツハイマー型認知症の場合は、フリーラジカルとサイトカインを消してくれるものが必要です。

※アミロイドβ=アルツハイマー病の病理学的特徴の1つである老人斑の主要構成成分で、40アミノ酸程度のペプチドからなるアミロイドβタンパク質のこと。

※ミクログリア=白血球の代わりに脳内で免疫防御を担う。時として正常なニューロンを殺してしまうこともある。アルツハイマー型認知症、ダウン症になると、この制御が効きにくくなる。

このフリーラジカルとサイトカインを消してくれるのは、抗酸化物質。フェルラ酸ですね。りんごを切ると、断面が酸素に触れて茶色になる。それを阻止するのが、例えばビタミンCですよね。

同じようにサイトカインをやっつけるのは、抗炎症物質のNSAID(エヌセイド)。リュウマチの患者さんが抗炎症物質を飲むと、アルツハイマー型認知症になりにくいことがわかったんですね。

でもこのフリーラジカルとサイトカインが消せるアスピリンを飲み続けたら、その人は胃潰瘍になってしまいますよね。そこでロシアの松から出来たタキシフォリンというサプリメントが日本でも手に入るようになって、フリーラジカルとサイトカインの両方を消すことがわかった。理想的なんですよ。もともとは、ロシアの糖尿病患者さんが飲んでいたサプリなんですけどね。

VD=脳血管性認知症。ATD=アルツハイマー型認知症。DLB=レビー小体型認知症。FTD=前頭側頭型認知症。ASD=アスペルガー症候群

 クリニックに来た認知症、発達障害の方のフェルラ酸ありとなしの改善者占有率を比較したグラフですが、SDNFTや脳血管性認知症、アルツハイマー型認知症などで効果が出ています。また合併となったら特に高齢者は副作用が怖いですから、サプリの必要性がより高まると思います。

――まずはサプリメントも処方できる良い医師に会うことが必要ですね。

河野

ご家族はもっと「この医師はどういうレベルの医者か」を評価していいと思います。例えば「脳波でてんかんの兆候が出ていないから、てんかんじゃない」と医師が言い切ったとしたら、レベルが低いですよ。

「てんかんの可能性がありますね。でもてんかんの証拠が掴めませんね」と言う医師ならいいですよね。そこでてんかんの専門医師が行うことといったら、「てんかんの発作が起きている最中の動画をスマホで撮ってきてください」ですよ。下手したら数秒しか発作が起こらないものを見つけるのは至難の業です。家族やご本人からしたら、生活が困る事実しかないんですから。脳の画像を見るのは最後。それまでは問診ですよ。

意欲的に問診してくれる先生に出会うことが一番です。一番初めのインタビューでも話しましたが、臨床医は「この症状とあの症状が結びつくのではないか」という想像力や人の話を聞く能力などの“文系脳”がないと厳しい。

あとご家族や施設で働かれている介護者と向き合う医師ですね。現場で介護をしている人が一番プロなのですから。

2007年に行われたMLB第88回オールスターゲームで、イチローが史上初のランニングホームランを打った時のサイン入りユニフォームと使用済みバット。院長室に飾られている。

横山由希路
横山由希路 ライター

町田育ちのインタビューライター。漫画編集、ぴあでのエンタメ雑誌編集を経て、2017年に独立。週刊誌編集者時代に母の認知症介護に携わり、介護をはじめて13年が経った。2020年にひとりっ子でひとり親を介護している経験から、書籍「目で見てわかる認知症ケア」(2刷)を企画・構成した。

HP横山由希路note横山由希路/ライターTwitter@yukijinsky 横山由希路さんの記事をもっとみる

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