親の介護が始まったら知っておきたいお金の話。扶養控除、医療費控除、相続税……税理士が解説します!

扶養控除、医療費控除……。知っておきたい「介護」と「お金」の話

むかしむかしは、人生50年といわれた時代がありました。それが今は人生80年、90年、100年という時代です。寿命は伸び、その一方、年齢を重ねることによる身体の衰えのスピードは以前より鈍化してきているといいます。

むかしの65歳と今の65歳の人を比べたら、圧倒的に今の65歳の方が若い! 一種の「若返り」現象でしょうか。

今は人生80年、90年、100年という時代

そんなこともあり、高齢者の定義について65歳〜74歳を「准(じゅん)高齢者」、75歳〜89歳を「高齢者」、90歳以上を「超高齢者」と提言する学会も出ています(出典:一般社団法人日本老年医学会「高齢者の定義と区分に関する提言」)。

まさに、これから迎える高齢社会へ向けての提言ですね(今は、一般的に65歳以上を高齢者と呼ぶことが多いようです)。

「若返り」結構。でも、寿命が伸びた分、介護と向き合う時間も長くなることもあるでしょう。

ということで今回は、東京・町田市で会計事務所を構える私こと税理士の高橋浩之が、いくつか例を提示しながら「高齢者・要介護者とそんな方々をとりまく人にまつわる税金とお金の話」をします。

税金の世界での高齢者に対する優遇制度

税金の世界では、高齢者に明確な定義はありません。年齢を重ねることによる優遇措置には次のようなものがあります。

年齢を重ねることによる優遇措置

(1)年金をもらっている人が年をとったら非課税枠がアップする

年金をもらったときには、一定の非課税枠があります。非課税枠は65歳以上になるとアップします。

(2)扶養する相手が年をとったら老人配偶者控除、老人扶養控除が受けられる

今度は70歳です。奥さんを扶養している。旦那さんを扶養している。親を扶養している。こんなとき、扶養している相手が70歳以上になったら、所得税、住民税での所得控除が上積みされます。

※以下、記事内の「○○控除」は全て所得税、住民税を計算するときの所得控除のことを指します

コラム:むかしあった老年者控除

むかしは、老年者控除なる控除がありました。本人が65歳以上なら受けられた控除です。でも、世代間の公平性の確保(?)という観点のもと、10年ほど前になくなってしまった。ですから、今は所得が同じなら、年齢に関係なく税金も同じ額です。

税金の世界での要介護者、介護する人に対する優遇制度

では、今度は要介護者、介護をする人について見ていきましょう。

要介護者は、障害者控除が受けられる

扶養している親が、身体などにハンディキャップを抱えていれば、あなたは障害者控除なる控除が受けられます。

では、例えば、扶養している親が要介護認定を受けたら、障害者控除は受けられるのでしょうか? 要介護認定を受けたということは日常生活に介助や介護が必要というわけで、控除があってしかるべきだな。つまり、自動的に障害者控除が受けられる。こう思いたくなりますよね。でも、実はそうではないんです。

段階に関わりなく、要介護認定を受けただけでは控除は受けられません。市町村に申請をして「身体障害者に準ずる者」として認定されなければならないんですね。認定されてはじめて障害者控除が受けられるというわけです。

「身体障碍者に準ずる者」の認定は、その年の12月31日までに受けている必要があります。申請をして、すぐに認定がされるわけではありません(2週間程度の日数がかかるようです)。余裕をもって手続きすることをおすすめします。

介護する人には、近い将来2つの優遇措置が施行される予定

いわずもがな介護をする人は大変です。身体的なものはもちろんのこと、精神的な苦労だって絶えません。でも、残念ながら、〝介護をしていること〟に対する税金の世界での優遇措置は見当たらないんですね。税制がその苦労に応えるようにはなっていないのが現状です。

今は、介護をする人に対して、それに報いる制度はありません。ただし、近い将来、次のような制度が予定されています。

(1)配偶者、あるいは扶養している親が特別障害者にあたる場合

あなたの給与所得が一定額軽減されます(2020年から)。ただし、恩恵の対象となるのは年収が850万円を超える人だけ。高額所得者優遇? いいえ。実は、2020年から、年収850万円を超える人はそれ以下の人に比べて増税になります。そんな増税になる人でも、事情のある人(見出しの条件に当てはまる人)については、増税の幅を狭めようというのがこの制度の趣旨です。

(2)親族の介護などに尽力した場合

お義父さん、それは言わない約束でしょ

相続人に金銭請求が可能になります(改正民法施行後、2019年7月頃から)。

例えば、義理のお父さんの介護に尽力した長男の奥さん。義理のお父さんが亡くなっても、その奥さんは相続人ではないので、遺産を受け取ることはできません。そんな相続人以外の人の貢献に報いるための制度ができます。亡くなった人の介護などに貢献した人は、相続人に対して金銭の支払いを請求することが可能になります。つまり、長男の奥さんは、義父の死後、義理の兄弟姉妹に対して介護貢献分の対価を請求することができるようになります!

コラム:どのくらい請求できる?

家庭裁判所が示した介護の貢献分の算式は次の通りです。

<算式>・・・介護の日当額×日数×裁量的割合(裁量的割合は家庭裁判所がケースにより判断します)

そうはいっても、算式どおりの金額を請求できるかといえば、難しい。先ほどお話ししたように、請求する相手は義理の兄弟姉妹。つまり旦那さんの兄弟姉妹ですから。

加えて、仮に請求したとしても受け取れるかどうかはまた別問題です。遺産が少なければ、そもそも受け取れない。この制度、実際にお金を手にするまでのハードルはかなり高い?

覚えておきたい「扶養控除」「医療費控除」

続いて、親を扶養するときの扶養控除、介護と切り離せない医療費控除について詳しく見ていきましょう。

親を扶養親族にするときの、扶養控除について

あなたが親族を扶養したときは、扶養控除が受けられます。

配偶者も親族に含まれますが、配偶者については、「配偶者控除」という制度があるため、扶養控除の対象からは除かれることになっています。

一人で離れて暮らすお父さんを扶養親族にできる?

お父さんを扶養親族に

例えば、年老いたお父さんがふるさとで一人暮らしをしているとします。お父さんには雀の涙ほどの年金収入があるだけ。生活費はあなたの仕送りでまかなっている状況です。この場合、あなたはお父さんを扶養親族として、所得税の控除を受けることができる? できそうな気がしますよね。いや、でも一緒に暮らしていないからダメかな?

扶養親族の要件は次の通りです。

(1)収入が決まった金額以下であること、かつ

(2)16歳以上の同一生計の親族であること

(1)の要件(※)はOKですよね。雀の涙ほどの年金収入ですから。で、(2)を見てみると、気になるのは同一生計なる用語。これがキーワードになりそうです。

(※)……(1)の要件はいわゆる『103万円のカベ』と言いたいところですが、年金のケースはちょっと違います。年金のケースでは、65歳未満なら108万円のカベ、65歳以上なら158万円のカベになります(さきほどお話しした年金の非課税枠が関係してきます)。

同一生計とは、生活のおサイフが一緒ということ。普通は一つ屋根の下に暮らしていればおサイフ一緒=(イコール)同一生計になります。でも、たとえ離れて暮らしていても……仕送りなどで生活のおサイフが一緒なら、これだって同一生計になる!

つまり、生活のおサイフが一緒=同一生計であって、一緒に暮らしているか、離れて暮らしているかは関係ないのです。

今回の例で言えば、お父さんはあなたの仕送りで生活しています。つまり、生活のおサイフは一緒=同一生計。ということで、あなたは上の二つの要件を満たします。従って、別居だけど、あなたはお父さんを扶養親族として所得税で控除を受けることができるのです。もちろん一緒に暮らしていれば、問題なくOKです。そのときは離れて暮らしている場合に比べて控除額がアップします。

コラム:親孝行な兄弟の物語

年老いたお父さんがふるさとで一人暮らしをしています。お父さんには雀の涙ほどの年金収入があるだけ。生活費のほとんどはあなたの仕送りでまかなっている状況です。あなたは、お父さんを扶養親族として、所得税の控除を受けることができるんでしたよね。

実はあなたには弟がいます。弟も離れて暮らしているけど、同じようにお父さんに仕送りをしている。親孝行な兄弟です。ということは、弟もお父さんを扶養親族にできる?

親孝行な兄弟、どちらがお父さんを扶養親族にできる?

答えは×。二重に控除することになりますから、さすがに一人の人を二人の誰かがそれぞれ扶養親族にすることはできません。この場合は、どうすればいいでしょう?

兄弟仲良く話し合いで決めるしかありません。多く仕送りをしている方の扶養親族にするとか、年ごとに交互に扶養親族にするとか、あるいはじゃんけんで決める。とにかく何らかの方法で平和的に解決するしかありません。

介護費用も医療費控除の対象になる!

介護費用も医療費控除の対象

確定申告でおなじみの控除に医療費控除があります。あなたが、あなた自身あるいは同一生計の親族のために医療費を支払ったときに受けられる控除ですね。医療費には、いわゆる診療費・治療費、くすり代以外に、介護に関する支払いも含まれます。

「介護に関する支払い」具体的には?

具体的に医療費控除となるものに、以下のようなものが挙げられます。

●介護老人保健施設などに入居している場合

→施設に支払った利用料

●特別養護老人ホームなどに入居している場合

→施設に支払った利用料の1/2

●在宅で介護サービスを受ける場合

→どのようなサービスが医療費控除の対象となるかならないかが細かく決められています。覚えるのはなかなか大変。大雑把に掴むなら……。

医療系のサービスは医療費控除の対象。福祉系サービスは単独だと対象外だけど、医療系サービスと一緒に利用するときは対象

とこんなイメージです。

ただし、医療費控除の申告の際に、「これはどうなる?」と悩むことはありません。在宅サービス事業者からの領収書に、医療費控除の対象になるかならないかが、はっきりと明記されているからです。

コラム:居宅での食事代、福祉用品のレンタル代などは?

●介護老人保健施設での食事代は、医療費控除の対象になります。特別養護老人ホームでの食事代はその1/2を医療費に含めることができます。一方、要介護者の居宅での食事代は医療費控除の対象外。たとえ、流動食のように要介護者だからこそ必要なものであっても同様です(家での食事代をどう計算するの? と考えると分かりやすいかもしれません) 。

●よくある質問に、福祉用具のレンタル代や購入費用は医療費控除にならないの? というものがあります。車いす、介護ベッドなどにかかった費用ですね。そういった費用も控除の対象にしてもらいたい。気持ちは分かります。でも、残念ながら控除の対象にはなりません。医師の治療に直接関係がないという理由で、福祉用具に関する費用は対象外となっています。

ただし、おむつ代は、おおむね6カ月以上寝たきりの人で、医師が発行した「おむつ使用証明書」があれば、医療費控除の対象となります。

空き家になった親の家に住んではならない!? 相続税の話

「相続税」にまつわる話も少しだけ。実家に一人暮らしをしていたお母さんが介護老人保健施設に入所したとします。実家は空き家に。賃貸マンションに住んでいたあなたは、空き家にしておくのはもったいないと、実家に引っ越した……。

実家に引っ越すと、将来の相続税で減額されなくなる!

実はこの選択、将来お母さんが亡くなったときの相続税のことだけを考えれば、いい選択とは言えないんです。亡くなった人の自宅については、相続税の申告のときに大幅な減額が認められています。施設に入所したとはいえ、実家はもともとお母さんの自宅。ですから、相続税での減額はOKなんです。

ところが、空き家にさせじとあなたが引っ越してきたことによって、なんと、実家はお母さんの自宅ではなくなってしまう! ちょっと強引な気がしないでもありませんが、税金の世界ではこんな見方をするんです。

結果、実家は、亡くなった人(お母さん)の自宅ではないということで、相続税での評価減が認められなくなってしまう。

賃貸マンションにとどまればOK

では、どうすればいい? そう、あなたは賃貸マンションにとどまるべき。そうすれば、将来お母さんが亡くなったとき、実家はお母さんの自宅となって、相続税での評価減が認められるんです!

将来の相続税を少なくするためには、あなたは引っ越してはならない

コラム:あげたつもりがあげたことにならない⁉

将来の相続税を心配する親が、相続税の節税対策として、子どもにお金を贈与することがあります。いわゆる生前贈与ですね。贈与税がかからない範囲でそれをすることによって、将来の相続税が少なくなる。そんな効果を狙ってのこと。でも、じつはここに落とし穴が。

子ども名義の預金にお金を振り込んだとしても、そのじつ、その預金を管理しているのは親だった。こんなことがあります。親は送金した事実を子どもに知らせず、通帳を支配下に置いている。そうなると、名義はたとえ子どもであっても、事実上その預金の持ち主は親だと税務省は認定してしまうんです。

長男名義、長女名義…本人に渡してもいいけど、そうしたら、奴ら無駄遣いするからな~

こうなるとあげたつもりでも、あげたことになりません。相続税の節税にはならないどころか、余計な税金を支払うことになってしまう。そうならないためには──あげたお金は子どもに使ってもらいましょう!

認知症対策の切り札? 家族信託

家族信託は、家族間で財産管理を委託・受託する仕組み

最近、新聞雑誌、テレビなどで、よく家族信託という言葉を耳にするようになりました。2007年に法律が改正し施行された仕組みです。

信託と聞くと、なんとなく信託銀行が取り扱うのかなと思いますよね。でも、そうではありません。信託法なる法律に基づき、家族間で財産の管理をお願いする(委託)・お願いされる(受託)仕組みが家族信託なんですね。家族の間で、財産を信じて託す。これが家族信託です。高齢社会になると、介護と並んで気になるのが親の認知症の問題です。家族信託は、認知症対策として利用される場合がほとんどです。

成年後見制度では財産が塩漬けになってしまう

認知症になったときの支援対策としては、代表的な制度として成年後見制度があります。しかし、成年後見制度はどちらかといえば〝守りの制度〟。したがって、後見人が本人の財産を積極的に運用したり、売却することができません。財産の有効活用ができないわけですね。結果、財産が塩漬け状態になってしまう……。

コラム:成年後見制度って?

認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力が低下した方向けに、家庭裁判所に申し立てをして、その方を援助する人を付けてもらう制度。援助する人のことを成年後見人と言います。家族が成年後見人になることが多いと思いきや、司法書士・弁護士などの第三者が選ばれるケースが大半です(平成28年の実績で約7割)。申し立てをできる人は本人、配偶者、四親等内の親族など。

家族信託では財産の有効活用ができる

一方、家族信託では、元気なうちに特定の財産を信頼できる家族(多くの場合、子)に託します。その後に本人が認知症になったとしても、その財産は託された家族の意思で運用されます。資産の有効活用が可能というわけです。売却することだってOK。家族信託では、遺言の機能を持たせることも可能です。本人が亡くなったとき、誰がその財産を引き継ぐかを信託契約の中で決めておくことができます。

家族信託とは

ただし、実行の際は十分な検討を! 家族信託には、さまざまなメリットがある反面、最近になってようやく普及し始めたこともあり、法律的な解釈が定まっていないところがあります。将来、異なった解釈が確定したら……これは大きなリスクです。思わぬ落とし穴にはまらぬよう、事前に専門家を交えるようにして決めていきましょう。

健康で長生き。これは多くの人の願いです。冒頭の提言には、こんな願いの実現に貢献したいとの思いを込めたといいます。健康で長生き社会の実現。そのためには、介護と、それに紐づくお金のことにもしっかりと向き合っていく必要がありそうです。

編集/はてな編集部

高橋浩之
高橋浩之 税理士

ややこしい税金のことをわかりやすく伝えるために奮闘中。事務所は東京都町田市。

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